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キッチンカーと巡る異世界グルメ~社畜と無愛想貴族、今日も気ままに屋台旅~  作者: k-ing☆孤独な王子①6/8発売
第三章

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85.料理人、全裸で走り回る

 カエルの大福を先頭に俺たちは洞窟の中を進んでいく。

 温泉を入り口まで引くために作った水路を辿っていくが、中々ドワーフの姿が見えない。


「ドワーフたちはどこにいるんだ?」

「どこかで採掘でもしているんじゃない?」


 魔宝石や魔鉱石を採掘しているのか、奥の方からカンカンと音が鳴り響く。


『こっちまで伸びてるぞ!』

『もっと奥にいるゲコッ!』


 白玉と大福は楽しそうに洞窟の奥を突き進む。

 水路は大福がいた場所に向かって、長く伸びていた。


「魔物が出てきたら頼むぞ」

「俺は便利だからな!」


 まだ根に持っているのか、ゼルフは胸を張って白玉と大福を追い越していく。


『なっ、オイラが先頭だぞ!』

『ゲコッ!? ここは拙者が案内するゲコッ!』


 それを譲らない白玉と大福。

 それなら――。

 俺は風を切るように前に出る。


「いや、ここは俺が一番先だな!」


 チラッと後ろを振り返り、ニヤリと笑う。


「はぁん!?」

『クゥエ!?』

『ゲコッ!?』


 驚いた表情の後、すぐに笑顔になって駆け出す。

 何事も楽しまないともったいないからな。

 俺たちは温泉に向かって競争することにした。



「はぁ……はぁ……」

「なあ、自分から競ったのに途中で立ち止まるってどういうことだ?」

『ゼルフ、ハルトは足が遅いから仕方ないぞ』

『拙者にも追い抜かれていたゲコッ!』

「くっ……」


 みんなに攻められたら、俺は何も言えない。

 だが、それによる発見もあるからな。


「ほら、俺の(・・)おかげで別の温泉を見つけたぞ!」


 気づいたら水路がなくなり、大福のいた場所まで来たと思った。

 それなのにドワーフたちの姿がなく、周囲を見渡すと大福のいた温泉と別の温泉を見つけた。


『これってただの迷子じゃないか?』

『拙者もここは知らないゲコッ』

「あいつ何も聞いてないぞ?」


 みんなが何かを言っているが、今の俺は目の前の温泉に釘付けだ。


「あっちの温泉は硫黄成分多めなイメージだけど、こっちはケイ素が多いのか?」


 大福の入っていた温泉は青白く輝いていたが、こっちの温泉は深海色でどちらかと言えば青ってイメージだ。


「おい、まさか――」

「ああ、やっぱりここは入るに限るだろ!」


 俺はすぐに服を脱ぎ捨て、温泉に駆け寄る。


「おい、お前ら負けてられないぞ!」

『クゥエ!』

『ゲコッ!』


 すぐにゼルフたちも追いかけてきた。

 今度はどんな温泉なのかワクワクする。

 湯気がそこまで見えないから、温度は低めなのかもしれない。

 まあ、それも温泉の楽しみだからな!


――ゴゴゴゴゴッ!


「なっ……なんだ!?」

『クゥエ!?』

『ゲコォッ!?』


 突然、洞窟全体が激しく揺れた。

 天井から小石がぱらぱらと落ち、温泉の水面が大きく波打つ。


「な、なんだ今の……」

「落盤か!?」


 ゼルフが周囲を見回した瞬間だった。

 青い温泉の手前から、ズズズッ……と地面が盛り上がる。


「……は?」


 それは形を変えて人型になっていく。

 全身が青黒い岩でできたまるで巨大なロボット。

 温泉を守る門番のように、それはゆっくりと立ち塞がった。

 身体のあちこちには青い結晶が埋め込まれており、温泉の光を反射して怪しく輝いている。

 赤く光る目だけがギロリと俺たちを見下ろしていた。


「あれはなんだ?」

『ゴーレムゲコッ!』


 戦隊モノに出てきそうな岩のロボットはゴーレムと呼ばれる存在らしい。

 それにしても――。


「でかすぎるだろ!」


 大きさは俺の倍近くはある。

 腕に限っては俺の体ぐらいの大きさだからな。


『あぶないぞ!』

「……えっ?」


 次の瞬間――。


――ブォンッ!


