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キッチンカーと巡る異世界グルメ~社畜と無愛想貴族、今日も気ままに屋台旅~  作者: k-ing☆孤独な王子①6/8発売
第三章

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73.料理人、向き不向きを知られる

「なんでわしらが温泉に入ることになったんだ?」

「あの兄ちゃんの目を見てみろよ……」

「「キラキラと澄んだ目をしているな……」」


 ドワーフはチラチラと俺の顔を見ては諦めて、洞窟に向かって歩き出した。

 あっ、もちろん俺はそのあとすぐ服を着たからな。

 決して裸かだからチラチラ見ている訳ではないのに、なぜこっちを気にしているのだろうか。


「ここに来たものの……」

「ブラッドバットがいるからな……」


 ドワーフたちは洞窟の出入り口にいるコウモリを見ていた。

 洞窟の出入り口には魔物が集まっているからな。

 外から見たら、たくさんコウモリがいることにすぐに気づけるのに、あの時は温泉の魅力に惑わされていたのだろう。

 さすが温泉だ!


「あのー、温泉をここまで持ってくることはできたりしますか?」

「……んっ? それは湯をそのまま持ってくるって意味でいいか?」


 ……うん、他に別の意味があるのだろうか。

 ドワーフの言葉に俺は頷く。

 別に洞窟に入らなくても温泉は楽しめるからな。


「少しずつ湯を運ぶのはさすがに大変だよな?」

「魔物を追い払うよりは楽なんじゃないか?」


 ドワーフたちも考え始めたのか、各々近くにいる者同士で案を出し合っていた。


「いやいや、それなら新しく洞窟を掘るべきじゃないか?」

「そんなことしたら、いつになっても入れないだろ」


 それでも中々良い案は出てこないのか、ドワーフたちは唸りながら考えているようだ。

 それなら俺の考えを話してもいいだろう。


「例えば傾斜をつけて、洞窟の外に流れるような仕組みにすれば――」

「兄ちゃん、お前はドワーフなのか!?」

「わしらよりも頭が回るのは驚いた」


 どうやら外まで温泉がくるように道を作ることを想定していなかったようだ。

 鍛冶のことはすぐに思いつくのにな。


「ちょっと、兄ちゃん紙に書いてくれないか」


 俺はドワーフの一人に紙を渡された。

 ただ、俺は受け取っていいのかと迷ってしまう。

 知っているものは描けるけど、構図に関しては全く描けない。

 頭の中では分かっているのに、それを形にするのが壊滅的に苦手なんだよな……。

 むしろ口で伝えたほうが早いぐらいだ。


「ほらほら、早く描いてくれ!」

「笑わないでくださいね? こういう図はだいたい失敗するんだよな……」


 俺は勧められるまま紙を受け取ると、そのまま地面に置き、描いていく。


「えーっと、まずは温泉が溜まっているところの縁を温泉が通る道筋を作って……」

「くくく、あれは道筋というよりは線だぞ」


 俺は声がした方に振り向くと静かになった。

 

「出口に向かって傾斜になるようにして……」

「あれは……傾斜なのか?」

「これは上から見た図ですよ!」


 今は中央に丸で書いた温泉から、温泉が通る道筋の線が出て、ため湯ができるところまでを描いた。


「ああ、そうか……」


 反応からして伝わっていないのだろう。

 俺が立体的に構図できるはずがない。

 圧力鍋は知っているから描けたが、温泉施設なんて描いたこともないし、意識して作りを見たことがない。


「ここで温泉卵と蒸し料理を作るといいかもな」


 でも、理想的な形はある。

 それに溜め池のサイズで温度管理もしやすくなるだろう。

 あまり温泉が熱すぎてものぼせちゃうからな。

 ゼルフや白玉を見ていると、慣れていない人は温度は少し低めが良い気がする。

 それに鍛冶作業をしているドワーフなら尚更だ。


「あっ、そこで入るわけじゃないのか」

「男女で入るところは分けた方がいいですからね」

「あー、だから虫の角みたいなのが……いや、何も言ってないからな」


 俺の書いた水路は虫の触角に見えるようだ。

 形を伝えたら、あとはどうやって傾斜を作るのかが問題になる。


「温泉はどれぐらいのペースで溢れてくるんだ?」

「あー、週の半分は出てくるぞ」

「ってことは作業時間もあまりないってことか……」


 俺が来たのはたまたま温泉が干上がっているタイミングだった。

 一週間の中で満潮と干潮になっているようなイメージに近い。


「傾斜はどうにかするとして、魔物はどうするんだ?」

「それはわしらだけでは倒せないぞ」


 温泉がないタイミングは魔物は活発的になる。

 その間に水路を掘って傾斜をつける必要があるから、突貫工事になるだろう。

 ただ、魔物に関しては優秀な仲間がいるからな。


「あそこにいるやつが魔物は間引いてくれるはずだ」


 今はキッチンカーの中で、全裸で項垂れているけど……。


「おお、あの魔導具はそんな使い方があったのか!」

「それは助かるな!」


 どうやらゼルフではなく、キッチンカーによって魔物を退治すると思われているようだ。


「あれは料理をするため……いや、それもありなのか……?」


 今のキッチンカーは前よりも丈夫になっているし、あいつにはみんなが怯えるほどの機能がついている。


 その名も――〝ドラクション〟だ!


 あのドラゴンが唸るようなクラクションで魔物が怯えている間に倒せばいけるかもしれない。


「洞窟の奥は少しずつ狭くなっていたりするか?」

「いや、そんなには狭くないぞ」


 肝心のキッチンカーも洞窟の中には入れそうだしな。


「それに奥は行き止まりになるし、あそこまでは行かないだろうしな」

「行き止まりなんですね。じゃあ、あのコウモリは何に怯えているんだ……」


 コウモリは俺たちを襲ってきたというよりは、何かから怯えて逃げてきたって印象に近かったからな。

 一番奥に何かがいるのだろうか。


「ああ、奥には巨大なカエルの魔物がいるからな」

「……カエル?」

「その魔物がブラッドバットを食べに泳いで近づいてくるから、あそこで身を寄せ合っている」


 ドワーフはコウモリたちを指さしていた。

 コウモリたちはチラチラと洞窟の奥を気にしていた。


「……ほら今も長い舌が見えただろ?」


 言われてみれば、何かが洞窟の天井に向かって伸びたような気がした。

 異変に気づいてすぐに逃げてきたが、あのまま温泉にいたら、俺たちもカエルに食べられていたかもしれない。


「じゃあ、作業は温泉が干上がってきたタイミングでしましょうか!」

「おっ、それもそうだな」


 温泉を洞窟の外にまで伸ばすのは、ドワーフも問題ないようだ。


「その間にわしらがちゃんとしたものを描いてこよう」

「おお、それがいいな」

「何かあってからじゃ、遅いからな」


 俺が描いた構図を持って、ドワーフたちはそそくさと帰って行く。


「なぁ、兄ちゃんの説明わかったか?」

「いや、わしはなんとなくしか理解してないぞ」

「わしもじゃ……。料理の才能があっても絵はダメなんだな……」


 チラッと振り返るドワーフたちは、どこか残念そうな視線を俺に向けていた。


「知ってるものしか描けないだろ……」


 むしろ構図を描けるドワーフがすごい。

 今度は俺の描いたメニューでも見せてやろう。

 この際、温泉の商品なら俺でも描けそうだしな。

お読み頂き、ありがとうございます。

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