57.料理人、酒は飲んでも飲まれるな
キッチンカーに戻ると、荷台部分からゴソゴソと音が聞こえてくる。
「誰だ!」
俺は声を張り上げて中を覗いた。
「ゴホッ! ゴホッ!」
『クゥエエエエエ!』
そこには驚いているゼルフと白玉がいた。
こいつらだけでキッチンカーを使うことはないのに、なぜここにいるのだろうか?
「どどど……どうしたんだ?」
ゼルフは何かをすぐに隠して、そっぽ向いている。
「何やってたんだ?」
「何もやってないぞ!」
『オイラはまだ何もしてない!』
俺は詰め寄りジーッとゼルフの顔を見る。
「ゼルフ、口元に米粒がついているぞ?」
「なっ!? ほんとか!」
ゼルフはすぐに手で口を触ると、ラップに包んだおにぎりが転がってきた。
「『あっ……』」
「ふーん、何もやってない……? 一口食べた形跡があるけど?」
どうやら勘で言ってみたが当たるようだ。
ゼルフと白玉が料理できないことは、俺が一番知っているからな。
「ハルトが飯抜きって言うからさ……俺に死ねってことか!」
一食抜いたぐらいで人は死なないだろう。
むしろ俺と出会う前は毒を食わされて死にそうになっていたし、まともな食事を食べたことないと言っていただろ。
そんなことを思いながらも、ゼルフは俺の襟元を掴むとブンブンと揺らしてくる。
酒を飲んでいたのもあり、視界がだんだんとボヤけてきた。
『オイラはまだ何もやってないぞ? むしろゼルフを止めたぞ?』
「おにぎりが残っているって教えたのお前だろ!」
『オイラは教えただけだぞ!』
耳元で言い争うのだけはやめてほしい。
俺はゼルフの手を払いのけて、すぐに荷台部分から降りる。
「オエエエエエ!」
俺はその場で嘔吐する。
久しぶりに飲んだのもあり、少しの酒でここまで吐くとは思いもしなかった。
「大丈夫か……? おい、死なねえ……よな」
『ゼルフ、回復ポーションを用意するんだ! ハルトが死んだらオイラたち……』
「『死んじまう!』」
本当にこいつらは大袈裟だな。
俺がいなくても死ぬことはないのに……。
俺は体を起こして、口の中を水でゆすぐ。
少し吐いたら楽になってきた。
「お前たちそんなに俺の飯が好きなのか?」
「『うん!』」
即答されると俺も嬉しくなってくる。
俺も酔っ払っているのだろうか。
「俺がいなかったらどうするんだ?」
「野垂れ死ぬだけだ」
『オイラも北京ダックになるぞ!』
少し意地悪に質問してみたが、あまりにも真面目な顔で答えてくるから、だんだんと恥ずかしくなってきた。
「どうせ俺より料理の方が大事なんだろ?」
「何言ってんだ? ハルトも大事に決まってる」
『ハルトが好きだから料理も好きなんだぞ!』
俺はすぐに目を見開いて、キッチンカーのタイルを数える。
こうでもしないと、目から涙が溢れ出てきそうだ。
俺は酒を飲むと泣き上戸になるのを忘れていた。
当たり前のように、そんなことを言うから俺もどうしたらいいのかわからねぇ。
今までそんなに大事にされたこともないからな。
家族はずっと前からいないし、社会に出てもただの駒のように働いていた。
そこに感謝の言葉はなく、あるのは毎日責任を押し付けられる毎日だった。
「俺はハルトがいたからここまで生きてこられた。これからも俺の命はハルトのものだ」
ゼルフは俺の肩を優しく叩く。
あぁ……これはやばいぞ……。
『クゥエ……ゼルフせこいぞ!』
「ふんっ! 俺はお前よりハルトとの付き合いが長いんだぞ」
『オイラだって、ハルトと早く会ってたらチキン南蛮とタルタルソースの関係だったぞ!』
ゼルフと白玉の言い合いに自然と涙が戻ってくる。
「ははは、一日しか変わらないのに何言ってるんだ」
俺はついつい突っ込んでしまった。
やっぱりこいつらはこうじゃないとな。
これがこいつらの良さだ。
「向こうで飯を作ってやるから、お前らも来いよ」
「俺らも食べていいのか?」
「その代わり一緒に荷物は運んでくれよ」
俺は冷蔵庫から材料を取り出して、調味料と一緒に持っていく。
厨房のようなところにはフライパンがあったから問題はないだろう。
『オイラ、腹ぺこぺこだ!』
「それならおにぎりも一緒に持っていくか」
余っているおにぎりもついでに持っていくことにした。
締めのお茶漬けとかに利用できるからな。
それにゼルフと白玉が食べるってなると、ある程度腹持ちの良い炭水化物は必要になる。
俺たちが建物に戻る頃には外にも楽しそうな歌声が聞こえてくる。
しばらく経つと酔いも覚めてきて冷静になってきた。
「なぁ、ドワーフって酒好きばかりなのか?」
「基本的にはな。鍛治と酒が好きだから、鉱山地帯に住んでいることが多い。ちなみに俺はハルトの料理が好きだせ!」
『オイラも!』
ゼルフはここぞとばかりに俺を煽ててくる。
俺が作らないって再び言うと思っているのだろう。
今まで本当に作らなかったことはないことに気づいてないのか?
「はいはい」
俺は適当に返事をしながら建物に入ると、鼻の奥がツンとしてきた。
さっきよりもアルコールの匂いを強く感じた。
「よっ、兄ちゃん帰って……仲間を連れてきたのか!」
「ほらほら兄ちゃんも飲め飲め!」
一瞬でゼルフはドワーフたちに連れていかれた。
あれだけ高アルコールの酒を飲んでいるのに見た目は変わらず、気分が良くなった程度にしか見えない。
ドワーフって人間とは全く別の人種なんだろう。
『オイラも飲んでみたかったな……』
ポツンと残された白玉が俺のところにやってきた。
白玉の視線を受けながら、俺は苦笑して肩をすくめた。
「さすがにコールダックはアルコールの分解も苦手だからやめた方がいいぞ」
『クゥエ……?』
「アルコールは肝臓で分解されるけど、きっとドワーフが想像以上に肝臓が強いだけだ。脂肪を溜め込むアヒルならアルコール分解もできそうな気もするが、最悪死ぬかもしれないからな」
俺の言葉に白玉は小刻みに震えていた。
アヒルの肝臓は脂肪を溜め込む性質が強い。
それでできるのがフォアグラだ。
人間の脂肪肝は機能が落ちてできてしまうが、アヒルは機能を高めて脂肪肝になる。
ただ、それがアルコール分解に働くかと言ったら別だからな。
優しく白玉の頭を撫でると、震えは止まった。
『オイラ、一生酒を飲まないぞ!』
「代わりにこれでも飲んで待ってな」
俺は近くにある柑橘を水の中に搾って白玉に出す。
簡単なレモン水みたいなものだ。
『なっ……うまうまだ! さすがハルトだ!』
これだけで喜んでくれる白玉はきっと何を作っても喜んでくれるだろう。
「じゃあ、夕飯作るから待ってろよ」
『クゥエー!』
ドワーフたちが盛り上がっている傍で俺は早速料理をすることにした。
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