第10話 勧誘
【アルベルト視点】
結局、総勢6名でおじゃまする事になった。
この辺りの顔役サンとお会いできるとなれば、何か有益な情報が手に入るかもしれない。
案内されたのは賭博場の上階にある応接室。
高価な調度品が並んでいるが、華美というわけではなく、ほどよく調和が取れている。
顔役サンのセンスが光ると言っておこう。
暫くすると、品の良さそうな初老の男性が3人の護衛とともに部屋に入ってきた。
「本日はようこそ。ご足労いただき感謝申し上げます。この店のオーナーのカインと申します」
「アルベルトと申します。こちらこそお招きいただきありがとうございます」
お互い穏やかな笑顔で挨拶を交わし、エリシアたちを紹介する。
「大人数でおじゃましてしまいましたが、かまわなかったですか?」
「お気になさらず。そもそもこちらが勝手にお誘いしたわけで、そこにお連れの方がいらっしゃったのであれば、ご一緒なのは当然です」
柔和な物腰、穏やかな微笑み、静かな口調。
依然敵意は見えない。
「……あなたが王都南の顔役サンという事で間違いないですか?」
「ハハハ、そういう肩書きで呼ぶ者も確かにおりますが、実際はただの調停役に過ぎませんよ」
「その調停役サンが私を要注意人物として回状を回した……と」
「注意喚起をしたまでです。あなたはギャンブルに参加しながらも、徹底してその娯楽性を切り捨てられる。そんな方は稀です。
ぜひお会いしたいと思い、時間も惜しかったので、こうしてお迎えにあがりました」
時間が惜しかった……
それほどまでに急ぎ私に会いたかったと。
なるほどね……
ティーカップから薫るコーヒーを堪能する。
「……玉当てゲームの彼がポロリと話してくれましたが、今は相当慌ただしい時期だそうで……」
うん、美味しい。丁寧に挽かれている。
「そこまでして私に会いたかった理由は、誰が王都を仕切るかを決めるゲームへの助力ですか」
「!!」
カインの気配が変わった。
表情こそ変わらないが、先ほどまでの平静さは消え失せている。
護衛たちは顔色まで変わってるぞ。
まあ、ウチの護衛3人も似たような反応か。
エリシアは……ティーカップを手に、柔らかな微笑みを浮かべて悠然とカインを見つめている。
全てを理解している、わかっているんだぞ……
そういう目に見えるだろう。
だが私は知っている。
アレは何もわかっていない時の目。
情報が脳の処理能力を超えた時の微笑み。
どんな態度を取ればいいかわからん時の姿勢だ。
日々の執務で数え切れないほど見てきたよ。
リンは……
うん、ミルクとクッキーは相性いいよね。
私も好きだよ。
❖ ❖
「……いやぁ参りましたなぁ……。何をキッカケにそこまで……。正直驚きました」
カインが降参したとばかりに額の汗を拭う。
「なぜおわかりになられたんですか?
情報など、ほとんどなかったはずですが」
「排除が目的なら回状で十分です。わざわざ私を招いた。しかも参加者が決まっていない時期に。なら答えは一つでしょう。
そのまとめ役決めのゲームへの参加要請。
当然、そこにたどり着きますよ」
カインと護衛は唖然としている。
ウチの護衛も同じか。
エリシアとリンは……、どうだ!まいったか!って顔してるが、君らはそんなにイキらなくてもいいぞ。
「お見事!素晴らしいご慧眼です!
たったこれだけの情報でそこまで読み切るとは。
このカイン、感服致しました。
ぜひともそのご慧眼を以て、私にご助力いただきたくお願い致します」
いや、そんなに買い被られても困るのだが…。
「なぜ私にこのようなお話を?
