第19話 直対ブラックジャック
【アルベルト視点】
ルール説明を見る。このあたりが基礎設計だ。
・金貨500枚を貸与する
・親は交代制 10ゲーム1セットの10回戦
・勝利条件 終了時の金貨枚数の多寡
尚、金貨が枯渇した場合は
その段階で敗退
・上限下限 上限10枚
下限 1枚
ルールは普通のブラックジャックだが、大きな違いはここだ。
①親は五つのボックスすべてに配札する
②子は全ボックスに参加する
③各ボックスの一枚目を確認後、
賭け金を決定する
④親→子の順番でシャッフルを行う
⑤用意された木箱からカードを引く
まずここはプロの意見をいただこう。
「カイン様、どう思われますか?」
顔役サンが神妙な顔で、しかし確固たる口調で断言した。
「……そうですね。1枚目を見て賭け金を決めるというのは、強いカードのボックスを狙って厚く張れるという、攻撃的なゲーム展開を企図したものでしょう」
ふむ……、なるほど……
「他の部分は技術介入の排除……ですね。
木箱は『シュー』という名前です。
山札の盗み見や、配布時のスリカエを排除するために女王が作った物だそうです」
極力、作為を排除するか……。
女王の思想が際立つな。
「カイン様、申しわけありませんが、今回使う木箱を借りてきていただけませんか?」
❖ ❖
「これが木箱か。私にはよくわからんが、アルベルト、お前はどう思う?」
エリシアが木箱をマジマジと眺めながら印象を聞いてきた。
「ええ、よく考えられていると思いますよ。
ここにデッキを入れて」
カードを2デッキ、試しに入れてみる。
前に大きめの窓が開いていて
ここから指を滑らすようにカードをーー
スゥッとカードが滑り出てきた。
「スムーズに出てきます。傾斜も申し分ない。
両脇・後ろもガッチリガードされている。
山札の時はわりとやり放題だったスリカエは、もう過去の遺物になるでしょうね」
エリシアとルナは単純に感銘を受けている。
顔役サンは、少しだけ淋しげだがうれしそうな表情を浮かべているな。
ギャンブルを市民の娯楽へーー
顔役サンは、その節目を目の前にしているのだろう。
「使い心地はいかがですか、アルベルト様」
「ええ、問題はなさそうです。少なくとも私がもたついてゲームを台無しにするような事にはならなそうですね」
「勝機はあると……お思いですか?」
顔役サン、大詰めだけあってさすがに真剣だな。
「私は経験値で玄人の方にはとても太刀打ちできません」
「……確かに……」
顔役サンの顔が曇った。
まあそうなるだろう。
「相手の方がギャンブラーとしての感性を武器に戦うのであれば、私も自分の勘で精一杯抗ってみようと思います。
しかし、相手が別な方法に手を伸ばすような事があれば、私もいつものやり方に戻ります」
「……いつものやり方……?」
ここで案内人サンが顔役サンを呼びに来た。
会場準備の時間のようだ。
「西のジンさん……。あなたが本物のギャンブラーとおっしゃったその方と、直接対決して存分に純粋なギャンブルを味わってみたいんです。
もちろん勝つつもりで、正面から精一杯挑んでいきます」
私の言葉に、顔役サンが小さな笑みを浮かべた。
少し寂し気な、それでいて少しうれしそうな、微妙なブレンド具合の笑み。
「…よろしいでしょう…。
思うがままに戦って下さい。
私もギャンブラーの端くれです。
私はあなたにベットしました。あとは運を天に任せます」
「ありがとうございます」
❖ ❖
会場は先ほどとはうって変わって満員御礼だ。
ブラックジャックはカードが基本オープンだから観客がいても特に問題はないからな。
一応、西と南に分かれて仕切られてるけど、南側の人数は圧倒的に少ない。完全に知名度の差だ。さもありなん。
とはいえ西側が軽く50人以上で、コチラ側には10人ちょっとしかいないのは実に寂しい。
あれ?玉当て男クンが来てる。
ココに入れるわけねぇとか言ってたのに。
「やあ、よく来てくれたね。会場に入れたんだ」
玉当て男クンに手を振りながら近づくと、途端に迷惑そうな顔をされた。
「……ダンナ、勘弁してくれよ、こんなトコで。
ただでさえコッチ側にヒトがいねえのに、声まで掛けられちゃ悪目立ちし過ぎってモンだろ」
小声でボソボソ言ってくる。
ああ、確かに得体のしれない素人側にいるのはかなり目立ってしまうね。
「入れてもらえたんだね」
「会場の前まで来てみたんだよ。結果は早く知りてえからな。したらなんか、ドコの応援だって聞かれてよ。ホレ、一応ダンナに賭けたから、南だって言ったら引っ張り込まれた……」
なるほど、コッチの観客があんまり少なすぎなんで、枯れ木も山の賑わいってコトか……。
「そういえば、オッズはどうなってるんだい?
まあ、この様子をみれば推して知るべしだが」
「昨日締め切られて、西のジンが2.5倍、ダンナはなんと34倍だぁ。
ったく、俺もヤキが回ったわ。こんな捨て金しちまうとはよ」
「金貨20枚くらい張ってくれたのかな?」
「んなバカなマネできっかよ。2枚だよ、2枚。
まあ、精一杯足掻いてみてくれや。あのジンって奴は手強いからよ」
「ん、ありがと。じゃあ、またね」
壇上に顔役サンたちが並んだ。
周囲から歓声が上がる。
「お待たせしました、皆さま。
第2回戦目開始の時刻となりました。
打ち手の方はこちらのゲームテーブル前にお並びください」
テーブルの前にはもうジンさんが立っている。
「よろしくお願いします」
横に立ち、軽く挨拶をする。
ジンさんが目礼を返してきた。
「それではまず親を決めさせていただきます。
打ち手の方は、テーブルに広げられているカードから1枚お引きいただき、数の大きかった方が好きなほうをお選び下さい」
お互いにカードを1枚引く。
私が8、ジンさんが10。
ジンさんの勝ちか。
「では、私は子で始めさせていただきます」
私がディーラーの席に座り、ジンさんが子の席に移った。
先ほどまでの喧騒が消えている。
静かだ。
テーブルを挟んで、ジンさんから気迫が伝わってくる。
不思議と場に熱が籠るような感じがした。
ギャンブラーたちはこの熱に焦がれ、
この熱を糧にして、この熱に身も心を焼かれながら、相手を捻じ伏せようと日々挑んでいる。
いいだろう。
今宵は私もその熱に身を投じよう。
そして―――勝つ!
「試合開始!」




