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鉄火、錆を削ぐ  作者: 津山 みかり
第一部
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28/32

28.勝利の方程式

6月14日(日)10時から1時間ごとに一気更新!

第一部完結までぜひ見届けてください。


 宇野線から見える景色は今日もどこまでものどかだった。俺と竹原さんは瀬戸内市を目指している。今日は世羅さんと最終の打ち合わせと出店場所の下見である。十月初旬、まだ日の日差しは強いが、次第に秋を感じる日も多くなってきた。


 いつも通り宇野駅で列車に乗り込み岡山駅まで行き、その後は赤穂線に乗り換える。

瀬戸内市役所は赤穂線の邑久(おく)駅からほど近く、地域振興課もそこにある。しかし、今日は直接会場となる邑久スポーツ公園の下見も兼ねているので邑久駅からタクシーで向かうという行程だ。

「じゃあ、千円で。はい、ありがとうございます。領収書お願いします」

 タクシーを降りる際に百八十円の釣銭と領収書を俺はもらい、使い古した財布に丁寧に入れる。

 このタクシー代と電車賃は申請すれば経費として認めてもらえるらしい。塵も積もれば何とやらだ。きっちりと領収書をもらって世羅さんに請求しよう。

「おぉ、なかなか広いところやのお。でも、こんな場所でできるんかのぉ」

「ここ球場もあるみたいですよ。で、世羅さんは……あ、もう来てるみたいですね。あれかな」

「おお、元気よぉ手振ってからに」

 今回俺も経営の健全性を担保するために、助っ人兼従業員としてこのB級グルメ祭に参加することにしたのだ。熊野さんからは「そろいもそろって物好きな連中じゃなあ、好きにせまぁ」と呆れられたが、致し方あるまい。そのうえで、熊野金物店のほうにも出なくていいことにしてもらった。もちろん、無給休暇であるが。

 細腕を振りながら世羅さんは小走りに俺と竹原さんの元へやってくる。

「竹原さん、福山さん、おはようございます。お待ちしておりました」

 世羅さんは前回の私服とは異なり、カジュアル目なジャケットとパンツスタイルだ。今日はメガネをかけていない。

「今日は最終の打ち合わせと出店場所の確認になりますので、先に竹原さんの出店場所の説明から致しますね。こちらです、どうぞ」

 走ってきた方向を振り返り、案内してくれる。

「なかなか広い場所ですね、合計何店舗ぐらい出店するんですか?」

 純然たる興味から俺は聞いてみる。

「そうですね、今回は市外からのゲスト出店として十五店舗。市内からの店舗が十五店舗で合計三十店舗の予定ですね」

「三十店舗かあ、それってわりと多いんですかね?」

「うーん、どうなんでしょうか。でも、おおむね毎年三十程度の店舗になりますね。店舗の最低限必要なスペースや人の流動も考えると、それくらいが我々のできる最大店舗といったところでしょうか」

「三十店舗ですか、ちなみにレイアウトはあらかた決まってましたよね。だいたいどのあたりですか?」

 世羅さんは「あつまれ!せとうちB級グルメ二〇二四!」とプリントされたベージュのトートバッグからタブレットと四つ折りにされた紙のマップを申し訳なさそうに取り出す。

「すみません……私は若竹を一番人が集まるところに出したかったんですけど、やっぱり市内のお店や県からのオファーがあった店舗が強くて……その……」

 紙のマップに目をやるとどの出入口から最も遠く、一番端っこのほうだ。しかし、これは逆に考えようでは勝負のやりがいがあるわけだ。皆やはり津山ホルモン焼きうどん、日生のかきおこ、えびめし、デミカツ丼といったヘビー級に興味がむく。そして口直しに白桃やマスカットを使ったスイーツで口直しをする流れが想定できる。

