第16話 92
ギースの2枚目。
捲る手に勝利への自信が漲っているようだ。
しかし、カードはそのまま伏せられた。
エリシアたちはホッと安堵する。
だが、ギースの自信は揺るがない。
無造作に積まれたペア札をトントンと整える。
(ったくよぅ、神経衰弱なんてガキのアソビを持ち込んで。女王もオイタが過ぎるぜ)
整えた自分のペア札を見て、またほくそ笑む。
(ヤツはまだボウズだ……。さすがにこの差はもう詰めらんねえよ)
ペア札を横に置き、アルベルトを見る。
なぜか、イヤな感じがした。
これまでほとんど表情を変えずにゲームを進めてきた男が、ほんの少し微笑んでいるように見える。
(……なんだ、なにを笑ってやがる)
「……私のターン、でしたね……」
アルベルトが、誰に聞くともなく呟いた。
ギースが仮面の審判を見る。
次いでカインも審判に目を向ける。
仮面が、無言のまま頷いた。
「はい、南陣営のターン……です」
カインが代わりに答える。
アルベルトは軽く息を吐いた。
「……失礼、先ほど、最後のピースが揃いましたので……」
アルベルトの視線が、場のカードを一度だけ横切った。
その動きは、数字を探すというより、すでに答え合わせを終えた者の目だった。
1枚目にゆっくりと手を伸ばした。
盤面左、アルベルト側の1枚。
パタ……
カードは10。
そしてまた手がゆっくりと2枚目に向かう。
向かった先はーー
先ほどのギースの1枚目。
あの10。
ギースの顔が一瞬歪む。
(ーークッ!ヤラれた!)
アルベルトは確認もせずにカードを晒した。
パタ……
10のペア成立。
「ーーや、やった!」
「エリシア様!やった、1組取りましたよ!」
アルベルトの後ろで沸き返る南陣営。
だが、ギースはそれに冷ややかな視線を送っていた。
(嬢ちゃん方……そんなに喜ぶなよ、逆に哀れに思えてくるじゃねえか。ようやく1組だぜ)
「……では続けますね」
そう言って、アルベルトがまた1枚目を手にした。
パタ……
静かに開かれたのはーー
また10。
そして2枚目に手が向かう。
今度は、ギースが序盤に自分だけで確認して伏せた、左手前のカード。
指でトントンと叩き、パラリと捲る。
カードは10!
ギースの喉が、小さく鳴った。
(……は?)
「っしゃ!おらぁぁぁ!!」
「なんだとお!!」
南の歓喜の大絶叫と、東の悲鳴が場に響く。
その喧騒も意に介さず、またアルベルトがカードを無造作に晒した。
(11、奴が舌打ちとともに伏せた、中央左)
今度は11。
そしてまたその手が躊躇なく2枚目をめくる。
(そして、私だけが確認した、右前方のこれ)
これも11!
またペア成立!
「……え?」
「……また?」
喧騒がざわめきに変わる。
そのざわめきのなかで、静かな微笑みを湛えたアルベルトが、また無造作にカードをめくった。
(次はここ、序盤に私だけが見た正面手前と)
パタリと開いたカードは、またしても11。
アルベルトが2枚目を摘む。
(その4つ隣……、中盤で確認した、これ)
場に並行に持ち上げられたカードは、少しギース側に近づき、そしてパタッと返された。
これも11。
ルナがエリシアにしがみついてきた。
「……エリシア様、これはいったい……?」
エリシアも、自分の身体が震えてくるのを感じた。
「……アルベルト、お前……」
無言のまま、アルベルトがまたカードを開く。
カードは12。
ゆっくりとギースの右前方に手を伸ばし、2枚目を手にした。
そっと倒され、アルベルトが、また12のペアを成立させた。
目の前で行われている行為。
これにギースの思考は追いつかない。
(……なにが、なにが起きてる……?
ヤツが……ペアを作ってる?
あの記憶力も集中力もなかったヤツが……)
背中を冷たいものが伝った。
ギースは自分のペア札を見た。
エースから9まで、きれいに揃っている。
なのに、なぜかそれがひどく小さく見えた。
会場はざわめきさえ、もう消えた。
静寂のなか、アルベルトの手が、また1枚目を開く。
13のカードを現れた。
そして2枚目を目の前で立て、ゆっくりと倒す。
パタリと倒れたカードはまた13。
揃ったペア札を自陣に並べ、改めてその手を場に伸ばした。
躊躇なく、その手がカードを選ぶ。
選んだカードが返される。
数字は13。
誰も声も出ない。
身じろぎもできない。
僅かに震えるギース。
その前方。
アルベルトの右手が進む。
無造作だが、はっきりと目標を定めているその手が、2枚目のカードを指差した。
(終わりだ……、あなたが序盤に掘り起こしてくれた、あなたの左端のこのカード……)
トンッとひと叩き。
カードを立て、ゆっくりと開かれる。
パタッ……
そこにあるのはーーまた13。
それを自陣に移し、1列に並べる。
10から13までのペア札。
4種8組16枚。
アルベルトはそれを一度眺め、そしておもむろに宣言した。
「これで92。私のターンはこれで終了、勝敗確定です」
❖ ❖
アルベルトの宣言に、場の静寂がかき消され、またどよめきと喧騒が溢れかえった。
「……ど、どういう意味だ?終わりだと!?」
「なにを言ってるんだ、あの男は?」
周囲のざわめきを無視して、ギースが呻くようにアルベルトに食ってかかった。
「おい、テメエ……、どういうつもりだ?
終わりだ、もう引かねえって……」
「はい、お話した通りですが」
「ふざけんじゃねえ!テメエはまだ8組しか取ってねえじゃねえかよ!
俺ぁ今12組ある!俺がリードしてんだぜ!
場にゃ12枚残ってんだ!残りカード全部取りゃ、俺は18組だ!テメエの倍以上になる!」
アルベルトは、ギースの苛立ちに意を介した様子もなく、静かにまた語った。
「はい。カード52枚、1から13までの総得点は182。
私のこの4種8組16枚の得点は92。
あなたが残り全て手にしても、合計は90点です。私には届きません」
そして、並べた4種8組16枚をひとつの山にして、自分の前に置いた。
「ですから、私はもうカードを引く必要がないんです」




