第11章 海底都市
1.ドアノブ
何か林の中にある小さな神社の前の小堂のドアの様なところと繋がっている?
歩美が覗いてみる、この後で愛衣も覗いた。
でも誰も居ないようですし行って見ましょう。
三人は小さな神社の前に立った。何か書いてあるものを探してみよう。
浩平は小堂の奥に祀られた、苔むす古い石碑にライトの光を当てた。
そこには、鋭い刃物で無理やり削りつけられたような文字が刻まれていた。
「……『倭』……?」(やまと)
浩平の呟きに、歩美と愛衣が思わず顔を近づける。
「えっ……『倭』って、あの歴史の教科書に出てくる『倭国』の……!?」
愛衣がゴクリと唾を飲み込んだ。
「嘘でしょ……江戸時代どころじゃない。ここ、学校で習った『古代』じゃない……!?」
周囲をさらに調べると、釘を一切使っていない粗削りな丸太の構造や、土間に残された土器の破片など、どこを見ても飛鳥や弥生時代といった遥か昔の痕跡ばかりだった。あまりの事態に、三人は一度引き返すことを決める。
「まずい、出直そう。元の場所へ戻るぞ!」
真っ先に駆け寄った愛衣が、小堂の扉に手をかけ、一気に押し開けた。
しかし——。
「……え?」
扉の向こうにあったのは、見慣れた山道でも、元の世界でもなかった。ただの古い木製の棚と、埃をかぶった木製の農具が転がっているだけの「ただの物入れ」だったのだ。
「そんな……帰れないの……!?」
愛衣が蒼白になり、三人は愕然と立ち尽くした。
その時、歩美が意を決して扉の取っ手に触れた。
「あ……っ!」
ガタン、と重い音と共に扉の向こう側の景色が変化した。
そこから流れ込んできたのは、山の空気とは全く異なる、強烈な水の香りと穏やかな波の音だった。
扉の向こうには、太陽の光が反射して眩しく輝く「見知らぬ浜辺」が広がっていた。
「山の中から……湖……!?」
あまりの急変に混乱する中、浩平の頭の中でいくつものパズルが組み合わさっていく。
(なぜ愛衣が開けた時はただの物入れで、歩美が開けたら湖に繋がった……?)
「……鍵だ」
浩平がポツリと呟いた。
「鍵……? 今、歩美と俺が持っている、足印台座のだ!?」
「そうさ。この『鍵』に触れている人間だけが、この扉を境界として開くことができるんだと思う。……持っていないのは愛衣だけだ」
浩平は確かめるように自ら扉を一度閉め、愛衣と交代して取っ手を掴み、再び開けてみた。
やはり目の前には、どこまでも広がる青い海と砂浜が続いていた。
「間違いない。この『鍵』を持っている者しか、境界を開く資格がないんだ……」
浩平はハッと息をのんだ。
「だから……向こう側から誰もこちらに来なかったんだ。鍵を持たない者にとっては、ただの壁か、ただの物入れでしかないんだから……!」
三人は宙に浮く蛍光テープを握りしめたまま、波音が響く未知の浜辺を呆然と見つめていた。
だが、まだ分からないことがある。一度目とさっきで繋がる場所が違っていたのはなぜだろうか。
「また少し時間を置いて入れば、場所が変わるのかな……?」
浩平の呟きに、歩美が頷く。
「あり得ますよ! さっきとは全く違う場所になっていましたから」
「それに、浩平さん……この壁、また少し移動していませんか?」
歩美が足元を指さした。
「さっきドアの角にあった雑草の位置が、ほんの少しだけ向こうへズレている気がするんです。……つまり、壁がこちら(手前)へ進んできているような?」
