見えないからこそ
ある日の帰り道。いつもは四葉やひなと帰るのが常なのだが、あの二人は業後補修と呼ばれる、主に大学進学などを目指す人が参加するものに参加はしていない。なのであの二人は先に帰ったらしい。私は今咲ちゃんと一緒に歩いていた。咲ちゃんは進学希望者で、私とおんなじだった。さらに、咲は高校の最寄り駅の近くに家があるのだ。駅が近いのは羨ましいことだ。
私と咲は駅まで歩いていた。咲は横で自転車を引きながら。私と咲が一緒に帰るとき、大体深い話をするのが鉄板だった。何やら今日も深い話が始まりそうな予感がしていた。
「ねー咲ちゃん、私今、ちょっと化粧とか頑張ってるんだけど、今の顔、変じゃないかなぁ、慣れてなくってさ化粧すんの」
「え?全然、良い感じだと思うわよ!」
咲は顔を変えずにニコニコしながら答えてくれる。
「ねぇ、最近私も顔のこと気にしてるんだよね、肌荒れちゃってるし。変じゃないかしら、結都ちゃん」
私は咲の顔を見た。私より肌はきれいで、目がぱっちり二重なのが羨ましい。私の眼は結構腫れぼったく、重い目に見えることがよくある。
「咲ちゃん全然いい顔してるわよ!目がぱっちりで羨ましいわ~」
咲は嬉しそうだ。
「目ね、親にも言われるの。ぱっちりだよねって。でも肌が結構凸凹なんだよ~。気になってはいるけどお金があるわけじゃないから、中々ねぇ~向き合える時間がなくってさ」
それは間違いない。咲は吹奏楽部の中でも副部長を務め、日々練習に励んで賞をもらうことがあるほどの実力者なのだ。そんな状況でなお、他の部分にも気を配っているあたり、本当に頭が上がらない。
「お金な、顔とかのこと気にしだすと、歯止め効かなくなりそうよねぇ~。顔って一生ものだから、自分の顔のことって気づいたら過度に気にしてたりするものよね、あるあるだ」
二人はゆっくり歩きながら穏やかに話していた。四葉やひなと帰るとなるとこうもいかない。大体カオス化するからだ。
「顔かぁ~。でも不思議じゃない?自分の顔はすっごい気にするじゃん?でも、他人の顔見ても、『え?別に気にならないしいい顔だよ』ってなることがほとんどよね」
咲は本当にすごい。真理を見透かしているようだ。本当にそうで、自分は気にしていても、周りから見たら別にそんな気にすることでもない、といったことを言われることはよくある。私は咲の言葉に心から共感しながら続ける。
「ほんとにそう。それ。私から見ても咲ちゃんの顔は普通だし、その逆だってそうだったものね」
私の声は少し大きくなっていた。興奮していたのだろう。そして咲はさらっとすごいことを言った。一気に深い哲学の海へダイブした。
「あれかな、やっぱり自分では自分の顔を見ることはできないからかな。鏡がないと絶対見えないじゃん?見えないからこそこんなに気にしちゃうのかも」
「……マジ、咲ちゃん?補修終わりによくそんな哲学……天才?天才でしょ?」
「えっ、なんとなくそう思っただけで……。」
咲は謙虚な受け答えだが、顔がどうみても嬉しそうだ。私も何故か嬉しそうだ。
「なるほどな、見えないからこそ、か。顔に限らない話だろうな。将来だって見えないから気にするわけで。自分の性格とかもそうだろう。自分でわからないから他人を通して自分を磨く。これまた面白いものを見たな、咲ちゃん、ちょっと家帰る前にさ、ジュース奢らせてくれないか?」
「えっ!?急!?い、いいの?」
「私がそうしたいの。それに最近咲ちゃん部活やら補修やら、きっと疲れてただろうしさ。よっし後ちょっとで駅だ。そこでジュース買お!」
「うん!やったぁありがとう結都ちゃん!いつか絶対お礼するから!」
二人で帰るときあるあるなのだが、深い話をした後に、なぜか急に女子高生の日常に戻ることが多いのだ。異世界を知った後のサイダーはきっとおいしいのだろう。二人は足どり軽く、駅へと歩いて行った。
ご覧いただきありがとうございます。今回はカオスからは脱却した,深い異世界を紹介しました。見えないからこそ,気にする。きっと日常の中でもそういった経験はあると思います。さすが咲,と言ったところです。そして結都の風の吹き回しには中々驚かされますね。皆さんも何か一つはコンプレックスは持っていることでしょう。でもそれは,外から見てみると意外気にならないものかもしれませんよ。暢気に生きましょう!それでは本日もよい一日を!




