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キッチンカーと巡る異世界グルメ~社畜と無愛想貴族、今日も気ままに屋台旅~  作者: k-ing☆孤独な王子①6/8発売
第三章

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69.料理人、あっさり朝食を作る

「あれは何の行列だ?」


 キッチンカーに向かうと、なぜかドワーフたちが集まっていた。

 まるでオープン前からすでに行列ができているようだ。


「昨日、声かけでもしたか?」

「いや、俺は何もしてないぞ」


 ゼルフが声をかけていないってなると、白玉が何かしたのだろうか。

 俺とゼルフは足元にいる白玉をジーッと見つめるが、『クゥエ?』と言って首を傾げていた。

 どうやら俺たちが何かしてできた行列ではないらしい。


「何かありましたか?」


 俺はドワーフたちに声をかけると、一斉に顔がこっちを見た。


「「うぉ!?」」

『クゥエエエエ!?』


 ゼルフの厳つい顔を見慣れていても、一斉にドワーフから視線を向けられると、その圧迫感に後退してしまう。

 でも、ドワーフたちにはそんなの関係ない。


「おおお、待っておったぞ!」

「あっさりする飯を食べさせてくれー」


 どうやらドワーフたちは朝飯を食べにきたのだろう。


「ワッシも頭が痛くてな……」


 その中には若手ドワーフのドワンもいた。

 きっと飲み過ぎて二日酔いになっているのだろう。

 ゼルフも昨日飲み過ぎていたし、ドワーフは毎日酒を飲んでいるからな。


「今から準備するので待ってくださいね」


 俺は冷蔵庫の中を確認する。


「あー、材料はあるけど時間がかかるよな……」


 キッチンカーは自動修復で材料はあるものの、すぐに食べられるものは特にない。


「あるのは冷凍した米だけど……ゼルフ、白玉使っていいか?」


 俺は冷凍ご飯を使っていいか確認する。

 角煮丼を作ろうかと思ったけど、ゼルフたちが食べ切ったことで余ったご飯だ。


「あー、美味しいもんを作ってくれるなら?」

『オイラも!』


 まさかドワーフと一緒にお客の立場で考えていたとは思わなかった。


「お前らにも手伝ってもらうからな」

「えー」

『クゥエー』


 どこか嫌そうな顔をしているが、俺がタダ飯をさせるわけがない。


「それなら朝飯はなし――」

「いやいや、やります! やらせてください!」

『オイラも!』


 やっぱりご飯で釣る……手伝ってもらうのが一番楽だな。


「おにぎりだけだと味気ないよな?」

「俺はいいぞ?」

『オイラもおにぎり好きだぞ!』


 おにぎり好きに聞いたのが間違いだった。

 さすがに解凍しただけのおにぎりだと味気がないからな。

 それに料理人の俺がそんなものを提供するわけにはいかない。


「ゼルフはご飯を解凍してくれ」

「オッケー!」


 ゼルフは電子レンジに小分けにしたご飯を入れて温めている間に醤油とみりんを同量混ぜていく。


『ハルト、ひょっとして――』

「ああ、焼きおにぎりでも作ろうかと思ってね!」

『クゥエエエエ!』


 焼きおにぎりと聞いて白玉は大喜びしていた。

 ゼルフと白玉はお腹を空かしていることが多いから、保存食としておにぎりを作ることが多い。

 ただ、おにぎりだと中身の具材を変えないと、レパートリーが少ないし飽きてしまう。

 まあ、あいつらは気にせず、ずっと食べているけどな。

 そこで考えたのが焼きおにぎりだ。


「ハルト、温めたぞ」

「よし、じゃあ全部焼くぞ!」


 ラップを全て外して、フライパンの上に並べていく。


「焼きながらこのタレをつけて、焼きおにぎりを作ってくれ!」

「任せておけ!」


 ゼルフは腕まくりをして、気合いを入れた。

 ただ、スプーンでタレを掬って、おにぎりにかけていくだけなのに……。

 その間に俺は昆布で出汁を取っていく。


「ちゃんと焼けてるか?」


 俺はチラッとゼルフの手元にあるフライパンを覗くと、しっかりとした焦げめがついており、香ばしい甘めの醤油の匂いが漂っている。

 窓からドワーフたちもよだれを垂らしながら、キッチンカーを覗こうとしているが、身長が足りないのだろう。

