第10章 浩平の覚醒と宙に浮くテープ
1.ドワーフの街
翌朝、歩美が兜を逆さまにして水を溜めていた。
「これで顔を洗ってください、浩平さん!今日も魚ですか? それともウサギですか?」
「浩平はレンガの部屋へ行ってみようと思うんだけど、あそこにある台座から、さらに違う方向へ一箇所だけ見てこようかと考えているんだ。どうかな?」
歩美は大きく頷いた。
そこへ、薪を集めて戻ってきた愛衣が声をかける。
「何かご相談ですか?」
歩美がこれまでの説明を聞かせると、愛衣も同意した。
「確かに気になりますよね。じゃあ、行ってみましょう!」
簡単に食事を済ませた三人は、足印台座から東へと足を合わせ、姿を消した。
転移先で、愛衣が小窓から街並みを覗き込む。
そして、急に小声で二人を呼んだ。
「人が歩いてますよ……!」
「何人だ?」
浩平が言いながら小窓へ駆け寄る。
視線の先には、鎧を纏った三人の小柄なドワーフがいた。彼らは連れ立って街の方へと歩いていく。
浩平は小窓から顔を出し、空を仰ぐようにして建物の上を見上げた。
「まだ上には数階あるように見えるな……ここが最上階じゃなかったのか。この高さで五階くらいだとすると、さらに上があって、全体で十階建てくらいの建物になるのか?」
「この部屋の天井の高さを考えると、ここはドワーフが何かに使うために作られた建物かもしれないな」
浩平は表情を引き締めて続けた。
「……これは、この台座からさらに他の場所へ向かうのは、少し考え直した方がよさそうだぞ」
「ですね……」
愛衣と歩美が頷く。
移動した先の台座の周りで、いきなりドワーフと出くわさないとも限らないからだ。
「これで、あの鎧の骸がここから入った可能性が高くなったな。
浩平は静かに語りかけた。
「鍵を持ったまま帰れなかったことや、ここから別の何かが入ってきたら困ると思って入り口を塞いだのかもしれない。ただ、もし帰れるようになった時のためか、あるいは誰かがいずれ戻るかもと思って、台座を破壊せずに壁で覆って隠した……と考えるのが辻褄が合うな」
浩平のいつもの鋭い推理に、歩美と愛衣も大きく頷く。
「だとしたら、この足印台座の残りの転移先は、ドワーフの領地以外に繋がっている可能性が高いのかもしれない。まあ、今の段階では何とも言えないが……行ってみるか?」
浩平の問いかけに、二人は間髪入れずに即答した。
「止めましょう!」
「ん、そうだな。今行くのは時期尚早か。……それなら、沼へ行くか? それともマイビーチにするか? 他にどこか行きたい場所はあるか?」
「実は、浩平さん!」
そう言って切り出したのは愛衣だった。
「浩平さんって、電気をビリビリって出せるじゃないですか。それって、水とか金属に反応しやすいですよね?」
「ん? それがどうかしたのか?」
「だから、地面に鎧の肩当てを埋めますから、探してみてくださいよ!」
Kサークルのベースキャンプへ戻って愛衣が言った。
「ゲームですょ!」
「……は? 何だそれ?」
「あーもう、ゲームです、ゲーム! 浩平さん、少しあっちに行って、見ないで待っててください!」
愛衣の勢いに押され、歩美に連れられて浩平は少し離れた場所へと移動する。
「愛衣ちゃん、何をするつもりなんだろう……?」
歩美も不思議そうな顔で浩平に付き添っていた。
その間に、愛衣は手早く砂を掘り、鎧のパーツを浅く埋めて隠した。
「いいですよー! 浩平さん、目を瞑ったまま来てください!」
歩美の手を借りて戻ってきた浩平に、愛衣が自信満々に言った。
「浩平さん、埋めた場所をそのビリビリで探せるかどうか、試してみたかったんです!」
「なんだ、そんなことか」
浩平は呆れながらも、二人に少し離れるよう促した。万が一、電流が予想外の方向へ流れたら危険だからだ。
そして両手を地面に向け、手のひらから微弱な電流を流して周囲を探ってみる。
(……なるほどな)
「確かに、一箇所だけ妙に電流が吸い取られるというか、流れ出していく場所があるな。ここか?」
浩平が地面の一点を指さすと、愛衣が大声で叫んだ。
「やっぱり! 凄いです浩平さん!」
浩平と歩美は、突然のリアクションに呆れ顔を見合わせる。
「どうしたんだ急に?」
「もう……私達、大金持ちになれるじゃないですか!」
一瞬ぽかんとした歩美だったが、すぐに膝を打った。
「あはは! そういうことね!」
「俺の手のひらは金属探知機かよ!」
「ね! 浩平さん、宝の在り処を推理してくださいよ!」
「今やることかよ。愛衣、ここには俺たちしかいないんだ。誰も持っていかないから焦るな」
「……帰れる目処でもついたらな。俺だって宝を忘れたわけじゃないから、心配するな」
口では呆れ気味に言った浩平だったが、自分の能力が想像以上に「使える」と実感したのは事実だった。
(……この反応、どこまで届くんだ?)
