86.料理人、大福を探す
「なあ、ここの温泉はさっきと全然違うぞ?」
「温度が違うとだいぶ印象が異なるからな」
大福がいた硫黄の温泉よりは、色が澄んでおり、肌馴染みがいいのもケイ素が多い温泉の特徴だ。
どこかとろみを感じ、シルクのように肌に湯がまとわりつく。
『オイラはこれぐらいの方がいいぞ!』
「温度的にもちょうどいいかもな」
『クゥエ?』
白玉は首を傾げていた。
ゴーレムが守っていた温泉は、見た目通り温度が低めだった。
湯気もあまり出ていないのもあったが、体感的には35℃あたりだろう。
まるで体に染み込むように、疲れが取れていく。
『拙者、ツルツルゲコッ!』
『大福は元からツルツルだぞ!』
『ほらツルツルしてるゲコッ!』
温泉をスポンジのように吸収した大福は温泉の外で滑るように転がっていた。
確かに凸凹している地面なのに、ものともしていない。
「いい温泉なのはわかったが、入り過ぎじゃないか?」
ゼルフは呆れたように肩を竦める。
「ゼルフくん、君は本当に温泉の良さをわかってないなぁ。温泉は一つだけじゃなくて、いろんな湯に入るのが楽しいんだよ」
「何が違うんだ? どれも湯だろ」
ゼルフはそこまで温泉に興味がないのだろう。
興味があるのはきっと温泉後の牛乳の一気飲みだな。
「さっき入った硫黄の温泉は〝温まる〟感じが強かっただろ? でも、こっちは体がゆっくりほぐれていく感じがするだろ」
俺は湯を掬いながら説明する。
「ぬぬぬ……」
だけど、ゼルフには伝わっていないような気がする。
「硫黄泉は匂いも強いし、いかにも温泉って感じだったけど、こっちは肌に馴染むというか……長く入っていたくなる」
「ふむ……それはわからんでもないが……」
ゼルフは自分の腕を撫でる。
さっきよりも肌が滑らかになっていることに気づいたのか、少しだけ目を細めた。
「成分や温度が違うと、全く効果が変わる。だから温泉街とかだと、湯巡りって文化があるんだよ」
「そんな場所もあるのか」
ゼルフは知らない土地を思い浮かべて楽しそうにしていた。
俺にもこの世界に湯巡り文化があるかはわからないぞ。
だけど、キッチンカーで商売をしながら、全国各地の温泉を巡るのもいいかもしれない。
『オイラ、なんか元気になってきたぞ!』
白玉は湯の中でぷかぷか浮かびながら、気持ちよさそうに羽を広げた。
「温泉は元気に……んっ? ひょっとして、本当に体調がよくなっているとか?」
俺も肩を回すとやけに体が軽くなったように感じる。
硫黄の温泉は傷が治りやすくなっているから、こっちの温泉にも何かしら効果があるのかもしれない。
コールダックやカエルが話すような世界だ。
温泉にすごい効果があってもおかしくない。
「向こうの温泉を混ぜたら、体の傷も治って元気になる……まるでエルフの湯だな」
「エルフの湯?」
「ああ、長寿で有名な種族だな」
どうやら長寿で有名な人種がいるらしい。
社畜だった身からすると、そんな温泉があれば毎日通うだろうな。
「それならこっちも繋げてもらおうか!」
せっかくなら色んな温泉があった方がいい。
それに温度も低めだから、混ぜたら温度調整もしやすそうだ。
早速、ドワーフたちに伝えるために、俺らは温泉から出る。
だが、白玉は周囲をキョロキョロと見回して、何かを探していた。
「白玉、どうしたんだ?」
『大福がいないぞ!』
さっきまでぷかぷかと浮いていたのに、どこに行ったのだろうか。
温泉を吸っているから、そこまで小さくはないはずだ。
「おーい、大福ー!」
声をかけてみるが、返事がない。
「まさか溺れてるってことはないよな」
「『大福、死ぬのか!?』」
ゼルフと白玉はアタフタとしていた。
「あー、俺たちが問題ないから、大丈夫だと思うが……」
カエルも人間と同じ肺呼吸をしているため、大福に何かあれば今頃俺たちもあの世にいっているだろう。
カエルだから溺れることもなさそうだし……。
ただ、何も言わずにいなくなったのは俺も気になる。
