第1話 「バリ喋るやん」
現在、私の職場では業務の最適化が進められている。
その一環として、唐突に導入されたのがGoogle Workspace(GWS)だった。
不慣れな年配者たちはシステム室へ質問を投げ続け、
人手不足のSEたちは、ついにこう言った。
「Geminiを導入してください。
今後わからないことがあれば、Geminiに聞いてください」
◇
「Geminiってナニ?
核磁気共鳴を測るやつしか知らんけど」
眼鏡の奥の小皺を深めながら、先輩Aが私に問う。
年配の専門家の言い分に、少し笑った。
「NMRじゃなくて、AIらしいですよ」
濃い青色の液体が入ったビーカーから、視線を外さず答える。
中で廻り続ける攪拌子を、ぼんやり眺めていた。
速さは問題ない。
この状態をあと1時間続けよう。
私は保護眼鏡を外し、手袋を脱いでAの隣へ腰掛けた。
「先輩は、アプリ入れたんですか?」
「いや……」
Aは一口コーヒーを啜ると、天井を眺める。
「そもそも……なに? AIって……」
その質問に、私は目を伏せた。
私も詳しくは知らない。
ただ、昨日観たバラエティ番組に、
ChatGPTというAIが出演していたことを思い出す。
とある芸人が、質問していた。
「次に売れる遊園地を設計してみて」
すると数秒も待たぬ間に、画面に文字がズラズラと並んだ。
かしこまりました。
こういったものはいかがでしょう?
超速ジェットコースター「デス・ドラゴン」
宣伝コピー:「人生で一番叫べ!!!」
特徴
・最初の落下が90度
・トンネル真っ暗
・写真撮影あり(絶叫顔)
・出口で写真販売。
さらに、SNSエリア「映えスポット」として、
巨大ドーナツオブジェに、
ピンクの電話ボックス、
羽の壁、あとは……
「とりあえず、
バリ喋るらしいです」
私の初めてのAIの印象だった。
Aは、ため息を吐く。
「ヤダねぇ……多分、私らより喋るんでしょ」
確かに。
流暢な話し口だった。
私たちは、取引先に自社製品を説明するのも苦労するのに。
私は白衣のポケットから、スマホを取り出した。
画面の片隅にある、
カラフルな四芒星のロゴマークを見つめる。
「AIか……」
おそらく今後、
使うことはないだろう。