浩平は鎧を埋めた場所から、少しずつ距離を取ってみる。
この探知能力がどこまで通用するのか、確かめてみたくなった。
そして、当の浩平自身が一番の驚きを隠せなくなっていた。
埋めた肩当てから十メートル離れても、はっきりと反応がある。
さらに手をかざせば、360度どの方向にあろうと、ピンポイントでその位置を察知できるようだ。
「なら、これはどうだ……?」
浩平は埋めた鎧を一度掘り起こすと、今度はさらに深く、およそ五十センチの底へと埋め直して再び確かめてみる。
結果は、何の問題もなく即座に感知できた。
「……マジかよ」
普段はクールな浩平も、流石にこらえきれず、口元を大きく歪めて吹き出してしまった。
顔を見合わせる三人。
次の瞬間、三人の笑い声が、誰もいない異世界の空へと響き渡った。
2.修練と実績
その後、浩平は隙さえあれば「金属探知機」を無詠唱で展開する練習を重ねていた。
いやはや、無詠唱というのは実に都合がいい。誰にも気づかれずに周囲を探知できるからだ。……ただし、巻き込まないよう二人が離れていることが絶対条件ではあったが。
「そろそろ、あの沼にでも行ってみるか」
三人は密林を抜け、再び沼のほとりに立ち、水面を覗き込んだ。
「またあの鳥がやってきたら、一気に畳みかけるぞ。周囲の警戒は怠るなよ」
浩平が二人へ注意を促す。
実はこの時、あの簡易金属探知機を頻繁に使っていたおかげで、浩平には「ある変化」が起きていた。
この直後、これから起こる事態によって二人が腰を抜かし、浩平の魔力が文字通り覚醒(爆誕)することになるのだった。
「魚が見当たらないな……」
きっとあの時、大部分が自分の電撃に晒されてしまったのだろうと浩平は思った。
だが次の瞬間、水鏡のような静寂を破り、音もなく黒い影が浮上してきた。
以前倒した魚とは比較にならないほど巨大な魚が、何匹も悠々と泳いでいる。その背びれは、以前の魚の十倍はありそうだった。
(……あれじゃあ、あのデカい鳥でも捕まえられないわけだ)
三人で食べたあの鮭のような魚は、この巨大魚の稚魚に過ぎなかったのだ。
デカすぎる。三人は警戒も忘れ、ただただその威容に見惚れてしまっていた。
その時だった。
三人の背後から、低い威嚇の唸り声が響いた。
静かに忍び寄っていたのは、大型の狼の群れだった。
恐る恐る、ゆっくりと振り返る三人。群れのボスと思われる一匹が、今にも飛びかからんとしなやかに跳躍する——。
「っ……!」
瞬時に、浩平は両手をかざしていた。
——バリバリバリッ!!
