8 フェルンタウンのツヴァイクロー伯爵家
フロストタウンフェルンタウン間の駅舎町についたが、宿屋、食堂、厩舎の配置だけが変わっていて、建物の見た目も内装も一緒だった。
祖父の時代に一斉に工事が行われたので、設計も規格も全て統一されたらしい。
食堂のメニューはある程度は統一されているが、輸送で送られてくるものに地域差があるので、その地域で多く取れるものが主流になりがちだ。
前の駅舎町でも同様だったが、事前に予約をしてあった。しかし、20名を超える人数が1度に入ってもお店に迷惑がかかるので2交代制になっていた。
その時間を使い、御者組とザクさんジークさんが魔物の解体を行っていた。これまで魔物が出てきたことに触れてすらいなかったがたまに出てきていたのだ。ただ、整備されている街道に問題になるような強い魔物が出てくることはなく、護衛組がすぐに対処していた。
最初の魔物が出てきた時にその場で解体をしようとしていたザクさんとヴィッグだが、試しに僕のアイテムボックスに入れてみると何故かすんなり入ったので、回収だけして時間がある時に解体することになった。常識を覆させられたあの時のザクさんの顔は忘れられない。
午後の移動も問題が起こらず、しっかり休憩をとり、やってきましたフェルンタウン。
やはり入り口でこの街を収めている伯爵のツヴァイクロー伯爵と伯爵夫人が出迎えにきてくれていた。何故みんなタイミングよく出迎えに来れるのかというと、到着1時間前くらいにクロウ丸に伝書鳩代わりをしてもらっていたからである。
ツヴァイクロー伯爵は父とあまり変わらない年齢であるが、ちゃんと鍛えているのか父より若々しく見える。祖父のお気に入りの部下の息子さんであり、父とも親友と言って差し支えない人物だ。
伯爵夫人は母様の仲良しの従兄弟であり、多少気を遣わなくてはならないハーヴェイ伯爵夫人の時より明らかにテンションが上がっている。
今回も子供軍は晩御飯を食べ、お風呂に入って寝るだけなのだが、ツヴァイクロー家には一つ問題があった。
ツヴァイクロー伯爵家長男のユピテル君の存在である。
11歳のユピテル君はとても優秀なお子様ではあるのだが、2歳年下のお子様界のキングオブキングス・ルーク兄様に何をやっても勝てないのだ。
距離が距離だけに年に数回しか合わないが、その度に、剣術、弓術、計算、歴史、馬術、短距離走、長距離走、等々全てで負けたユピテル君はすっかりプライドがへし折られ、ルーク兄様だけならばまだしも最近はアクア姉様や僕にまでそっけなくなっていた。
この辺りの事情というか心根というか兄様も姉様も理解していない、姉様はまだしも兄様まで理解していないのは兄様が完璧超人天然系男子だからだろう。いや、単純にまだプライドをへし折られたことがないだけか。
ユピテル君は、晩御飯の時だけ顔を見せ、すぐ自室にこもってしまったので、あまり会話もできず関係が改善されることはなかった。
ということで、この問題は今晩のみで解決できる気がしないので、メイミとシズクに癒されて忘れることにした。このムニムニした感触がたまらん。あ、メイミにセクハラしたと思った人は正座で。
朝の見送りに案の定、ユピテル君はきてくれなかった。
ヴィッグの発案で馬車用の馬を北西の砦との往復の間、ツヴァイクロー家の馬と交換してもらえることになった。流石に2日間馬車を引きっぱなしだったので疲れただろうというヴィッグらしい気遣いだった。
快く提案を受け入れてくれたツヴァイクロー伯爵にお礼として、ここまでの旅で手に入れた魔物素材を差し入れしておいた。
よし、砦に向かって出発だ!
