28 姉様の特訓
昨日は酷い目にあった。
孤児院の訪問を午前中だけにしていて助かった。
キャスパーはシリュウに鍛えてもらって上機嫌だった。別れの際、いい笑顔で「また来てください!」と言われた時はコノヤロウと思ったので、ほっぺをムニムニしておいた。声に出てたかもしれない。
とはいえ全体的にはみんな笑顔になり、孤児院の責任者の初老の女性の司教さんにもお礼を言われたのでまた行こうと思う。
…男の子とだけ会うわけにはいかないだろうか?
男女差別ではない。我が身は5歳児である、それが前世でいう中学生くらいの女の子たちにグイグイ来られたら恐怖でしかないのだ。(トラウマ)
そういえば今日でジュストが出発して4日目である。
予定通りであれば、本日中に王都に到着し、明日には王様に謁見するはずだ。
ジュストの旅の無事を祈っておこう。
本日の午前中のグランの授業はケルテクラウンの経済についてだった。
経世済民、略して経済。
5歳児に教える内容か?
簡単に説明すれば、先々代国王の頃に領地が拡大し、経済が広がり、先代国王の頃に、いろいろな施策を行い経済が成長し、現国王により政治が安定し、一般市民にも恩恵が広がり始めたのだとか。
我が侯爵領も雪国であるため元々は経済が乏しいものであったが、頭打ちだった地元産業の商品を南部を通して外国に流通させることで需要を拡大したり、魔道具の生産に奨励金を出し、生産性や能力の向上をおこなったのだとか。
ケルテクラウンも元々は田舎の中の大きな町という感じだったらしく、父様が15歳で侯爵になってから21年でここまで大きく栄えた街になったらしい。
父様すげぇ!(小並感)
そして
「マーカス殿から例の物を準備する手筈は整ったのでもうしばらくお待ちください。とのことでした」
グランたちへのプレゼントの件だ!思わず笑顔になるがグランにバレるわけにはいかないので全力で誤魔化した。
多分グランは気づいているが、わざと気づかないふりをしている。賢い従者は頼もしい。
午後は特別予定はなかったが、姉様が馬に乗る練習をしたいと言い出したので様子を見ることにした。
そして家族大好きな我が一家である。案の定、父様も母様も兄様も見に来てしまった。
そうなると自然と人が集まり、裏庭は異様な空気になっていた。
普通の子供なら緊張してしまうだろうが、そこは姉様である。我々を見てニッコニコだ。
手を振ってきたので振り返す。姉様頑張って!
姉様はいわゆる乗馬着に身を包んでいる。ヘルメットのような帽子も着用済みだ。
駅舎町で姉様が乗馬を練習すると言い出した時には青ざめていたバーツが余裕の表情である、何か秘策があるに違いない。
ところで、中世の馬、ナポレオンや戦国武将が乗っていた馬は実はポニーサイズだったという説がある。
しかし、ロクセン王国の馬は個体差こそあるが前世でいうサラブレッドサイズである。
しかもシリュウの愛馬は白馬なのに作品に登場する前田慶次の愛馬並みに大きい。
まさに白い悪魔。侯爵家の馬は化け物か!すいません。体は大きいけど、穏やかないい子です。
てっきり僕は姉様が今日乗る馬もこのサラブレッドサイズの馬だと思っていた。
しかし、シリュウとナタリーが引き連れてきた馬はポニーサイズの馬であった。
そういえば昨年誰かが近隣で双子のポニーが産まれたとか言ってたっけ。
確かにサラブレッドサイズよりは比較的安全である、バーツの秘策はこれだったか。
ナタリーの補助で姉様がポニーに騎乗すると、サイズ感もあってすごく様になっている。
ナタリーがそばで曳手を持って誘導してくれているものの、姉様は1人で馬に乗れていることに大満足みたいだ。
しかし、笑顔ではあるものの真剣な表情は崩していない。いいぞ!姉様、その調子!
