番外編2 我が執事
ロクセン王国シルバーバーグ家長男、ルーク・B・シルバーバーグです。
我が愛する弟、シオン・B・シルバーバーグによる身体強化取得の旅の同行から帰還し、また、穏やかな日常が流れるようになりました。
本日はまるでシルバーバーグ家とシオンを祝福するかのような天候であり、まさに勉強日和と言えるでしょう。
午前中は我が執事、ヴェルグによる内政に関する授業である。
このヴェルグという、己が執事だという自覚がないようなちょっとした寝癖をつけたモノクルが似合う初老の男は、シオンの執事グランと並ぶ前時代のちょっとした化け物らしい。
先の戦争時代の話である。
ヴェルグは自信を平和を愛するものであると吹聴し、ロクセン王国への仕官の誘いを断っていた。
まぁ、それは建前であり、戦争中であればヴェルグの専門である内政に関しての仕事よりも他の職務に回される恐れがあったことを懸念してのことだろう。
他の職務をするくらいなのであれば、晴耕雨読をし専門の知識を高めたい。ヴェルグはそういう男である。
いや、単純に怠けたかっただけだろうか?それは本人にしかわからない。
この時期にヴェルグの2つ年下のグランはすでに参謀としてお祖父様の元で大活躍をしていて、多少プライドが刺激されたらしいが、戦争が終わるまで考えは貫いて仕官しなかったらしい。
そしてその戦争が終わりロクセン王国が統一すると、ヴェルグはお祖父様の要請に応じてやっと仕官したのだとか。
そのポジションは復興特別大臣。
任命当時ヴェルグはまだ20代前半で、周りが15歳で見習いとして仕官する中、いきなり何の実績もない20代前半の男が大臣を任されるのは異例中の異例の出来事であったらしい。
その復興特別大臣というのもお祖父様が無理やり作り出した特別な大臣で、内政のありとあらゆること、つまり財務、農業、商業、学問、宗教etcのそれぞれ束ねる部署の特別顧問のようなことをしていたのだとか。
その成果が、現在の駅舎町であったり、学校や孤児院などの様々な分野に及んでいる。
つまり先代国王とお祖父様による10数年間の急激な政策の執行の原案は全てヴェルグが考案したものだということだ。
なぜ、そんな賢人が私の専属執事などをしているのか。
その後の彼の行動を紹介しよう。
私が生まれる前の話なので定かではないが現国王であるヴァレン様が即位された頃に急に行方不明になったらしい。
急な大臣不在でゴタゴタが起きるわけでもなく、新王即位のバタバタに合わせて人員配備もきっちりした上で雲隠れしたらしい。
なんともこの男らしい所業である。
彼の行き先はお祖父様の領地の中でもお祖父様が住んでいる直轄地であるアンバーグラードであった。
お祖父様の直轄地アンバーグラードは鉱石の街で主な産出品は琥珀である。
アンバー(琥珀の)グラード(城塞都市)という名前の街だ。
彼はここで正式に仕官することもなく、お祖父様の監視のもと、さまざまな献策をし、収入を得ていたらしい。
余談だが、彼の一番の被害者は彼の子、エルネスである。
エルネスはヴェルグの優秀な内政能力を引き継いだが、ヴェルグの精神性には辟易し、それを反面教師として育った。
その甲斐あってエルネスは現在ロクセン王国の総括大臣まで上り詰めたという。
閑話休題
そんな生活をしていたヴェルグであったが、母様が私を孕っている時にお祖父様からの手紙によってその存在を父様が知ってしまった。
太古の昔に王が賢人を迎えた故事として「三顧の礼」というものがあるが、父様がヴェルグを迎え入れたのはまさにコレであった。
ヴェルグを僕の執事にするために本当にケルテクラウンからアンバーグラードまで計3回足を運んだのである。
1回目も2回目も彼のその精神性によって安易に断られた父様であったが、みかねたお祖父様は最大の助っ人を用意していた。
3回目の訪問時のことである。
時は遡り、アンバーグラードのお祖父様の邸の談話室での出来事である。
その日はお祖父様、ヴェルグ、ローランさんの父上であるクーリッツ伯爵、引退したばかりの前ツヴェイクロー伯爵、そして父様の5人で酒盛りをしていた。
5人ともに良い感じに酔いが回ってきた時である、父様がおもむろに床に座りこう切り出した。
「ヴェルグ殿、この通りだ。我が子の専属執事の任、引き受けてはもらえぬか」
ヴェルグはまたかと思い、考えもせず断ろうとした。
それを見越したお祖父様は懐から手紙を取り出しヴェルグに渡した、内容はこうである
『親愛なる父様へ
時候の挨拶を抜きにして本題に入らせていただきます。
大公爵様からお聞きしました。侯爵様からのお誘いをお断りしているそうですね。
お暇をしていらっしゃるようなのであれば、私の手勢に王都に連れ戻してもらいますがいかがいたしますか?
何かお仕事をされていらっしゃるのであれば話は別ですが。
なお、大公爵様からご連絡を頂きますので父様からの返信は入りません。
貴方の最愛の息子より』
その手紙を読んだヴェルグは項垂れるように、父様の誘いを了承したそうです。
ヴェルグ以外の4人はさらに大盛り上がりで酒盛りを続けたそうです。
それから、ヴェルグはケルテクラウンにやってきて、僕が産まれて正式に専属執事に就任しました。
やってきた当初はライバルだと思っていたグランが居たり、侯爵軍の凄まじい訓練を見てとんでもないところに来てしまったと狼狽していたそうですが、直に慣れたそうです。
そして今に至ります。
「おや?ルーク様、珍しく集中しておられないようですな?」
「あぁ、ごめんごめん。ちょっと考え事をしていたよ」
ヴェルグは珍しく少し驚いた表情をしてから懐から懐中時計を取り出した。
「そうですか。では休憩にいたしますかな。あ、このまま今日は終わりにしても良いですぞ?」
「いや、休憩で十分だ。ちょっと窓を開けて外の空気を吸うくらいでいいよ」
「…そうですか。それは残念です」
窓を開けて中庭を見ると、シオンが専属の者たちやいつもの冒険者たちと楽しそうにしていたのが見えた。
「…混ざってきても良いのですぞ?」
「いや、今日はここでみてるくらいでちょうどいいよ。ヴェルグがサボりたいだけだろう?」
「なんのことやら。私ほど勤勉で真面目な執事はいませんよ」
「はは、次の誕生日には全身鏡を送るよ」
ヴェルグはこんな性格であるが、僕が侯爵家を継ぐためには必要な男だ。
これからもこの男から色々学んでいこうと思う。
それと同時にこの男を専属執事にしてくれた父様には感謝の念が絶えない。まぁ、執拗なハグだけはやめて欲しいけどね。
次回の投稿日は7/11(土)です
次回のタイトルは30話「シオンの発想、ルークの知恵」です。
お楽しみに〜