愛衣だけがキョトンとした顔で二人を見比べている。
「……よし、それなら一旦戻って、明日出直すか。なんだか今日は疲れたな」
浩平の言葉に、愛衣と歩美も大きく頷いた。
「ですね。今日はさすがにイベントが多すぎました」
「こんな時はのんびりベースキャンプに戻って、波音を聞きながら、あの大きくて綺麗な月を見上げて焚き火を囲みましょう! 燻製でも作りながら!」
愛衣がパッと表情を明るくして提案した。
「そうだな! それに、あの足印台座の別の方角も気になる。まだまだ進むルートはたくさんあるんだから、焦らず、ゆっくり安全に行こう」
浩平は何よりも二人の安全を一番に考えていた。
「ただ……ここから西の海のベースキャンプまで戻るとなると、片道だけで三日はかかるぞ。向こうでのんびり過ごしてまた戻ってきたら、トータルで十日近くになるが……どうする?」
「いいですよ! 安全第一ですし、のんびり行きましょう」
「あ、それと今度は車に大きな岩をいくつか積んで持ってこよう」
浩平は思いついた安全策を二人に伝えた。
「ドアノブに巻いた蛍光テープが、いつ剥がれるとも限らないからな。その真下あたりに目印として岩を置いておきたいんだ。風雨で剥がれちゃう心配を無くすためにもな」
「岩なら、洞窟の横に大きめのやつがたくさん転がっていましたね」
「ああ、あれを車に積んでおけば、次に来た時すぐに降ろせるだろ。よし、一度浜のベースキャンプへ戻って、のんびり燻製や塩でも作りながら過ごして、それから再びチャレンジしよう!」
2.時間計算
浩平にとって十日目にして分かった「透明な壁が移動する」という事実は、まさに半信半疑なものだった。
出来れば移動してほしくはなかった。移動する度に向こうの世界が移り変わるなんて、厄介すぎる。
だが、どれほど昔であろうと日本は日本だ。
「そこで歩美が魔法を使えたということは、ここは異世界なのか?」
その疑問は、浜のベースキャンプへ来てからも尽きることはなかった。それは他の三人にとっても同じだった。
皆それぞれ顔色に出さないよう努めてはいたが、言葉の端々で、最終的にはその疑問へ行き着くのだった。
塩と燻製をたくさん作った。「そろそろ出かけるか!」
中間地点でも、車を走らせるためにこちら側の道路を少しずつ整備してきた。この道が浜のベースキャンプまで車で移動できるようになれば、一日で到着できる。ここもなるべく早めに整備したいと考えていた。
洞窟の周辺で手頃な石——というより岩を、二人がかり、三人がかりで車の後ろに5個ほど積んだ。
それを「足印台座」の上に載せる。足を揃えて載せると同時に、岩に手を触れた。移動する時に体に触れていれば、一緒に運ぶことができるのだ。岩を常夏の砂浜へ運び終える。
足印台座から、あの蛍光テープを探す。
それは確かに、以前よりも目視でハッキリ分かるほど手前に移動していた。おそらく2メートルほど移動しているように見える。
「ドアノブも、左手から少しこちらに移動していませんか?」と歩美が話す。
とりあえず岩を一つ、ドアノブの下というより蝶番の手前に引き、足を移動させる邪魔にならないよう配置した。残りの4個は台座の近くに置いておくことにする。
さて、ドアノブに手をかける。
「覗いてみるぞ!」
ドアを手前に引いた。浩平はすぐに引き返す。
間違いない。どこかで見覚えのある舗装道路、その先にはトンネル。そしてドアの正体は、公衆電話ボックスのガラス戸だった!
