20 邪の都フライヘイヴン
父様たちの昼食を待ち、ハーヴェイ伯爵邸の会議室に集まった。
この世界の会議室も現代と変わらない四角い木の机を並べるタイプである。
今回は机はロの字に並べてある。
一番の上座は我らが父様の席で現在空席である。
左右にハーヴェイ伯爵とツヴァイクロー伯爵が並んで座っている。
侯爵家一行で席に座っているのは母様、ジュストと僕ら3兄弟で、席の後ろにそれぞれの執事が控えている。
他に席についているのはハーヴェイ伯爵夫人、ハーヴェイ伯爵家の文官長とツヴァイクロー伯爵が連れてきた精鋭の中での1番の上官の計3名だ。
しばらくすると、父様とリオンと軍団長が入室をして着席をした。
「では、これよりシルバーバーグ侯爵領緊急会議を始める」
ハーヴェイ伯爵がいつもより威厳のある声で宣言を行う。
ハーヴェイ伯爵が座り、代わりに立ち上がったのはツヴァイクロー伯爵だ。
「今朝、私とハーヴェイ伯爵は件の盗賊団のボスであるガルードの尋問を行ってきた。それにより新たな事実が判明したのでこうして集まってもらった」
会議室にいる全員が息を飲む。
ツヴァイクロー伯爵が全員を見渡した後、父様に視線を送ると、父様は続きを促した。
ツヴァイクロー伯爵が重い口を開く
「ガルードはフライヘイブンの数名の貴族から資金提供を受けていたらしい」
「フライヘイブンか…」
フライヘイブンという単語にリオンやジュストといった頭脳職の面々が考え込んでしまう。
父様や母様あたりは表情を変えない辺り予測していたってことかな。
通称《邪の都フライヘイブン》
フライヘイヴンとはロクセン王国の南南西に位置している、ロクセン王国と他国との緩衝地帯の中心に存在する栄えた街である。
そのためどの国にも属していない独立都市でもある。
フライヘイヴンのことを語るにはロクセン王国の貴族のシステムを説明する必要がある。
ロクセン王国の貴族の継承は、基本的には血統重視・年功序列・男子継承である。
しかし、親から子への継承に限り、後継者の第1候補が能力・資質・性格等に問題があれば違う人物を後継者にしても良い(しなければならない)という法律がある。
つまり、長男が愚鈍であれば次男、三男、それでもダメなら親戚筋、最悪は血縁関係のない部下というパターンまであり得るということだ。
このシステムが現在のロクセン王国を支え、実際に貴族による汚職・反乱・不祥事はほぼ発生していない。
しかし、この世に完璧なシステムなどない。
このシステムによる弊害、それは後継になれなかった者たちが度々行方不明になることである。
行き先は自明の理である。フライヘイヴンだ。
愚鈍と判断された者たちが単身でフライヘイヴンでやっていけるはずもなく、親は我が子可愛さで資金提供を行う。これの積み重ねによりフライヘイヴンは栄えていった。
仕舞いにはフライヘイヴン移住の後、為政者や商人として才能を開花させたものまでいる始末。
そういった人間はロクセン王国に恨みがあるが表立って行動することはない。
しかし、今回のように裏でロクセン王国に仇なすものに資金提供を行ったりしているのである。
「…では、今後の対応について話し合おう」
父様が中心となり今後の方針について詰めていく大人たち。
今回の問題で難しいのはフライヘイブンを制圧すれば問題解決というわけではない点にある。
ロクセン王国がフライヘイブンを統治しようと思えばできなくはない。
しかし、あえてしないのはその先にロクセン王国と同等の国があるからだ。
フライヘイブンの西には中華風の大国がある、シリュウはこの国にルーツがあるらしい。
そしてフライヘイブンの南には大規模な砂漠地帯があり、そこに点在するオアシスの周りに作られた街が連携し連合国家を形成している。
ロクセン王国がフライヘイブンを制圧するということは、その2国に宣戦布告をしたという風に捉えられかねないのだ。
大人たちが出した結論は以下の通りだった
①王都への報告
②ガルードとフライヘイブンの貴族との繋がりの証拠を集め、外交で正式に糾弾をする
