78.料理人、久しぶりに甘味を作る
突然の出来事に俺と白玉は目を合わせる。
「白玉以外に話せるやつはいるのか?」
『オイラも知らない。だけど――』
『拙者は泉守の聖蛙ゲコッ!』
聞いたこともない言葉に俺は首を傾げる。
それにしてもカエルにとっては、この温泉は泉という認識らしい。
「おーい、俺を忘れてないかー!」
カエルに潰されているゼルフは手を上げて助けを求めていた。
『拙者にもさっきのやつを飲ませるゲコッ!』
「おおお、おい! 痛いだろ!」
ジタバタするカエルにゼルフも息苦しそうだ。
そういえば、ゼルフって今全裸だったよな。
そりゃー、素肌に洞窟の石が突き刺されば痛いだろう。
「はぁー、今すぐに準備するから待ってろよ」
俺は温泉から出ると、すぐにキッチンカーに向かう。
冷蔵庫で人数分の牛乳を冷やしていたはず……。
「なっ……ないぞ!?」
俺の分を含めて牛乳は三本用意してあったはず。
すぐに外に出て、周囲を見回す。
すでにゼルフと白玉が飲んでいても、あと一本は――。
「ぬあああああ! お前の下に瓶があるだろ!」
『ゲコッ……?』
カエルはゆっくりと体を動かすと、コロコロと二本の瓶が転がってくる。
『オイラの瓶はここにあるから……』
あと一本は白玉が大事そうに翼で挟んでいた。
「ゼルフが欲張ったんだな」
「おっ、俺はハルトのために用意しただけで……」
「ほぉ、嘘ならアイスクリームはなし――」
「俺が飲むつもりでした!」
その場で頭を下げるゼルフに俺はため息が出る。
やはり俺が勧めるってことは、きっと美味しいものだろうと勘づいていたのだろう。
「どっちにしてもゼルフにはアイスクリームはなしだな」
「ぬおおおおお!」
その場で項垂れるゼルフにそっと白玉が翼を置いていた。
「うっ……俺も食べたかったぜ……」
『ゼルフの分はオイラが食べるぞ!』
あれで慰めているつもりだろう。
『ハルト、アイス食べよ!』
白玉は気が済んだのか、跳ねながら俺の元へやってきた。
その後ろからカエルも付いてくる。
『拙者の牛乳は――』
「あー、すまない。代わりにアイスクリームでいいか?」
『拙者は牛乳ってやつが飲みたかったゲコッ!』
短い足をバタバタとするカエルに、俺は白玉を見つめる。
「そういえば、聖蛙ってことは白玉の親戚みたいなものか?」
『きっとそうだぞ!』
「なら、あいつを説得してくれ」
きっと白玉ならカエルをどうにかしてくれるだろう。
その間に俺はアイスクリームを作って――。
「おい、ゼルフ手伝え!」
「ハルト……お前ってやつは!」
ゼルフは嬉しそうに駆け寄ってきた。
「止まれ!」
「はっ! なんでた!?」
肩を組もうと手を伸ばしてきたが、俺はその場で静止させる。
「見てみろ。俺もお前も……」
「「全裸だ!」」
まずは服を着ることが先だろう。
俺たちはすぐにキッチンカーから着替えを取り出す。
その頃、白玉はカエルを説得したのか、コロコロと転がってやってきた。
ただ、聖蛙って一体何者なんだろうか。
それに――。
「なんか……小さくなってないか?」
『温泉から出たら小さくなるらしいぞ!』
どうやら聖蛙は体に温泉を吸収して、大きくなっていたらしい。
まるでスポンジみたいな性質だな。
それにしても白玉はどうやって説得したのだろうか。
自身のことを〝拙者〟と呼ぶぐらいだから、頑固そうな気がしたけど、俺の気のせいか……。
「よし、今すぐにアイスクリームを作るから手伝ってくれ!」
「はーい!」
『クゥエ!』
『ゲコッ!』
俺の後ろを付いてくる食いしん坊たち。
異世界人、貴族、コールダック、カエルと滅多にない組み合わせだろう。
キッチンカーに行くと、冷凍庫から凍らしたバナナを取り出す。
「少し解凍できたら、潰してくれ!」
温泉が近くにあるから、冷凍バナナも溶けやすいだろう。
その間に俺は大きな袋に氷と大量の塩を入れる。
「そっちはどうだー?」
「今、バナナと戦っている最中だ!」
袋の上で白玉とカエルがジタバタとしていた。
袋が破れてないか心配になったが、さすが大手のポリ袋メーカーだ。
熱にも耐え、料理に積極的に使われているだけのことはある。
