第2話 エリシアのギャンブル事始め
【アルベルト視点】
私たちはリヒテンラーデ王都に到着した。
「ほおおおおお、ココがリヒテンラーデ王都か」
「すご〜い!お店がいっぱい並んでる!
ねえねえ!ホサ!あれなに?あれなに?」
「アルベルト!こ、こっちのあれは何だ?
見たことのない食べ物だぞ!ちょっと覗いてきていいか?いいだろ!」
きゃあきゃあキャピキャピと馬車の中で姦しく騒ぐふたり。完全におのぼりさん状態だ。
「まずは宿に行きましょう。宿に周辺の案内図が置いてあるはずです。開催式は明後日ですから、今日はゆっくり休んで、明日街を回りましょう」
なんとか言いくるめて、用意された宿に連れて行く。
宿は貴族の別宅エリアを一時的に借り受け、各国の招待客に割り当てている。
私たちは、自分たちの他に護衛3人とメイド4人の総勢10名なので、他国よりだいぶ小ぶりな屋敷だが、それでも十分な広さだ。
屋敷の中にいくつかの案内図もあった。
食料品、日用品の他、衣類、宝飾、地元名産品、郷土料理、軽食から屋台までジャンル別に作られていて、土地勘のない我々にとっては大変ありがたい。
「明後日からは式典です。寝坊して明日を逃すと屋台巡りに行く機会を失う事になりかねませんよ、それでもいいんですか?」
このひと言でふたりがそそくさと寝室に入り、ようやく私の1日も終わった。
❖ ❖
ふたりは昨日から全く変わらないテンションだ。
わきゃわきゃとさえずるヒナドリたちの背を眺めながら、屋台エリアを進む。
「すまないな、まだまだふたりとも子供で」
隣には女性の護衛が1人。名をルナという。苦笑混じりにペコリとお辞儀で返してきた。
エリシアもなんだかんだ言って年頃の令嬢だ。男では随行をははばかる場所や機会もあろう。
という事で、今回の外遊には騎士団副団長アレクの他、このルナともう1人ロッテという女性騎士が随行している。
「エリシア様はリンちゃんがいらっしゃってから随分と明るくなられましたね」
ルナがキャッキャ騒ぐふたりを見つめながら感慨深げに言う。
「そうだね、これもリンのおかげかな」
「……不思議な子です。あの子の笑顔は周りの者を幸せな気分にしてくれる」
変わり者たちの街の住民はクセ者揃いだ。
そのクセ者たちが皆、リンの前ではただの善人になってしまう。
リン、君の笑顔がそうさせてくれてる。
「ホサ〜、いっぱい買っちゃった〜。みんなで食べよう〜」
リンが手に山ほど食べ物を抱えて走ってくる。
そう、その笑顔だ。
そうやって笑っている君が私も大好きだ。
❖ ❖
買ってきた食べ物を公園で食べた。
やはり甘味にかける女性の情熱と食欲に、おじさんがかなうはずもない。
おじさんには小休止が必要だよ。
「アルベルト、それではお前はここで休んでいてくれ。私とリンとルナでそのあたりを歩いてくる」
手を振って3人を見送る。
風が気持ちいい。
ここは驚くほど静かだ。
穏やかな陽光、爽やかな風、若葉の香り……
これほどの解放感に包まれるのは久し振りだ。
暫くは時間を忘れて、この非日常の空間に浸ろう……。
思えばここ最近は面倒事続きだったな。
「…!」
そういう日々はヒトを殺伐とさせる。
「………!」
抜けないトゲのように心に傷を残す。
「……ルト…!……!」
そんな日々の中で、私も少しだけ心が摩耗していたのかもしれない……
「…ベルト…!……づかい…れた!…よう!」
仕方がない。これも職務だ。責任だ。
ただ、今この時だけは…それを忘れて……
…心穏やかに……
「アルベルト…!…お小遣い全部取られた!
どうしよう!」
…こころ…おだ…やか……
ーーになるか!!
ココロの平穏のために自分を閉ざしていたのだが、私の横にはえぐえぐ半泣きのエリシアと、心配そうにエリシアに寄り添うリンと、半ば呆れ顔で腕組みしているルナがいる。
「……いったい何があったんですか…?」
3人に尋ねてはみるも、エリシアはぐしぐし涙目で鼻すすってるし、リンはエリシアに遠慮してかコチラに目も合わせてくれない。
そうなると必然的に事の真相を語るのは、ルナ、君しかいない。
私の視線に耐えられないのだろう。
はぁ~とため息をつき、ルナが事の経緯を語り出した。
「屋台エリアの近くで、3つのカップのどれに玉が入っているかを当てるというゲームをやってたんです。
客は参加料を払い、当たれば同額もらえるらしくて。
見ていると、カップの動きが結構遅いので、客が割と簡単に当てるんです。
エリシア様も他の客のゲームを全て当てたんで、『なんだ、簡単じゃないか』と軽〜く仰って、参加しちゃったんです。
そしたら文字通りの惨敗で、私の制止もお聞きいただけずのめり込んでしまって、その結果、所持金を根こそぎ、と」
「……ギャンブルは理解できない愚行だったはずでは……?」
エリシアがゴニョゴニョ何かを喋ってる。
「……って…」
「……なんです?」
「だって……簡単に……当てられたから……」
「簡単に……ねぇ……」
「他の人……の時は……簡単に当てられたんだ。
百発百中……だった。
それが自分で参加したら……、全部外れて……なんか……やめられなくなっちゃって……」
「気がついたら有り金全部ふんだくられたと」
エリシアが、赤い目を擦りながら自分の所業を肯定しようと足掻く。
「だって……全部当てたんだぞ。他の客の時は全部当てられた。カップの動きも遅いし、普通に見ていて当てられたんだ!」
急速に尻窄みになるエリシアの弁解。
アレだけギャンブルを不毛だと罵っていたのに……。
まあ、そこがギャンブルの魔性だ。
一度囚われると抗えない。
エリシアの肩をポンと叩き、3人に声を掛けた。
「仕方ない、案内して下さい。敵討ちといきましょうか」