眩い閃光とともに猛烈な電流が駆け抜け、一瞬にして狼の群れ全体が黒く焦げ、体から煙を吹き上げて崩れ落ちた。
微弱な電流を繰り返し流す訓練によって、浩平は魔力の出力を細かく調整できるようになっていた。これまで無意識に放っていた電撃も、今では意識ひとつで出力を引き上げられる。その結果が、今の一撃だった。
「こ、こ、浩平さん……! 今の、凄すぎます……!」
当の浩平自身も、想定以上の威力に驚きを隠せずにいた。
だが、驚かされたのは二人だけではない。
よく見ると、飛びかかろうとしていた群れのボスに向かって、歩美と愛衣も同時に魔法を放っていたのだ。一発ずつではあったが、愛衣の『ファイアボール』と歩美の『ウォーターバレット』が確実に敵をとらえていた。
「二人とも、よくやったな。ナイスアシストだ」
浩平が二人を称える。
歩美と愛衣は、浩平の圧倒的な電撃に呑まれそうになりながらも、自分たちの攻撃がしっかりと通用したという確かな手応えを感じていた。
浩平の流した電撃は、やはり狼たちの体内の水分へと引き寄せられ、群れ全体を一瞬で射抜いたようだった。周囲の木々にも多少の影響はあったものの、焦げ跡が少し残る程度で大事には至っていない。
その後、三人は倒した狼の解体作業に取りかかった。
浩平は汗を流しながらナイフを振るう。
取り除いた内臓を沼へと放り込むと、一瞬で例の巨大魚たちが群がり、水面を激しく跳ねさせながら貪り食っていった。
(……一応、あのデカい魚の餌付けにもなったか)
残った狼の皮は丁寧に剥ぎ取り、持ち帰って「なめし革」にする予定だ。
異世界に来てから着続けている衣服もだいぶ傷んできていたため、新しい服の素材が手に入ったのは渡りに船だった。
なにせ、大型の狼十匹分の毛皮だ。三人分の衣服を作るには十分だろう。
頼んだぞ、妹たちよ!
沼の解体作業が進み、肉と皮を分けている最中にも、水の透明度はどんどん増していった。やはり湧き水が自噴しているおかげらしい。あの稚魚たちが元気に泳ぐ姿も少し確認でき、浩平は胸をなでおろした。
だが、解体した肉と革の量は到底一度で運べる量ではない。
三人は手分けして持てる分だけを持って、一旦『Kサークル』へ引き返すことにした。
浩平は沼のほとりに薪を集めて火を熾すと、周りを大きめの石で囲み、その上に枝に刺した肉を煙がかかるようセットした。他の動物に食われても諦めはつくが、煙の匂いが多少なりとも虫や獣を遠ざけてくれれば儲けもの、という算段だ。
Kサークルに戻るやいなや、持ち帰った肉で燻製を作る準備を整え、三人はすぐさま残りの回収へ向けて沼へと引き返した。
「残ってますかね、浩平さん?」
「行ってからのお楽しみだな」
「ですね〜。あれだけの血肉ですから、他の獣が匂いを嗅ぎつけてやって来てもおかしくありませんしね」
歩美も頷きながら足早に進む。
現地に到着すると、案の定、焚き火の範囲外に置いてあった肉は大半があちこちに散乱し、無残な状態になっていた。解体現場の地面には、浩平たちのものとは明らかに異なる、特徴的な巨大な鳥の足跡が残されている。あの鳥の仕業でほぼ間違いないだろう。
解体現場の地面には、浩平たちのものとは明らかに異なる、巨大な鳥の足跡が残されていた。
「肉食でこれだけ足跡が小さいとなると、狼よりも小ぶりですね」
「デカいネズミの類か……? まあ、そのうち分かるだろう」
だが——狙い通り、焚き火の周囲に仕掛けておいた肉だけは無傷のまま残っていた。
「やっぱり、ここだけ無事でしたね! 火を焚いて行って大正解でした」
愛衣が嬉しそうに声を上げる。
「よし、これだけ持ち帰ろう」
浩平は散乱した痕跡を見つめながら、ふと思った。
(あの大きさの鳥だとしたら、巣だって相当でかいんだろうな……)
浩平は思わず、誰もいない空に向かって叫んでいた。
「今度見つけたら、絶対卵焼きにしてやるからなー!」
3.宙に浮くテープ
持ち帰った狼の毛皮を広げ、天日干しにする。十分に乾いたら、ナイフで内側に残った脂肪を綺麗に削ぎ落としていった。
それから歩美の手を借りて、水洗いと乾燥、そして引き伸ばす作業を何度も繰り返す。
仕上げに鎧の肩当てや脛当てを型紙代わりに使い、丁寧に革を切り出して縫い合わせていった。
さらに、細く切った革紐で両袖を取り付ける工程を経て、ついに上下の革衣が完成した。
愛衣と歩美は余った端切れを集めて、帽子まで作ってしまう始末だ。
二人は出来上がったなかなかお洒落な帽子を、嬉しそうに被っている。
その後、肉もただ燻製にするより、塩揉みをしてから燻製にした方が格段に美味しくなることが分かってきた。
——やはり、この世界でも塩は貴重だ!
