16.倉敷の街へ(後編)
6月14日(日)10時から1時間ごとに一気更新!
第一部完結までぜひ見届けてください。
倉敷駅に降り立ち、改札を出る。
ようこそ、白壁のまち、倉敷へ。という垂れ幕を前に財布の中身を見る。五千円。高校生の財布の中身だが、今の俺にとっては大金だ。いつもならスーパーの半額菓子パンで昼食をすますところだが、今日は多少贅沢しようと思ったのだ。
しかし、倉敷で美味しいものと言えば何なのか俺は知らない。考え巡らせてみせるものの、特に俺は浮かばずスマホに頼る。現代人の悲しき習性だ。
倉敷、ランチ、おすすめ。
出るわ、出るわ。デミカツ丼に、ぶっかけうどん、この前食べたえびめしまである。しかし、探せば探すほど俺はドツボにはまり逆に何がおススメなのか分からなくなった。
結局俺は駅前のアリオ倉敷にあったマクドナルドに落ち着いた。
チーズバーガーのセットをホットコーヒーで注文する。ゴールデンウィーク終盤ということもあってか客層は多岐にわたり、家族連れ、カップル、孫を連れていると思われる老夫婦でこのカオスな空間は出来上がっていた。
辛うじて窓際の席を確保しジャンクフードを一人頬張る。久しぶりに食べるこのジャンキーな味も悪くない。熊野さんも倉敷のアウトレットと言っていたのでもしかしたらどこかで出会うかもしれない。
ポテトを片手に俺はスマホで今更ながら岡山のグルメ事情について調べ出す。観光マップの斜め読みをする気分だ。
倉敷美観地区。児島のデニム。瀬戸大橋の絶景。金田一耕助生誕の地。こうやって見るとやはり観光地として推していることがよくわかる。しかし、いかんせん俺には遊ぶ金がない。一番興味があったのは児島のデニムだが、倉敷駅からわりかし離れているようで金欠の俺には行って帰るだけでハードな選択だ。となると、倉敷駅からほど近い美観地区に行くのが妥当だろう。
なんとも消極的な選択方法で俺は美観地区に行くことを決めた。
マクドナルドでの食事を終え、来た道を引き返し倉敷駅の南口に出る。天満屋というデパートを左手に見て、スマホの地図を片手に倉敷中央通りと記された道をひたすら南下する。
こんな街中に美観地区と呼ばれる場所があるのか?いささか疑問だ。そう思っていたのもつかの間、俺の想定はいい意味で裏切られる。十五分ほど歩いた交差点には美観地区入口とあり、景観はグッと変わっていく。
そのまま景色が変わる方向へと足を進めると白壁の家が点在し、観光地らしい土産物屋も現れた。一通り散策してみることにした。
川沿いには柳が生えており、まるで時代劇のような空気感をかもしているが、いかんせんゴールデンウィークということもあってかカップルや観光客が多い。一言でいうなら街並みと雰囲気とちぐはぐなのだ。もちろん、俺自身もそのうちの一人だからちぐはぐに加担しているわけであるが。
三十分ほどぶらぶらして俺は足早に引き上げることにした。確かに綺麗な街並みであったことは間違いないが、男一人の観光客には少々場違い感もぬぐえず早々に離脱してしまった。俺が写真や芸術に深い造詣があったのなら、もっと違う視点で楽しめたのかもしれないが、今はただただのどかでいい景色だな。としか思えなかった。中学生の頃に社会科見学で行った金沢のひがし茶屋町を思い出す。
美観地区の入り口で缶コーヒーを買い、ふう。と一息ついた。五月の休暇らしい喧騒は外国人の声と自動車が入り混じっている。空は時折陰りながらも、梅雨入り前の太陽光がめいっぱい地上に降り注ぐ。
プルトップを開け、コーヒーを飲む。今日二杯目のコーヒーは冷たく歩いていた体を休めるのにちょうどいい。
倉敷中央通りを歩いて倉敷駅に戻ろうとしたとき、一軒の古物商に目が留まった。なんてことはなかったのだが、ガラスケースの奥にたたずむ大きな「王将」と書かれた将棋の駒を見て俺は思い出す。
そうだ。倉敷と言えば、倉敷将棋センターがあったではないか。一度竹原さんに連れていってほしいと頼んだ場所だ。ここまで来たのだから場所ぐらいちょっと見てみようか。
俺はそう思い信号待ちのさ中、再びスマホの地図アプリを開き倉敷将棋センターを検索する。
児島のデニム吊りとは異なり、美観地区同様こちらも十分に歩いて行ける距離だ。地図アプリに従い、俺は歩を進める。
倉敷駅の方角を少し東にそれて、一棟の雑居ビルにたどり着く。文字通り雑居であり、飲み屋、オフィス、美容室、そして目的倉敷将棋センターが居座っていた。
ただ、竹原さんが教えてくれた通りこの連休中は休業と掲げられており、ビルそのものから人の気配がしなかった。そのビルをスマホでパシャリと写真を撮る。特段意味のある行為ではないが、今日はこれで満足だ。バッテリーの弱ったスマホをポケットに押し込み、俺は帰路についた。
後に竹原さんの牛若としての片鱗をここで見ることになるとは俺は知る由もなかった。
美観地区にはバイクで行きました。素敵なところで、写真も趣味でしたので白壁に青空が映えてよかったですが、いかんせん腕がよくないのでいい写真は撮れなかったです。
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