87.料理人、嫉妬する
『うっぷ……もう入らないゲコッ……』
『飲み込みすぎだぞ!』
『拙者、仲間のために頑張ったゲコッ!』
しばらく経って戻ってきた大福は丸々膨らんでいた。
白玉の話では、持ち運べるものは全て持ってきたらしい。
ただ、壁の中に埋まっているものもあり、掘ることもできないため、そのままにしてきたと。
同じ洞窟の温泉なのに、成分の含硫量が違うってことは、アダマンタイトも影響しているのかもしれない。
それを思うと、そのまま一部残しておいた方が正解のような気もする。
「じゃあ、ドワーフたちがいるところは向かうぞ」
『拙者についてくるゲコッ!』
大福は大きくなった体で転がりながら移動していく。
『ゲホッゲホッ……』
ただ、転がるたびに大福の口からアダマンタイトが吐き出されていた。
大福の体に入れられる量にも限度があるようだ。
俺はアダマンタイトを拾い、しばらく大福の様子をみる。
「もう歩けるようになったか?」
『だいぶ吐き出したゲコッ……』
気づいたら俺の腕にはアダマンタイトが大量に抱えられていた。
「アダマンタイトはまだあるのか?」
『これの数倍はあるゲコッ!』
どうやら魔宝石や魔鉱石に比べたら、量はあまり多くないようだ。
そんなにたくさんあっても、値崩れしたら意味がないからな。
「おっ、ドワーフたちがいたぞ!」
『おーい……クゥエエエエ!』
ゼルフと白玉はドワーフたちの元へ駆け出していく。
しかし、白玉に何かあったのか、叫び声に近い驚きの声が洞窟に響く。
俺は大福と顔を見合わせると、急いで白玉の元に向かった。
「俺がゴーレムになってるぞ……」
『オイラのふわふわボディがカチコチだぞ……』
驚くゼルフと項垂れる白玉の視線の先には、大きなゴーレム。
……いや、石像が置いてあった。
それもゼルフと白玉だけではなく、俺と大福の分まである。
「ははは、なんだこれ……」
『拙者、凛々しい顔をしているゲコッ』
凛々しい眉に彫り深い顔の石像たち。
顔に特徴がなかったからと嫌味を言われているような気分だ。
俺もどちらかと言えば、あっさりしている方だしな。
しかし、そう思ってるのは俺だけではなく、ゼルフたちも思っているだろう。
「勇者様と神の使徒様、この度この地に訪れた記念として石像にさせていただきました」
ドワーフたちは俺たちの存在に気づいたのか、跪いて頭を下げている。
「なあ、俺ってあんなにかっこいいのか?」
「いや、ゼルフはもっと凶悪な顔してるぞ」
「なっ!?」
キッチンカーについている鏡を見ているのに、石像の方が数倍は男前だった。
過去のゼルフってみんなから避けられるような見た目だからな。
そんな中、一人のドワーフの視線が俺へ向く。
それはドワンだった。
完全にドワーフ全員に俺たちの嘘がバレたようだ。
「そういうのはやめてくれ」
俺の言葉にドワーフたちは立ち上がる。
嘘をついているのに、そこまで頭を下げられたら居心地が悪いからな。
「そ、その金属は……」
「ん?」
ただ、ドワーフたちは俺の胸元に視線を送っていた。
俺に胸なんて……ああ、大福が吐き出したアダマンタイトのことか。
「ああ、これか?」
「これはアダマンタイトだ!」
『ガッチガチだぞ!』
ゼルフと白玉は胸を張ってドワーフたちに伝えた。
すると、ドワーフたちの顔色が変わる。
「アダマンタイトですぞ!?」
「なにぃっ!?」
「そんな量をどこで手に入れたんだ!?」
そりゃー、高価な鉱石が出てきたってなったら、話は別だからな。
ゾロゾロとドワーフたちが一斉に集まってきた。
どうやら本当に珍しい鉱石らしい。
それにあれだけ勇者様やら神の使徒様と言っていたのに、珍しい鉱石だとわかった途端、俺たちに興味を失っていた。
『拙者が運んできたゲコッ!』
足元にいる大福が胸を張る。
すると、ドワーフたちは大福へ尊敬の眼差しを向け囲んだ。
「なんと……」
「聖蛙様のお力でございますか……」
「ありがたや……」
『ゲコッ!?』
大福は慌てて俺の後ろへ隠れた。
まるで俺が讃えられているみたいで、背中がムズムズしてくる。
「くっ……ハルトだけせこい」
『オイラも人気になりたいぞ!』
あいつらはチヤホヤされたいだけだろう。
キッチンカーで旅している時も、俺ばかりいつもチヤホヤされているからな。
「そんなにすごいのか?」
「すごいなんてものじゃないぞ!」
ドワンが興奮気味に一歩前へ出る。
