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第22話 理外の逆襲

 【ジン視点】 


 第8セット。俺が親のターン。

 

 俺はシャッフルをしながら思う。

 業界の在り方……。

 今の南の方針に抵抗があるわけじゃない。

 ゴトで素人をハメて食い潰すようなあの頃に戻るつもりはない。

 だが……、今のヌルい風潮にギャンブラーどもは牙を抜かれてるのも事実だ。

 あのヒリヒリと身体を焦がす、

 ジリジリと心を削る、

 そんな勝負の日々を取り戻したい。

 だから俺は西からの依頼を受けた。

 しかし……

 そんな俺が今、素人相手にゴト紛いの技を使ってる……

 勝って、ギャンブラーらしかったあの頃を取り戻すためとはいえ………釈然としない。


 相手にカードを渡す。

 

 この男は強い。

 ヤツの読みの鋭さはそこいらの生半可な賭博師(ヤツラ)なら手玉に取られるレベルだ。

 だが、まず俺とは経験が違う。

 技術の差もそうだ。前と同じように四つの山に分け、一山ずつリフルを重ねている。

 丁寧にやっているが、あくまで素人の反復作業だ。カードを操作してる様子はない。


 ただ……この落ち着き。

 さっきまでの落胆振りがキレイに消えている。


 やはりコイツは……手強い。


 シャッフルが終わって、ヤツがカードを渡してきた。

 それを木箱(シュー)に格納する。

 第1ゲーム目、開始だ。


 ヤツのカード1枚目。

 6、4、2、11、3。


 これは弱い。

 ハイカードは1枚だけ。

 もらった。


 ヤツがベットする。

 今回は――

 全部10枚!マックスベット!


 観客からどよめきが湧き上がった。


もう終盤、ヤツの戦略は明白だ。

 自分が子の番で大張りをし、これまでの負けをできる限り挽回する。

 これしかない。


 だが……このゲームでやるのは間違いだ。

 手札が弱過ぎる。このゲームじゃない。

 素人の弱さが出た。"待てない"んだ。

 やるのはもっと強いカードが現れた時だぜ。


 2枚目を配る。

 ん?最初の6のボックスに配ったカードが9?

 ハイカードの凹みがあったような気がしたが、勘違いか?

 ヤツのカードは――

 15、14、11、16、14。

 その他のカードにはキッチリ凹みがあった。

 やはり気のせいか。

 だが、5番ボックスにAが行ったのは少し厄介か。


 それでもヤツのカードやはり弱い。3枚目を引くしかない。だが、バーストリスクも高まるぜ。


 俺のカードを引く。

 10!

 圧倒的有利だ。

 西の陣営から歓声、南からは悲鳴が上がった。 

 観客も俺の優勢がわかっている。


 ヤツは勝つためにヒットしなければならない。

 だが、それだけバーストにも近づく。

 そのリスクを飲み込めるか、それとも飲み込まれるか。

 今、お前は味わっているはずだ。

 この脳を焼かれるような甘美な恐怖を。

 コレがギャンブルなんだぜ。

 さあ引け!

 

「ヒット」

 3枚目は――

 この凹み……ハイカードだ!バーストする!

 もらった!


 しかし――

 カードを開いた瞬間、俺は固まってしまった。

 ヤツの3枚目は――

 3?

 これで18?

 バカな……

 間違いなくハイカードの凹みがあった。

 今度は慎重に確認をした。

 だが……、ハズレた。

 

 ……コレは……


 しまった!

 ヤラれた!

 ヤツは『ガン付け』を見抜いて、印のない札にもローカードにも、片っ端から同じクロス傷を足して、印の意味そのものを潰した!」


 いつヤラれた?

 おそらくは5セット目あたりか。

 あのセットでヤツは仕掛けを見抜き、6セットの終わりまでカードに凹みを作ってやがったんだ。

 

 俺は序盤の子の時に、爪でローカード(2〜6)に一本の凹みを、ハイカード(A.10〜13)にクロスの凹みを入れた。

『ガン付け』としてはお粗末だったが、それでも絶対的な優位に立ててた。


 だが、ガン付けは潰された。

 このセットでは拾いも使えない。

 ならば、ここからガチの勝負か!


「……どうかされましたか?

 私はステイです、次のボックスにカードをお願いします」


 ヤツが薄い笑いを浮かべて聞いてきた。

 いいだろう……、やってやる。


 もう『ガン付け』は気にせず、2席にカードを配る。

 3枚目は5!

 くっ!19だ!


