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鉄火、錆を削ぐ  作者: 津山 みかり
第一部
15/32

15.倉敷の街へ(前編)

6月14日(日)10時から1時間ごとに一気更新!

第一部完結までぜひ見届けてください。

 午前九時過ぎに宇野駅で倉敷駅までの切符を買う。

宇野駅と刻印されたオレンジ色の小さな切符は千円しないほどの価格であるが、今の俺にとってはそれなりの大金だ。

 

 黄色い無骨な車両が瀬戸の花嫁とともにホームにやってきた。妙に古い楽曲であるが、俺の母がよく口ずさんでいたからすっと耳に入る。玉野競輪場に来たときもこれが流れていたのかもしれないが、あのときはそんなものを気にする余裕など微塵もなかったのであろう。

 列車に乗り込み、ロングシートに座る。数名の客がシートの端のほうに座り、スマホの画面に目を落としたり、目をつむって休んだりしている。

 俺は車窓から外を眺める。車内から見える通りはよく熊野さんと軽トラで走る道だ。

なぜだかふと母との記憶が蘇る。こんな風に昔はよく電車に乗っていた気がする。母の膝の上に座り、過行く電車や車を数えては自慢げに母の顔を見上げていた。

 母はよく笑う人だった。何があっても笑っていて、「大したことじゃない」と言い放つような大雑把な性格だった。

 

 俺が事業を引き継いだ時も、入院していたときも、笑って何事も包み込んでくれていた。そんな母はもうこの世にはいない。最期の最期まで笑って旅立っていった。

 車両はいつの間にか動き出していた。なぜ今こんなことを思い出したのかは分からない。もしかするとこの手に握った切符がそれを思い出させてくれたのかもしれない。

 最近はICカードで改札機にかざして通ることが増えたが、俺にとってこの小さな切符は懐かしい記憶へと回帰するための乗車券なのかもしれない。

 そんな耽美な妄想にふけつつ、電車は北上していく。

 最初に来た時には気づかなかったが、この宇野線は思ったよりも海沿いを走らずにどちらかと言えばのどかな田園風景が広がっていた。ますます北陸の田舎を思い出していた。

 一か月前は昔のことなど考える余裕すらなかった。自己破産の手続きを終え、両親の墓前に何もかもを失ったことを伝え、そして最後に手にしていた数万円で流れ流れてこの地までやってきた。

 偶然ではあったが、この地に流されるまま来たのも何かの縁なのだろう。運命などと言う言葉を使う訳ではないが、ここで俺は拾われてなんとか持ち直すことができた。これが運命というやつなのかもしれない。 

 竹原さんと熊野さんに出会って俺は再び立ち上がることができたのだ。まだまだ不安定な日々だが、なんとか成り立ってきているこの日常は紛れもない再生の道しるべなのだ。

倉敷駅は岡山駅から約15分くらいでいけます。よく私はアウトレットでぶらぶらしていました。

懐かしいなあ。前後編となりますので同時に掲載いたします。


※自転車の魔法使いもこれまで通り、毎週金曜日更新しています!あわせてごらんください!


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