05 エミリー■歳まで
「身体の具合は大丈夫ですか?」
「はい......問題無いです......」
私は目の前に座る取調官であるローズと名乗る女性の取り調べ前のあいさつ代わりと化した質問に答え、いつも通りの会話をする。
なんだか、とても疲れているように見えるのは気のせいではない、と思う。でも、詳しく聞きたいとは思わないので私は無視した。
「異変を感じたらいつでも言ってください」
「今のところ無い......でも......その時は......お願いします......」
本当のことを言えば、ここに来てから体調は少し悪い。原因は分かっているけど、どうしようもないことなので私は隠すことにした。むろん、他の皆にも。
「......」
「......」
普段はもう少し会話が弾む、というより彼女の趣味的な話が続くけど、すぐに喋り始めようとしない彼女の様子から本題が来るのだろうと私は待っていた。
「貴方達の素性を――」
「はい......」
何か、心の準備、というより謎の覚悟を決めるかのような間だったけど、時間の無駄だと判断した私は彼女の言葉を遮った。
要は、私達が異世界から来たとという証拠になりうる事柄を彼女は聞き出したいのだろう。
私自身、ここが異世界であるということは理解している。
あの、アンドロイドと言われていた、顔が隊長に似ている女中の格好をしていた人物達が非生命体であるから間違いはない。
とは言っても、最初に遭遇した時、私はあれらが非生命体だとは思いもよらかった。
研究所と呼ばれる場所や彼女達の姿、雰囲気からてっきり彼女達は私の同類かと思い、最大限の警戒をしていた。そのせいで気づくのが遅れてしまったけれど、彼女達から人としての臭いを一切感じなくてあの場ではつい驚いてしまった。
初めて出会った場なら問題の無い反応だが、あの時は迂闊だった。
けれど運よく、私の反応に皆や彼女達から言及はおろか気づかれた様子も無くて助かった。だから、ここでは迂闊なことはしないようにしようと考え、より一層の警戒を持つようになった。
そして現状、簡単な取り調べと言いつつ裏で嘘を見破るような技術を用いてまで私達のことを詳しく聞こうとしている徹底ぶりだ。実際、出自に関して細かく問われればどんなに嘘が上手くても誰だって襤褸を出すので、彼女達の行動は分からないでもない。
だが、私自身も隠したいことはたくさんあり、根掘り葉掘り聞きだされるのは非常に困る。
そんな時、私は人間が関わっている以上、騙して隠し通せる可能性もあるのではないかと即座に考えた。
そして、皆から聞いた話や今までの会話から試しに私は簡単な嘘を吐き、その反応からどこまで見破れるのか、どのように振る舞えば気づかれないか等を調べ、上手く隠す方法を見つけていた。
隠そうとしたことが発覚すれば皆に迷惑がかかるかもしれないが、その時はその時だ。ここさえ乗り越えられれば私の言うことが全て真実となり得る。
周囲への警戒を怠らず、そして、警戒の素振りを気取られてはならないうえ、汗の一つすら迂闊にかけない。
今までで最も困難な場面だけれど何としてでもやり通さなければならない。
目の前の彼女の雰囲気から察した私は心の中で大きく深呼吸をした。
「ではまず、改めて名前からお願いします」
「名前は......エミリー......姓は......知らない......」
語る内容を心の底から真実であると思い込み、その通りに振る舞えば相手を騙せるということは把握している。
とにかく、平常心と適度の緊張感を持ちつつ、時折、癖のような行動を挟んで相手を騙そうと考えず真実を話すように。
「知らない、というのは?」
「私には......記憶がない......
この名前も......ヴァネッサお姉ちゃんが......付けてくれた......」
基礎部分はきちんとした真実を提示していく。
「!? ......な、なるほど」
反応がおかしい。この手の話は経験済み? ヴァネッサお姉ちゃんが何か話した? それとも他にも私と同じような、いや、今は話に集中しよう。
「では、覚えている範囲で良いので教えてください」
「気が付いたら......駐屯地内の......倉庫にいた......
