58.料理人、今日だけは仕方ないな
俺は持ってきた材料の中で豚バラをメインに使うことにした。
この町にくる途中で出てきた豚とイノシシが混ざったような魔物を捌いたものだ。
脂が多いためアルコールの刺激から守ってくれるし、おかずとしても使いやすいからな。
豚バラを1センチメートルの幅でスライスしていく。
「味付けは……濃い味噌味でいいか」
味噌、醤油、酒、砂糖、黒胡椒を適量混ぜ合わせる。
臭み取りや味のインパクトを強めるために、にんにくと生姜も忘れない。
イノシシに近ければ肉の臭みが出てくるから、多少味を濃いめに作った方が良いだろう。
酒のつまみとご飯のお供にもなるから問題はないはず。
「付け合わせは……めんどくさいからじゃがバターでいいか」
鍋に水を入れて、その上に皿を置いてじゃがいもを蒸していく。
あとは肉を焼くだけでいいからな。
「お前らー! ハルトの飯を食べたら抜け出せなくなるからな!」
「はははは! 兄ちゃん、もう酔っ払ってるのか!」
「もっと飲め飲め!」
ゼルフはドワーフたちにたくさん酒を飲まされていた。
このまま二日酔いにならなければいいけどな。
横目でゼルフをチラチラと気にしながらも、俺は調理を続けていく。
スライスした豚バラをそのままフライパンの上に載せる。
ジュワッと肉の焼ける音とともに、脂の甘く香ばしい匂いが立つ。
「思ったよりも良質な脂だな」
獣臭さもなく、思ったよりもさっぱりしているのかもしれない。
赤身と脂の境目がじわじわと色を変え、やがて焦げ目が浮かび上がる。
火を少し弱めたところに、にんにくと生姜を混ぜた濃い味噌ダレをゆっくりとかける。
その瞬間、空気が変わった。
「おい、なんか美味そうな匂いがするぞ!」
「腹が鳴るなんて久しぶりだな!」
「ほら、言っただろ! ハルトの料理はすげーぞぉ……!」
あぁ、ゼルフもだいぶ酔っ払ってきているな。
今もふらふらしながら、ドヤ顔をしている。
生憎、料理を作っているのは俺なんだけどな。
「おい、ゼルフにそんなに飲ませるなよー」
そんなゼルフを助けるためにドワーフに一声かける。
「なら兄ちゃんが飲むか?」
「……ゼルフに飲ませてくれ」
もうこれ以上は飲めないから、ゼルフには俺の代わりに飲んでもらおう。
陰でヒソヒソと料理を作っていく。
味噌の甘さと塩気が一気に焦げと混ざり、焼ける音が一段と低くなってきた。
鍋底に張りつく黒い膜。
それを削ぎ取るように肉を返すたび、照りが増してきた。
皿に豚バラの味噌焼きを載せ、できたばかりのじゃがいもを包丁で切り込みを入れて、バターを一欠片トッピング。
これで豚バラの味噌焼きとじゃがバターの完成だ。
「つまみができ……」
早速持っていこうとしたら、ドワーフたちの視線は俺の方に向いていた。
まさか俺に酒を飲めと――。
「兄ちゃん、早くそれを食わせてくれないか?」
「さっきから良い香りが鼻にこべりついて離れねーよ」
できたばかりの料理が気になっていたようだ。
「どうぞどうぞ!」
俺が皿を差し出すと、ドワーフたちは酒を片手に群がってきた。
「脂とこの茶色のやつのおかげかいくらでも酒が飲めるぞ」
「あぁー、酒が進むぜ」
「こっちの芋は甘味と塩味がちょうどいいぞ!」
「ぬぁ、それは俺のやつだろ!」
いくつかの大皿に分けたはずなのに、どんどんと無くなっていく。
満足してもらえたなら良かった。
その間に俺はぐったりとしているゼルフを回収する。
「おい、飲みすぎだぞ?」
「へへへ、俺もハルトの役に立っただろ……」
今にも眠たそうにトロンとしているゼルフを俺は引きずっていく。
ゼルフなりに酒を飲まさないようにドワーフを引きつけていたのだろう。
今は出来立ての料理に興味津々だから、その間に俺たちはキッチンの片隅に逃げる。
『ゼルフ……生きてる?』
「たぶん生きてるんじゃないのか?」
ぐでんとしたゼルフは視線が定まらずボーッとしている。
コップに水を入れて、レモンを一絞りしてからゼルフに渡す。
「俺は……もう飲めにゃいぞ……」
「あー、そうだな。でも、水だけは飲まないと明日が辛いぞ」
普通の水よりは口の中もすっきりして飲みやすいだろう。
顔に近づけると、鼻でスンスンと匂いを嗅いでいた。
まるで犬みたいだが、口をつけると自然とレモン水を飲んでいく。
「ふへへ、これもうみゃいな……さすがハルトだぁー」
ふにゃふにゃとしたゼルフに俺と白玉は顔を見合わせる。
何というのか……。
「気持ち悪いな」
『気持ち悪いね』
当の本人は自分が言われていることに気づいてないだろう。
今も俺の手からレモン水を飲んでいるからな。
でも、食事に対して抵抗感があった男がドワーフの酒を当たり前に飲んでいたし、俺の作ったものは疑うことなく口にしている。
それだけゼルフの中でも食事を摂取することが日常になってきたのだろう。
出会った当初なら、俺の手から水を飲むって行為は絶対しなかった。
「豚バラの肉味噌はさすがに――」
念の為に顔の前に皿を近づけると、キリッとした顔でゼルフは俺を見つめてきた。
「食べる!」
あぁ、完全に酔っ払っている顔だな。
あまり食べさせすぎて夜中に吐いても大変だろう。
「おい、口を開ける」
「うん……」
俺は一口サイズに切り、ゼルフの口に突っ込む。
皿ごと渡すと全て食べそうだからな。
モグモグとゆっくり噛んでは口を開けて待っていた。
本当に面倒なやつだ。
そんな俺たちを見て、脇腹をツンツンしてくるやつがいた。
『ねぇねぇ、オイラも食べさせてよ』
「はぁん!?」
白玉もお皿をくちばしで押して甘えてくる。
酔っ払ってもないのに、本当に面倒なやつらだ。
「はぁー、仕方ないな」
まるで介護している気分になりながらも、俺はゼルフと白玉に交互に食べさせる。
「やっぱりハルトは最高だー!」
『クゥエエエエエ!』
正直食べさせるのはめんどくさい。
もっと寄越せと急かしてくるからな。
だけど、美味しそうに食べている姿を見ると、料理人として嬉しく思う。
「お前ら……ほら、早く食え!」
今日だけは仕方ないと、ため息をつきながら手だけは止めなかった。
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