24.醒めぬ酔い
6月14日(日)10時から1時間ごとに一気更新!
第一部完結までぜひ見届けてください。
朝から頭痛がひどい、太陽の光さえ億劫だ。昨日は飲みすぎた。プロの競輪選手とサシで飲むなんて相当なラッキーだ。仮に気づいたとしても声をかけないのがマナーであるが、やはり自分が全財産を賭けた男である。興味が湧かない訳がない。そして、いつの間にかお互いの連絡先まで交換していた。ほとんど記憶にないが、改めて酒の力は恐ろしい。
笠岡誠一は名前の通り実直な男だった。酩酊するまでの記憶であるが、何事にも生真面目な姿勢、自分に対する厳しさ、向上心、競輪への愛、酔うと笑い上戸になるという人柄の良さ。俺よりも年下であるが、見習うべきところばかりだった。
幸い、今日の熊野金物店はいつも以上に開店休業状態だ。俺は二日酔いに悩まされつつ、日陰で店先に吹く海風で酔いを醒ましている。
「今日はほんまに誰もけえへんのお」
熊野さんが店の奥から出てきて俺の頭をつかみ、前後に揺さぶる。気持ち悪い。
「く、熊野さん……頭、痛いです……気持ち悪い」
「わかっとるからやっとんじゃ。飲みすぎじゃ。昼飯も食わんと水ばっかりじゃ、なおおえんぞ」
「す、すみません……」
見かねた様子で熊野さんは俺の背中をたたく。
「もう今日はええわ。帰って寝とれ、客が来ても相手できまあ」
「い、いえ。さすがに大丈夫ですよ」
「ええけん。明日は君が御用聞きの日やけん、今日はあがってええぞ。はやりのフレックス言うやつじゃ」
「わ、分かりました。すみません」
昼過ぎに俺は熊野金物店を出て、小料理若竹を目指す。朝起きた時よりもずいぶんとましにはなったが、金づちで軽くたたかれるような痛みが引かない。
瀬戸内海からの風に吹かれ、銀杏の葉が踊っている。いつもの通り道はぽつり、ぽつりと落ちた銀杏の実が転がっており、異様な匂いを醸し出しはじめていた。二日酔いには辛い往復であった。
なんとか若竹にたどり着き、引き戸に手をかけたとき店の奥から人の声が聞こえた。一人は竹原さんでもう一人は知らない女性の声だった。誰だろう。誰でもいいか、とにかく横になって少し休みたい。
「ただいま戻りました……」
引き戸を開き、店に入ると竹原さんと若い女性がテーブル席で対面していた。女性は紺色のセットアップスーツに身を包み、何かの書類を竹原さんの前に並べていた。生命保険か何かのセールスか。
「勝ちゃんお帰り。なんじゃ、二日酔いで順二に追い出されたか?」
「そんなところです……昼からすみません、ちょっと休みます」
「かかか、よう休みや」
その横を通り過ぎようとしたときに女性と目が合う。眼鏡をかけているが、快活そうな女性だ。俺には関係ないが。
「こんにちは!」
「こんにちは……」
元気よく女性は挨拶するが、ほとんど無視するような挨拶で俺は二階のあてがわれている自室へと戻った。
階下からはまだ何か声が聞こえるが、それはただのノイズだ。湿った布団で深呼吸して俺はいつの間にか眠りに落ちていた。
気が付いた時には夕方になっていた。頭痛もなくなり、すっきりと目覚めることができた。早めの帰宅を許可してくれた熊野さんに感謝しなければならない。
店舗に下りると竹原さんが開店準備に追われていた。俺もそれを手伝いはじめる。
「お、もうだいぶとようなったか?」
「ええ、おかげ様で。すみません、ご迷惑をおかけして」
「何も迷惑なんてかかっとらんけえ、気にせんでええよ」
カウンターを布巾で拭きながら俺は日中の女性のことについて聞いてみた。
「さっきの昼過ぎにいた女の人って保険か何かの方ですか?」
「ん。まあ、似たようなもんじゃの」
テーブルの上にはさっきの資料らしきものは見当たらなかった。竹原さんも若くはない。もしかしたらこれからのことを見据えて考えることも多いのだろう。
俺の立場で聞くことはできないが、何か少しでも力になれればいいのだが。換気のため開け放たれていた窓を閉める。遠くで雷の音が聞こえた、また夕立がくるかもしれない。
二日酔いになるととてもしんどいですよね。私も社会人になりたての頃に二日酔いになりました。その時、私は自分が下戸であることを知り、それ以来全くと言っていいほど飲んでいません。でも、飲み会の空気やご飯が美味しいのでそういった場に行くこと自体は苦ではありません。
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