6 身体強化の先生と兄と姉
身体強化の講師が見つかった。
ローラン・クーリッツ
父様の乳母兄弟らしい。侯爵邸メイド長のロミー・クーリッツさんの息子さんでもある。
優秀な軍人さんで、王都で大活躍していたらしいが、数年前に突然、侯爵領の北西の砦に赴任した。
両親の見解としては、左遷のように見えるが、王がそんなことをするとも思えず、ローランも問題を起こすような人物だとも思っていないので、何か事情があるのだろうとあえて静観しているのだとか。
それはそうと、身体強化の授業のためにローランさんをわざわざ北西の砦から呼び出すのか。否!こちらから行くのだ。
北西の砦までは馬車で3日かかる。往復することを鑑みると、最低でも1週間の旅行になるのだ。
父様は公務の関係で当然一緒にいけないので母が同行することになったのだが、ここで問題が起こった。
それは兄様と姉様が一緒に行くと言いだしたのである。
ルーク・B・シルバーバーグ
(クライン)シルバーバーグ家の長男であり、僕のたった一人の兄様だ。
前世の兄貴とは喧嘩ばかりで尊敬などしたこともないが、ルーク兄様は9歳にして完璧超人だ。
頭脳という点においては前世の記憶というチートを使っている僕が勝てない分野があるし、運動能力も2、3歳上の子供と渡り合っている、白に近い金髪サラサラヘアーがよく似合っているルックスももちろん良い。
そして、ギフトという神から愛されたスキルをもらった僕に対して嫉妬という感情が全く感じられない、性格も完璧な人間なのである。
トドメは僕がギフトを持っていることを聞いた時に発した一言である
「シオンは家族や領民みんなから愛されているんだから、神様からも愛されて当然だよ」
え?なにそれ怖い。こういう人間が一番怖い。と、ルーク兄様の素顔を暴こうとしたこともあるが、そんなものはなかった。
アクア・B・シルバーバーグ
(クライン)シルバーバーグ家の長女で、こちらも僕のたった一人の姉だ。
母に似て天真爛漫で、おてんばで家族ラブな7歳児である。
完璧超人とチートに挟まれ、比べられるなど僕には耐えなれないが本人はよくわかっておらず、むしろ誇りに思っており、父や母だけでなく兄や弟もラブなお子様だ。
昨日の森への冒険も僕が楽しそうに話すのでニコニコと聞いていたが、夕食後「シオンだけずるい!」と母に駄々を捏ねていたらしい。
今回の騒動もアクア姉様が発端で、父だけより母と弟と一緒にいたいし、なら兄も来るべきだ。何より家族旅行がしたい!ということだった。
巻き込まれたルーク兄様も、侯爵邸にいて通常業務を行う父より普段と違うことをする母と妹と弟の方が心配なのでついていくのもやぶさかではないと言った感じだ。
こうなると大変なのが大人たちである。
父様をはじめケルテクラウンで働いている偉い人たちが集まり会議をすることになった。
結果、母様による侯爵領視察という公務を建前とすることで予算がつき、母様、兄様、姉様、僕とそれぞれの執事、メイド、護衛が同行することとなり、さらには馬車の御者やシェフ、救護係としての光属性のシスターなども引きつれることとなり、20名を超える大所帯となった。
責任者は母様と母様の護衛でもある侯爵軍副団長のキャロルである。
日程はというと、移動は往復で6日、滞在は4日、合計10日の大旅行だ。
会議の結果を受け、母様も兄様も姉様も僕もニコニコ。父様だけがしおしおである。
「ルーク、アクア、シオン。どうか父様を忘れないでおくれ…」
出発日になるまでの準備期間中、父様の口癖はそれになった。
さて、準備期間中にやれることはやっておこう。
メイミに任せた10日分の着替えや日用品をアイテムボックスに収納。
グランに任せた課題や勉強道具をアイテムボックスに収納。
シリュウが準備した、携帯する以外の予備の武器をアイテムボックスに収納。
ここで3人にアイテムボックスにまだまだ余裕があると行ってしまったのが運の尽きだった。
メイミから話を聞いた母様、兄様、姉様のメイドが準備したものもアイテムボックスに収納。
グランから話を聞いた母様、兄様、姉様の執事が用意した仕事用の資料や勉強道具などをアイテムボックスに収納。
シリュウから話を聞いた母様、兄様、姉様の護衛が準備した武器をアイテムボックスに収納。
話が広がり、シェフが用意した予備の食料や調理器具をアイテムボックスに収納。
最後に、御者やシスターの仕事道具をアイテムボックスに収納。
アイテムボックスの数字が見たことない桁数になっているが、容量♾️は伊達ではなかった。
「たすかるわ〜、一家に一台シオンちゃんね」
「流石シオン、私の弟だ」
「シオンすご〜い」
と母様と兄様と姉様に褒められたのでよしとしよう。シオン君はおだてに弱いのだ。
余計に今回の旅に対する僕の価値が高まってしまい僕だけ護衛を増やすことになった、せっかくなので《赤き竜の爪》にお願いし、快く受け入れてもらった。
そして出発日!
