◎第7話 ギャンブル行脚
滞在する宿に戻り、リンに経緯を説明した。
話を聞いたリンは……硬直していた。
凍りついた表情。
その目からポロポロと大粒の涙がこぼれ落ちる。
それを拭う素振りもなく、声もなく、ただただ涙だけがこぼれ落ちていた。
「……リン……」
エリシアが小さく声を掛けるが、リンは身じろぎもせず、表情も変えず、ただ涙をこぼすだけ。
それが彼女のどうにも表現しがたい心の中を如実に物語っているようで、アルベルトもただ見守るしかなかった。
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リンがようやく表情を取り戻したのは、かなりの時間が経ってからだった。
「……リン、大丈夫か……」
エリシアが手渡したハンカチで、リンはぐしぐしと涙を拭い、まだ赤い目で健気に微笑みを作ってみせた。
「……うん。ちょっと驚いたけど……大丈夫」
エリシアがアルベルトと視線を合わせる。
アルベルトと小さく頷きあう。
身を乗り出し、静かに、しかしはっきりとした口調でリンに問い掛けた。
「単刀直入に聞く。リン、お前はどうしたい?」
アルベルトとエリシアにもあまりに衝撃的な話だ。
当事者のリンにとっては如何ほどだろうか、想像すらつかない。
しかし現実にウォーケンとリンの素描画が存在し、それが間もなくオークションにかかる。
この事実を受け、リンが何を望むのか。
リンの口から直接聞き、それに寄り添う。
ふたりの意志はそう固まっていた。
長い沈黙の時が流れる。
リンは瞼を閉じる。
時折手を組み、離し、そして握る。
肩が揺れ、強張り、また力が抜ける。
頭の中をよぎる様々な感情を懸命に整理しているようだった。
そして……
瞼が開かれ、その蒼い瞳がふたりに向いた。
「ホサ……、お姉ちゃん……」
その瞳には強い希求が見て取れた。
「……私……素描画欲しい……。買って欲しい……」
アルベルトがふぅ~っとため息をついた。
エリシアも身体の力が抜け、深々と背もたれに身を沈めた。
方針は決まった。
オークションに参加する。
そして何としてでも落札する。
そのために、明日から資金を作る。
できるだけ資金を増やす。
方法は……ひとつ。
ギャンブルで勝つ!
翌朝、宿舎を出る時、リンはもう泣いていなかった。
けれど、彼女の指は膝の上で小さくハンカチを握りしめたままだった。
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【玉当ての男視点】
この前はエラい目にあったぜ。
だが、顔役に大枚はたいて祭期間のこの場所の権利を手に入れたんだ。簡単に撤退するわけにはいかねえ。
あのクワセ者が、ネタばらしせずに見逃してくれたのは正直助かった。おかげでまたいつも通りカモが集まってきてる。
アイツも金取り戻して満足したみてえだったし、もう会うこともねえだーーーー
ーーう、ウソだろ?!ま、また来やがった!
またあの半ベソ姉ちゃんと……
ん?お付きの女はこの前と違うな……。
「すまないな、また来てしまったよ。
実は君に教えて欲しい事があってね」
「教えて欲しい事だぁ?。
なんで俺がテメエなんーーー」
アイツに食ってかかろうとした瞬間、俺の目の前がチカッと光って顔に風が吹いた。
……ナニかがスゴイ勢いで横切っていったな……。
パラッ……
……あ……、テーブルの上に何か落ちてきた
……ああ……、俺の髪の毛……かな……
「アルベルト様、エリシア様に恥をかかせたのはこやつですか。であるならば今すぐご命令を。
このような無礼な輩は私が秘密裏に始末ーー」
「ダメだよロッテ、君はすぐ暗器を持ち出す」
……へえ、お付きの女性の方……
掌に刃物隠してらっしゃるンですね……
……イヤどうも……
……ハイ……モチロンいいですよ……
ナンデモお答え致しますよ……
❖ ❖
はあ、なるほど。
この辺の私設の賭場で、比較的穏健なトコロを
お知りになりたいと。
はい、この地図に書き込めばいいんですね。
わかりました。
……あれ?このジャンル別の地図って……
国の招待客にしか配布されてないってウワサの……
ーーいえ!詮索は致しません!
ですからそんな怖い目つきで掌をヒラヒラさせないでください!
ハイ、この辺りだとココ、こっちの地図だとココとココにありますね。こっちだとーーー
「ありがとう、助かるよ。さすがにこういう事はご同業に聞くのが一番だね」
いえ、お役に立ててナニヨリです。
……で、アルベルト様でしたか……。
もしかして……賭場荒らしとかやるんですか?
「いやいや、そんな気はないよ。こういうのは広く浅くっていうのが大事らしいんでね」
はぁ……、広く浅くですか……。
デキるお方ってのは不思議とおんなじ事おっしゃるんですね……。
あ、いえいえ、コッチの話で、ハイ。
それじゃ、お気をつけて。
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【アルベルト視点】
「もぉ〜、ロッテ、ダメじゃないかぁ、あんな街中で暗器振り回しちゃあ」
「申し訳ございません、エリシア様。
しかし、あんなイカサマ師がエリシア様のお小遣いを巻き上げるなどと、全く許し難き事で。
一昨日随行したのが私であれば、あやつは今日あの場にいなかったでしょうに。口惜しゅうございます……」
物騒な物言いだが、ロッテは大マジメだ。
ルナは思慮深いお姉さんタイプで、エリシアにも躊躇せず箴言するが、ロッテは騎士団のなかでも随一のエリシア大好きっ娘で、とにかくエリシアに甘い。
通称『暗器姫』。何かにつけて物騒な女性だ。
暫く歩くと目的地に着いた。
中はそれなりに賑わっており、賭場独特の熱気に満ちている。
「なるほど……、コレがホンモノの賭場か!」
エリシアが感無量という表情でキョロキョロ辺りを見渡している。
カモ感まる出しだぞ、エリシア。
「アルベルト!アルベルト!どれだ?どれやるんだ?どれも面白そうだぞ!どれが勝てるんだ?」
「そうですね、タネ銭が僅かですので、単純明快なゲームが適しています。
例えば……」
周囲を見渡す。ふむ、あの辺りか……。
「あそこがいいですね。参加しても観ていても楽しいゲームですよ。
ーーールーレットです」




