18 兄様の魔法
フロストタウンの街中では縄に繋がれた盗賊団がハーヴェイ伯爵の兵士に連行されていた。
ハーヴェイ伯爵も馬上で松明を持ち、指揮をしている。
こちらに気づいたハーヴェイ伯爵が松明を近くの部下に預け、馬車に近づいてきて喋りかけてきた。
「おぉ、奥方殿、若様方。ご無事で何より」
キャロルが指示を出し、馬車が止まると、ハーヴェイ伯爵も馬から降りて、目線を合わせてくれる。
せっかくなので、ハーヴェイ伯爵にも今回の騒動がハーヴェイ伯爵目線からはどうだったのか、確認することにした。
「先にケープの村からの報告は受けておったが、出陣準備をしてケルテクラウンからの指示を待っておった。ケルテクラウン側が総戦力を出すとのことだったので、こちらは部隊を3つに分け、一つを伯爵軍の軍団長に任せ侯爵軍の援軍に回ってもらい、一つを副団長に任せケルテクラウンの守備に回ってもらい、残りの一つをワシが率いフロストタウンの門外村側に陣を引いておった」
ハーヴェイ伯爵はそのでっぷりとした体型から私腹肥やし系の貴族と思われがちだが、その実、机上の仕事も馬上の仕事もきっちりこなす狸親父である。
ハーヴェイ伯爵の言う通りだとケルテクラウンが無防備だったのは父様が出発してから伯爵軍の副団長が到着する半日くらいだろうか?
まぁ、ケルテクラウンで何かあったという情報が来ていないし、多分ギルバードはくたびれ儲けなのだろう。
ハーヴェイ伯爵は続けて追加情報をくれた
「盗賊団は一度全てフロストタウンで預かることになっておる。明日、侯爵軍が盗賊団残党を引き連れフロストタウンに来るそうだ。明日はゆっくりし、明後日父と共にケルテクラウンに帰るといい」
家族全員に話していたハーヴェイ伯爵だが、最後は僕ら子供向けに喋っていたみたいだ。
僕らは素直に感謝した。ハーヴェイ伯爵と僕らとの会話が終わると、ツヴァイクロー伯爵がハーヴェイ伯爵に声をかけた。
ツヴァイクロー伯爵は話が長くなりそうだとキャロルに伝えると、キャロルは母様に報告し、馬車を動かす。
改めて伯爵2人に感謝を伝えると、僕らは伯爵邸に向かった。
伯爵邸では伯爵夫人が迎え入れてくれた。
大人は忙しそうだが、子供の僕らはまったり晩御飯を食べ、まったりお風呂に入る。
お風呂上がりの脱衣所で、フブキをタオルで拭いている僕を見て兄様は何か思いついたようだった。
「ふむ。フブキ、こっち向いてごらん?」
「ワフ?」
首を傾げながら兄様の方を向くフブキ。
兄様はそれを確認すると手のひらをかざす。
兄様の手のひらが緑に光ると、フブキに向かってそれなりに強い風速で温風が吹いた。
気持ちよさそうに目を細めているフブキの体毛はあっという間に乾いていった。
いや、この旅で兄様の風魔法の出番がなかったからといってこんなところでお披露目しなくても。
兄様は風属性レベル3の持ち主である。
神託ではレベル2と判別されたらしく、わずか4年でレベルが1つ上がっているあたりが兄様が神童と言われる所以だ。
ありがとうとでも言うように尻尾を振って兄様に擦り寄るフブキ。
僕も兄様にお礼を言い、フブキにスカーフを巻いてあげる。
「ピキー!」
フブキばかり構っているとシズクから不満の声があがったので、撫でつつティアラを乗せてあげる。
着替えを済ませてシズクとフブキを可愛がっていると兄様から
「ほら、シオンもおいで」
と、兄様に呼ばれてしまった。
兄様はドライヤー魔法を気に入ったらしく、僕の髪も乾かしてくれた。
フブキの時より範囲が狭く、風量も調節されている。さすが兄様、もう使いこなしている。
なんとなく兄様のことを報告したくなったので、兄様と共に母様の部屋を訪れる
母様の部屋には姉様もいて、それぞれのメイドに髪の手入れを手伝ってもらっていた。
