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鉄火、錆を削ぐ  作者: 津山 みかり
第一部
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12/32

12.真剣(その1)

6月14日(日)10時から1時間ごとに一気更新!

第一部完結までぜひ見届けてください。

 昼食後、眠い目を必死で我慢しながら俺は熊野さんの話に耳を傾けていたが、限界も近かった。

ラジオのご機嫌なDJの声も、午後に入り強くなった雨脚も俺の睡魔を引き戻すほどの力がなくいよいよ安眠しようとしたときだった。

 半分寝ながらの会話であったが、驚いた熊野さんが声を大きくした。

「なんや、一平から何も聞いとらんのか」

 割と大きめの声に俺は反応する。よかった、落ちなかった。

 気付くと軽トラは軽快にスピードを上げて玉野の町を駆け抜ける。サスが固いせいか気づくとお尻がとても痛い。熊野さんはこれで腰を痛めたのではないか?

「な、何もって何ですか?」

「一平が真剣を辞めた理由や」

 スピードを緩めることなく交差点を左折する。車通りや人通りが少ないとこんな荒い運転になるのか、はたまたこれがこの人の特性か。

「真剣?」

「賭け将棋じゃ、賭け将棋」

 真剣。賭け将棋のことだったのか。

 でも、そんな世界を身近に聞くのは初めてだ。大学の頃、学友とよく麻雀で遊んだことはあるが、そんな生ぬるい世界ではないようだ。

「真剣師やったころのアイツは文字通りでたらめな強さやったんじゃ。前も言うた通り、この辺りじゃ負け知らずでな」

 この辺りじゃ負け知らず。まるでガキ大将の話を聞いているようだが、実際に若竹に飾ってある写真には賞状を手にした竹原さんと大きなトロフィーを持った熊野さんとが並んでいた。その実力を疑う余地はない。

「そんなに強かったんですね。でも、それならプロとかになれたんじゃないんですか?」

「あいつも確かにプロを目指しよった。やけどなあ、壁ってのはでーれー高かったみたいじゃ」

「壁?」

 何のことだろうか。俺も多少なりとも将棋を指せるし、なんとなく有名どころの棋士くらいは分かるが、当時プロの誰かと戦ってその強さがわかったということなのだろうか。

「ああ、なんじゃ?キフ?言うんか?それを見て、あいつは怖気づきよったんじゃ」

 棋譜。いわゆる本将棋のゲーム展開を表した記録のことだ。指し始めから投了するまでのことで、俺もそこまで詳しくはないがスコアブックのような役割ももっている。

「誰と誰の棋譜だったんですか?」

 軽トラはブンブンとうなりながら、最後の目的地を目指す。インパネの時計は夕方四時を指していた。

「ん~。ワシもあんまりわかっとらんが、大池か小森か。なんかそんな奴のやったらしい。なんでも新宿の殺し屋っちゅうあだ名で呼ばれとったみたいや」

 新宿の殺し屋。物騒な異名である。対する竹原さんは何か異名があったのか。それにしたって新宿の殺し屋。誰かは知らないが、相当な腕前なのだろう。

「その人ってやっぱりプロだったんですか?」

「いや、知らん。けど、プロ崩れみたいな感じでアマでは最強みたいな感じやったらしいし、真剣でもべら棒な強さやったらしい」

 地方では負け知らずの竹原さんを棋譜だけで圧倒する強さ。中国地方の覇者が寄り付くことすらできない新宿の殺し屋。

「そいつのキフいうのを見て、あいつはもう足洗うっていうたんじゃ。まあそれに、真剣の世界もなかなかやり辛くなったみたいでな。まあ、将棋なんぞを賭け事に使うな。いうお触れでも出たんとちゃうんかな。そっからはあいつも俺も真面目に働いたよ」

「それで若竹を?」

 砂利の悪路に入り、がっこんと硬いサスが俺を弾ませる。もう目的地は目前のようだ。 「いや、あいつもしばらく修行してたからの。さあ、最後のあいさつじゃ。ここは強敵やけん、気合いれていくぞ」

 

 強敵。まるでさっきの話の新宿の殺し屋みたいな感じなのだろうか。俺は若干、身構えて、その強敵が住まう平屋に挑むのであった。

同級生にプロ棋士がいます。9段だそうですが、向こうはこちらのことをさすがに覚えていないと思いますが。

いまさっき「ぷろきし」と入力するとプロキシと一発で変換されました。誰もプロキシサーバーの話はしてないんですけどね…

※自転車の魔法使いもこれまで通り、毎週金曜日更新しています!あわせてごらんください!

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