しばらくの間、三人は再び浜のベースキャンプへと戻っていた。
浩平は日時計と腕時計の時間を確かめている。
浩平の腕時計は、どういう原理なのか、この世界に来てからも電池切れを起こす気配がなかった。
夜、三人で食事をしながら月を見上げていると、浩平がふと思い立って提案した。
「一度、あの椰子の木が生えていた場所で一夜を過ごしてみないか? あっちの夜空がどんな感じか確かめてみたくてさ」
「いいですね」
あの不思議な透明な壁は、一体何を意味しているのか。三人は疑問でならなかった。
右(南の足印台座)へと足を乗せ、転移した三人は浜辺にテントを設営した。何かあればすぐに逃げ込めるよう、台座のすぐ前だ。夜になって潮が満ち、波に呑まれないとも限らない。最悪の想定はしておくべきだろう。
設営を終えた三人は、少しでも情報を得るために透明な壁を目指して歩き出した。
「ちょっと待て」
浩平が足を止めて呟く。
浜辺には、以前に来た時の自分たちの足跡がそのまま残っていた。それを見ながら進んでいたのだが、足跡は壁の手前二メートルほどの場所で不自然に途切れていた。
浩平は愛衣と歩美にもそれを知らせる。
「変だな。壁に沿って歩いたはずの足跡が、なぜこんな手前にあるんだ?」
「この壁の位置……奥にズレていませんか?」
歩美の指摘に、浩平は息をのんだ。確かにそれなら辻褄が合うが、なぜ壁が動くんだ?
側へ寄り、透明な壁に触れてみる。ガラスのような手触りでありながら、光すら一切反射しない『無』を極めた質感。それでいて、存在そのものが狂気じみた威圧感を放っていた。
浩平は浜辺から持ってきた砂を、砂地と雑草の境目にある壁の根本に沿って被せた。
「次に来た時、どうなっているか楽しみにしようか」
太陽が西に傾き、黄昏が迫る時間になると、三人は夕食の準備に取り掛かった。地面に小さな穴を掘り、持参した薪に火をつける。そして足印台座に腰を下ろした。
「あの月が出るのかな」
浩平は燻製肉をかじりながら呟く。
「本当に不思議な場所ですね……」
愛衣がしみじみと言い、歩美も静かに頷いた。
——しかし、夜は来なかった。
西の水平線へ太陽が半分沈んだ、その時だった。
まるで入れ替わるように、今度は東の水平線から、もう一つの太陽が姿を現した。
夜が来ない。
その異様な光景に、三人は言葉を失った。
今までの異世界とも明らかに異なる現象。まるで人工的に作られた巨大なステージの上にいるかのような感覚に、三人は背筋が凍るような恐怖を感じていた。
浩平は意を決して、さらに透明な壁を探り始めた。何か、何か無いか? 必死だった。
それは今までとは違う恐怖に対して己を奮い立たせ、抗おうとする気持ちそのものだった。
それを見た愛衣と歩美も悟ったかのように、壁に触れて何かを見つけようと必死に手を動かした。足元の土をも掘ってみると、壁は土の中まで続いていた。
しばらく探した、その瞬間——。
「あっ!」
少し離れた場所から歩美が叫んだ。浩平と愛衣が瞬時に視線を向ける。
歩美の指先が、何かに触れていた。
そこには何も見えない。だが、確かに指先には硬い感触がある。
恐怖で一度手を引っ込めた歩美だったが、息をのんで再び手を伸ばした。
「こ、これ……!」
歩美の手が、確かに見えない「何か」を捉えているのが二人にも分かった。
(まさか……ドアノブか?)