「ん? 俺らはこれくらい端っこのほうが性におうとるけえ、ええんじゃ。なあ、勝ちゃん」

「え? 何か言いましたか?」

 頭の中でまるでホームセンターの陳列棚をどの並びにするか。その商品をどう目立たせるかを考えていた俺は竹原さんの言葉に気づいていなかった。

「まあ、勝ちゃんが勝利の方程式を考えてくる。俺はンまい飯をこしらえるだけやけえ、気にせんでええんじゃよ、世羅ちゃんは」

「確かに。福山さんは経営について知見がありますし、安心できますね。出品メニューは今日で最終確認になりますけど、一応ある程度は融通がききますので」

 出品メニュー。おおむねこういった出し物では主力やまさにB級グルメ出すのが一般的であり、俺もその考えには同意している。そのあとにサイドメニューとして二品から三品程度でやるのが妥当なところだ。

 若竹はどうだ?基本的には小料理屋であり、今回出店するほかの店舗と比べると感覚的には居酒屋に最も近い。そして、B級グルメと言えば一品は既に俺の頭の中でも竹原さんの頭の中でも決まっていた。

 岡山らしく、そしてこういった場所で食べやすいもの。ままかりの酢漬けだ。あえて、これに限っては立っても食べられるように工夫することにした。そう、唐揚げのカップのような容器にいれることにしたのだ。

 長い竹串でさしてまさしく唐揚げのように。

 どうしても酢漬けという食べ物の特性上、水分がしたたる。であれば、揚げ物のように紙で包むわけにもいかない。となればこの方法がベターだ。最初は立ち飲み居酒屋のスタイルで皿だけでの提供を考えていたが、食べ歩きも意識する必要がある。

 そして、あとは若竹オリジナルのジャガイモと桜エビのかき揚げ、ピーナッツ、枝豆、豚の生姜焼きに決め、主に地酒で勝負することになったのだ。

 ピーナッツと枝豆はスピードメニューで立ち飲みメインにしてくれる方や一息つきたい向けであり、味が安定している。そして、少ししっかり飲み食いしたい方にはジャガイモと桜エビのかき揚げ、豚の生姜焼き。食べ歩きもでき、B級グルメとしてままかりの酢漬け。

 悪くないラインナップのはずだ。

「若竹の出店場所はこの辺りです。と言ってもまだまだ何も準備してないので、ただの芝生広場なんですけどね。再来週あたりには区画をロープで目印付けていく予定で、開催一週間前にはテントも立てますので」

「まだ何にもないけえわからんけえ、人がよおさん来るんじゃろうなあ」

「結構な人出みたいですよ、売り上げも大事ですけど竹原さんも無理しないでくださいよ。今回は俺も価格には口出しさせてもらいますから」

「おぉ、今日の勝ちゃんは凛々しいのぉ、かかかか」

 腕組みしながら全体を見渡し、竹原さんは背筋でピンと伸ばしていた。

 案内された場所は確かに芝の緑だけが映えている。今度のイベントのためだろう。芝生は短く切り揃えられ、草を刈ったときの青い匂いが少し残っていた。

「では、あらためて事務所の方へご案内しますね。何日か前から乗り込んで準備できますので。私もできる範囲でお手伝いしますので、改めてよろしくお願いします」

 イベント会場の場所も確認し、小さな事務所で最終の意思疎通を行う。竹原さんは常に腕組し難しそうな顔をしながらも世羅さんからの言葉を俺が通訳していくと、理解してくれたようで納得の表情を浮かべていた。

 さぁ、これからだ。本格的に俺も準備に取り掛かろう。

岡山のことを色々考えつつ書いていますが、岡山ってフルーツもたくさんあるんですよね。昔、白桃ゼリーを岡山駅で購入したのですが、値段に気づかず「これください」と言うと3個入りで3000円しました。さすがに「やめときます」とは言えずに購入しました。とても美味しかったのですが、値段は桐箱に入っていたから高かったのでは?と思いました。


※自転車の魔法使いもこれまで通り、毎週金曜日更新しています!あわせてごらんください!

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