 みんなピョコピョコ飛んでいるが、二日酔いに苦しめられていた。


「その間に簡単な副菜でも作るか」


 きゅうりを取り出して、大きめの一口サイズに切り、ジップロックに入れる。


『オイラも手伝うぞ!』

「ああ、ちょうど白玉に頼もうと思ってたところだ」


 俺はきゅうりが入ったジップロックを渡し、白玉をその上に乗せる。


「きゅうりを踏んで潰してくれ!」

『クゥエ!?』


 食べ物を踏むことに白玉は罪悪感があるのだろう。

 ゆっくりときゅうりの上に足を乗せた。


『クゥ……エ……クゥエエエ……』


 足踏みをする白玉。


『クゥエ! クゥエエエ!』


 次第に足に伝わる感触が気持ち良いのか、楽しそうに足踏みをしていた。


「ハルト、全部焼けたぞ!」


 焼きおにぎりが出来上がると、深めの紙皿に一つずつ載せていく。

 自動修復のおかげで、紙皿も全て元通りだからな。


「昆布を取って、鰹節を入れて……あとは濾せば完成だな」


 俺が作ろうとしていたのは焼きおにぎりのお茶漬けだ。

 二日酔いにはあっさりとしたお茶漬けがちょうど良いからな。

 鍋の中には濁りのない淡い琥珀色の出汁が完成した。

 鼻を近づけると、主張しすぎないかつおの香りに、昆布のやわらかな旨味が重なり、ほっとするような匂いが立ちのぼる。

 お玉で一杯出汁を掬うと、そのまま焼きおにぎりの上にかけていく。


「うわっ……よだれが止まらないな……」

『オイラも早く食べたいぞ!』


 焼きおにぎりに出汁が染み込み、じわりとタレが広がっていく。


「最後に香りを強くするために、粉々にした鰹節をかければ完成だ!」


 電子レンジで少しだけ鰹節を温めれば、手で擦ると自然と鰹節は粉になる。

 ふりかけのように、パラっとお茶漬けに乗せるだけで、鰹節の匂いがさらに食欲をそそる。


『ハルト、これはどうする?』


 俺は白玉の方を見ると、きゅうりを踏んでもらっていたことを忘れていた。

 すぐに塩もみをして、胡麻、少しだけ醤油で味付けしてジップロックを振る。

 できたのは簡単にできるきゅうりの和物だ。

 本当は浅漬けとかがよかったけど、漬ける時間がないから仕方ない。


「おーい、できた――」

「早くくれー!」

「待ちきれないぞー!」


 まるでゾンビのようにドワーフの手がキッチンカーの外から伸びている。

 ドワーフの身長だと、キッチンカーって調理場って少し高めだもんな。

 一人ずつに渡すと、すぐに遠くから雄叫びのような声が響く。


「うめええええええ!」

「あぁ……酒が抜けていく……」


 せっかく飲んだ酒が抜けていいのかわからないが、これから仕事するならちょうど良い腹ごしらえになるだろう。


「和物も食べてくれ!」


 大皿に載せたきゅうりの和物もすぐになくなっていく。

 ドワーフってきゅうりを食べるイメージがないが、さっぱりしたものも食べられるようだ。


「おい、俺たちも食べてもいいか?」

『ハルト、なくなっちゃうぞ!』


 ジーッと見つめてくるゼルフと白玉に俺は頷くと、すぐに手を合わせた。


『「いただきます!」』


 挨拶をすると、一気にお茶漬けをかき込んでいく。

 礼儀正しいのか悪いのかわからないな。


「うめぇー!」

『クゥエー!』


 ……うん、こういう時はそういうのは考えない方が良いのだろう。

 俺も焼きおにぎりをスプーンで崩しながら、一口食べてみる。


「おぉ……旨味たっぷりの出汁と焼きおにぎりの相性がいいな」


 口に入れた瞬間、香ばしさと一緒に熱い出汁がじんわりと広がり、身体の奥まで染み込んでいく。

 焼きおにぎりのタレがさらに食欲をそそるし、全身に温かさが広がりポカポカとしてくる。

 二日酔いでもこれならいくらでも食べられ――。


『「「おかわり!」」』


 おかわりを催促する声たち。

 だけど、残念ながら――。


「今回は一人一杯しか作ってないから、おかわりはないぞ!」

「「えー!」」

『クゥエー!』


 今日聞いた中で一番大きな声が町の中にも広がっていた。

お読み頂き、ありがとうございます。

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