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キッチンカーと巡る異世界グルメ~社畜と無愛想貴族、今日も気ままに屋台旅~  作者: k-ing☆孤独な王子①6/8発売
第三章

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80.料理人、まさかの結果に驚く

「アイツはいいのか?」

『オイラも心配だぞ……』


 キッチンカーを走らせると、ゼルフと白玉は窓から顔を出し、チラチラと後ろを確認していた。


「まあ、俺も大人げなかったよな」


 ドワーフに条件をつけていたのは俺も同じだ。

 調理器具を作ってもらうのを取り引きに料理を提供していた。

 温泉に関してはその延長線上だ。

 ただ、カエルに対して俺がペコペコするのは違うと思う。

 それにドワーフたちにコキ使われる理由はないからな。


『ゲコオオオオオ!』


 まだカエルの鳴く声が聞こえてくる。

 少しは距離が開いている気もするが、それだけ大きな声で叫んでいるのだろう。


「ハルト、あいつ可哀想じゃないか?」

『同じ温泉に入った仲間だよ』


 まるで同じ湯に入ったら、すでに友達みたいな言い草だ。

 ゼルフや白玉は言い争いをしていたから、尚更仲間意識みたいなのが芽生えているのかもしれない。


『ゲコッ! ゲコオオオオオ!』


 俺はすぐにブレーキを踏む。

 隣にいたゼルフと白玉は前に倒れかける。


「『ゲフッ!?』」

『ゲッゴオ……』


 隣からカエルのような声が聞こえてくる。


「まあ、牛乳ぐらいあげてもいいか」

「『ハルト!』」


 俺も牛乳ぐらいでカリカリしてみっともない。

 それだけカエルも温泉後の牛乳が美味しく見えたのだろう。

 キッチンカーの向きを変えて、再び洞窟の奥へ――。


「んっ? 何か付いてる……?」


 何かがチラッとサイドミラーに写った。

 丸い球体のようなものがぶら下がっているような……。


「ちょっと外に行ってくる」


 俺はすぐにキッチンカーから降りて、ぶら下がっている何かを見に行くことにした。

 魔物だと危ないから、ゆっくりと警戒しながら近づく。


『いてて……何かあるの?』

「何かあったか?」


 そんなこともお構いなく、ゼルフと白玉がぶつかってきた。


「あっ……」


 そこにはキッチンカーの荷台部分に乗りこむ扉の取っ手に舌を巻きつけたカエルがいた。


『ゲコッ……』


 急ブレーキした衝撃で扉にぶつかったのだろう。

 ぶらーんっと揺れている。


「お前いつからここにいたんだ?」


 舌をペロリと戻すと、俺の方に近づいてきた。


『拙者も行くゲコッ!』

「へっ……?」

『だから一緒に行くゲコッ!』


 カエルの言葉に驚きつつ、ゼルフと白玉の顔を見るとニヤリと笑っていた。

 ひょっとしたら付いてきていたのを知っていたのかもしれない。

 さっきも窓から体を乗り出して、後ろを見ていたからな。


「別にそれは構わないけど……温泉を守らなくてもいいのか?」

『拙者はあそこでゆっくりしていただけだ』


 温泉を守っていたのかと思っていたが、ただ温泉を楽しんでいただけらしい。

 それなら連れて行っても良さそうな気もするが、問題は背後から近づいてくるやつらだろう。


「聖蛙様、ワシらを置いてどこに行くつもりですか?」


 問題は聖蛙に熱狂的なドワーフたちだ。

 さすがに俺が連れて行くわけにはいか――。


「俺たちと一緒に旅に出る!」

『オイラたちと一緒に行くって!』


 ああ、ここに何も考えてないやつらがいた。

 ゼルフと白玉の言葉に、ドワーフたちは首を傾げていた。


「何を言っておる。聖蛙様が守る泉はここに――」

『あれはただの温かい水だぞ!』


