◎第8話 賭場荒らし
【アルベルト視点】
ルーレットの席にはそれなりの人数が座っていた。
下限銀貨1枚、上限金貨10枚。
レートは初心者からそれなりの上級者まで遊べる広さ。ルーレットのサブテーブルだな。
ヒッソリやるにはこのあたりがちょうどいい。
「おお、ルーレットだな!一点張りで36倍!
くぅ~!一攫千金だ!」
「いや、やりませんよ、そんなお茶目なマネは」
「ええ〜?、ギャンブルの華は一点張り・オールインだぞ!
ひりつく感覚、焼かれる脳、アツくなる胃の腑、これが醍醐味だろ〜!」
「おとといデビューの初心者がなにイキってんですか」
給仕からワインのグラスを受け取り、3人並んで空いている席に着座する。
グラスを置き、ディーラーの挙動を暫し眺める。
「おい、アルベルト、まだ張らんのか?」
「ええ、しばらくは"見"ですね」
結構な回数”見”に徹し、イカサマにありがちの不自然さはないのがわかった。
次はこの台の特性だ。
ルーレットの回し方、玉の投げ方、概ね一律で崩れはあまりない。玉の軌道もそこそこ安定。
ポケットは少し深め。あまり玉が跳ねない。
ピンに変な傾きはない。
そしてーー決定的な“キズ“があった。
グラスのワインが水平より斜め。
テーブルの傾きを注意すれば視認できる。
偏りを作るに十分だ。
この台はーーー北へ沈んでいる。
ならば、玉が息切れしたあとに転がり込む谷も、だいたい決まってくる。
目の前で車輪が回る。
真鍮のピンのうち、ひとつだけ傷が多い箇所がある。光を受け、そこだけ光り方が鈍い。
玉があの傷をかすめたときだけ、減速の仕方が変わる。
そしてポケット。あそこの縁がやけに摩耗している。
落ちた玉が跳ね上がらず、擦り切れたポケットの縁にまとわりつき、その先の扇形に流れ込む。
これでいい。
37ある目のうち、少しだけ暖かい部分を知っていれば、あとは静かに拾うだけだ。
このイメージで玉の軌道を確かめる。
何度かイメージと一致した。
落ちやすいエリアはーー概ね並び7目。そこを狙えばいい。
この勝負に100%は要らない。
その偏りを、10のうち3ほど狩れればいい。
「それでは始めます」
私の宣言にエリシアとロッテが身を乗り出す。
「どこだ?ロッテ、どこだと思う?」
「わ、私は…やはり16!エリシア様のお歳と同じ
16を推します!」
「私の歳か……!悪くはない、悪くはないが、ココは誕生日という線もーー」
「ああ!それもありました!お年は年々変わりますが、誕生日は不変!わ、私とした事が何たる失態……!」
わきゃわきゃ賑やかなヒナドリがココにも。
アレクの苦労が偲ばれる。
目当ての7目、銀貨7枚から12枚に散らしてベットする。
ノーモアベットの声がかかった。
そろそろ玉が息切れしてきた。
いよいよか。
玉の走りが鈍り、ピンに食われ落ちる。
削れた縁が勢いを殺し、次の並びに流して深めのポケットに止まった。
「ああ〜!じゅ、……16だ!アルベルト、16だぞ!さ、36倍だ!やったぞ!!!」
「アルベルト様!お、お見事です!
つ、次は誕生日です!絶対に誕生日です!この数字の繋がり、間違いありません!」
ヒナドリの囀りには一切意識を向けず、配当を受け取る。
16に銀貨11枚、金貨39枚と銀貨6枚。
初手でハマってくれてずいぶん楽になった。
ここからは少し抑える。
見とインサイドとアウトサイドを適当に散らす。なだらかな増減があり、また少し増えたところでそれを7目賭け。
今度は外した。
「お、おい……、銀貨50枚くらいトンだぞ。
私にはいつもムダ遣い怒るくせに……」
「アルベルト様、存外おヨワイのでは……」
雑音が私の周りを飛び交ってるがキコエナイ。
また少しペースを変えて、しばらくしたらまた
7目賭け。今度は銀貨10枚。
「…え…?、また?…」
「な、なんですか?エリシア様?」
ほう……、エリシアは気付いたようだな。
玉が落ちる。
コロン……カタカタ……
当たりだ。配当36枚。
手持ちはこれで100枚を超えた。
コチラの動きに対して、多少視線を感じるようにもなったな。
「ではこの辺で失礼」
ディーラーに金貨1枚を差し出し退席する。
「……え?、お、終わりか?
勝つには勝ったがまだ全然足らんぞ」
「広く浅くーー、エヴァが言ってましたよ。
ココはこの辺りが潮時です。次に行きましょう」
エリシアが歩きながら指摘してきた。
「アルベルト……、お前、賭ける数字いつも同じだっただろう。
なんか縦1列とか、横1列とか、ヘンな賭け方してる時も、7つ張る時も……」
やはり気づいていたか。
よく見ていた証拠だ。成長したな。
「なぜそう思われたんですか?」
エリシアに理由を尋ねる。少し保護者感が出てしまったかな。
「……だって……」
ん?
なんかモジモジしてる?
反応が予想と少しチガウ……
「……いや、あんなに私の歳を……追いかけてくれていれば……そりゃあ……な……」
(ちがーーーーーーーう!!!)
やめろ!こら!
テレテレじゃない!恥じらうな!
ロッテがものすごい形相でコッチを睨んでるだろ!
ロッテ!
袖からクナイ出すのやめなさい!
髪留めのカミソリもダメだ!
そんなこんなありながらも、我々は複数の賭場を回り、ゲームごとの癖や客の流れを読みながら、小さな勝ちを積み重ねた。
1店ごとの利益は目立たないが、1日が終わる頃には金貨300枚近くを抜いていた。




