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キッチンカーと巡る異世界グルメ~社畜と無愛想貴族、今日も気ままに屋台旅~  作者: k-ing☆孤独な王子①6/8発売
第三章

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70.料理人、温泉に入る

「なあなあ、本当におかわりはないんか?」

『オイラも足りないぞ……』


 焼きおにぎりのお茶漬けを催促をする食いしん坊を横目に俺はキッチンカーの片付けをする。


「チッ! お願いしたらおかわりをくれるってのは嘘か」


 ボソッとドワーフが呟いていた。

 俺はゼルフの顔を見ると視線を外す。

 きっと酔っ払っている時に話したりしたのだろう。

 お願いしたらおかわりが出てくるのは、ゼルフと白玉だけだからな。


「ゼルフ、飯抜きにするぞ?」

「なっ!? 俺は何も言ってないぞ! 酔っ払っていた過去の俺のせいだからな!」

『それはゼルフのせいだよ?』


 白玉に言われてゼルフは静かになった。

 ここは飯ではなく、酒を禁止にした方が良いだろう。

 今後何をやらかすのかわからないからな。


「今日は酒でも飲むか!」

「おっ、それはナイスアイデアだな!」


 ドワーフたちはゾロゾロと町へ戻って行こうとする。

 昨日までのやる気はどこに行ったのだろうか。

 ひょっとしたら、俺の料理を食べて堕落してしまったのか?

 そんなドワーフたちの後ろ姿を見送ると、若手ドワーフのドワンだけが残っていた。


「兄ちゃん、この間言っていた鍋の上に乗せるやつはこれでいいか?」

「もう蒸し器ができたんですか!?」

「ああ、上に乗せるだけなら簡単だからな」


 寸胴を受け取った時に蒸し器が作れるか確認したが、まさか次の日に持ってくるとは思わなかった。


「言われた通りに底に穴をいくつもに空けておいたぞ」

「おぉー、ちょうどサイズも少し大きいぐらいなので助かります」


 見た目は蓋付きのフライパンみたいになっているが、底に穴がいくつも空いており、中央から外側に向かって穴は大きくなっている。


「これで何を作るんだ?」

「蒸し料理を作ろうかと思ってね!」


 温泉で思いついたのが蒸し器だ。

 蒸し器があれば茶碗蒸しや蒸し野菜など料理の幅は広がる。

 俺はニヤリと笑ってゼルフの方を見る。


「なっ……なんだよ……」

「たっぷり野菜を食べさせてやるからな」


 野菜よりも肉を好むから、中々バランスが取れた食事が作りにくかった。

 嫌がらせかのように野菜盛り盛りで出してやろう。


「じゃあ、ワッシも帰るぞ」

「鉱石を取りに行かないのか?」


 俺の言葉にドワンは足を止めた。


「今日はどうせ行っても取れないからな!」


 どうやら日によって鉱石が取れる日とそうじゃない日があるようだ。


「熱い水が溢れて、鉱石が取れるとこまで水が上がってくるんだ」

「温泉が湧き出す日があるってことか……」


 ドワンの話では、定期的に温泉が湧き出て、鉱石が取れるところから温泉で埋まってしまうらしい。

 それまではドワーフたちは鍛治仕事がメインになり、家にこもることが多いと言っていた。


「その熱い水は入れるか?」

「あぁ……手前なら大丈夫だが、変な匂いがするぞ」


 きっと変な匂いって硫黄のことを言っているのだろう。

 あまりにも匂いが強いと硫化水素の成分が強いため、命に関わるかもしれないが洞窟入り口なら大丈夫な気がする。


「なぁ、せっかくだから温泉入りに行こうぜ!」

「変な匂いがするって言ってたけど大丈夫か?」

「それが温泉の醍醐味だからな」


 キッチンカーを片付けた俺たちは宿屋から体を拭くための布を借りて、洞窟に向かうことにした。



「うぉー、本当に硫黄の匂いがするぞ!」


 洞窟に近づくと、硫黄の匂いが外からでもわかるほどだ。


「大丈夫か?」

「ん? 何がだ?」

『オイラも入れるかな……!』


 独特な匂いにゼルフと白玉は大丈夫か気になったが、そこまで気にしていないようだ。


「おっ、やっと見えてきたぞ!」


 洞窟が見えてくると、あまりの嬉しさに俺は駆け足で近づいていく。

 社畜にとって温泉は一瞬だけでも現状を忘れることができる癒しだからな。


「おい、魔物が出てきたらどうするんだ! 後ろを歩けよ!」


 ゼルフは俺の襟元を掴み、後ろに引っ張る。

 あまりにも温泉を楽しみにしていたため、魔物が出てくるのを忘れていた。

 洞窟の中では魔物が出てくるって聞いているからな。

 ただ、温泉の中に魔物が出てくるのだろうか。

 周囲を確認しても、魔物がいる様子はない。


「先に入るぞ」


 俺は服を投げ捨て、ゆっくり湯に足先を入れてみる。


「……っ、あっつ……」


 思わず体がぶるりと震えた。

 じんわりと熱が広がっていくのに、肌は一瞬だけ拒むように強張る。

 だが、数秒もすればその熱さが心地よさに変わっていく。


「んあぁ……ちょうどいい湯加減だ」


 肩まで湯に浸かると、全身の力が抜け落ちてやっとリラックスする。

 今までは布で体を拭くか、川に入って汚れを落とすことが多く、そこにはリラックスを目的とすることはなかった。


「なぁ、俺も入っていいか?」


 ゼルフも気になったのか、その場で服を脱ぎ捨てた。

 全身が傷だらけの体も温泉の効果で、皮膚もつっぱりにくくなるだろう。


「そんなに俺の体を見て……まさか!?」


 ゼルフは急いで服で体を隠す。


「誰もお前の〝いやーん、エッチ♡〟って展開は求めて――」

「俺を湯がいて食べる気だろ!」


 まさかの返答に俺は呆然とする。

 それはゼルフも同じだろう。


「「……えっ?」」


 俺たちの声が重なり、洞窟の中はさらに静かになる。


「……食べる?」

「いや、なんでそうなるんだ?」


 どうやらゼルフは思っていたよりも純情なのかもしれない。

 顔が少し怖いだけで、ご飯を食べている時は少年みたいだからな。


『ゼルフ、いつまでそんな姿でいるの? ひょっとして恥ずかしいんだな!』


 白玉は俺たちの会話を聞いて、何を勘違いしたのかゼルフの服をくちばしで引っ張った。

 ここにも空気が読めないやつがいたな。


「おい、やめろよ!」


 俺は止めようとしたが、すでに遅かった。

 服を引っ張った勢いで姿勢を崩すゼルフと白玉。

 少しずつ近づいてくるゼルフ……いや、◯玉と白玉と言った方がいいだろう。

 白玉は問題ないが、もう一つ……いや、二つあるやつのほうが問題だ。

 俺はすぐに半身をずらすと、勢いよく水飛沫が上がる。


「おい! 避けるってどういうことだ!」

「いやいや、避けないとさすがに色々な意味で危ないだろ!」


 二つの玉も危ないが、一緒に佇む……いや、獲物を探しているアナコンダの方は危ない。

 ゼルフの顔よりも、ジュニアの方が危険だったとはな……。

 恐るべし異世界だ。

お読み頂き、ありがとうございます。

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