74.料理人、洞窟に行く
「兄ちゃん、さっぱりする朝飯を頼む!」
「ワシも!」
毎日の日課になったのか、ドワーフたちはキッチンカーにやってくる。
「また飲み過ぎたんですか?」
「わしらは酔わないから大丈夫だ!」
「……なら、普通の朝飯でいいですね」
俺はイタズラ心にニヤリと笑う。
「ぬぉー! 酔ってる!」
「わしもベロベロになってるぞ!」
ふらふらして酔っているかのように演じるドワーフたち。
両手を前に突き出し「めしいぃ……」と呻きながら近づいてくる姿は、どう見ても酔っ払いではなくゾンビの群れだ。
「はいはい。今日はおにぎりとかき玉汁を用意していますよ」
「浅漬けは……」
「もちろん用意してあります」
俺はすぐに器に盛りつけて、ドワーフたちに渡していく。
酒を飲んだ次の日はさっぱりとした朝飯が食べたくなるのか、揃いも揃って和食を求めてきた。
今では酒を飲んでいる時でも、浅漬けをつまみにしているほどだ。
食生活は思ったよりもすぐに変わるもんだな。
「そういえば、今日って温泉を引く日ですよね?」
「ああ、そうだぞ!」
「毎日聞かなくても準備はしている」
「それだけ楽しみにしているってことですよ」
毎日ドワーフたちが来るから、俺もその度に温泉はどうするのかと詰め寄った。
その結果、洞窟改造計画は順調に準備が進み、今日がその初日だ。
「ハルトは俺より温泉のほうが大事なのか?」
「大事だ!」
その場で項垂れるゼルフ。
『オイラよりも?』
「もっ……もちろん!」
その隣で肩を寄せあう白玉。
俺が温泉ばかりに興味を示していたら、毎日同じことを聞くようになった。
正直、毎日何度も聞かれるとめんどくさく――。
いや、俺もドワーフに同じことをしていたな。
チラチラと俺を見てくるゼルフと白玉の姿に胸がチクッと痛くなる。
俺は一瞬だけ視線を逸らして、何でもないふりをした。
初めは湯当たりして、大変だったのを仕返しするためだったんだけどな。
「ほら、お前らも早く食べろよ」
俺はゼルフと白玉の前におにぎりとかき玉汁を置く。
「『わぁ……』」
落ち込んでいたのは演技だったのかと思うほど、目をキラキラと輝かせていた。
本当に単純なやつらだ。
「おい、わしらのより大きくないか?」
「わしらももっと食べるぞ!」
おかわりをくれと文句をつけるドワーフたち。
だが、おかわりの準備はしていない。
「こいつらは特別だ。それに今日は頑張ってもらわないといけないからな」
一際大きなおにぎりに視線が集まる。
具材もこいつらが好きなように、食べる箇所によって味変しているからな。
俺はゼルフの肩を叩いて、ニヤリと笑う。
「ははは、俺はハルトの特別だからな!」
『オイラも特別って知ってるもん!』
嬉しそうにおにぎりを頬張る姿に、また少しだけ胸が痛くなる。
ゼルフには話してないが、魔物を倒すのは彼の役目だ。
別に伝えたくないわけではない。
ただ、温泉が理由って知ると、拗ねる可能性があるからな。
そんな状態だと本領発揮もできず、温泉に入れる日が遅れる。
「あいつは悪魔か……」
「いや、魔王よりタチが悪いぞ……」
それを知っているドワーフたちは俺を引いた目で見ていた。
それよりも魔王ってなんだ……。
何かわからないが、やばそうなやつなのはわかる。
「ほぉ、そういうことを言うなら……」
俺が朝飯を作っているのは、温泉に入るための取引だ。
調理器具も圧力鍋以外はほとんど作ってもらったからな。
「俺は別に今すぐ回収しても問題ないからな」
「なっ!? まだ食べきってないぞ!」
「わしのおにぎりは渡さないぞ!」
急いでドワーフたちもおにぎりを口に詰めていく。
これで早く作業に取り掛かれるだろう。
社畜はサービス前残業は当たり前だからな。
それに魔石をたくさんタンクに入れたから、キッチンカーの準備はできている。
「よし、お前らいくぞー!」
「んっ……ゴホッゴホッ! おおー!」
『クゥエ? クゥエー!』
まだゼルフと白玉も食べ終えていなかったようだ。
ゼルフは片手に爆弾のようなおにぎりを持っているが気にしない。
あいつなら剣を振りながら、おにぎりぐらいは食べられるだろう。
ちなみに白玉は助手席に座らせて、ゆっくり食べさせるから問題はない。
キッチンカーに乗り込むと、すぐに洞窟に向かった。
「やっぱり週によって姿が変わるんだな……」
洞窟を目の前にして光景に驚く。
出入り口にはこの間のように温泉はなく、引き上がっていた。
それにコウモリの姿も見えないため、奥の方にいるのだろう。
「今からドラクションを鳴らすが驚くなよ?」
「ドラクション……?」
ドワーフたちは揃えたように首を傾げる。
おにぎりを食べ終えたゼルフはひっそりと手で耳を塞ぐ。
俺は勢いよく、ハンドルの中央を押していく。
――グォオオオオオン!
ドラクションを鳴らすのは、森でショートが魔物に襲われていた時以来だ。
洞窟が近くにある影響かドラクションは大きな音で響いて反響する。
その直後、洞窟の奥からバサバサと羽音が連なり、何かが一斉に逃げ出す気配が広がった。
きっとコウモリが奥に逃げたのだろう。
「あわわわわ……」
「こやつドラゴンだったのか!?」
怯えるドワーフに俺はニヤリと笑う。
ドワーフが震えるぐらいだから、魔物も驚いて硬直する気がする。
「どうだ! これなら魔物も倒せるだろ!」
「おっ……おう……」
いまだにドワーフはキッチンカーを怯えた目で見ていた。
さすがにドラゴンじゃないから大丈夫……だよな?
俺もこの摩訶不思議なキッチンカーを魔道具と思っているけど、まさかドラゴンってパターンは――。
「ないよなー」
今はそんなことを考えている場合じゃない。
俺はアクセルを踏み、ドラクションを鳴らしながらキッチンカーを走らせていく。
――その奥で、何かが動いた気がした。
次の瞬間、暗闇の中で無数の影が揺れる。
読者の方がクラクションをドラクションと呼んでいたので、採用させてもらいました笑