 カエルの言葉にドワーフたちは戸惑っていた。

 さっきまで自分たちの住む場所が聖蛙の守る場所だと思っていたぐらいだからな。


「はぁー、お前らな……」


 俺はゼルフたちを呼び寄せると、小さな声で呟く。


「今から俺の言った通りに演じろよ。わかったな」


 俺の言葉にみんなは頷く。

 心配しかないけど、ひとまずこれで切り抜けるしかない。


「すまない。俺たちはこの世界を守るために仲間を集めていたんだ」

「なっ!?」

『クゥエ!?』

『そうだったのか!?』


 俺はゼルフと白玉を睨みつけると、すぐに口を押さえていた。

 変なことを言わないように咄嗟にした行動なんだろう。

 カエルは……まあ、本当に信じていそうだな。


「お前たちは何を言って――」

「そう思うのは仕方ない。まだ、俺たちも聖鳥しか見つけてないからな」

「聖鳥様だと!?」


 ドワーフたちの驚きの声が揃う。

 カエルを聖蛙と知った途端に態度を変えたのを見て、ひょっとしたら〝聖〟が付くものを神のように讃えるのではないかと思った。

 白玉についても正体を明かしたことはないからな。


「聖鳥様、今までの行き過ぎた行い申し訳ありませんでした」


 やはり俺の読みは当たっていた。

 ドワーフたちは白玉にも跪いて、深々と頭を下げていた。


『やっとオイラの凄さに気づいたのか』


 白玉も翼を広げてまんざらでもない表情をしていた。

 ちょうど温泉効果もあって、普段よりも輝かしいから、演出としては良さそうだ。

 ただ、頭を下げられたのは白玉だけではなかった。


「そして勇者のハルト様、ゼルフ様。今までのご無礼申し訳ありません」


 どうやら俺たちも、まとめて〝とんでもない存在〟に仕立て上げられてしまったようだ。


「……いや、ちょっと待て」


 さすがに話が飛躍しすぎている。

 俺は軽く手を上げて制止しようとするが――。


「よいのです、ハルト様。我らはすべて理解しております」


 ドワーフの一人が、ぐっと拳を握りしめる。


「聖蛙様、聖鳥様、そして勇者様方がこの地に集った理由……それはすなわち――」


 嫌な予感しかしない。


「世界の危機だと!」

「違う違う違う!」


 思わず全力で否定してしまった。

 だが、その声すらも――


「うおおおおおお!」

『クゥエエエエエ!』


 ゼルフと白玉の声にかき消されてしまった。

 誤魔化すためについた嘘はどんどんと話が膨らむばかりだ。


「俺たちはそんな大層な――」

「ハルト様、我々ドワーフ族にはある伝承があります」

「伝承……?」

「ええ。世界の危機が訪れる時、二人の勇者が神の使徒を集めると」


 俺はみんなに視線を送る。


「俺は勇者……」

『オイラ、神の使徒だったのか……』

『拙者も選ばれし存在ゲコか……!』


 ああ、完全にみんな勘違いしているぞ。

 二人の勇者と神の使徒――。

 ちょうど今の人数とドワーフの伝承が同じだった。


 俺はゆっくりと天井を見上げる。

 ああ、これで終わったな。

 まさか小さな嘘がこんなに大きくなるとは……。

 今度は訂正するのが大変だ。


「俺は勇者じゃな――」

「勇者様、神の使徒様、バンザーイ!」

「バンザーイ!」


 俺たちを讃えるドワーフたちの声が洞窟に響く。

 聞く耳を持たないやつらを俺は止めることができない。


「俺は勇者だ!」

『オイラは神の使徒様だ! 将来は北京ダックとして名を知らしめる』

『ゲコッ……神の使徒とはかっこいいゲコね!』


 それに俺以外は本当に勘違いしてそうだからな。

 どうやら俺たちは、勝手に世界を救う存在になったらしい。

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