三人は外に出る。
「帰れた……!」
愛衣は泣いていた。
「歩美、手から水は出せるか?」
歩美が掌を地面に向ける。ポタポタと水がこぼれ落ちた。
「少し強く出せるか?」
すると、ほぼ水道水と同じくらいの勢いで水が出た。
浩平は公衆電話の番号(設置場所の表記)を確かめ始めた。
浩平は公衆電話の受話器の横、黄色く変色した小さなステッカーを凝視した。
『緊急通報用 所在地表示:山形県東根市関山 国道48号線 関山隧道前』
「……山形だ。東根の関山峠あたりだぞ」
浩平の言葉に、二人も息をのむ。
山形? 関東で育った俺にはまるで馴染みのない土地だ。
だが、なぜだろう。この公衆電話ボックスの中に満ちている匂いや空気に、強烈な懐かしさが胸を突く。
2022年に33歳になった俺が生まれたのは1989年。
1990年といったら、俺はまだ1歳の赤ん坊だ。
(……いや、1歳の記憶じゃない。これは——)
浩平の頭に浮かんだのは、自分が5歳くらい……1994年頃の記憶だった。
まだ携帯電話なんて誰も持っていなくて、どこに行ってもこの緑色の公衆電話が立っていた。母親にお小遣いの10円玉を渡され、背伸びをして受話器を握りしめたときの手触り、あの独特のプラスチックと鉄が混ざったような匂い。
「東京の街角でも、この山形の山奥でも、あの時代(平成初期)の日本中を包んでいた『あの空気』が、ここにはそのまま残っている……」
一旦元の場所へ引き返し、考えを整理することにした。
行きと同じく、歩美、愛衣、浩平の順でドアをくぐる。歩美と愛衣がしっかりと手を繋いでいれば、移動に何の問題もなかった。
台座のある空間に戻り、浩平は一人あごに手を当てて計算を始めた。
(……待てよ。あの神社があった場所が飛鳥や弥生時代……だいたい西暦300年頃の1,700年前だとしよう。それが、たった十日で平成二年(1990年)まで進んだんだろ?)
浩平は頭の中で数字を弾く。
1,700年を10日で割ると、1日あたりおよそ170年。
1日24時間で割れば、1時間あたりおよそ7年進む計算だ。
「……30分なら、約3年半か」
浩平の呟きに、二人が顔を上げた。
「浩平さん、何か分かったんですか?」
「ああ。この『透明な壁』が一定のスピードで動いてるなら、ほんの30分待つだけで、向こうの世界はさらに3年半……1993年か1994年あたりまで進む計算になる」
試してみる価値は十分にある。
自分たちが神隠しのように姿を消してしまった「元の時代(2022年)」まで壁が移動してくれれば、パラドックスだって起きないはずだ。
十日程度でここまで現代に近づいたのだから、この先必ず自分たちの時代がやってくる——浩平はそう推測し、泣き止んだ愛衣にもその考えを伝えた。
「きっと帰れるよ。諦めずにいよう」
浩平は愛衣の顔を覗き込む。
「ほら、愛衣。それに今帰っちゃったら、向こうの宝で大金持ちになれないからな!」
その冗談に、愛衣の表情が和らぎ、小さく微笑んだ。
「よし、30分経ったら、もう一度入ってみようぜ」
浩平の提案に、二人は力強く頷いた。
三十分で3年半なら意外とここへ来たタイミングは掴めるんじゃないか?
三十分して、浩平はドアに、手を掛け引いた!が、しかし引けない?
あれ?浩平は焦った、今まで開いたはずのドアがびくともしなかった。
愛衣が引けないなら押してみたら?
