76.料理人、動かぬ相棒を発見する
洞窟の奥へゼルフを追いかけると、そこは行き止まりだった。
「あいつらどこに行ったんだ……」
周囲を見回すがカエルもいなければ、ゼルフの姿も見えない。
『ハルト、あそこに穴があるぞ!』
白玉の視線の先に目を向けると、そこにはぽっかりと地面が開いた空間があった。
中からは湯気がホワホワと立ち昇る。
きっとあそこには温泉があるのだろう。
俺たちは周囲にカエルがいないことを確認して、キッチンカーから下りた。
『クゥエ! クゥエ!』
白玉は俺を守ろうと、一歩前を歩いて警戒を強めて威嚇していた。
何もできない俺よりは、聖鳥の方が頼りになるかもしれないが……その姿は可愛いらしい。
『ハルトはオイラが守るぞ!』
……うん。これはきっと何も言わずに温かい目で見守っていたほうがいいのだろう。
「……あれ? あそこにいるのって」
温泉に近づくと、何かが浮かんでいるのが見えた。
「まさか……」
『ゼルフが死んだ!?』
俺たちは急いで駆け寄る。
「おい、ゼルフ!」
『クゥエエエエ!』
俺は急いで温泉の中に手を伸ばす。
少し温度は高めだが、入れないほどの温度ではない。
俺たちはすぐにゼルフを助けるために温泉の中に飛び込んだ。
『オイラは北京ダックになるけど、ゆでゼルフは美味しくないぞ!』
前に北京ダックの作り方を聞かれたことはあるけど、確かに一度熱湯には通すけど……。
ちなみに本場では焼くけど、簡単に作るなら揚げる選択もあると伝えたら、できれば手短に揚げてほしいと言っていた。
白玉はいまだに食べられる気満々なんだろうか。
「頼む……生きててくれ……」
近くに行ってもゼルフは温泉に浮かんだままで反応がない。
俺はゼルフを掴もうと手を伸ばした。
ぴくりとも動かず、湯面に揺られている。
「おい……冗談だろ……」
「ぷはぁっ……!」
「『ゼルフ!?』」
俺に気づいたのか、ゼルフは体の向きを変えると抱きつくように泳いできた。
「ははは、お前たち面白い顔しているな!」
「死んでいるかと思ったわ!」
『そうだぞ! バカゼルフ!』
俺たちの顔を見て、ゼルフはキョトンとした表情をした後、嬉しそうに笑っていた。
「ははは、俺が死んだと思って寂しくなったのか!」
ゼルフは俺と白玉の顔をジーッと見つめてくる。
正直なところ、内心は本当に死んでいるのかと思った。
だって、温泉に浮かんだまま動かなかったからな。
だけど生きていたとわかれば、その笑みも腹立たしく感じる。
それは白玉も同じだろう。
「お前は一回死んでこい!」
『そうだ! そうだ!』
俺はゼルフの頭を持って、勢いよく温泉に浸ける。
その上に白玉が乗り、ジタバタしている。
途中で白玉と目が合ったが、お互いにゼルフが生きていたことに安堵して、自然と笑みが出てくる。
「ぶはっ! おい、お前ら本当に俺を殺す気か! ニヤニヤしやがって……悪魔!」
「悪魔とは失礼な」
『そうだぞ! オイラは悪魔じゃなくて北京ダックだ!』
白玉はやはり北京ダックになりたいようだ。
熱めの温泉に入っているから、気分は北京ダックなのかもしれない。
ゼルフの安全も確認できたため、俺は温泉から出ることにした。
「ほら、早く出る――」
「おい待て!」
縁に手をかけた瞬間、肩から何かに引かれ、体が後ろに倒れそうになる。
俺は誰かに引っ張られたと思い振り返るが、ゼルフと白玉は離れたところにいた。
なら、誰が俺を引っ張ったのだろうか。
肩に視線を向けると、見たこともないものが載っていた。
まるでプニプニした生肉のような……。
「なんだこれ?」
「あいつの舌だ」
ゼルフは困った顔で隣を指をさす。
「舌……?」
肩に載っているものを次第に追っていくと、あの巨大なカエルが気持ちよさそうに、顔だけを出して温泉に浸かっていた。
『ゲコ……ゲコ……』
どこか満足げに喉を鳴らしている。
何度も温泉から上がろうとしたが、攻撃することもなく、俺を外に出さないように引き込むだけだ。
「……何してんだ、あいつ?」
「俺を咥えてここまで来たと思ったら、そのまま湯に放り込まれたんだ」
「は?」
「……で気づいたら一緒に入っていた」
どうやら何かするわけでもなく、ゼルフもただ温泉に入れられただけらしい。
中々逃げられないから、ゼルフは死んだフリをしていたと言っていた。
「ひょっとして温泉仲間を集めていたとか?」
「『ハルトじゃないんだから……』」
ゼルフと白玉の声が重なった。
ひょっとして温泉を洞窟の外に引き込むように頼んでいたのは、俺が温泉仲間を見つけるためだと思っていたのか?
「別に温泉は一人でも楽しめるもんだぞ」
「そうなのか? なら俺は出るぞ……」
『オイラも……』
ゼルフと白玉は少しのぼせてきたのだろう。
温泉から出ようとした瞬間、再びカエルの舌が伸びて引き止められた。
さっき俺が出られなかったのを見てなかったのだろうか。
それにゼルフは何度も試したはずだ。
「クソッ!」
『オイラも負けないぞ!』
ゼルフと白玉が何度も試すが、温泉からは上がれないようだ。
俺はその間に隠れて、もう一度だけこっそりと縁に手をかける。
――ツルッ!
『ゲコッ!』
鳴き声が聞こえた瞬間、舌が腕に絡まっていた。
どうやらずっと俺を見ていたようだ。
「……ああ、ダメだな」
「ははは、完璧に捕まったな!」
しばらくはこのまま温泉に浸からないといけないのだろう。
『オイラ、このままだと北京ダックに――』
「いや、たぶんゆで鶏じゃないか?」
『クゥエエエエ!?』
ゼルフと白玉は特に気にしていないのか呑気に言い合いをしていた。
まあ、こういう日もあるよな。
俺もここは諦めて、服を着たまま温泉に入ることにした。
お読み頂き、ありがとうございます。
この作品を『おもしろかった!』、『続きが気になる!』と思ってくださった方はブックマーク登録や↓の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価して下さると執筆の励みになります。
よろしくお願いします(*´꒳`*)