「うおぉっ!?」


 巨大な拳が振り下ろされ、俺たちは慌てて飛び退く。

 地面が砕け、その衝撃で石が飛んできた。


「痛っ!?」


 温泉に入ろうとしていた全裸の俺たちには石つぶてすら拷問に感じる。


「危ねぇなぁ! だったら――!」

 

 ゼルフは岩壁を蹴って一気に跳び上がり、ゴーレムの腕を駆け上がる。

 さすがゼルフだ。

 全裸でも俊敏な動きで翻弄している。

 むしろ、服を着ていないから、動きやすいのかもしれない。


「おらぁぁぁ!」


 ゼルフの拳がゴーレムの顔面に炸裂。

 だが――。


「いってぇぇぇぇ!?」


 逆にゼルフが拳を押さえて転げ回っていた。

 岩の塊を殴ろうとするバカは……あっ、目の前にいたな。

 それに転げ回ることで、さらに石つぶてが刺さって痛そうだ。


『バカゲコッ……』

『ゼルフはいつも通りだぞ!』


 大福や白玉も同じことを思っていた。

 そもそも全裸になるたびに何かに巻き込まれているのは気のせいだろうか。


「おい、逃げ……」


 ゴーレムはゆっくりとこちらを向く。

 だが、妙だ。

 攻撃する時に、必ず俺たちを〝温泉から遠ざける〟ように動いているような気がした。


「ひょっとして……」


 試しに俺はこっそり温泉へ近づいてみる。


「よし、今のうちに入るか――」


 ゴーレムが見ていない間に温泉に入ろうとしたら、目が合ってしまった。

 巨大な拳が振り下ろされ、俺は転がるように回避する。


「痛ったたたた!」


 もちろん転がれば、俺の体も石つぶての餌食になる。

 ゼルフの転がる姿を見ていたが、想像以上に全裸で逃げ回るのは痛いな。

 そもそも石の上を全裸で転がる人は俺たちしかいないだろう。


『ハルトもバカゲコッ……?』

『きっとあれは温泉のせいだ!』


 ああ、普段の俺は至って真面目な青年だからな!

 温泉の前では誰しもバカになる。

 ただ、そのバカな行為もピンチを抜け出す助けに変わる。


「こいつ、温泉に近づくと反応するぞ!」


 ゼルフたちもハッとした表情になった。

 どうやら気づいたのは俺だけのようだ。


『ゲコッ……』


 大福が温泉とゴーレムを見比べる。


『まるで温泉を守ってるみたいゲコッ』

「守ってる?」

『拙者が泉守の聖蛙だったように、このゴーレムも同じ役目なのかもしれないゲコッ』


 たしかに、大福がいた温泉にも体の傷を治す不思議な力があった。

 なら、この青い温泉にも何か秘密があるのかもしれない。

 だけど――。


「俺を狙って殴ってくるのはやめろぉぉぉ!」


 再び拳が飛んできて、俺は全力で逃げ回る。

 いくら何でも俺ばかり狙われていたらたまったもんじゃない。

 きっと俺が一番最初に温泉へ飛び込もうとしていたからだろう。


「ゼルフ! 温泉を守ってるやつなら、逆に温泉に落としたらどうなる!?」

「知らん! でも――」

「「やるしかない!」」


 俺たちはお互いに目を合わせてニヤリと笑う。

 この場にキッチンカーはなく、俺の体一つしかない。

 それでも――。


「白玉! 足を狙え!」

『クゥエ!』


 白玉が勢いよく突進し、ゴーレムの膝に体当たりする。


『ゲコッ!』


 さらに大福が口から大量の魔鉱石を吐き出して、頭にぶつけていく。

 まさか移動式倉庫にそんな戦い方があるとは、思いもしなかった。


「今だぁぁぁ!」


 ゼルフが全裸のまま突撃する。


――ドンッ!!


 ゴーレムの大きな体にぶつかると、巨大な身体がぐらりと傾く。

 大福が頭に魔鉱石をぶつけて、重心が後ろに倒れていたのもあるのだろう。


 ゴーレムはそのまま青い温泉へ――。


――ドボォォォン!!


 巨大な水柱が上がった。

 すると次の瞬間。


――ジュゥゥゥゥッ!!


 ゴーレムの身体から白い蒸気が噴き出した。


 青い結晶が激しく光り、身体にヒビが走っていく。

 ゴーレムは温泉の中で、もがくように腕を動かしたあと――。


 ガラガラッと静かに崩れ落ち、ただの岩へ戻った。

 洞窟に静寂が戻る。


「……倒したのか?」

「そうみたいだな」

「うっしゃー!」

「『『……』』」


 俺はあまりの嬉しさにその場で喜んだ。

 これで目の前の温泉に入れるからな。


「なあ、ハルト?」

「なんだ……?」


 ゼルフたちの視線が俺に集まってくる。


「お前、何もしていないよな?」

『指示を出していただけだぞ!』

『拙者は勝手にやったゲコッ!』 


 チッ!

 邪魔にならないように逃げていたのがバレてしまったようだ。

 この中で確実に邪魔になるのは俺だからな。


「まあまあ終わったことは気にしない! よし、改めて温泉だ!」

「お前そればっかだな!?」

「だって温泉が俺を呼んでるんだから仕方ないだろ!」


 俺は岩だらけで傷だらけの体のまま、青い温泉へ飛び込んだ。

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