82.料理人、さっぱり昼飯を作る
『ねえねえ、どうする?』
「思ったよりも勇者ってすごいな……」
ドワーフの行動に白玉とゼルフも戸惑いつつある。
さっきまで勇者やら神の使徒と呼ばれて喜んでいたが、態度が変わったことで違和感を覚えたのだろう。
「これは勇者様に――」
「いや、もういらないから自分たちで使ってくれ」
「そうか……」
あれからドワーフたちは時折こっちに戻ってきては、魔宝石や魔鉱石を捧げていった。
事情を聞いてないドワンたちは首を傾げながら、その様子を見ていたが誰も止めるものはいない。
だから、俺が断らないといけないが、悲しそうな顔をされると少し胸が痛くなる。
「こんなにあっても邪魔になるだけだな」
すでにキッチンカーの片隅に魔宝石と魔鉱石が山のように積まれている。
「保管場所も少ないし、売ったら金になるんだろ?」
ゼルフは眉間にシワを寄せた。
「ああ、魔宝石は特に高値で売れると思うが、加工していないからな……」
どうやら加工してあるかどうかで売る時に値段が変わるらしい。
魔宝石は研磨しないと綺麗な輝きはないし、魔鉱石とそこまで見た目の違いがわからない。
それを考慮すると、売るよりは自分たちで使った方がよいのだろう。
ただ、キッチンカーは進化を遂げたが、そこまでよくわかっていない状況で追加の魔宝石と魔鉱石を入れても良いのか不安もある。
突然止まったりしたら、俺たちの旅はここで終わってしまうからな。
「せっかくだからお手製スポーツドリンクでも飲んでくれ」
「ありがたきお恵み」
そう言って、ドワーフたちはスポーツドリンクを飲んで作業に戻っていく。
まるで俺が働かせているような気分だ。
ちなみにスポーツドリンクは1リットルの水に砂糖大さじ4杯と塩ふたつまみに柑橘系のレモンやグレープフルーツの果汁を入れて混ぜたものだ。
塩の量を増やせば経口補水液になるし、砂糖をはちみつに変えれば、体に気を使う自然素材のもので作ることができる。
「何か食べられるものでも準備しておこうかな……」
『オイラ、おにぎりがいい!』
「俺もおにぎりがいいかなー」
白玉とゼルフの言葉に俺はため息をつく。
「朝に食べたばかりだろ……」
「ほら、聖蛙も初めてだしな」
『食べたいって顔してるぞ!』
近くにいたカエルの顔を見ると、ボーッとしながら首を傾げていた。
さすがに牛乳を飲んでみたいと思っているやつが、おにぎりのことを知っているのだろうか?
「カエルもおにぎりでいいか?」
『拙者、牛乳がいいゲコッ!』
どうやらカエルは牛乳の方に興味があるようだ。
そう言えば、キッチンカーで戻ってきたけど、まだ牛乳を飲ませてなかった。
「あとで牛乳は用意するけど、それでいいか?」
『問題ないゲコよ!』
牛乳に興味があるカエルってやはり変わり者だな。
それにずっとカエルって呼ぶのも可哀想な気がするから、昼飯を食べている時にでも名前を決めよう。
「せっかくならさっぱりしたものがいいよな……」
温泉に入っていたのもあり、スッと食べられるものの方が良いだろう。
それにドワーフたちが温泉のある洞窟の奥で採取をしているなら、蒸し暑いから尚更食べやすいものがいい。
大量に魔宝石や魔鉱石をもらったから、何もしないわけにはいかないしな。
「『おにぎりは……?』」
だが、チラチラとこっちを見てくるゼルフと白玉に俺も折れた。
「あー、ならおにぎり入りの冷や汁にするか!」
「なんだそれ!」
『気になるぞ!』
簡単に言えば冷たいお味噌汁もどきにおにぎりを入れたものだが、お茶漬けみたいに食べやすいだろう。
俺は早速調理にかかる。
「まずは軽くフライパンで味噌を焼くか」
俺はフライパンに味噌を広げ、弱火でじっくり焼き目をつけていく。
「味噌を焼いて何かあるのか?」
ゼルフが不思議そうに覗き込んでくる。
「焼くと香りが強くなるんだよ。冷たい料理って香りが弱くなりやすいからな」
じゅわりと味噌が熱を受けて香ばしい匂いを広げる。
味噌汁とは違う、焼けた大豆と塩の匂い。
それだけで妙に腹が減ってくる。
『なんか肉みたいな匂いがするぞ!』
白玉がお尻を振りながら、フライパンへ顔を近づける。
「あまり近づくと焼き鳥になるぞ?」
『クゥエ!? オイラは北京ダックがいいぞ!』
白玉はすぐにその場から離れる。
「焦がしすぎると苦くなるから、このぐらいがちょうどいいな」
味噌に焼き目がついたら、ボウルにだし汁とすりごま、そして焼き味噌を入れて混ぜ合わせる。
ごまの香りと焼き味噌の匂いが混ざり、さっぱりした料理のはずなのに、不思議と食欲を刺激してくる。
そのまま冷蔵庫で他のものができるまで冷やしておく。
「野菜はきゅうり、ネギ、大葉でいいか」
きゅうりはスライサーで薄切りにして、塩揉みして水分を出しておく。
ネギと大葉は細かく切って、お好みで量を調整できるようにしたら、冷や汁はほぼ完成だ。
「おにぎりの具材は……肉そぼろにしようかな」
白玉とゼルフの希望であるおにぎりの具材は肉そぼろにすることにした。
そぼろと言っても大きめだけど、崩して食べた時にお肉が出てきたら、どこか幸せな気持ちになるだろう。
そぼろ状に焼き終えた肉をおにぎりの具材として包み込めば、ほぼ完成だ。
概ね準備が終わった頃には、ぞろぞろとドワーフたちが戻ってきた。
手にはまたいくつも魔宝石と魔鉱石を持っているが、俺は首を横に振る。
これで俺たちの意思は伝わるだろう。
「なんだこの匂いは!?」
汗だくになったドワーフたちが、香ばしい匂いに気づいた瞬間、一斉に鼻をひくつかせた。
「昼飯を作ったけど食べて――」
「お恵みいただきます!」
俺らが勇者と神の使徒だと知っていても、その態度は変わらないようだ。
ものすごい勢いで昼飯を求めにきた。
俺は皿におにぎりを置き、きゅうりと業務用のとろろを少しかけ、上から冷えた冷や汁を注ぐ。
焼き味噌の香ばしい匂いがふわりと立ち上がり、刻んだ大葉の青い香りが鼻を抜けた。
冷たい出汁の中で、とろろがおにぎりを包み込むように広がっていく。
「あとは好きなだけかけてくれ」
ネギは自分がかけたい量だけ用意してあるから、それを盛り付けたら完成だ。
派手さはないが、暑い日にはこういう飯が一番うまい。
きっと味はさっぱりして食べやすいだろう。
「なあ、俺も食べさせてくれ!」
『オイラも!』
『ゲコッ!』
食いしん坊もすでによだれを垂らして、興味津々で見ていた。
俺はすぐに全員分を盛り付けると、早速食べることにした。
お読み頂き、ありがとうございます。
この作品を『おもしろかった!』、『続きが気になる!』と思ってくださった方はブックマーク登録や↓の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価して下さると執筆の励みになります。
よろしくお願いします(*´꒳`*)




