第26話 喜劇2幕目
「うまくいったな」
エリシアがうれしそうに微笑み、アルベルトも頷いた。
「相手の欲しいモノがわかりやすくて助かりました」
「他責傾向はあるが、変に捻じくれた印象はなかったぞ。紳士的だし、悪人ではないな」
「そのようですね。いずれにしても印象付けはできた。彼にも満足していただけたでしょう」
エリシアが次のターゲットに目をやる。
テノール商会。
強欲と評判の大手商会。
「次はアイツか。商人となると政治的な駆け引きは畑違いだな。どんな切り口で丸め込めるか」
腕組みして案を捻り出そうとするエリシアに、アルベルトが笑いながら手を振る。
「いえ、あちらは子爵様より遥かに簡単です。
すぐ終わります。ここでお待ち下さい」
そう言ってアルベルトはテノール商会の談笑の輪に向かって歩き始めた。
❖ ❖
「お話中失礼、テノール商会の会長殿でいらっしゃいますね」
アルベルトが談笑の輪の中にいきなり首を突っ込んだ。
ムッとするテノールと取巻きたち。
……一部を除いて
「何だ貴様は?ドコのどいつか知らんが無礼だろう」
怒気を含むテノールの声を向けられたが、アルベルトはニッコリ笑顔を作り、その威圧を受け流す。
「はい、私アルベルトと申します。
このたび、会長殿が新たに私設賭博場をお造りになられるとお聞きしまして、ぜひご挨拶をと」
テノールはアルベルトをジロジロと眺めながらこの不遜な男の品定めをする。
(このような輩はよくいる。身の程を知らずに、
私に取り入って甘い汁を吸おうとする。
それなりの身なりをしているし、この場に出入りできて賭博場に興味を持つとなると、ドコかの中堅商会か。
そうすると出資の申し出、その辺りだろう)
テノールはふんっと鼻で笑う。
「どこかの商会の出資申し出か。そんなモンはとっくに間に合っとる。さっさと帰れ」
だがアルベルトも引かない。
「いえいえ、出資ではありません。運営方針などの助言はもちろん、この計画に極めて重要な、各方面との調整等、そういう面でお役に立てればと」
それを聞き、テノールは一瞬だがアルベルトの言の正しさを認めた。
(……ほお、各方面との調整ときたか……。
一応の見識は持ち合わせているらしい……)
だが、テノールの目には、アルベルトがそのような調整能力があるようには全く映らなかった。
(だが、所詮は知識だけうわっ滑りした、薄っぺらな自信家でしかないか……)
「貴様は本当に身の程を知らんのだな。
いいか、そのような役回りは貴様のような若輩者には無理な話だ。
賭博場の新設とはな、お前が言う通り、それを生業にしている方々との調整なくして実現はできん。王都全体の賭博師をまとめ上げる御仁と手を結んで、初めて成り立つものなのだ。
相手は超大物なのだよ。
私のような大商会になって、ようやく知己を得られるほどのな。
貴様のような小物には所詮ムリな話なのだ。
幸いにもそのお方がこちらに居られる。
本来なら貴様ごときがお顔を合わせられるお方ではないのだ。ご尊顔だけ拝謁して消えろ」
「はあ……、王都全体の賭博師のまとめ役……ですか……」
テノールが手で指し示した男に、アルベルトが視線を送った。
「う〜ん……。会長殿が、あなたが王都全体の賭博師のまとめ役と仰ってますが……、真偽のほどはいかがなんでしょうか。西の顔役サン」
❖ ❖
そこにいたのは、顔を真っ青にしている西の顔役だった。
「……アルベルト様、……会長がお持ちの情報には……少々齟齬が……ございまして……」
しどろもどろの西の顔役に、優しく問い掛ける。
「昨日の結果はまだ一般には周知されていないという事ですか?」
「……はい、左様で……。なにぶん昨日の……事ですので……」
ふぅっとため息をひとつして、アルベルトが顔役の肩にポンと手をやる。
「では致し方ないですね。私はあなたが"王都全体”のまとめ役と自称して、ご自分を大きく見せようとしてると勘ぐってしまいました。
いや、申しわけない、失礼致しました」
「め、滅相もございません、はい!」
テノールはふたりのやり取りをポカンと眺めていた。
(これはどういうことなのか。全くわからない。
なぜ王都の裏街を統べる方が、こんなに青い顔でこの若造にヘコヘコしてるのか。
この男にそんな影響力があるというのか?)
「西の顔役サンがお手伝いするというならば、確かに私の出番はありませんね。おとなしく身を引く事に致しましょう。
ただ、ひとつお願いがあるのですが、お聞きいただけますでしょうか」
西の顔役がコクコク頷く。
「な、何でも聞きます!何でも仰って下さい!」
アルベルトがニッコリ微笑んだ。
「ありがとうございます。実は私もこのオークションで狙っている品がありまして、何としてでも落札したいと思っているのです。
落札できなかったら自暴自棄になってしまうほどにね。
それがウォーケン卿の素描画なんですが、どうもテノール会長もソレを狙ってるらしいとのウワサを耳にしましてね。
いかがでしょうか、ここはひとつ、会長殿に身を引いていただけますでしょうか。
私がひとつ、会長殿がひとつ、それぞれ身を引いて、結果は引き分けと致しましょう。
それから、同じようなお考えで入札するおつもりの商会の方々をご存知でしたら、その方々にもご説明いただけると大変助かります」
「な、なんでわた――モガッ…ン!ンン!」
「ハハハ!わかりました!よろしいでしょう!
か……会長もこの通り納得されてるようです!
いやぁ、よかったですな!うん、よかった!
他の商会の方々にも、私が責任を持って必ず!
では、私どもはこれにて失礼致します!」
「……ン!……ン!ウー!ウー!」
西の顔役がテノール会長を引っ張って会場から出ていった。
後でしっかり事情を説明してもらえる事だろうし、他の転売サンもなんとかなりそうだ。
エリシアのもとに戻ると、苦笑しながら言う。
「なんか、我々も随分と狡いことしてないか?」
「とんでもない、嫌がらせと転売目的限定です」