「浩平さん、何か目印になるもの……テープとかマジックとかありませんか!?」
浩平は走ってバックパックから、残りわずかとなった蛍光テープを取り出した。
歩美が指先で押さえている透明な突起物に、浩平が慎重にテープを巻き付けていく。
「よし、歩美、手を離して大丈夫だ!」
三人は、宙に浮く蛍光テープを見つめた。
浩平がそれを掴み、ひねってみる。
回った!
どうする——浩平は少し力を込め、奥へ押してみた。
直後、カビと古い木材が混ざったような異臭が、冷たい風とともに吹き込んできた。
だが、目の前の風景は何ひとつ変わらない。浩平は意を決し、そこへ足を踏み入れた。
次の瞬間、浩平は思わず目を見開いた。
すぐに壁の向こうから顔だけを戻し、小声で呟く。
「部屋がある……昔の古民家みたいな感じだ」
愛衣と歩美はゴクリと唾を飲み込み、力強く頷いた。
何か恐ろしいことが始まる予感を、三人は拭いきれずにいた。
「……一度戻って、状況を整理しよう」
浩平の言葉に二人が耳を傾ける。
今、このままあの中へ入るのは危険すぎる。身を守るものが何一つないのだ。
「そんな! 浩平さん、あんなに凄い“ビリビリ”を持ってるのに!」
愛衣が声を上げる。浩平は「確かに」と頷きつつも、内心でツッコミを入れた。
(いや、“ビリビリ”って言い方はどうなんだ……?)
「もし向こうが江戸時代みたいな場所なら、魔法が使えるかも怪しいな」
浩平は歩美に向き直し、壁の向こうへ半身だけ入れて水を出せるか確かめてもらうことにした。
水なら少量を出すだけで済む。仮に床に落ちても、時間が経てば乾いてしまう。
「じゃあ、俺がもう一度確認する。身体を入れ替えたら、そのまま水を出してみてくれ。なるべく音は立てるなよ」
「うん……!」
歩美は浩平と狭いところで身体をすり寄せ、狭間へと手をかざした。
集中し、ほんの数滴だけ水を出してみる。
「……よし」
いったん元の場所へ戻り、床に落ちた雫を確かめた浩平は頷いた。
「一旦、刀を取りに戻ろう。少し荷物を整えてから出発だ」
三人は備えを固めるため、一度その場を後にした。
とはいえ、キャンプテントは足印台座のすぐ前に設営してある。台座を使って移動するだけなので、玄関の内と外を行き来するようなものだった。
西の足印から東の足印へ移動するだけのこと。
三十分もかからず、準備を整えた三人は再び浜辺へと戻ってきた。
意を決して、宙に浮く蛍光テープへと手を伸ばす。
浩平が取っ手をひねり、ゆっくりと奥へ押した。
その瞬間、目の前に現れた光景に、浩平は固まった。
「……待て待て!」
そこに広がっていたのは、先ほどの古民家の廊下とはまったく違う場所だった。
「浩平さん、どうしたんです?」
すぐ後ろにいた愛衣と歩美も、浩平の反応に驚いて身を乗り出す。
浩平が慌てて後退りしたため、三人は狭い場所で押し合いになった。
「違うんだよ! さっきと場所が違うんだ!」
「えっ……?」
愛衣と歩美は、目の前に広がる光景を見つめた。
つづく




