19 父様との再会
兄様は執事とシアンに声をかけると僕の左手を握った。
「さ、行こうか。次はどこだい?」
少し思案して伯爵邸から外に出て厩舎に向かった。
そこではヴィッグ達御者組が馬の世話をしていた。
そもそもヴィッグ以外の御者組の3人もケルテクラウンの厩舎で働いていたヴィッグの部下である。
戸惑っているのは物の配置とかだけなので、問題なく作業している。
馬を撫でたり、お手伝いっぽいことをしていたらシスター・リリィが通りかがった。
「あ、ルーク様、シオン様、こちらにいらしたんですね」
兄様と僕はシスター・リリィに挨拶をし、話を聞いた。
どうやらシスター・リリィは出番がなく、暇を持て余しているらしい。
そもそもこの世界の光魔法とは。
一つは文字通り光を放つ魔法である。主に光源だったり目眩しに使ったりする。
そしてもう一つは治癒魔法である。死者でも蘇生させそうなイメージだが、この世界の治癒魔法はそこまで万能ではなかった。
まず、怪我についてだが擦り傷、切り傷など体の表面の傷については治癒魔法は有効である。しかし、内出血や骨折など身体の深い部分については多少効きはするがあまり有効ではない。
そして病気についても魔法による毒、麻痺、呪いといった症状にはよく効くが、風邪や腹痛といった自然由来の病気にはあまり効き目がないのだ。
この旅でのシスター・リリィが治癒魔法を使ったのは、
プラムが裁縫中、指を怪我したので1回。
ジュストの書類整理中、母様の執事が指を切ってしまったので1回。
魔物と遭遇した際、ジークさんが魔物の攻撃を避けきれず掠ってしまったので1回。
以上である。
一番大怪我をしそうになった僕が無傷だからね。
そもそも僕は自動魔力吸収で光魔法も吸収しちゃうだろうし。
シスター・リリィの任務が旅への同行だけで他の任務が与えられていないので、彼女は自由行動の際は暇を持て余すことになるのだ。
申し訳がないと思いつつ、別にシスターに割り振れる仕事もないので、同行をお願いした。
こころよく引き受けてもらったので、シスター・リリィが仲間に加わった!
厩舎から離れて伯爵邸の正門まで歩いてきた。
相変わらず僕と兄様は手を繋いでいる。
その様子を後ろから見ているグラン、メイミ、シスターはホクホク顔だ。
伯爵邸は少し小高い丘に建っているので、フロストタウンの一部が一望できる。
ケルテクラウンの方が大きい都市ではあるが、一番栄えてる街並みだけを見るとどちらが栄えているかとかはわからないものだ。
目線を少し下げると、少し遠くからハーヴェイ伯爵とツヴァイクロー伯爵が愛馬に乗って並んで帰ってくるのが見えた。
僕が大きく手を振ると、二人ともこちらに気づいて笑顔になってくれた。
ハーヴェイ伯爵は手を挙げて返してくれて、ツヴァイクロー伯爵は軽く手を振って返してくれる。
手を振る直前まで二人とも暗い顔をしていた気がする。悪いことが起きるフラグか?
フロストタウンの街並みを見ながら待つこと数分、伯爵二人が目の前まで来たので事情聴取を行う。
「午前中にお二人でお出かけとは、何かあったのですか?」
ルーク兄様に先を越されてしまった。
「うむ、ガルードを乗せた檻型馬車が今朝到着したと知らせがあってな、さっきまで尋問しておったのだよ」
ハーヴェイ伯爵が説明してくれる。
ふむ、ガルードということは例の盗賊団関係か、何か想定外のことがあったのかな?
と伯爵二人に好奇の目を送るが
「詳しいことは午後にウォルト殿が参られてから説明しよう。ふむ、昼食まではまだ時間があるな。ハーヴェイ伯爵殿、お互いの兵で合同訓練などいかがだろうか」
ツヴァイクロー伯爵がこちらの期待を受け流しハーヴェイ伯爵に提案をする。
シリュウほどじゃないが、この人も血の気が多いな?
