第21話 ビッグゲーム
【路上賭博の男視点】
ダンナだいぶ負けが込んじまったなぁ。
…約100枚のマイナスか…。
まあ、しょうがねえか。相手はあのジンだ。おいそれと勝てる相手じゃねえしな。
1回戦はかなりヤッたらしいし、素人ながらよくやったぜ。
「ねぇ、お兄さん。まだゲーム始まんないのかい?」
振り向くと、なんとも色気のある女が立ってた。ここいらでは見ねぇ顔だな。
「おう、もうじき始まるぜ。もっとも結果ももう見えちまってるがな」
「ふう〜ん……」
女がボードのゲームスコアに目をやる。
「マイナス100かい……。かなり開いたモンだね……」
ん?女が少し訝しげな雰囲気になった気が……。
「4セット目と5セット目に、西にすげぇラッシュが入ってよ。ビッグゲームだったぜ。あっと言う間にこんなに差が開きやがった」
少し剣のある目つきでスコアを睨んでる。
「打ち手の力量はどうだい?噂じゃ南は素人ひっぱり出してきたらしいじゃないか」
「ああ、確かに素人だが、よくやったと思うぜ」
「お兄さん、だいぶ南の素人サンを買ってるように聞こえるよ。理由でもあるのかい?」
「いやな、俺ぁこの辺で商売してんだけどよ。まあ、観光客向けのイタズラだ。
この前、あのダンナの連れのお嬢様が釣れちまって、そしたら敵討ちだってダンナが乗り込んできてよ。コテンパンにヤラれたってわけさ」
あれ?今度は声殺して笑ってるけど……なんで?
「コテンパン……かい……」
「おう、正直お手上げだった。2〜3回見ただけでぜ〜んぶ見抜きやがってなあ。
しかもだ、周りの観客に内緒にして、内々に収めてくれたんだよ。
俺ぁ、あのダンナの眼力と度量に感服してな、ダンナに金賭けてここまで来ちまったわけさ」
え?今度はスゴイいい笑顔になってる……
「ふ〜ん、そうなんだ。……しかしこの差……、こりゃトンデモない事になるかも……」
「ああ?トンデモない事?」
「お兄さんもイタズラして懲らしめられたクチなんだろ。まあ見てなって。またイタズラっ子が懲らしめられるはずさ」
❖ ❖
【ゲーム会場】
7セット目。アルベルトの親。
お互いにシャッフルし、ゲームが開始される。
序盤はまた小場を繰り返したが、ややアルベルトが優勢のまま進み、10枚ほど負けを減らした。
5ゲーム目。
テーブルにハイカードが並んだ。
観客がどよめいた。
4セット目、あのゲームの再現か。
ジンが全てのボックスにマックスベットする。
観客の注目の中、2枚が配られた。
やはりハイカードが多い。
19、18、17、20、19。
一方で親であるアルベルトは――
11。10点札だ。
ジンの顔が僅かに歪んだ。
これ以上は誰が見てもカードを引けない。
全てのボックスをステイした。
親、アルベルトの2枚目が引かれる。
カードは――
9!
合計19!
1負け、2勝ち、2分け!
再び観客からどよめきが上がった。
この場面をアルベルトはプラス10枚で勝ち越した事に対しての驚きだった。
先だってのターンに一矢報いた、そんな印象のゲームだった。
続く6ゲーム、7ゲームは大きな張りはなく、アルベルトが勝ち越し。
ここまで大きく負けを回復している。
8ゲーム。
ここでまた場が沸騰した。
テーブルの上に再びハイカードが並んだ。
今度こそ取る!
ジンは当然のようにマックスベットする。
続く2枚目。
やはり同様にハイカードが並び、同時に大歓声が会場を包み込んだ。
ジンのカードは――
19、18、21、20、21。
ほぼ負けなしと言っていい手札。
しかもブラック・ジャックが2つ。
ブラック・ジャックの配当は1.5倍、全勝で一挙60枚のビッグゲームになる。
皆がアルベルトの手札に注目する。
アルベルトの1枚目が開かれた。
同時に先ほどに匹敵する大歓声が沸き起こった。
アルベルトの1枚目――
A!!
親のブラックジャックか!
ジンの顔に苦悶の表情が浮かんだ。
(ここでAとは……。1番マズい展開だ。
最悪の場合、2分け3負け。
60枚獲得の好機が逆に30枚奪われる危機だ。
どうする……?このまま強気に押すか……
いやダメだ!
次もおそらくハイカードになる。
しかも10点札の方が割合が高い。
前は印象をぼかすためにそれなりにハイカード以外を混ぜたが、今回仕込んだ塊りはかなりの割合でハイカードが入っている)
ジンの頭の中は目まぐるしく動いた。
(保険を打つか……)
テーブルのカードをジッと見つめる。
保険を掛けての安全策。
親が何を引いても、大負けだけは避けられる。
手元の金貨と相手の金貨、それを凝視し、天秤にかけ、思考を重ねる。
(プラスが少し剥がされたが、まだこちらが勝っている……。
もう7セット目……、ここで詰め寄られるのと、このままの差を保つのとでは、これからの景色が全く違う。
……そうだ……ここは慎重に行くべき!)
ジンが意を決し、声高に宣言する。
「1席、2席、4席に保険!」
また会場がどよめきで沸き立った。
今度はやや落胆の色を交える。
真っ向勝負に行かないのか?
そんな失望を含む声が漏れ聞こえる。
ジンが柄にもなく苛立ちを覚えた。
(外野が何を勝手な事を言ってる!ここは確実に勝ちを守り、負けを徹底的に避ける!)
アルベルトがジンの苦々しい表情を一瞥する。
(そうだろう……、そうするさ……。
勝ちに向けてのシステムを組み上げた。
効果も上げた。大差をつけて勝っている。
そうなったら常人はまず守りに頭がいく。
考えて、計算をして、損得を弾いて、無難で確実な方に傾いていく)
アルベルトが手を伸ばす。
(でも……あなたの愛したギャンブルとは、それとは真逆の"不確実な勝負"だったのでは……?)
カードに指を置く。
(ギャンブラーの感性とは、無粋な確率論を踏み越えた、閃きのようなモノだったのでは……)
2枚目のカードを引いた。
(……それはギャンブルじゃない……)
結果は――
9!
合計20!
(ただの算数だよ……)
アルベルトにとっては最高の、ジンにとっては最悪の結果だった。
ジンは▲5。
最大60枚獲得のビッグゲームがまさかのマイナスとなった事は、西陣営だけではなく、会場全体に驚きを与えた。
しかし、ジンはこの結果を別に悔しがったりしていない。逆に安堵したかのような笑みさえ浮かべていた。
(これは仕方がない。たかが5枚だ。俺の判断は間違ってはいない)
ゲームが終わり、カードと金貨をコーナーに移しながら、アルベルトはそんなジンに少し淋しげな視線を向けていた。
その後の9、10ゲームはアルベルト優位のまま進行し、7セット終了時点でアルベルトはマイナスを94から78まで減らしていた。