「どこかに温泉が流れているところがないか確認してくれ」
「『わかった!』」
一緒に流されている可能性がある。
俺とゼルフは温泉に入りながら周囲を確認し、白玉は温泉に潜って通り道がないか見てもらう。
『あっちから温泉が流れてきてるぞ!』
どうやらここの温泉が流れているところを見つけたようだ。
俺たちはそこまで向かい、大福を呼ぶ。
「おーい! 大福!」
『どうしたゲコッ?』
温泉から何食わぬ顔でひょこっと顔を出した。
「勝手にどこ行ってたんだ?」
『オイラ、心配したぞ!』
ゼルフと白玉に問い詰められ、大福は首を傾げていた。
突然いなくなり、俺たちに心配をかけていたことに気づいてないのだろう。
「急にいなくなったら心配するだろ」
俺も急にいなくなってびっくりした一人だからな。
『大福、溺れたかと思ったぞ!』
「お前、何も言わずに消えるな。探すこっちの身にもなれ」
俺たちが次々と言葉を投げかけると、大福は恥ずかしそうに温泉に顔を沈めていく。
大福はぱちぱちと瞬きを繰り返していたが、やがて温泉に沈みかけていた体をゆっくり起こして立ち上がった。
『心配……したゲコか?』
「ああ」
『仲間だからな!』
ゼルフと白玉が当然のように答える。
『仲間……』
大福はぽかんとしていた。
今までずっと温泉を守るだけだったからか、そういう言葉を向けられることに慣れていないのかもしれない。
俺としては温泉の中でどうやって仁王立ちしているのか、そっちの方が気になったけどな。
だって、大福の大きさよりも湯が深いからね。
『ゲコォォ……』
次第に大福の目が潤み始める。
「お、おい?」
『拙者、仲間がいるゲコォォォ……!』
感極まったのか、大福はぶわっと涙を流した。
その拍子にゲロゲロと嗚咽が聞こえた。
まさか魔宝石か魔鉱石が吐き出されるんじゃないか?
俺は急いで大福の口の前に手を出した。
『ゲコッ!』
次の瞬間、大福は口を大きく開けた。
手にはひんやりとする石みたいなものが載っていた。
大きさはそこまで変わらないが、手にある感覚が魔宝石や魔鉱石と違ってかなり重い。
「なんだこれ?」
拳ほどの大きさがある鉱石だが、黒い金属なのに、表面には青白い光沢が浮かび、まるで星空みたいに煌めいている。
「……っ!?」
ゼルフが目を見開いた。
「お、おい……まさか……」
俺にくっつくようにゼルフが壁際に追い詰めてきた。
相変わらず距離感がおかしいのは気のせいだろうか。
ただ、それよりもゼルフの驚きようが気になった。
「知ってるのか?」
「知ってるどころじゃない!」
ゼルフは慌てて鉱石を手に取ると、何度もクルクルと回して確認する。
「これ……アダマンタイトだぞ!?」
「アダマンタイト?」
聞いたことない言葉に俺は首を傾げる。
ただ、ゼルフの反応を見る限り、相当やばい代物のようだ。
「伝説級の金属だ! 普通は小指の先ほど見つかるだけでも大騒ぎになる!」
「えぇ……」
そんなものを大福は吐き出したのか。
『ゲコ? あっちにたくさんあったゲコッ!』
どうやら温泉がどこから流れているのか調べているときに見つけたのだろう。
「ひょっとしてゴーレムが守っていたのって、このアダマンタイトってやつじゃないか?」
「それだ!」
大福がいた温泉にはゴーレムがいなかったことが気になっていた。
それを踏まえると、ゴーレムはアダマンタイトを守っていたのではないかと思ってしまう。
「よし、大福! 今すぐに持って来れるだけ採ってこい!」
『まかせろゲコッ!』
大福は嬉しそうに再び温泉に潜って、アダマンタイトを取りに行った。
「ぐふふふ、ゼルフこれで俺たちも金持ちだぞ」
「なっ!? ハルト、顔が気持ち悪いぞ」
俺はすぐに普段通りの顔に戻す。
だが、顔がニヤけて、笑いが止まらない。
だって、小指サイズで騒ぎになると言われるアダマンタイトが俺の手のひらサイズであるからな。
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