改訂版 第14話 女王の特別ゲーム
翌日のゲームの開催日。
出立時間になり、玄関先でリンたちが見送りに集まった。
リンが、エリシアとアルベルトを見つめている。
「リン……おいで……」
エリシアがリンを呼ぶ。
リンも少し泣き笑い気味の顔で近づいた。
エリシアがリンをガバッと抱きしめた。
「……絶対に勝つ、絶対だ……」
続いてアルベルトも、リンを優しく抱きしめた。
「必ず勝つよ、だから待っててね」
無言でウンウンと頷くリンに、ふたりは改めて決意を胸に刻んだ。
❖ ❖
アルベルトとエリシアに、護衛としてルナが随行し、会場入りした。
すぐに控室に案内され、しばらくする案内役が現れた。
「皆様、こちらへ」
大広間。カードゲーム用のテーブルがあり、各陣営が張り詰めた空気のなかで並ぶ。
壇上にカインが上がった。
「今回のゲームは2回戦制となります」
会場が静まった。
「1回戦:『直対神経衰弱』」
ざわり、と空気が揺れた。
(……神経衰弱?)
「…あの神経衰弱の事か?」
「あんな子供のアソビを?」
「直対って事は1対1でやるのか」
アルベルトの視線がわずかに動く。
「決勝戦:直対ブラックジャック」
「1回戦の勝者2名が決勝へ進出します」
(玉当て男クンの言った通りだ)
アルベルトは一歩引いて俯瞰した。
どの陣営もざわめいている。
(どちらも普通通りにはやらせてもらえないな)
❖ ❖
控室に戻り、第1回戦の説明書が配られた。
顔役カインが申し訳なさそうに言った。
「私どももゲーム名を当日告げられただけでして……しかも渡された説明書がこれしか……」
「……どういう意味ですか?」
アルベルトが紙を受け取る。
説明書と称された紙片には「進行上の注意」とのタイトルで、次の事項が記載されていた。
・会場 :1試合ずつ個室にて行う
観覧者は各陣営2名まで
・審判 :1名
・進行 :試合終了後、次の対戦を
同じ部屋で行う
・1試合目:東対南
2試合目:西対北
(……え?)
ゲームルールが一切書いていない。
アルベルトが思わずカインの顔を見た。
「……なんですか、これは?」
カインも恐縮しきりといった体で、冷や汗をかいている。
「いやぁ…、あの方がおっしゃるには、『神経衰弱なんて誰でも知ってるゲームだ。ルール説明なんて、部屋に入ってからで十分だろう』と笑うばかりで」
ゲームルールは部屋に入ってからの開示か。
これほどの秘密主義とは……
「各陣営とも戦々恐々。まさに五里霧中といったところです」
(……なるほど)
これではどの陣営も事前の対策は取れない。
これはアルベルトにとってはむしろ好都合だ。
熟練のギャンブラーが完全無手の状態でテーブルについてくれる。
また、この秘密主義から見えてくるモノもある。
(事前に知られれば、それだけ対策を練られるということか……)
紙片をテーブルに置き、コーヒーをすする。
エリシアとルナが心配げにアルベルトに聞いてくる。
「……ルールがわからないとなると、どうするつもりだ?」
「これでは練習も打ち合わせもできません。
事前対策なしではさすがに……」
「いえ、それは相手も同じですよ。
事前対策も不要です。ルールがわからない以上、何をやっても的外れになる可能性がある。
このままゆっくり待ちましょう。
観覧が2名までですが、どうされます?」
「もちろん行く!」
「私もお供します!」
カインを見ると、頷いて同意の意を示した。
アルベルトが立ち上がり、カインに席を勧めた。
「カイン様、では、私の相手の東のプレイヤーについて教えて下さい。
相手の事前対策は必須ですから」
カインは喜色を浮かべた。
少しは役に立てると感じたのだろう。
「どのような事を?」
「どんなタイプの方なのか、そのあたりですね」
カインは顎を手で撫でながら話を始めた。
「東の打ち手、名をギースといいます。
王都のギャンブラーのなかでもかなり攻撃的な打ち手で、流れに乗った時の爆発力には定評があります。
流れを引き寄せようとムリをする面もありますが、その剛腕振りは侮れません」
「ふぅ〜ん……なるほど……」
いろいろと聞いてみて、ある程度人物像を組み上げていく。
しばらくして、案内人がカインを呼びに来た。
「失礼、ゲームの準備が整いましたらお呼び致しますので、それまでにこちらでお待ち下さい」
❖ ❖
暫くして迎えが来て、アルベルトたち3人は会場に入った。
人が少ない。各陣営とも5〜6人くらいだ。
個室でのプレイだから当然か。
「皆さま、一旦こちらにお集まり下さい」
壇上に顔役サンと3人の男性と…。
もうひとり、仮面を付けた大男が立っている。
3人の男が各地域の顔役で…、あの仮面の大男は…例の女王の関係者…か?
「第1回戦ゲームの審判はこの仮面の紳士にお願い致します。
尚、サブとして、私カインがゲーム進行のお手伝いを致します。
それでは、時間となりましたので、東陣営、南陣営のプレイヤーと観覧者は別室にご移動いただきます」
❖ ❖
個室には大きなテーブル。伏せられたカードが一面に置かれ、向かい合う形でイスがふたつ。
少し後ろに観覧者スペースがある。
皆がイスに着くと、仮面の審判が紙をカインに手渡した。
「それではゲームルールをお配りしますので、熟読願います。3分後に試合開始です」
そう言って紙を両方に配る。
ルールはこう記載されていた。
〈直対神経衰弱ルール〉
①使用カード 52枚
②カードをめくり、数字が一致すれば
ペア成立
③ペアの数字を得点としてカウントする
尚、エースは1とカウントする
④プレイヤーは1枚目を場に晒す
次に2枚目を晒さず自分だけで確認する
ペア成立の際は晒して自陣に置く
外れた場合はそのまま伏せ、場に戻す
⑤ペアが成立した場合は、手番継続。
成立しなかった場合、手番は相手に移る
⑥勝敗が確定するか、場のカードが
なくなった時点で終了する
※当該ゲームは1回限り、再戦は認めない
(……なるほど、こういうゲームか……)
変形部分は③と④。
そこだけ注目すればーー
勝ちへの盤面が組み上げられる。
3分経った。
カインが2枚のカードを場に置き、宣言する。
「時間です。先攻後攻をお決めいただきます。
カードをお引き下さい。数字の大きい方が決定権者となります」
「お先にどうぞ」
アルベルトが東のギースに勧める。
ギースは少し面食らったような顔をしつつも、ふんっ、と荒い鼻息をひとつしてカードをめくった。
ギース3、アルベルト10。
「では、私は後攻で」
審判が一歩前に出た。
途端に場が一瞬で緊張する。
審判が無言で手を振り下ろした。
ゲームスタートだ。