「アダマンタイトは伝説級の金属だ……です。大国ですら保有量を誇るほどの代物。それをこれほど大量に……」
周囲のドワーフたちも何度も頷いている。
やはり魔宝石や魔鉱石とは比較にならないほど価値が高いらしい。
それにしても、ドワンは俺たちが勇者と知って話しにくそうだ。
「へー」
「なっ、なんでそんなに反応が薄いんだ!?」
おっ、元のドワンに戻ったようだ。
せっかく仲良くなったドワーフの一人だから、よそよそしいのは困る。
それに俺としては金属より温泉の方が嬉しいから仕方ない。
「それなら、これで武器とか作れるのか?」
その瞬間、ドワーフたちの目の色が変わった。
「もちろんですぞ!」
「ぜひ作らせてください!」
「一生に一度あるかないかの機会です!」
今にも飛びかかってきそうな勢いに、俺は思わず後ずさる。
「わ、分かったから落ち着け」
これほど喜ぶなら頼んだ方がこの場から逃げられるだろう。
それにずっとキッチンカーの中で管理する方が怖いからな。
「なあ、誰が作るんだ?」
「本来なら長老級の鍛冶師が担当する案件ですぞ」
ドワーフたちは誰が作るのかを話し合っているようだが、俺はすでに決めている。
「ドワン、ゼルフの剣を頼んだぞ!」
「……わしが作るのか!?」
「ああ」
ドワンは戸惑っていたが、周囲のドワーフからの視線が痛そうだった。
ただ、これでドワンも酒が弱くても、一人前のドワーフとして認められるだろう。
「じゃあ、必要な分だけ使ってくれ」
「なんだって!?」
俺は腕の中のアダマンタイトをそのままドワンの腕に載せる。
正直大福の腹の中には数倍の量が残っているらしいからな。
ドワンは腕の中のアダマンタイトを見つめる。
その手はわずかに震えていた。
「こんな大仕事をわしなんかに……」
「残りは勝手に使ってくれ」
その言葉に、その場が静まり返った。
「……よろしいのですか?」
「むしろ世話になったのはこっちだからな。でも、ドワンに頼んでくれよ」
俺はドワンの肩を叩いてニヤリと笑う。
勇者とか神の使徒とか、騙すようなことになったからな。
俺が頭を掻きながら言うと、ドワンは再びその場で跪いて頭を下げた。
「勇者様、鍛冶師冥利に尽きる機会をいただき、感謝いたしますぞ!」
あれ……?
思ったよりも反応が違うぞ。
ここはドワンも喜んで無事に一件落着みたいな雰囲気になるはずだったんだけどな……。
「そういえば、別の場所にも温泉があったけど、あれも一緒に引いてこれるか?」
「勇者様のご意向すぐに対処します!」
「それで……アダマンタイトですが……」
ドワーフたちはチラチラと俺を見つめてくる。
ドワンもどこか困っている顔をしているしな。
「全てはドワンに任せたから、そっちで決めてくれ」
「ありがたきお言葉感謝します!」
それだけドワーフたちにとって、アダマンタイトを扱うことが名誉みたいなものなんだろう。
大福の腹の中に隠されたアダマンタイトはしばらく出せそうにないな。
「お前ら今すぐに作業に移るぞ!」
ドワーフたちは慌ただしくその場を去っていった。
「俺もチヤホヤされたいぜ」
『オイラは人間にしか好かれないぞ』
ゼルフと白玉はまだ羨ましそうに俺の方を見ていた。
「面倒なことになるだけだぞ。さあ、俺たちも戻ろうか」
俺たちもその場から立ち去ろうとしたタイミングで違和感を覚えた。
「……あれ?」
俺は足を止めて、ジーッと石像の奥を見つめる。
「ハルト、どうしたんだ?」
『本物のオイラの方がカッコよくて美味しそうだぞ!』
白玉は食べられる気満々なんだろうか。
ただ、俺は石像の後ろにある温泉の水面が高くなっているような気がした。
まるで数日後に洞窟入り口まで満たされる温泉が、明日には流れてきそうな勢いだ。
「湯が増えてないか?」
『本当だゲコッ』
大福も不思議そうに温泉を見つめる。
縁に掘った水路にも少しずつ温泉が流れているから、湯の量が明らかに増えているだろう。
「大福ってかなり温泉を吸い込んでいたんだな」
『拙者を褒めても今はゲコッ……アダマンタイトしか出せないぞ?』
大福は口からアダマンタイトを吐き出した。
別に褒めているわけでもないけどな。
ただ、大福がこの温泉にいたことで、本当に温泉が洞窟から溢れ出ていかないように守っていたのかもしれない。
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