③被害にあったケープの村の人々を支援する
主に王都への報告と証拠集めは侯爵家で進めることになったがケープの村支援については2人の伯爵が引き受けてくれた。明日にでもハーヴェイ伯爵が村を訪れ、怪我をした村人の治療のために光属性のシスターや神官を手配したり、生活に必要な物資などについてまとめてくれるらしい。
会議終了後、報告のために王都行きが決まったジュストが笑顔で話しかけてきた
「今回の旅が普通より快適すぎましてね〜。シオン様も王都に行きませんか?」
「え?無理じゃないかなぁ?」
後ろにいたグランに確認を求める
「そうですな。今シオン様が動くとなると付き従う者が多くいるので、資金面などで問題が出るでしょう」
ジュストはその返答を予期していたのか、少し残念そうにしただけで納得してどこかへ行ってしまった。
さて、僕は父様との久々の家族団欒の前にやることがある。
近くにいた母様と兄様の手を繋ぎ、とある人物に立ち塞がる。
侯爵軍参謀長であり、グランの息子であり、僕の兄弟子のリオンである。
僕の銀髪よりも黒に近いグレーの髪をした19歳のリオンはグランによく似た常に微笑んでいるような顔をした青年だった。
19歳という若さで参謀長という役職に就くだけあって大変頭の回転が早い男であり、親であろうと使えるならば駒にするリアリストでもあった。
残念だが今回の件に関しては姉様は戦力外だ。
だからこそ、盤石の布陣を敷くために母様とルーク兄様を味方につけたのだ
「リオン君、今回の作戦に意義申し立てる!」
威勢よく宣言をしてみたが。
「とりあえず聞きましょう」
いつの間にか面接のように机が並び替えられ、僕が真ん中、母様、兄様が左右に座り、リオンが対面して座る。
リオンは用意された紅茶を優雅に飲み、余裕の表情だ。
「一番の問題は僕らを囮に使ったこと!姉様やメイミたちに被害があったらどうするつもりだったの!」
リオンはなんだそんなことかとでも言いそうな表情で
「なんだそんなことか」
と言った。いや、言うんかい。表情に出てるよ〜。
僕の心の中のツッコミに対してリオンは
「シオン様たちの戦力を考えたら盗賊団の半分以上で取り囲まない限りアクア様たちに害をなすことは不可能でしょうに」
盗賊団は結局約200名ほどだったらしい。ってことは盗賊100人くらいまで守れるってこと?
え?僕らそんなに強いの?
「盗賊団の者たちは筋骨隆々の男性ばかりとはいえ、盗賊に身を落とすくらいですからほとんどが無属性レベル0。侯爵家のメイドは何かしらの属性魔法を使えるものばかりなので身を守るのも容易いでしょう」
確かに無属性レベル0ならば無能力と言っても差しつえなく、使えるものは腕力だけであろう。
リオンの説明は淡々と続く
「御者たちもジュストさんも盗賊には引けをとりませんし、侯爵軍の主力のキャロルさんやシリュウさんやナタリーさんもいて更にツヴァイクロー伯爵軍の精鋭までいるわけですし」
え?ヴィッグたちが多少戦えるのは知ってたけど、ジュストも戦えるの?
リオンは呆れたような表情になっていく
「果ては侯爵家の方々も魔法で自衛が出来ますし、執事組にもバーツさんや父さんがいるわけですから。僕はなんの心配もしてませんでしたよ」
リオンは僕をまっすぐ見てこう締め括った
「結果、シオン様たちの元には盗賊団の長のガルードだけが向かったわけですし。それに、シオン様が守りたい人が危険に晒されたら、シオン様が守りますよね?」
ぐぬぬ。言い負かされてしまった。
リオンは僕のギフトも性格も知り尽くしている!
シオン君、理論武装には弱いのだ。隣の兄様も同類なので、考え込んでしまった。
母様ならばどうだろうかと視線を投げかけると母様は
「リオンの理屈はわかったし、実際にそうなのでしょう。でもね、愛が足りないわ」
さすが母様。
母様の理論にはリオンも兄様も困惑してしまった。
次回投稿日は明日5/5です。
次回21話のタイトルは「嗚呼、愛しき我がケルテクラウン」です。