あなたほどの影響力をお持ちのお方なら、他にいくらでも伝手がおありと思いますが……?」
「お恥ずかしい話ですが、ある程度名のある者は全て押さえられてしまいましてな。
私は長年、客を殺すような仕掛けはしないよう努めてまいりました。このため業界には、そのやり方では生ぬるいと反発する向きも多いのです。
昨年は運良く勝ちまして、この1年間まとめ役を務めてまいりましたが、今年はヒトを押さえられてどうにもならず、途方に暮れておりました。
そんな時、玉当て男からあなたの話を聞きました。
ほんの僅かな時間で仕掛けを見抜き、策を講じ、罠を仕掛け、しかもあの程度の悪戯は多少辛めの旅のアクセントだと見逃し、あの言葉を残していったと」
「あの言葉……?」
「『ギャンブルは広く浅く』ーー。
至言です。
ギャンブルは娯楽です。
生活に刺激と楽しみを与え、その対価をいくばくか頂戴する。客を食い潰すべきではない。
胴元の姿勢はまさにそうでなければならない。
その言葉の意味を知るあなた様の慧眼と度量に縋らせていただきたいのです。
もちろん結果は問いませんのでご安心を」
すみません、アレ……、酒場の女将さんの受け売りなんですケド……
それって、ほぼ見ず知らずの人間に頼んでいい話ですか?
「私たちの素性はお調べになったんですか?
どこの馬のホネともしれない連中に頼むようなお安いお話ではないと思いますが」
「王都全体の宿屋は調べさせていただきました。
しかし、あなた方が滞在されている記録はどこにもありません。
となると、私どもの手の届かない場所ーー例えば貴族街の招待客向けの宿……とか……。
国に招待を受けるほどの、何処かの大店の跡取りと教育係……それならば納得もいくというものです」
……なんかイイ感じに勘違いしてくれてるなぁ
小芝居の盛りすぎ設定がこんなふうに生きるか。
王都の裏街の支配者を決めるーー
大それたゲームだ……。
だがこちらも明後日は素描画の公開日、その2日後はオークション、次は最終日だ。
参加できる日は限られてるし、なにより自分たちの資金づくりの障害になるのは困る。
「ちなみにそのゲームの詳細は?」
「開催は3日後、種目はカード。但し、ゲーム及び
ルールは未定。当日発表されます」
3日後……、オークション前日か。
手持ちを増やさねばならないその最終日に、別な用事はとても入れられない。
「申し訳ありませんが、我々にもやらねばならない事がありまして、このお話はーーー」
「ご参加いただけるなら即金で金貨200枚、首尾よくゲームに勝利しましたら500枚を進呈させていただきます。
大店のお身内に金銭とは身の程知らずかもしれませんが、私どもの覚悟と受け止めていただければと」
「お引き受け致しましょう」
……え?
……エリシア……さん?
「この男、アルベルトにぜひお任せ下さい。
私が言うのもなんですが、この男のヨミの確かさはピカイチでしてな。私もこれまで何度も唸らされたモノです」
「おお、お嬢様もそうお思いですか。そうでしょう、そうでしょう。私もこれほどの御仁にはお会いした事がございません。
そのような逸材をお抱えになられるお嬢様も、さぞ鼻が高うございましょう」
「いやいや、カイン様はよくわかっていらっしゃる。さすがは王都の顔役」
「いやいや、お嬢様こそ器が大きい。まさしく上に立つ者の器量といったところですかな」
「「ハッハッハッハッハッハ」」
❖ ❖
「……いいんですか?あんな安請け合いして」
カインは私の(正確にはエリシアの)参加承諾にいたくご満悦で、一筆入れた名刺をくれた。
これをこの辺の店に見せれば、業種問わず、かなりの厚遇が受けられるらしい。
しかし、ゲームとはいえ、向こう1年間の王都の裏街の利権争いに参加する事になるとは……
責任重大過ぎるだろ。
私の懸念をエリシアは鼻息荒く一蹴する。
「何を言ってる。参加するだけで金貨200枚、勝てばもう500枚だぞ。
ゲームに勝つだけでオークション落札の目処が立つんだぞ」
「確かに、手持ち300枚チョイで出入り禁止になった我々には得難い機会かも知れませんが……」
「負けても責任は問わんと言っていただろう。
お前の参加をあれだけ喜んでくれてた。
それだけ切羽詰まっていたんだろう。
我々も正直切羽詰まっている。
切羽詰まっている者同士、お互いに欲しているモノを提供する。ごく自然な協力関係だぞ」
う〜ん……
こういう時のエリシアは、余計なものを全部飛び越して本質だけを掴むな……。
まあ、確かにそうなんだ。
「わかりました。では資金作りはここで終了としましょう。これ以上賭場を回っても警戒を強めるだけです。
明日からはゲームの情報収集に専念しましょう」