朝からばっちり目が覚めて、準備をする。目覚めに体が軽い!のは体が若いからか。
なんならいつも眠そうなシズクですら、僕をご機嫌を悟ってか頭の上でプルプル運動している。
メイミはいつも通りニコニコしているし、グランはいつも以上にパリッと決まっている。
侯爵邸玄関前に行くとすでに馬車は揃っていて準備を始めていた。
ルーク兄様とアクア姉様を見つけ談笑を始める。
遅れずに到着していた《赤き竜の爪》の面々も兄様、姉様に紹介しておく。
父様と母様は軍団長と副団長のキャロル、そして文官長と副文官長の6人で話し合っていた。
こちらに気づいた母様が僕ら兄弟を呼びつけた。
「今、父様たちとお話をしていたのだけど、視察であるなら文官がついて行くべきっていう結論になってジュストが同行することになったわ」
「よろしくお願いします、ぼっちゃま方」
丁寧にお辞儀をしたジュストは侯爵領の内政でNo.3の地位に20代後半でいるデキる副文官長様だ。
真面目だが頭の回転が早くノリも軽いので、僕たち兄弟からも好かれている。
目が細いので裏切りそうな見た目をしているなと第一印象で思ったことは内緒にしておこう。
ジュストから頼まれ、ジュストの補佐官が持っていた荷物をアイテムボックスに収納し、僕らも馬車に乗り込む時間になった。
「ルーク、アクア、シオン。達者でな…」
なんか今生の別れ見たく落ち込んでいる父様は軍団長と文官長に任せて見送りに来てくれていた侯爵邸の使用人のみんなに手を振って馬車に乗り込んだ。
僕が乗り込んだのは家族馬車で、御者はヴィッグ(肩にはクロウ丸)。車内の僕の隣にはルーク兄様、目の前にはアクア姉様、その隣には母様、そして頭の上にはシズクが乗っている。
その他の馬車はグランたちが乗っている執事馬車、メイミたちが乗っているメイド馬車、ジュスト、シェフ、シスター、メグさんが乗っているごった煮馬車で計4台だ。ちなみにこの馬車の呼び方は僕が勝手に言ってただけだったが、母様とキャロルが気に入り正式採用されてしまった。
護衛のキャロルやシリュウたちは自前の馬にそのまま乗っており、ジークさんとザクさんには侯爵邸の馬を貸し出して乗ってもらっている。
侯爵邸から出ると、街中でちょっとしたパレードみたいになってしまい手を振るのに疲れたが、無事ケルテクラウンの西門までたどり着いた。
西門の警備隊に敬礼されながら門をくぐると、目の前に草原が広がり遠くにはケルテクラウン近郊の森が見えた。
アクア姉様はもちろん、僕とルーク兄様のテンションも鰻登りである。
最初の目的地はケルテクラウンの西にある駅舎町だ!
次回投稿予定日は2/16(月)です。




