◎第3話 路上賭博
「アレですね」
「……そうだ、アレだ……」
アルベルトたち4人が、路上賭博の様子を窺う。
大柄な男がテーブルの上に3つのカップを置き、ゲーム参加者とおぼしき男女が金を渡している。
後ろにゲームのルール説明が貼られていた。
”①参加料 上限 金貨5枚
下限 銀貨1枚
②ゲームの流れ
スタートの合図(お客様)
↓
カップのシャッフル(親)
↓
当たりと思うカップを指定(お客様)
↓
オープンの宣言(お客様)
見事カップに玉が入っていれば当たり"
その後すぐにスタートの合図があり、カップのシャッフルが始まった。
確かに早くない。
シャッフルが終わり、客が1つを指差した。
客のオープン宣言がされ、親が指定されたカップを摘み、ゆっくりと開く。
カップから玉が現れた。当たりだ。
親は頭を抱え、渋々と客に金を支払った。
「ふむ…、なるほど……」
「なあ、簡単だろ!あの程度なら余裕で目で追えるだろ!」
今度は後ろで見ていた別のカップルが参加した。かなり意気込んでいるようだ。
「実際、後ろで見ている時は当たるんだ。
ほら止まった。右のカップだ、一目瞭然だろ」
エリシアがアルベルトの袖を掴んで力説する。
ゲームのカップルも自信満々に右を指した。
親の手がカップを握り、ジリジリともったいぶった感満載で緊張感を煽る。
「……残念ですね、ハズレです」
アルベルトのハズレ宣言にエリシアが、え?という顔をする。
ほぼ同時にカップが開かれーーー
結果はハズレ!
唖然とするエリシア、リン、ルナ。
ゲームのカップルはその後も連敗。項垂れて、すごすごと姿を消していった。
結果を全て言い当てたアルベルトは平然としたまま、3人にひとつ断りを入れた。
「それでは敵討ちを始めます。エリシア様は小金持ちの商家の娘、リンはその妹、ルナはお嬢様付の侍女。そして私はお嬢様の教育係、という設定ですのでよろしく。では行きましょう」
❖ ❖
【路上賭博の男視点】
今日もなかなか調子いいぜ。観光客がわんさか来やがる。
財布のヒモもゆるゆるだし、アツくなってのめり込む。ヘヘッ、たんまり稼がせてもらうわ。
と言っても、客を殺すほどには追い込まねぇ。
コッチも手元のカネはほんの少しだ。
俺らみてぇなちっこい賭場は、客にソコソコ勝って、細く長くシノギを掛けるのが常道だ。
「お嬢様、ここで間違いないですね」
ん?なんだ、このあんちゃんは?
あれ?さっきアツくなりすぎて、半ベソかいて逃げてった姉ちゃんじゃねえか。
「失礼、先ほどお嬢様がこちらのゲームで完敗してしまったと聞きまして。
それを取り戻すために伺いました」
「…それはゲームに参加するって事かい?」
「はい、お嬢様は私どもの商会の跡取り。教育係の私が敵討ちをせねば格好がつきません」
ほう、それなりの商会の跡取りと、そのお付きの教育係か。
こりゃまたいいカモが飛び込んできやがった。
「……アルベルト…大丈夫なのか……?」
「ご心配なく。私のマーチンゲール法をご覧下さい」
「……マーチン……?なんだそれ……?」
「いわゆる倍賭けです。最初に掛けて、負ければその倍掛けを続けます。1度勝てればそれまでの負けはチャラ。
未来永劫裏目を引き続けるなんてあり得ない。つまりはギャンブルにおける必勝の手段です」
「おお〜!確かにそうだ!見事な必勝法だ!」
はぁ〜、コイツ本当にマヌケだぜ。ンなの路上でやれるはずねぇだろが。
「いやぁ、悪いなあんちゃん。ソイツは禁止だ。
ほれ、ここに書いてあるだろ、参加料の上限は
金貨5枚だ。張れんのはそれが限度だぜ」
「な、なにぃ?!そ、そんな、私の必勝法が……。
ご主人、そこを曲げてお受けいただけませんか」
「バカ言うな、青天井なんて受けられるわけねえだろ」
「そこをなんとか!伏してお願いします!」
「ダメだよ、カネの高で勝負するなんて邪道だ」
「……そんな……そんな……」
そんな、そんな……、じゃねえよ、おい。
全く場の空気読めねえな、世間知らずにもほどがあんぞ。
「お嬢様、負けた金額は……おいくらですか?」
「え……と、金貨4枚……だったな……」
ん?、なんかブツブツ言い始めた。
「ご主人!」
うわ!なんだよいきなり、びっくりするじゃねえか。
「必勝法を封じられては致し方ありません。
ここは1回勝負で。但し、少々ルールを付け加えていただきたい」
「なに言ってんだ、そんな事して俺になんの得があるってんだよ」
