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第9話 賭博場からの招待

 【アルベルト視点】


「申し訳ございませんが、当店でのご遊戯はお断りさせていただきます」


 う〜ん、ココもダメか……。


「な、なぜだ!なぜダメなーーー」

「まあまあ、エリシア様、落ち着いて下さい。

 別の店に行きましょう」

 食ってかかろうとするエリシアの首の後ろをルナがガッチリ掴み、やんわりとした口調で引っ張っていく。


 ブーたれるエリシアに苦笑しながら、ルナがそっと囁いた。

「……だいぶ目をつけられているようで……」

「……そのようだな……」


 これで昨日行った4軒のうち3軒に断られた。

 う〜ん、やはり目をつけられていたようだ。

 どこまで話が広がっているのか。


 こういう事は、同業者さんに教えてもらうのが一番確実。

 そんなわけで、先日の玉当てゲームの男のところをまた訪れた。


「ゴメンね、また来てしまったよ」

「……またいらっしゃったんですね……」

 この反応、また来るのを確信していたな。


「ダンナの回状が回ってますよ。

 ルーレットの台調整の甘さを正確に見抜き、一定額を抜いた時点で退く要注意人物だって」

「う〜ん、そうかぁ……、広く浅くのつもりだったんだがねぇ」


 私はサラリと流したつもりだったが、男が焦った顔でぶんぶん頭(かぶり)を振った。


「いやいや、1日で300枚抜いたって話じゃないすか。

 ダンナ、勝ち過ぎたから嫌われたんじゃねえ。

 店ごとの一番痛いとこ見つけて、そこだけ刺して帰るから嫌われたんすよ」


「まだ行ってない店があるから、そこへ行こうと思ってるんだけど」

 男がまたデカいため息を吐いた。

「ココの顔役が回状出したんだ、諦めなよ。

 王都には東西南北に顔役ってのがいて、毎年この時期に、向こう1年間、業界全体のまとめ役をゲームで決めてんスよ。

 そのゲームが目前だってのに、ここ南だけ打ち手が見つけられてねえってんで、相当ピリピリしてらぁ。

 そんな時にダンナみてぇな厄介な相手、入れてくれるわけねえでしょ。

 もし入れてくれるってんならーーヒィッ!」


 そこで男の呆れ顔が凍りついた。

 私の背に、イカツイ男たちがこちらに向かって歩いてくるのが見えたからだ。


「……私を徹底的に潰す気なのかな……」


 さてどうしたものかと考えているうちに、5人の男たちが私たちを半包囲する。

 この状況を受け、エリシアもルナも既に戦闘態勢だ。

「アルベルト……、ここはやるしかないか」

「アルベルト様、エリシア様の事はお任せを。

 あとはご存分に」


 おいおい、ふたりとも好戦的過ぎるよ。

 こういうのはまずは相手の出方を確認してからだ。


「……失礼、昨日私どもの傘下の店で遊戯されて大勝なされたお客様……でお間違えないですか……?」

 イカツイ男たちのなかから、身なりのいいひとりが進み出て慇懃に尋ねてきた。

 思いのほか静かな態度だ。

「昨日はいくつかのお店でゲームしてたので、どのお店のお話かわかりかねますが」

「4軒で300近くお勝ちになられたハズです」

 相手の目にも口調にも害意は感じないな。

「ああ、それであれば確かに私ですね。

 それで何かご用でしょうか」


 あれ?いきなり男たちが一斉に頭を下げた。

 エリシアもルナも気勢を削がれて絶句。

「当方の主人が、是非もう一度ご来店いただけないかと申しております。ご同道いただけませんでしょうか」

 

 私に一緒に来い……と。

 エリシアとルナはこのまま放免してもいいという事か?

「……それは構わないが、連れの彼女たちは?」

「主人の要望はあなた様を是非に……という事。

 必ずおひとりで、とは申しておりませんので、ご希望であればお連れ様もご一緒にどうぞ」


 ふむ、全員強引に連れ去るつもりはないのか。

 であれば……

「エリシア様、いかがなさいますか?私はお招きにあずかろうと思いますが」

「私はついて行くぞ、何と言われようとだ!」

「私はエリシア様の護衛。如何なる場所にも」


 そう言うと思ったよ。

 見たところ害意はないようだし、最悪の場合は素性を明かせばなんとかなるだろう。


「と、連れが申しております。いかがですか?」


 男たちが頭を上げ、身なりのいい男がにこやかに応じた。

「承知致しました。では3名様、ご案内という事で」


 ……いやぁ、ソレがそうではないんだな……


 こちらもにこやかに笑みを返す。


「申しわけない。6名になるようだ」

「はぁ……?、6名とおっしゃいまーーー」


 ザァッ!


 言葉の途中で物凄い土埃が舞い、その勢いで男たちがよろめき、目を覆った。


 ほら、来た。


 土埃が消え、視界が開けた時。


 私の前には、案内役を羽交い締めにし、男たちと対峙するロッテが立っていた。


 案内役の首元には鈍く光るプッシュナイフ。

 全てを噛み砕かんばかりの獣じみた目。

 う〜ん……、相当滾ってる……。

「エリシア様……クセ者ですか……?クセ者ですね……、クセ者とおっしゃって下さい……。

 そのような輩は私が秘密裏に始末ーー」

「ま、待て!落ち着け、ロッテ!

 周りのみ〜〜んなが見てるぞ。それじゃあ秘密裏でもなんでもないだろ。まだ敵と決まったわけではないんだ。ソレを下ろせ」

「そうですよ。彼らは十分に礼節を示して下さってるのに、逆にこちらが人質取ったならず者に見えますよ、ほらっ」

 逆にルナがロッテをガシッと羽交い締めにする。

 あのロッテが動きを封じられてまるで動けない。さすが騎士団で『剛拳』と云われる怪力娘なだけあるな。


 ヨロヨロとロッテから離れる案内役。


「いやぁ、私の身内が申し訳ない。彼女はお嬢様の事になると見境がなくなるタチでね、彼女の上司も往生している」

 ガウガウ吠え立てるロッテと涼し気な顔で羽交い締めしているルナ。

 男たちはみんな警戒感満載の目してるぞ。


「……いえ、お気になさらずに。

 しかしまだ4名様でーー」

 案内役が首元を擦りながらも、一応の平静さを保っている。さすがというべきか。


 そこにリンがアレクに連れられて姿を現した。

「いたいた〜、ホサ〜、お姉ちゃ〜ん」

「おお、リン。今日はどこに行って来た?」 

「うんとね、アレクおじちゃんとロッテお姉さんと、屋台まわって、お服見て、あといろいろ!」

「アレク、すまないな。リンの面倒見てもらえて助かるよ。私もエリシア様も今日明日はかまってやれなさそうなんでね」


 アレクは整えられた髭を軽く撫でながら、穏やかな笑みを浮かべた。

「いいえ、何事も目標の達成までには時間が必要です。私がリンちゃんとご一緒する事がその一助となるのであれば、喜んでその任にあたります」


 壮年の副団長。その紳士然とした気品と風格に加え、武のみに偏らずに優れた実務処理能力も兼ね備え、文官たちからも信任厚い。二つ名は『流刃』。


 武のみに偏らず……

 そう……偏ってはいない……


「……で、エリシア様、アルベルト様……」


 視線が案内役たちに向いた。


 穏やかな笑みが剥がれ落ち、獰猛な笑みが顔に

張り付く。


 そう……、偏ってはいないだけで……


「……このクセ者どもはいつ切り捨てればよいのですか」


 本質はもちろん武のヒトなのだ。


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