の前に侯爵家一行にアイテムボックスに入っていた防寒着を配り歩く。これから行く北西の砦は春にもうっすら雪が残っていて、夏になったらようやく溶け、秋にはまた降り始めて冬にはほとんどが雪に埋もれてしまうという所だからだ。ちなみに今は春ね。日本で言うと5月くらい。と言うかこの世界でも5月です。
子供達だけでなく大人たちにも疲れが見え始めているが、護衛組と御者組は踏ん張りどころだ。砦に着いたら休んでいいからね〜。
馬車の中では母様も兄様も姉様も寝ているので、馬車の窓から顔を出し、護衛組と御者組に声をかけ鼓舞をする。とはいえ近くで家族が寝ているので大声も出せず、微妙な声の大きさだったので近くにいたヴィッグとキャロルとシリュウにしか聞こえなかったらしく家族馬車の真後ろを走っていた執事組の馬車の御者に首を傾げられてしまった。それを見たキャロルにクスクス笑われてしまった。おぉう、黒歴史追加のお知らせ。
寒いし、上り坂なので今まで行っていた午前中の馬車から降りてのティータイム休憩も行わず、スピードを落としてノンストップで移動することにした。
11時頃に休憩スペースを見つけ、お昼休憩にすることにした。どうやらこの先は地面が濡れているらしく、その先になると雪があるのだとか。”雪”と言う単語に明らかにソワソワし出したのは姉様だ。うん、砦に着いたら雪だるま作ろうね〜。
アイテムボックスから魔導調理器具と食材を出す。ここでやっとシェフの出番だ。いや、これまでもみんなのおやつを作っていたけれども。
アシスタントに僕とメイド組が入る。いや、僕はアシスタントというか冷蔵庫兼食器棚だけど。
せっかくなのでシェフの紹介をしよう。今回の旅についてきてくれたシェフは侯爵邸副調理長のルドーだ。ヴィッグより少し年上のナイスガイである。茶髪でリーゼントっぽい髪型で目も鋭いルドーはぱっと見シェフには見えない。メグさんに馬車内で自己紹介をした時「え”?」というリアクションをされたらしい。
あ、シスターはマッチョの男性とかではなくリリィという名前の20代前半の可愛らしい女性ですよ。ケルテクラウンの教会に正式採用されているシスターの中で一番の若手だったので送り出されたらしい。正式採用の要件でレベル3以上の光属性の女性とあるらしくリリィさんも光属性レベル3だ。
ルドーの指示で食材や食器を出し入れしていると姉様が近づいてきてルドーに叫んだ
「シオンだけじゃなくて、私も手伝う!」
ルドーは一瞬戸惑ったが、すぐに了承した。7歳のお子様に包丁は危ないと思ったが姉様にピッタリのお手伝いがあると思いついたからだ。それは、
「それじゃあ、行くよ〜!シャワ〜!」
アクア姉様は名前に恥じぬ水属性レベル2の持ち主なのだ。流石に飲み水には使えないが、使い終わった調理器具の洗浄にはちょうどよかった。氷はまだ作れないが、ぬるま湯は出せるらしい。メイドたちもありがたがっていたので姉様もウキウキだった。水はタライで受け止め、自然に油が流れないように配慮もしている。僕のアイテムボックスには油混じりの魔法で作った水入りのタライがそのまま入ってしまうからね。
護衛組が用意した焚き木にメグさんが火をつけ、僕が人数分のテーブルと椅子を用意し、執事組が並べ、メイド組が配膳し、見事な連携で昼食にありつけた。
「いただきま〜す」
やっぱりこういうところで食べるカレーは美味しいなぁ。
「ごちそうさまでした~」
の後はお片付け。汚れた食器もまとめてアイテムボックスに収納。姉様の水魔法で洗いきれない分は砦に行ってからメイド組に洗ってもらおう。ゴミも出るしね。
カレーで体も温まったし、これからの雪道も頑張るぞ!
次回から土曜日投稿に変更します。
次回投稿予定日は2/28(土)です。