…だから、シリュウさん、手招きしないで。
そりゃそうだよね、わざわざ双子のポニー、つまり2頭連れてきたんだもんね。
ここにお子様は3人。兄様、姉様、僕だ。
兄様はすでにサラブレッドサイズの馬に1人で乗れるもんね。そりゃ僕の分だよね。
隣でニッコニコでメイミが僕の分の帽子と手袋持ってるもんね。
観念して帽子と手袋を装着すると、ポニーに騎乗した。
実はシオン君、前世で乗馬をしたことがある。とは言っても1日乗馬体験コースだ。
乗馬テクニックがあるわけではないが、乗馬そのものへの恐怖感はない。
すんなり騎乗に成功し、シリュウの補助でポニーを歩かせる。
双子のポニーは僕らが乗ることが前々から決定していたらしく、そのための調教がされていたらしい。
とても大人しく賢いので乗っていても快適だった。
余裕が出てきたので僕らを見ている父様たちに向かって手を振る。
母様は喜んで手を振り返してくれた、父様は何か残念がってマーカスと何やら話し込んでしまう。
どうやら写真のような魔道具を準備していなかったことに後悔しているようだ。
兄様とグランはうんうんと頷いている。兄様はグランと同じリアクションでいいの?
メイミは小さく手を振り返してくれる。うん、可愛い。
シズクは小さくてよく見えないが、グランのリアクションに近いか?
…フブキは、僕を乗せる存在としてポニーたちに嫉妬するかと思ったがそうではないらしい。
そもそもフブキが僕を乗せたのは北西の砦でのあの一件だけであり、それ以降は機会に恵まれていない。
だからフブキが僕を乗せる存在であるという自覚がないということはある種当たり前かもしれない。
僕もフブキを乗り物として扱っていないしね。
むしろ、フェルンタウンのペットショップで動物を怖がらせたことを反省してか、なるべく目立たないようにしている。
あらやだ、かしこ可愛い。
その後、僕と姉様はシリュウとナタリーの補助なしでポニーたちを歩かせて1時間ほど裏庭を散歩した。
姉様が少し疲れを見せたところで、散歩を打ち切り大人たちのところに戻る。
僕はシリュウの補助で、姉様はナタリーの補助でポニーから降りると、今度はヴィッグによるお世話の仕方の授業が始まった。
とは言っても本格的なお世話はヴィッグたちがやってくれるので、本日はブラシのかけ方だけである。
僕と姉様は乗ってたポニーに感謝の気持ちを込めて丁寧にブラシをかける。
僕の乗っていた方のポニーは双子の弟で毛並みは基本茶色で白いまだら模様がところどころにある。
姉様の乗っていたポニーは双子の姉で毛並みは基本が白で茶色いまだら模様があるという感じだ。
僕らのブラシかけにヴィッグからOKサインが出ると、シリュウとナタリーがポニーを厩舎に返しに行った。
僕らのブラシをかける様子を見ながら父様、母様、マーカス、文官長が何やら会議をしていたようだが、それも終わったみたいだ。
どうやら正式に双子のポニーを所属する牧場から買うらしい。
それを聞いた僕と姉様は喜んでハイタッチをした。
ちなみに文官長は侯爵領主としてのお財布は握っているが、侯爵家内のお財布を握っているのは母様とマーカスである。文官長はアドバイザーかな?
双子のポニーの名前はセットの方がいいと思い、命名権を姉様に委ねることにした。
姉様は数日悩んでいたみたいだが無事決定をした。
主な決め手は見た目で姉の方はミルク、弟の方はラテらしい。
家族みんなは姉様のネーミングセンスを称えたが、これはおそらく姉様のメイド、プラムのセンスである。
うん、複数提案されたものから選ぶのだってセンスはいるからね。
その後、僕は見ていないが、侯爵邸の裏庭では仲良く双子のポニーに乗る姉弟の姿がたびたび発見されたらしい。座敷童かな?
次回の投稿日は6/27(土)です。
次回29話のタイトルは「王様が遊びに?来た」です。
お楽しみに〜。




