65.料理人、調理器具を提案する
「ゼルフ、これを運んでくれ!」
俺はできたばかりのおつまみメニューをドワーフに持っていくようにゼルフに頼んだ。
「これはなんだ……?」
「ああ、塩昆布キャベツだ! とりあえず、繋ぎでこれでも出しておけば問題ない」
「わかった!」
ゼルフは言われた通りに塩昆布キャベツを運んでいく。
「俺が食べたことないもんばかりだ……」
途中でチラチラと俺の方を見ているが、きっと自分も食べたいのだろう。
さっきからずっとこの調子だ。
『ハルト、さっきのやつをもう一回食べたいって!』
「だし巻き卵のあんかけだったか……?」
『それだ! オイラも食べたいぞ!』
ドワーフは酒飲みだから、つまみだけで良いと思ったが大間違いだった。
料理を出すたびにすぐに完食して、次を求めてくる。
食べたい欲求を抑えるどころか、もっと食べたいというアペリティフ効果が起きているのだろう。
まさかドワーフの食前酒があんなに多いとは想像もつかなかった。
酒飲みで大食いって、お店側として想像以上に厄介だ。
「兄ちゃん、この蒸し器ってやつは下に大きな鍋があればいいのか?」
「鍋の上に鍋が隙間なく置ける構造なら大丈夫です」
それに今回はお金を受け取らない代わりに、調理器具を好きなだけ作ってもらえる約束になっている。
ドワーフが作ったものは高価になるため、材料費も含めて得をするとゼルフが言っていた。
本来は酒のつまみで飯を食わせるつもりだったのに、気づけば飯と酒を前に何を作るかという話し合いそのものがつまみになっていた。
「よし、角煮も出来たから持っていけ!」
大量に作った豚似の角煮はしっかり中はホロホロになっているのに、思ったよりも型崩れしていなかった。
ちゃんと焼いたから身が引き締まったのもあるが、豚肉と比べて赤身が多かったのが良かったのかもしれない。
ゼルフと白玉が食べる分を別皿に残して、次々と出していく。
「うめええええ! なんだこれは!?」
「おい、酒が進むぞ! 脂は甘ぇのに、後味は締まってる……まるで鍛え抜いた剣みてぇだ!」
ドワーフが好きそうだと思い作ってみたが、口に合っているようだ。
「おい、今すぐに俺にも食わせろよ!」
「酒をドンドン追加しろ!」
角煮を食べたドワーフの元に、次々と集まっていく。
見た目が茶色の塊で地味だけど、食べた時の衝撃は強いからな。
「これが角煮か!」
『オイラも早く食べたいなー』
甘辛く、食欲をそそる匂いにゼルフと白玉も角煮に興味津々だ。
何度もよだれが垂れないようにすすっている。
これで酒も進めば、満腹になって食べる量も減るだろう。
「明日は角煮丼やチャーハンに使ってもいいな……」
俺は小声で呟いたはずなのに、ゼルフと白玉はキラキラした目をして大きく頷いていた。
まだ作ると言ってないのに、本人たちは作ってもらうつもりなんだろう。
角煮はほとんど煮るだけの料理なのに、とにかく手間がかかる。
本当は一度冷まして脂を固め、そこから味つけするつもりだった。
その方がさらに美味しくなるが、煮るのに時間がかかってしまうからね。
せめて圧力鍋があったら――。
「あっ、ドワーフのみなさん! 圧力鍋も作って欲しいです!」
俺は思い出したかのように声をかけた。
「「「圧力鍋……?」」」
ドワーフたちだけではなく、ゼルフや白玉も首を傾げていた。
蒸し器も伝わらなかったが、圧力鍋はさすがに作るのは難しいだろうか。
「どんな感じの物なんだ?」
「鍋と蓋が密封して、中の蒸気を逃さないようにする調理器具だな。ただ、そのままだと爆発するから、一定の圧力以上になると、蓋についた蒸気の逃げ道から圧を逃す構造なんだが……」
なぜかドワーフたちはその場で固まっていた。
まるで俺を心配するかの視線に今度は俺が首を傾げる。
「どうしたんだ?」
「料理に爆発も使うのか……?」
爆発すると伝えたから、それを料理に利用すると勘違いしたのだろう。
そんな料理があったら、料理家の命が何個あっても足りない。
「いや、そういう音がする料理もあるが、圧力鍋はちゃんと圧力を抜くからな」
ポン菓子とかポップコーンを見たら、ドワーフたちはびっくりしそうだな。
俺は圧力鍋もドワーフに作ってもらう調理器具の一つに入れることにした。
そこまで時間には追われていないから、しばらくはこの町で過ごすつもりだ。
目的の温泉もまだ入っていないからな。
「よし、マッシュポテトとチーズもできたぞ!」
ドワーフが作ってくれた小さなフライパンにチーズを溶かして、その中央にマッシュポテトを山盛り置いたのも完成だ。
周囲に茹でた冷凍のブロッコリーや根菜も置けば、チーズフォンデュのように楽しめる。
美味しいパンがあればもっと楽しめるが、作ってないから仕方ない。
「なぁ、俺たちにはあれないのか?」
『オイラもチーズのやつ食べたいぞ!』
ドワーフたちが美味しそうに食べている様子を見て、食べたくなったのだろう。
チーズはそこまで量があるわけではないから、使い切ってしまった。
「あー、あれはまた今度だな」
それを聞いたゼルフと白玉は走ってドワーフの元へ向かう。
「俺にも分けてくれぇぇぇ!」
『オイラも食べるぞおおお!』
ドワーフたちに紛れて食べていた。
もうほとんど作り終えたから、混ざって食べていても問題ないだろう。
「なんだこれ! 今までこんな美味しいやつを隠してたのか!?」
『ホフホフ!』
そういえば、チーズを主体で使った料理を作ったことがないからな。
またどこかで補充できれば、いつでも自動修復で食べられる。
いつか乳製品が発達した町に行けたらいいな。
「ははは、兄ちゃんも飲め飲め!」
ドワーフに捕まったゼルフはまた今日も酒を飲まされていた。
きっと明日も二日酔いになっているだろう。
食材も使い切ったからこれでキッチンカーも終わり――。
「あっ!? 宿屋を探していなかった!」
「それならうちに宿屋に泊まればいいぞー」
どうやらドワーフの中にも宿屋を経営している人がいたようだ。
仕事をせずにこんなところで飲み歩いても良いのだろうか。
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