「じゃあ、そこに牛乳とはちみつを入れて混ぜてくれ」
牛乳にはちみつを溶かしたものを、冷凍バナナを潰した袋の中に入れる。
あとは溢れないように封をしっかり閉じるだけ。
「よし、最後はゼルフの出番だな」
「待ってましたー!」
氷と塩を入れた袋の中に、さっき材料を混ぜた袋を入れる。
あとは――。
「全力で振ってくれ」
「まかせろ!」
ゼルフは足を肩幅に広げて、全身を使って袋を大きく振る。
「働かぬもの食うべからずだああああ!」
そういえば、今日のゼルフって魔物を一度も倒していないからな。
今のところ誘拐されて、牛乳を溢して……本当に何もしていない。
「ぬおおおお、冷てえー!」
「がんばれ!」
『ゲコッ!』
ゼルフを応援する白玉とカエル。
いつの間にかカエルも馴染んでいるな。
しばらくゼルフが袋を振っていると、次第に氷は溶けてきた。
「ちょっと中身を出してくれ」
ゼルフは袋の中から、材料を混ぜた袋を取り出す。
「これで完成か?」
食いしん坊たちの視線が俺に向けられる。
袋を手で押すと、ゆっくりと形を変えていく。
ちゃんとできるか心配だったが、無事に完成したようだ。
俺はすぐに皿に移すと、待ちきれなくてウズウズとしている食いしん坊たちの元へ持っていく。
「アイスクリームの完成だ!」
「うおおおお!」
『クゥエエエエ!』
『ゲコゲコッ!』
透明な皿に乗せられたバナナ味のアイスクリームはゴロッとした果肉も残っており、キラキラと光っている。
いや、輝いているのは……翼を広げた白玉の影響か。
「溶ける前に食べろよ」
俺の言葉に従ってゼルフと白玉はすぐに食べていく。
「うめええええ! 汗ばんだ体にちょうどいいな!」
『クゥエエエエ! 甘くてトロトロだ!』
あまりのおいしさにゼルフと白玉の声が洞窟の中で響いていた。
ご飯を作ることはあっても、アイスクリームってショートに食べさせた以来だからな。
「なぁ、お前は食べないのか?」
『拙者、うまく食べられないゲコッ!』
舌を器用に伸ばしても、アイスクリームが掴めないのだろう。
掬って食べるように伝えても、中々うまくできないようだ。
足でバタバタと地面を叩いてイライラしていた。
「はぁー、仕方ないな」
俺はカエルを抱えて、膝の上に乗せる。
「思ったよりもムニムニしてるんだな」
体が大きかった時はぬめってしていたが、今はムチムチボディでムニムニとしている。
バイトの高校生が最近のおもちゃと言って、持ってきたものに触り心地が似ている。
スクイーズってやつだったかな?
「どうしたんだ?」
カエルは俺の顔をジーッと見つめていた。
『拙者のナイスボディに魅了されたか』
やっぱりどこかめんどくさそうなやつだな。
俺はすぐにスプーンでアイスクリームを掬い、カエルの口に入れる。
『ゲコッ、ゲコッ――』
「大丈夫か!?」
いきなり咽せたような声に俺は驚く。
勢いよく口に入れてしまったようだ。
『ゲコッ! 舌がひんやり甘いゲコッ~♪』
突然の歌唱に俺は呆然とカエルを見つめる。
『ゲコッ、ゲコッ、ゲコッ! もう一口ゲコッ~♪』
カエルは目を細め、体を小さく揺らしている。
言われた通りに口元までアイスクリームを持っていくと、大きく口を開けた。
『ゲコッ、ゲコッ、ゲコッ! ここは天国ゲコッ~♪』
どうやらアイスクリームはお気に召したようだ。
ただ、それを見て気に食わないと思っているやつらがいた。
『クゥエ! オイラもハルトの上に乗る!』
白玉はカエルを押し出すように、俺の膝の上に乗ってきた。
まさか俺にベッタリくっついてくるとは思わなかった。
「おい、お前らだけせこいぞ!」
「はぁん!?」
ゼルフの言葉に俺は驚いた。
まさか――。
「俺もそれぐらいいいだろ!」
なぜかゼルフまで俺の膝の上に乗ろうとしてくる。
いやいや、俺よりも体格が大きいし、さすがに同じ男として抵抗感があるぞ。
『ハルトはオイラがいいよね?』
「いや、俺に決まってる!」
『ゲコッー! 次はまだかー!』
どうやら俺の膝の上は戦場と化しているようだ。
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