第34話 【エリシア視点】親愛なる領主閣下(ディア・ロード)
【エリシア視点】
閉会式から帰った途端にメイドたち女性陣に包囲された。
いや、単なる着替えだろ、と何度も言ったが聞いてもらえない。
ルナにガッチリ羽交い締めにされた。
もう逃げられん……。潔く諦めよう……。
リンもロッテも、そんなにワクワクした目で見ないでくれ……。
コッチは気恥ずかしさでいっぱいなんだぞ。
……そりゃあな……、私も女だ……。
……ちゃんとおめかし……してもらってさ……
(ボソボソ)アイツに見てもらいたい……
……なんだ、そのニンマリとした笑いは?
フンッ、もういい、好きなようにヤッてーー
……え?、ちょ、ちょっと待って……
その手にあるのはもしかして……
コ、コルセットをそんなに締めるな〜、グェ…
❖ ❖
ふぅっ、エラい目にあった……。
メイドたち4人がかりで、髪だ顔だといじくり回されて、なんか踊る前から疲れてしまった。
ああ、姿見ね。
メイドたちは「自分たちの技術の粋を注ぎ込んだ渾身の出来!」と息まいていたが……。
私は己をよく知ってるよ。
二流の素材を一流のシェフが調理すれば、ソコソコの料理に仕上がるかもしれんが……。
所詮はソコソコ止ま―――
………誰?コレ……
……姿見の中に……
……知らないヒトがいるな……
……え……?
……私……なの……?
……ウソみたい……
……へぇ……
……一流は二流を……
……ソコソコ以上に仕上げるのか……
……匠の技ってスゴいな……
姿見の向こうにいる自分を見つめる。
変な気分だ……。
全くの別人に見えるが、紛れもなく私……。
気恥ずかしい気持ちもするが……
なんか……うれしい……
夢見心地で姿見の向こうの自分を見てたら、いつの間にか出かける時間になった。
リンが「ホサ連れてくる〜」と言って飛び出して行った。
ヤバ……、ドキドキしてきた……
でも……
一緒に行くんだ……
この格好で舞踏会に……
ドアが開いた。
アルベルトとアレクが立っている。
やっぱり気恥ずかしくて、少し俯き加減でふたりの反応を確かめた。
ふたりとも動かない。
……アレ……?
……なんで……?
少ししたらアレクが跪いた。
オーバーな所作だけどさすが貴公子、堂に入ってる。
あんな礼節を示してもらえると、やっぱり少しうれしい。
自分でもビックリするくらい柔らかく笑えた。
そのままアルベルトに目を向ける。
彼は……まだ動かない。
彼の気持ちの居処が……
あれ……?
わからない……
彼の意識が身体と同期していない感じだ。
なんとなくチグハグなまま、彼がコチラに歩き始めた。
なにを考えているのか……
なにかは考えている……
ただ……それがなにかわからない……
私の前に立った。
彼の瞳に彼にはどう映っているのだろうか。
なにか言って欲しい。
なんでもいい。
なんなら、いつも通り茶化すだけでもいい。
とにかく、なにか言って欲しい。
……でも……できれば……
自分はどんな顔で彼を見つめていたのだろう…
全くわからない……
彼が右手を差し出した。
唇が動く。
紡ぎ出された言葉……
それが私の心を高く高く飛び立たせた。
「……行きましょうか、親愛なる領主閣下」