「いや、盗賊団の件で兵も疲弊しておるのでな。代わりと言ってはなんだがチェスでも一局いかがだろうか」
見た目は悪代官なのに冷静沈着なハーヴェイ伯爵。これは父様も頼りにするはずだ。
「はっはっは、あい分かった受けてたとう。ではご子息たちよ、昼食で会おう」
と言い残し部下に馬を任せ、伯爵二人は伯爵邸に入って行った。
残された僕たちは仕方がないので裏庭に周り、へとへとになっているジークさんとザクさんを労った。
シリュウも同じくらい疲れているはずだが「物足りぬ」と言って筋トレがわりに薪割りをしている。それがあまりにも早いので本来の薪割り担当である使用人のお爺さんもドン引きして見ている。
シスターも設置されていたベンチに座っているメグさんの隣に座り「これだから男は」みたいな会話を始めてしまった。
とりあえずそんな大人たちを放っておいて、僕と兄様は落ちていた綺麗な枝を投げてフブキに拾ってきてもらうという遊びを始めた。
しかし、フブキに対抗しようと参加したシズクが全然追いつけず拗ねてしまった。
仕方がないので枝を投げるのを兄様に変わってもらい、シスターの隣に座り一緒にシズクを慰めてもらう。
そんなこんなで伯爵家のメイドが昼食の時間を知らせに来るまで裏庭で遊んだ。
あ、男子3人は昼食前にお風呂で汗を流してくるように。
平和な昼食後、談話室で思い思いに過ごしていたらもうすぐ侯爵軍が到着すると連絡が入った。
ヴィッグのように伝書鳩代わりができる鳥型の魔物をテイムしている人材が侯爵軍にもいるからだ。
久々に父様に会える!と3兄弟で身だしなみを整え伯爵邸の入り口に向かおうとしたら母様から
「まだ早いわよ〜」
と言われてしまった。それはそうだ、連絡が入ったら到着は1時間後だ。
結局ソワソワには勝てず、のんびりする大人たちを急かし伯爵邸の正門前で30分くらい待ちましたとさ。
そして、少し遠くに父様を乗せた馬が見えたので3兄弟で大きく手を振る。
左右にはリオンと軍団長を乗せた馬もいて、先に伯爵邸に来たのはこの3人だけであった。
こちらに気づいたリオンと軍団長は手を挙げて応えてくれたが、父様は立ち上がり馬の背に乗り、飛んだ。
ジャンプして飛び降りた、とかではない。
文字通り、空中に飛んだ。
父様は国に数名しかいないレベル6以上。
風属性レベル7の所持者である。
そっか〜、そのくらいの実力者だと重力を無視した大跳躍ができるのか〜。
と感心していたのは僕だけで。
父様の能力を知らないシズクやフブキ、《赤き竜の爪》の面々やシスター・リリィ、伯爵家の人々は唖然としていたし、父様の能力を知っている母様やグランなど侯爵家の大人たち(プラス兄様)はため息をついていた。
姉様だけはキャッキャと喜んでいた。
父様は僕ら3兄弟の前にフワッと着地し、全員を抱きしめた。
「おぉ、我が子たちよ〜。父様は寂しかったぞ〜!」
最初は嬉しかったが、あまりくっついていられるのも嫌だったので周りの大人に視線で助けを求める。
視線の連鎖が母様まで届いたようで
「貴方。周りの目もあります。その辺にしておいてください」
と声をかけてくれた。
やっと父様は僕ら3兄弟以外にも気づき、離れてくれた。
咳払いで周りから見られていた恥ずかしさを誤魔化しつつ、伯爵二人に声をかける
「ハーヴェイ伯爵、ツヴァイクロー伯爵。今回は世話になった」
「「はっ」」
おぉ、父様が上司っぽい。実際上司なのだが。
そんなやりとりをしていたらリオンと軍団長も正門の前までたどり着いた。
そのまま会議が始まるかと思ったが父様とリオンと軍団長は昼食がまだらしく、3人の昼食後に会議が行われることになった。
次回の投稿日は明日5/4です。
次回20話のタイトルは「邪の都フライヘイヴン」です。




