56.料理人、ドワーフ危険なやつら
異世界にきてやってはいけないことを一つ学んだ。
「うぉー! すげーな! もう一回だ!」
「いや、次は俺が乗る番だろ!」
「いやいや、お前は二回乗っているじゃないか!」
それは気軽にキッチンカーに乗ってみますかと声をかけることだ。
次から次へとドワーフが交代してキッチンカーに乗り込んでくる。
クルクルと5分くらい走っているだけなのに、時計を見るとすでに二時間近く時間が経っていた。
その間にゼルフと白玉は町の中に入って行ったのに、俺だけ町の中に入れずに運転席にいる。
まるで遊園地にある体験アトラクションの運転手の気分だ。
「今日はもう終わりに――」
「「「あともう少しだ!」」」
「はぁーい」
もうため息混じりの返事しか出ない。
ドワーフは鉱山地帯に好んでいる人ほど、鉄や金属が好きな人種らしい。
それもあってなのか魔導具と聞いたキッチンカーに興味津々だ。
ドワーフたちも魔導具として聞き入れているから、キッチンカーが魔導具になったということで間違いないのだろう。
正直、ゼルフに言われただけだと信じられなかったからね。
「この魔導具はどういう仕組みなんだ……」
「馬車とは作りが違うから全くわからないな」
「そもそも動力がどうやって伝わっているのか複雑すぎるぞ」
「中から見ても魔法陣が何一つ描かれていない……」
初めはワイワイと喜んでいたのに、二回目からはずっとぶつぶつと呟いているから正直居づらい。
俺が会話の中に入れるような話でもないからな。
「魔石で動くにしても効率が良すぎる」
「魔鉱石を使っているのか……」
「「どうなんだ?」」
「さっ……さぁー?」
俺に問い詰められても車の構造は良くわからない。
むしろキッチンカーって車よりも調理ができる環境が付いているのが魅力だからな。
――プスッ……ドゥル……ドドド!
あまり聞いたことのない音が聞こえ、すぐにメーターを確認するとガソリンが底をつきそうだ。
向きを変えて町の方に向かっていく。
「そろそろ燃料切れになります」
「そうか……」
やっとこれで解放されそうだ。
「ならまた今度乗せてくれないか?」
「明日はどうだ?」
「魔石ならいくらでも用意するからな! それよりも今から熱く語り合おうじゃない!」
二人のドワーフは楽しそうに問い詰めてくる。
ただ、俺は返事することもなく、町の入り口でキッチンカーを止める。
勝手に約束をして面倒なことに巻き込まれるのも嫌だからな。
町の中に入ると、俺を見捨てたゼルフと白玉がいた。
「お前ら……晩飯抜きだからな」
「なっ!? 俺は何もやってないだろ!」
『オイラもだぞ!』
「せめてドワーフが熱血なやつらだって教えてくれよ!」
「『……』」
ゼルフと白玉は黙ってそっぽ向いていた。
絶対知ってて何も言わなかったのだろう。
まぁ、俺から乗ってみるか聞いたのが悪い。
だけど熱血にも限度があるからな。
ここまで暑苦しいやつなんて身近にいなかったから、対処の仕方がわからない。
「おい、兄ちゃんいくぞ!」
「兄ちゃんは酒好きか?」
「いや……」
「「好きそうだな!」」
俺はドワーフたちに引っ張って連れて行かれる。
小さな体にどれだけそんな力があるのだろうか。
「おい、みんなで歓迎会するぞ!」
「酒を持ってこーい!」
ドワーフの声が町全体に広がり、たくさんのドワーフたちが集まってきた。
気づいた時には広い部屋に押し込められて、ドワーフたちは持ってきた酒を片手に飲み会が始まった。
まるで学生の飲み会を間近で見ている……いや、巻き込まれているような感覚だ。
「兄ちゃんは鍛治好きか?」
「いや、鍛治よりも魔導具だろ?」
「たしかにあのキッチンカーってやつを見ていたら、魔導具好きなのは確かだな」
「すごい高かっただろ?」
「あれだけの魔導具なら一億ルピは硬いな」
「それでも安い方じゃないか?」
「あぁ、あれなら国が欲しがる代物だからな……」
この世界でのキッチンカーが想像よりも凄いものだと改めて認識した。
一億ルピって日本円にしたら一億円だぞ。
それなのに、安くても一億円って……。
「兄ちゃん、顔が真っ青だぞ?」
「酒が足りないじゃないのか?」
「早く飲め飲め!」
気づいた頃には手に酒を待たされて、口の中に押し込まれる。
「ゴホッ! ゴホッ!」
アルコール消毒を飲んでいるような感覚で思わず咳き込んでしまった。
飲んだ瞬間全身が熱くなり、顔が真っ赤になってきているのかすぐにわかる。
「ははは、兄ちゃんも酒は好きそうだな!」
「口に入れられるぐらいだからな!」
いやいや、勝手に入れたのはお前たちだからな。
大きな声で笑っているドワーフにイライラするが、どこか頭がボーッとしてそれどころじゃない。
「おい、兄ちゃん大丈夫か?」
「さすがに火酒はまずかったか?」
「度胸試しには火酒だからな」
ドワーフたちはニヤニヤしながら、俺に飲ました酒を一気に流すように飲む。
「「くあああああ!」」
平気な顔して飲むドワーフはきっとアルコール中毒の集団のようだ。
香りは甘いのに喉が焼けるように熱く、まるで火を吹き出しそうだからな。
高アルコールのラム酒って言われたらわかりやすいだろう。
「鉱酒はどうだ?」
違うドワーフが別の酒を持ってきた。
鼻先に近づけると、どことなく煙や土ぽい匂いがする。
「ウイスキーなのか?」
見た目も琥珀色でどこかスモーキーなウイスキーに近い。
これなら飲みやすそうだが、さすがに俺はこのままでは無理だな。
「ちょっと水割りさせてくれ」
俺はふらふらしながらも近くにあった厨房に立ち寄る。
ウイスキーの水割りなら俺でも飲めるだろう。
水で割っていくと、鮮やかな薄めの琥珀色に変化していく。
この世界にきて初めてお酒を飲むが、これで美味しい料理でもあれば――。
「ドワーフって何も食べないのか?」
「酒を飲む時に食べるやつなんていないぞ?」
「ガハハハ! むしろ飯より酒だからな!」
「「「カンパーイ!」」」
嬉しそうにガバガバと酒を飲むドワーフたち。
さすがにつまみが無ければ、俺の胃が荒れてしまいそうだ。
「ちょっと材料を取りに行ってくる……」
俺は一度キッチンカーに材料を取りに行くことにした。
そういえば、ゼルフと白玉はどこにいるのだろうか……。
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