兄様のドライヤー魔法を身振り手振りで母様と姉様に説明すると、母様は
「さすがルークちゃん!私にも使ってもらえるかしら!」
父様であれば「もっと貴族らしい実践的な魔法を…」とでも言うかもしれないが、母様は実践的より実用的な方がお気に示すらしい。
「ルーク兄様!アクアも!アクアも!」
と姉様からも嘆願され兄様引っ張りだこである。
兄様が魔力の使いすぎで倒れたりしないか心配だが、ここは頑張ってもらおう。
いつもは僕がチヤホヤされる代わりに今日は兄様をいっぱいチヤホヤした。
たまにはこんな日があってもいいだろう。
次の日の朝。
朝ごはんを食べながら本日の行動はどうするかの家族会議である。
父様たちは午後に到着予定とのことだったので、午前中だけ時間が空いてしまった。
買い物もフェルンタウンで済ませてしまったので特にやることがない。
ハーヴェイ伯爵の好意で伯爵邸は好きに使ってもらって構わないとのことだったので、侯爵家一行それぞれ思いのままに過ごすことになった。
シオン君は頭にシズクを乗せてフブキの散歩を兼ねてそんなみんなの様子を見て回ることにした。
なお同行者はグレンとメイミのみである。
シリュウがどこへ行ったかというと、伯爵邸の裏庭でジークさんとザクさん相手に2対1で稽古していた。
それで互角の戦いをしているシリュウはやっぱちょっとおかしいと思う。
近くに行くと変にシリュウが張り切りそうだったので、窓から手を振って済ませる。メグさんも審判頑張って〜。
伯爵邸の中を練り歩くと少し大きな部屋から会話が聞こえたので中の様子を覗く。
そこには母様とキャロルとジュストがいた。
母様とキャロルは優雅にお茶会をしている。母様のメイドも母様達のお茶の世話をしつつ会話に混ざって和やかな感じだ。
対するジュストは母様とキャロルに質問をしつつもすごい速度で書類を捌いている。母様の執事もジュストが捌いた書類の分別している。あ、後で収納しにくるから、わかりやすくしといてね。
和やかな母様とキャロルに手を振り次の部屋に行く。多分ジュストは僕がいたことにすら気づいていないだろう。
次は姉様の部屋だ。
この旅で勉強がおサボり気味だった姉様はこの機会を逃すわけにはいかないと目論んだバーツによって勉強させられている。
ナタリーは姉様のことを応援しているようでたまに窓の方をチラチラと見ている。多分裏庭が見えるのだろう。
姉様のメイド、プラムがこちらに気がついたので手招きをする。
プラムはメイミと同じ歳で仲のいいメイド仲間だ。明るい緑の髪色の彼女とメイミが並んでいると気分も明るくなるような娘だ。
アイテムボックスからルドー特製のラスクを取り出しプラムに渡す。
「そろそろ姉様が煮詰まりそうだから、これを食べさせてあげて」
姉様の集中力を切らさないように小声で伝え部屋を後にする。
次は兄様の部屋だ。
兄様は執務机に座って何やら難しい本を読んでいる。兄様の執事とメイドもソファーに対面で座り、何やら難しい本を読んでいる。
兄様のメイド、シアンは名前の通り青い髪で眼鏡が似合う女性である。
メイミ・プラムより少し先輩で、文学に明るい。
そのためこういうタイミングであれば他のメイドは裁縫などをするところだがシアンは本を読んでいることが多い。
執事の方は”あの”兄様に勉強を教えられるほどの者である。只者ではないことは確かなので、詳しくは後ほど語ろう。
部屋の雰囲気からしてさすが兄様だ、と部屋を離れようとしたが
「おや、シオン何をしているんだい?」
と見つかってしまった。あれ?物音とか出してないつもりだったんだけどな?
ともあれ事情を説明すると
「何やら面白そうなことをしているね、僕も参加するよ」
というわけで兄様が仲間に加わった!
次回の投稿日は明日5/3です。
次回19話のタイトルは「父様との再会」です。