 今度は南から歓声が上がり、逆に西から悲鳴が上がった。


 マズい流れだ。俺のカンがそう言ってる。

 カードがうまく噛み合って高い手に育ってる。

 この流れを変えるには、なんかキッカケがいるが……。


 3席目も19! 

 クソっ……、ここも強い。


 4席目は16でステイ。

 これは微妙だ。

 俺のバースト期待というわけか。


 問題は次の5席目だ。

 Aと3で4。あるいはAを11に読んで14。

 いずれにしろここはヒット1択だ。


 3枚目は――

 6!

 クソっ!20にしやがった!


 これでヤツは18、19、19、16、20。

 こっちは10とはいえ、これで俄然厳しくなった。


「ヒット」


 え?


 意外過ぎる言葉……。

 思わずヤツの顔をマジマジと見てしまった。


「……今、なんて言った……?」


「ヒットですよ」


 会場全体にどよめきとも怒号とも取れるような声が溢れかえった。誰もが唖然としている。


「……おい、Aを11に数えりゃ20なんだ。ここでのヒットはあり得ないだろう」


 だが、ヤツはしれっと言い放った。


「Aを1に数えれば10です。どちらに数えてもいいはずですから、まだ引けますよね」

「……いや、それはそうだが……」


 西からは罵倒とヤジがガンガン飛んでるし、南からも「コラ〜!やめろ〜!」って女の声が聞こえる。


 そりゃあそうだろう。

 20なら、俺がAを引かない限り負けはない。

 ここでのヒットは理外の暴挙だ。


「かまいません。私はAを1に数えています。

 ヒットです」


 ヤツは周りの声をいっさい無視して、相変わらず静かな笑いを浮かべてる。


 いいだろう……

 ヤツもカードのいい流れを感じてる。

 ここでAが来るのが必然とでも思ってるのか。

 だがソレは驕りだ。ミスだ。

 その暴挙がこの流れを変えるぜ。


 俺は4枚目を配った。


 カードは――

 クイーン!

 合計は20!変わらず!


「ふむ、変わらなかったですね」


 相変わらず期待も動揺も見せず、しれっとしていやがる。


 だが、結果はどうあれ、あれは流れを捻じ曲げる判断ミスだ。もうヤツの流れはなくなる。

 俺のギャンブラーとしての経験がそう感じた。


 俺が2枚目を引く番。

 ここでAか10点札が来れば俺の4勝1分け。

 9なら2勝1敗2分け。

 ここまではプラス、逆に8以下ならマイナスだ。


 身体が……心が……ジリジリと熱を帯びる

 久しぶりのこの感覚……

 

 コレだ……コレがギャンブルなんだ……


 木箱(シュー)に手を伸ばす。

 俺の2枚目……10点札よ……

 来い!


 カードを引いた!

 結果は――!

 4!


 くっ……これで14……。

 もう1枚引かなきゃならない。

 ……いや、そうじゃない。

 もう1枚引けるチャンスがあるって事だ!


 俺の3枚目――

 7なら勝ち、6なら分け、2以下ならもう1枚、

 8以上は負け。

 分はよくない……。

 だが……引いてみせる!

 6か7……!

 来い!


 カードは――

 キング!


 ……10点札……

 ……バーストだ……。


 歓声と怒号が入り混じって響く。

 

 このゲームで総負け……。

 マイナス50枚を食らった。

 もう勝ちもほとんど剥がされた。


 クソっ、2枚目が10点札だったら……


 ……大敗だ……

 ……思い出しても悔やま……



 ……あれ……?



 ……2枚目が……

 ……10点札……だったら?


 ……ヤツが…ヤツが4枚目を引かなかったら…

 4枚目を引かずに20でステイしてれば……

 ヤツが最後に引いたあのクィーンは……

 俺に回ってきてた……

 俺は20になって……4勝1分け……

 プラス40枚だった…?


 あ、新しい『ガン付け』か……! 

 いつの間にか新しい『ガン』を仕込んでたか?

 

 俺は5席目の最後のカードを奪うように手にした。


 観察する。隅々まで、つぶさに、じっくりと、念入りに……


 なにか……なにか……あるはずだ……

 ヤツの席から見える目印が……


 しかし……ない……

 カードにはなにもない……

 

 途端に俺の身体に怖気が走った。

 身体中からイヤな汗が吹き出てきた。


 今まで感じた事のない怖れが、俺のなかを駆け巡っている。

 得体のしれない……理解の届かない……

 そんな理不尽を目の当たりにした時の

 わけのわからない恐怖……


 

 それが……


 その理不尽が……



 静かな笑みを浮かべ、俺の前に座っていた。

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