「私は上限金貨5枚を賭けますが、別に手数料として1枚を差し上げます。いかがですか」
……ほう、金貨5枚の勝負か。勝てば丸儲け。
負けても取った分返すだけだ。悪くはねえ。
が、問題はーー
「仕方ねえ、付け足すルール次第で受けてやってもいい。どんなルールだい?」
「はい、カップのシャッフルですが……、コチラのタイミングで止めさせていただきたい」
「どういう事だい?」
「目を付けたカップを見失わないためです。
私の任意のタイミングで『ストップ』をかけたら、ご主人は『オープン』コールまではカップに触れてはならない。どうでしょう?」
カップを止めるタイミングか。
これまでもそういうトコロに拘る奴はいたな。
「ああ、いいだろう」
「では、『ストップ』コール後に親がカップに触れた場合は、ペナルティとして賭け金の倍額を払うというのはどうですか……?」
「あ?どういう意味だ、ソイツは?」
「例えばシャッフル後にカップが倒れたなどの事故が発生した場合も、ゲームは続くと。
我々から見ればラッキーな出来事ですから、それをドローにされては……ねぇ」
なるほど……なるほど……
そういうわけかい……
コイツの狙いはココかい……
コイツ、最初からペナでの倍返しを狙ってやがったんだな。
たぶんシャッフルが終わった後にテーブル蹴飛ばしてカップを倒そうって腹づもりだぁ。
カップん中が一目瞭然になりゃ、労せずカネを手にできると。
なんでえ、あのゆるゆるの顔は。
小物の浅知恵だぜ、甘いよ、テメエは。
「受けてやってもいいが……、無条件ってわけにはいかねえ。原因が本当に事故だったらゲームはドローだ。
俺が原因なら2倍払うが、逆に客側の人間が原因なら賭け金は没収だ。
どうだ、この条件なら受けてやってもいい」
どうだい、あの顔!
思惑読み切られてあわあわしてやがる!
所詮は素人の浅知恵だ。底が浅いぜ。
「……仕方がない……、いいでしょう……、そのルールでゲームをやります……。
少し待っていて下さい……」
うん?、何か紙に書き始めた。
何を書いてやが……
今回の特別ルールーー?
アルベルトが書き出したのは、今回のゲームの特別ルールだった。
書き出した紙を男に渡す。
①ゲームは1回限り 増減は認めない
②客はゲーム中、任意のタイミングで
『ストップ』を掛ける権利を有す
『ストップ』が掛かった後は、『オープン』
コールがあるまで、親はカップに触れては
ならない
③前項②に反し『ストップ』後に親がカップ
に触れた場合は、ペナルティとして賭け金
の2倍を客に支払う
④カップが倒れるなどのアクシデントが発生
した場合、その原因によって対応を次の
通り区分する
・不可抗力の場合〜無効試合
・親側の人間の場合〜前項③を適用
・客側の人間の場合〜賭け金を全額放棄
⑤その他の事項は通常ゲームに則る
「これでいかがですか。ご主人の意見も私の希望も網羅されていると自負していますが」
男がじっくりと特別ルールを読み込む。
(よし。事故の原因が不可抗力かアッチ側なら負けはねえ。この芽を潰せば楽勝だ)
「おお、いいだろう。やってやるよ」
「ありがとうございます」
エリシアもリンもルナも、皆一様に心配そうな表情でアルベルトを見つめている。
「…アルベルト…大丈夫か…?」
「……ホサ……」
「…アルベルト様……」
「任せておいて下さい。勝てばチャラです。なにもなかった事にできますよ」
男には、アルベルトが過剰な自負だけが独り歩きしている小物にしか見えず、その眼差しに侮蔑を含む。
アルベルトが観客に少し離れるよう求めた。
「周りの方々の行動でアクシデントが起きたりしたら収拾つかないですから」
男も同意する。野次馬どもが押し合ってテーブル倒したなんてごめん被りたいところだった。
観客が遠巻きに眺めるなか、いよいよ勝負が開始された。
「それでは約束通り金貨1枚と賭け金の5枚です」
アルベルトが置いた金を男が鼻で笑う。
「自信満々だが、悪いが捨て金だぜ、そいつは」
「さて、どうでしょうか…。
いきますよ…、スタート!」
合図とともにシャッフルが始まった。
やはりさほど早くはない。十分に目で追える。
「これなら…イケる!イケるぞ、アルベルト!」
エリシアのココロの声が口に出た。
グイッと身を乗り出すアルベルト。
その時ーー
「ハックシュン!」
あろうことか、くしゃみをしてしまった。
「はあ?!」
エリシアたちが、コケた。