浩平は落ち着いてノブを回し押した。
重々しいギギギと言う音とともに密林の中へと出る。
「……ちょっと待って。30分で3年半進んだってことは……ここ、1993年じゃないですか?」
古い林道の作業小屋の扉から差し込む光の中で、浩平が呟いた。
足元に落ちていたのは、今どきのハイテクパーツなどではなく、少し色あせた缶コーヒーの空き缶だった。デザインはどこか懐かしく、賞味期限の印字には「93」の数字が読み取れる。
「1993年……って、やはり浩平さんがまだ4歳くらいの頃ですか? 昭和から平成になったばかりの……」
歩美が空き缶を覗き込み、感心したように目を細める。
「ああ。時間が進んだと言っても、起点から遡っていたとしたら……ここは俺が生まれて間もない頃の『過去の山形』だ」
浩平は静かに鉄扉を閉め、鍵をかけた。
「よし、確認はできた。一度戻ろう」
山形(1993年)のドアを確認してKサークルの足印台座の前、焚き火を囲む三人。
「十日後の札幌(1,600年後)も気になるけど……」
愛衣が少し切ない表情で焚き火を見つめる。
「浩平さん、私と歩美が最初にこの世界に迷い込んだ場所……十和田湖の近くを通ったりしませんか? 私たち、紅葉を見にキャンプに来てて、そこで急に巻き込まれたんです」
浩平は手帳を開き、距離を弾き出す。
「山形から十和田湖までは直線で約200キロ。1日50キロのペースなら……『4日後』だ。だが愛衣、時代は約670年先の未来(西暦2660年代)になるぞ」
歩美が静かに身を乗り出す。
「自分たちがいた思い出の場所が、600年以上あとにどうなっているのか……確かめてみたいです」
分かった、浩平も気になっていた。
四日間掛けて、透明な壁の位置とドアノブの位置に石を置いていく、すると置いた岩にかぶさるようにして、透明な壁が生き物の様に変化している。
こうして見ていると、壁とドアノブの位置は明らかにへんかをしていた。
浩平さん壁、何処までこっちに来るんですかね?
台座を通り越したら?私達Kサークルに戻れなくなるなりますよね?
そうだが?これが北極圏までいくのか?
それとも、何処かで引き返すのかを確かめる必要も、あるな!
間違いなく、過去へ戻るとは思うのだが、愛衣はなんで分かるのか訪ねる。
だって、お侍さんだよ!
相当時間が立ってるなら、既に遥か未来無はずだろう?
話している間に四日目のドアノブに手を掛ける時間になる。
3.地球温暖化による弊害
四日間の移動を経て、三人は十和田湖の座標に繋がるドアの前に立つ。
それは、かつて二人が泊まるはずのキャンプ場のバンガローや、湖畔の遊覧船乗り場の古いドアへと変化している。
建物は既に朽ち果て少し傾いていた。
愛衣と歩美が固唾をのんで、ドアノブ(蛍光テープの目印)に手をはなす。
サァ……と頬を撫でたのは、かつて二人を包んだ秋の澄んだ空気ではなく、湿った塩の香りと、焦げた鉱物のような不気味な風だった。
「え……?」
愛衣の口から漏れたのは、絶句だった。
目の前に広がっていたのは、二人が知る「あふれんばかりの青い水と、鮮やかな紅葉に彩られた十和田湖」ではなかった。
極度の地球温暖化によって水が干上がり、露出した白い湖底は、まるで月面のクレーターのように干からびている。かつて湖底に沈んでいた太古の木々の化石や巨岩が、墓標のように突き出していた。
「湖の水が……干上がってる……!?」
歩美が蒼白な顔で膝をつきそうになる。
だが、衝撃はそれだけではなかった。
浩平が目を凝らして視線をさらに遠く——かつての奥入瀬や太平洋側へと向けた。
「待て……あそこを見ろ」
干上がったカルデラ湖のへり(外輪山)の向こう、かつては遥か遠くの陸地だったはずの低地が、一面の青い海に呑み込まれていた。
地球温暖化による極地の氷の融解で海面が数十メートルも上昇し、内陸のすぐ近くまで波が押し寄せていたのだ。
「湖の水は干からびて……逆に、海がここまで上がってきてる……?」
愛衣の声が震える。
二人がキャンプをする為に紅葉を眺める為に来た湖畔は、もはや地球の崩壊を物語る無残な光景へと変貌していた。
浩平は静かに二人の肩に手を置いた。
