66.料理人、宿屋でも一緒
「お前、また飲みすぎただろ……」
「角煮が美味かったからなー」
俺と肩を組んで楽しそうに歩くゼルフに俺は呆れていた。
あれだけ二日酔いになって、酒に懲りたと思ったがドワーフに誘われてガバガバと飲んでいた。
今回は俺の代わりではなく自らの意思で飲んでいたが、それだけ安心した環境なんだろう。
異世界でも飲みニケーションがあるとは思わなかった。
『オイラも角煮好きだぞ!』
「それならまた今度作ってやる」
どうやらゼルフと白玉は角煮が大好物になったようだ。
豚似の魔物を倒せば、あっさりした豚肉が手に入るからな。
「ひひひ」
頑丈になったキッチンカーを試すチャンスはきっとその時だろう。
「おい、顔がこえーぞー」
「お前に言われたくないわ!」
俺の頬にブスブスと指を突き刺すゼルフの手を弾く。
前回よりは意識がしっかりしているが、相当酔っているのだろう。
「ほら宿屋に着いたぞ」
「うぉー、ベッドだー!」
ゼルフは俺の肩から手を放し、ベッドに飛び込んでいく。
宿屋は小ぢんまりしており、ベッドが二つと机が置いてあった。
ビジネスホテルって感じに近い。
ちなみに個室にしようかと思ったが、酔っているゼルフを一人にするのは忍びないと思い同室にしている。
「ほらほら、ハルトも一緒に寝るぞ!」
ゼルフはベッドをバシバシと叩いて、俺を呼んでいる。
「せっかくの宿屋に同じベッドは嫌だね」
「なっ……ハルトは俺のことが嫌いなのか。あー、そうかそうか」
酔っているゼルフは思ったよりもめんどくさかった。
知っていたらもっとドワーフに飲ませるように伝えれば良かったな。
『ねぇ、オイラのベッドはないの?』
「「あっ……」」
俺とゼルフが寝る分のベッドを頼んだが、白玉のことを忘れていた。
『クゥエ……オイラは床で寝ろってことだね。この丸々ボディなら痛くないと思っているんだ』
「いやいや、そんなことは思ってないぞ!」
『あー、まだ北京ダックになる方が良い人生だった』
まさか酔ったゼルフよりもひねくれた白玉の方がめんどくさいとは思わなかった。
俺はゼルフと視線を合わせる。
まずは白玉をどうにかした方が良いだろう。
「それなら俺と一緒に寝ればいい!」
『仕方ないなー。オイラが一緒に寝てやるぞ!』
ゼルフナイスだ!
機嫌が直った白玉は嬉しそうに跳ねていた。
ゆっくりと白玉はゼルフのベッドの中に入っていく。
「うっ……これは狭いな……」
ベッドの三分の一が白玉に占拠されていた。
俺よりもゼルフの方が体格が良いから、尚更狭く感じるだろう。
『クゥエエエエ! やっぱりオイラはその辺で野垂れ死ぬばいいと思ってるんだ!』
足をバシバシとベッドに叩きつけて、白玉の暴走は止まらない。
どうやったら落ち着くのだろうか。
さっきからゼルフと白玉は俺をチラチラと見ている。
きっと俺と一緒に寝ようって魂胆だろう。
「んー、ゼルフと寝て狭かったら、俺と寝ても同じだからな……」
ドワーフ仕様なのかベッドもシングルサイズよりも少し小さめだ。
どうせ俺と寝ても、どちらかがベッドから落ちるだろう。
「それならくっつければいいんじゃないか?」
「くっつけるって?」
ゼルフはベッドの足元を掴むと少しずつ動かしていく。
あぁ、小さなベッド二つを一つにするってことか。
俺も反対側を持ってベッドを運ぶ。
「これなら白玉も大丈夫じゃないか?」
『オイラが真ん中だぞ!』
機嫌が良くなった白玉は中央を陣取る。
俺とゼルフがVの字型に寝て、頭元に白玉がいれば確かに寝れそうだ。
まさかキッチンカーでもない宿屋で、こんなに苦労するとは思いもしなかった。
『ほらほら二人とも早く寝るぞ!』
率先して寝ようとする白玉の横で俺は寝転ぶ。
確かにこの寝方なら足が飛び出る心配もないし、全員でベッドで寝られそうな気がする。
朝からバタバタ動いて、最後にはベッドを運んで疲れた。
俺はそのままベッドに寝転ぶと、白玉が顔の辺りにいて、抱き枕としてもちょうど良さそうだ。
「もう先に寝るぞ」
目をつぶると、ゼルフと白玉のクスクスと笑う声が聞こえてくる。
「これで一緒に寝れるな!」
『オイラは演技派の聖鳥だぞ!』
「演技派ってどういうことだ?」
『そうでもしないとあの山では生きてられないからな……』
どうやらひねくれていた白玉は演技をしていたらしい。
確かにネフィル山では強そうな魔物がウジャウジャいたからな。
それに今頃演技だってことを知っても、眠気が襲ってきて怒る気にもなれない。
「じゃあ、俺も飲みすぎたから寝る」
『オイラも!』
「『あー、明日は角煮丼だ……』」
ついつい同じ言葉が出てきて、俺の眠気は少し覚め、クスリと笑ってしまった。
まさか角煮丼を楽しみにしているとは……。
んっ? 角煮丼……?
「お前らさっき角煮を全部食べてたぞ?」
俺はボソッと呟く。
「……ハッ!?」
『……クゥエ!?』
ベッドが大きく揺れた。
あまりにも揺れたため、俺はびっくりして目を開けた。
体を起こして俺の方を見ていたゼルフと白玉と目が合う。
向こうも驚いた顔をしている。
「本当に角煮は残っていないのか?」
「最後にキッチンカーに戻ってきて、バクバクと食べてたじゃないか」
「くっ……覚えてない……」
酔っ払ったゼルフは酒を片手にキッチンカーに戻って、明日の角煮をヒソヒソと食べていた。
俺はそのタイミングでドワーフたちの皿を集めて片付けていたからな。
『クゥエエエエ! ゼルフのバカアアアアア!』
白玉の叫び声が部屋全体に広がる。
遅い時間に叫んでいたら近所迷惑だ。
「圧力鍋ができたら、いつでも作ってやるから早く寝ろ」
「『ほんとか!?』」
「あぁ……」
喜んでいるゼルフと白玉の横で、あまりの眠たさに俺はそのまま眠りについた。
ただ、俺は後になって食べ物に関して約束しない方が良かったと知ることになった。
お読み頂き、ありがとうございます。
この作品を『おもしろかった!』、『続きが気になる!』と思ってくださった方はブックマーク登録や↓の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価して下さると執筆の励みになります。
よろしくお願いします(*´꒳`*)




