第15話 直対神経衰弱
審判の合図とともにゲームが始まった。
先攻は東のギース。
まず1枚目、これは場に晒す。
数字は7。
そして2枚目に手を伸ばす。
これは晒さない。
自分だけで確認し、そのまま伏せられた。
次順、アルベルト。
手を伸ばしたのはギースの2枚目。
数字は5。
2枚目を手に取る。
特に表情を変えない。
そのままカードを伏せ、場に戻した。
直対神経衰弱ーー
幕開けはあまりに静かで、あまりに普通だった。
「これがルールか……」
ルール説明を見ながら、小声でエリシアが囁く。
「はい、見たところ特殊ルールはふたつ。
特にコレ……、2枚目を晒さないなんて初めてです」
「どんな影響がある……?」
「わかりません……、見当もつかない」
もう何巡か経っている。
そろそろペアがーー
「あ!」
思わずルナの声が高くなった。
ギースがペアを作った。
7のペア。
次に手を伸ばす。
カードは5。
「マズいっ……」
ルナが顔を顰めた。
逆にギースはニヤリとし、おもむろに2枚目に手を掛けた。
最初のターンで自分が見たカード。
ふんっ、と笑い、5をヒラリと場に落とした。
次もギースのターン。
1枚目、9。
これは初めてのカードだ。
ギースの手が少しだけ迷うようにカード上を行き来し、意を決して1枚に手を掛けた。
カードを覗くギース。
またあの笑みが顔に浮かんだ。
パシッと音を立てて晒されるカード。
数字は9!ペア成立!
おお!という声が東陣営から上がった。
「クソッ、やられたか…!」
逆にエリシアが悔しさを吐き出した。
この偶発は仕方ない。
とはいえ、もう3ペアを先行された。
まだ序盤とはいえ、なかなかに悪い流れだ。
まだギースのターンが続く。
エリシアにはとてつもなく長く感じられた。
ギースの1枚目、11だ。
これも初めてのカード。
少しだけギースの顔が曇ったが、すぐにかき消され、2枚目に手を伸ばす。
流れを掴みかけている余裕か、動きに淀みがない。
バッと自分の目の前で開いた。
一瞬の間。
チッと舌打ちが聞こえた。
苛立ちを浮かべ、カードを放るように場に落とす。
エリシアもルナもホッとした。
カインの話では、流れに乗った時の爆発力が特徴と称されるギャンブラーだ。
ここで調子づかせては歯止めがかけられなくなる。
だが、アルベルトの後ろ姿は、動じているようには見えない。
(どう感じているんだ……アルベルト)
しかし、アルベルトは自分のターンでもまだペアが作れない。
先ほどのギースの1枚目11を開き、2枚目はまた伏せたまま戻された。
次のターン、ギースは自分側左端に手を伸ばした。
1枚目、13。
だが2枚目は、ギースがへっと苦笑いを浮かべ、そのまま伏せた。
次はアルベルトのターン。
エリシアが心のなかで願う。
(このあたりで一組でもーー)
アルベルトはギースの2枚目を開けた。
カードは8。
顔が曇るエリシア。
(……苦しい展開だ)
結局、2枚目も伏せたまま戻された。
「……エリシア様」
「……まだ序盤だ、逆転はできるさ……」
だが、場が進むにつれ、その差が広がっていった。
(なんでぃ、南が追い詰められた挙句、素人連れてきたってのはマジだったのかよ)
ギースがアルベルトをジッと見つめる。
(俺ら特有の”賭博師の匂い”ってのが全くしねえ。所作も雰囲気もドがつく素人だ。こんな鉄火場に連れてこられて、顔色が変わんねえのはたいしたモンだがよ)
アルベルトが1枚目を晒す。
カードは4。
ギースは視線だけは動かさず、神経は視界の右端のカードに向いた。
2〜3巡前にギースが開いたカード。
あれは4だった。
(これは取られるか……、まあ仕方ねえ)
アルベルトの手が伸びる。
あのカードに向かう。
そしてーー
手にしたのは、隣のカードだった。
少しだけアルベルトの顔が歪んだように、ギースには見えた。
(おいおい、コイツの記憶力ってのもたいしたことねえな。
こんなの落とすなんて、俺らじゃ考えられねえよ)
ほくそ笑みながら、アルベルトが手にしたカードの隣を開く。
当然4だ。
エリシアたちが悲鳴のような声を上げた。
それはギースにとっての歓声でもある。
先ほどのアルベルトの晒した1枚目カードに手を掛け、露骨に笑みを見せつけながら、パシッとカードを場に叩きつけた。
「ああ!また……!」
「クソッ!どうすればっ……!」
ルナは焦りに焦っていた。
その差は一目瞭然。
ギースはもう10組以上ペアをかき集めている。
それに対してアルベルトはまだ未成立だ。
ここからの挽回は至難の技、ルナにはそう思えた。
「……エリシア様、これはもう……」
だが、エリシアは無言で頭を振った。
(確かに敗戦濃厚と思われても仕方のない。
だが、私の知っているアイツは……このままなにもできずに敗けるようなヤツじゃない……!)
一方で、ギースはルナと同じ考えだった。
相手はひたすら外し続けるか、何回かさっきのように自分にカードをわざわざ「献上」してくれたりしている。
自陣に積み上がったペア札をチラリと見て、次いでアルベルトを見た。
(……ヤツは完全に運に見放されている。
ツキってのはな、集中力が呼び込むんだよ。
ヤツにはソレが切れている。さっきの4を取れなかったのがその証拠だ……。
そんなヤツに、ツキはもうやってこねえよ!)
ギースが1枚目を開く。
堂々とした、勝利を確信したかのような所作。
エリシアがギリッと唇を噛む。
開かれたカードはーー10!
その瞬間、アルベルトの目に別の色が浮かんだ。
だが、後方にいるエリシアたちはもちろん、カインも、正面にいるギースでさえも、誰ひとりとして気づかなかった。