「文明が終わり、気候が狂った未来の地球だ。……二人が楽しかった思い出まで消す必要はない。これはただの『可能性の果て』だ」
「……はい」
歩美が涙を拭い、強く頷いた。
浩平は引き締まった顔で、はるか北の空を見つめた。
「ここ十和田湖でこれだけの変化が起きているなら……あと六日北上した『10日後の札幌(1,600年後)』は、一体どうなっている……? 街ごと海に沈んでいるのか、それとも……」
三人は固い決意を胸に、静かに扉を閉めた。
自分たちの原点である十和田湖の崩壊を目撃したことで、十日後の最北端・札幌を目指す彼らの旅は、単なる移動から「地球の命運を確かめる旅」へと変わっていくのだった。
そこから、浜のベースキャンプまでの道の整備をする為に洞窟の周辺から石を拾い集める。手斧を持ち
シャベルがわりにこしらえた鎧の桃宛、二つも持参しする。
この六日間はそれに当てた。
多少の急斜面なら、難なくこなせる走りの出来る車だが、流石に九十九折の道はつくらざるおえない、場所もあった。
まだしばらくは掛かりそうだった。
やがて、十日目になろうとしていた。
山形(1993年)から北上を続け、ついに10日が経過した。
1日50キロのペースで進んだ距離はおよそ500キロ。そして、30分で3年半、流れる異世界の時間は、10日間で約1,600年もの歳月を刻んでいる。
山形を出た時が1990年。そこから1,600年後の未来——西暦3600年頃の北海道・札幌の座標に、三人は到達したのだ。
十和田湖の惨状を目撃してから6日。三人は静まり返った異空間で、その「ドア」の前に立っていた。
事務室のドアを押し開けると、そこはひんやりとした静寂に包まれた、鉄筋コンクリート作り、建物の中にある薄暗い通路だった。
「……建物の中……?」
三人は警戒しながら、足音を殺して薄暗い通路へと踏み出した。
分厚い壁の塗装は剥げ落ち、ところどころに太い苔や塩の結晶のような白い浮き出物が付着している。
その時、先頭を歩いていた浩平が足を止めた。
壁際に残された、古びたプラスチック製の案内板をライトの光が照らし出す。
外の構造物は塩害と途方もない歳月で跡形もなく錆びついていたが、直射日光と雨風を免れた通路の壁には、かつてここを訪れた観光客に向けた表示が奇跡的に残されていたのだ。
『藻岩山山頂展望台(Mt. Moiwa Summit Observation Deck)』
『← 屋上展望エリア / Rooftop Area』
角が割れ、文字の半分が掠れかけたそのプレートを見つめ、愛衣が息をのんだ。
「……札幌の……藻岩山……。本当に、札幌まで来ちゃったんだ……」
「ああ。ここはかつて、札幌の街並みを一望できた場所だ」
浩平の静かな声が、無機質なコンクリートの通路に低く響く。
三人は覚悟を決め、案内板が指し示す階段を一歩一歩踏みしめて上っていった。
階段を上り詰め、屋上へと続く重いドアを押し開けると、強烈な潮風とまぶしいほどの陽光が飛び込んできた。
「……嘘……でしょ……」
愛衣の口から、掠れた声が漏れた。
眼下に広がっていたのは、かつてふたりが思い描いていた「高層ビルが立ち並び、大通公園が広がる大都市・札幌」ではなかった。
そこにあったのは、どこまでも青く澄み渡る、果てしない海原だった。
かつて標高531メートルを誇った藻岩山。その山頂の展望台だけが、まるで海の上にぽつんと浮かぶ「巨大な岩の小島」のように海面から顔を出している。
十和田湖で見た海面上昇は、600年どころか1,600年の時を経て、この広大な石狩平野をも丸ごと海底へと沈めてしまっていたのだ。
見渡す限りの蒼い海の上に、ポツン、ポツンと浮かんでいるのは、わずかに水面から頭を出した手稲山や恵庭山といった、元・山々の頂である数個の小さな島々だけだった。
「札幌の街が……全部、海の中に……」
歩美が足元を覗き込む。
どこまでも透明なエメラルドグリーンの海の底、水深数十メートルの暗がりの中に、かつての格子状の街並みやビルの基礎部分が、巨大な珊瑚礁や海藻に覆われた「海底都市の遺跡」となって静かに眠っているのが見えた。
都市も、文明も、人も、すべてが遥か昔に海の下へと消え去っていた。
つづく