外に出たら......隊長に会った......
そこから......機密保持と......行くところも無いかったから......軍に入った......
本当の年齢も......分からないから......見た目から......イーザと同じ年......ということにしている......」
やはり、長く話すのは辛い。最初の取り調べの時に伝えたけれど、どうしても途切れ途切れになってしまうがそこは我慢してほしい。
「そう、ですか......」
彼女の反応がどう意味なのかいまいち分かりづらい。
多分、同情のようなものが主だろうが、それ以外の要素が含まれている可能性を捨てきれないので安易に言葉を受け止められない。
「......」
「......」
ほんのわずかな無言の時間すら気を抜くことができない。
隊長達が私と関わりのある話を彼女にしていればおそらく確認の為に隊長達に関する話を振ってくるはず。それが無いということはまだ隊長達は私との話をしていないか、確認の必要が無いと判断されたかのどちらかだろう。
駄目だ。情報が足りない、圧倒的に。
相手の質問の思惑を把握して適切な答えを淀みなく用意しなければならないし、相手がどんな情報を持っているか分からないから迂闊に質問することもできない。
それがかなり私の精神を蝕んでいく。
何か手を打たないと私の方が先に参ってしまう。
「私の話は......短いから......
代わりに......私達の......世界について......話しても......良い......?」
試しに話題を逸らしてみる。
私から見ればこちらの世界に関する情報は喉から手が出るほどだ。であれば、彼女達にとって私達の世界に関する情報は同じような物だろう。
特に、上層部が判断するための情報が不足し、こうして私達に取り調べを行って情報を収集している現状なら猶更。
「あ、是非お願いします!」
「分かった......」
私の読みは当たった。
これで少しは負担が減ると気取られないよう私は心の中で一息を吐いた。
「と言っても......どこから話せば......
認識の違いとか......常識とかも......色々あるから......」
こちらからペラペラと話してしまうのは色々と不味い。
私は諸事情で明らかに普通では知り得ない情報をいくつも持っているうえ、保有する情報のうち、どこまでが一般常識の範囲に収まるのか完全に把握していないことを自覚している。
下手にこちらから話題を振って墓穴を掘ったり、変に話題を選別しながら喋って疑われたりするのは避けたい。
それに、この後の誰かの取り調べで私が他の皆よりもかなり詳しい情報を持っていることが判明する恐れもある。そうなれば、皆にも迷惑がかかる。
最悪の状況を回避するためには相手にできる限り主導権を譲り、質疑応答という形で進めていった方が良い。そうすれば、怪しまれないように様子を見ながら情報を提供することができ、相手が満足する応答内容を探ることができる。
「確かに。国が違えば文化も違うとよく言いますからね。それが異世界なら尚更です。
となれば、そう、ですねぇ......」
そう考えて発言したのだが、彼女の雰囲気から察するに、どうやら上手くいっているみたいだ。
彼女は後ろの女性と目配せをし、小声で一言二言話しをしてから私の方へ向き直り、少し悩んだそぶりを見せてから口を開いた。
「まずは、魔力について教えて欲しいですね」
予想通り魔力についての質問が来た。
となれば、彼女達にとって魔力とは、私達でいうところの戦機やモニターと呼ばれる機器に対して抱く好奇心や興味と同じようなものと考えて問題無いだろう。
「分かった......」
私は顔を動かさず目線を僅かに左上に上げ、記憶を探るような素振りを見せながらややゆっくりとした口調でまずは、隊長と副隊長から受けた魔力に関する基本的な講義内容と駐屯地の図書室にある本を参考に話していく。
「魔力とは――」
魔力とは簡単に言えば、ありとあらゆる物質を生成するために必要なもの。
そして、生きとし生ける全ての生命は魔力を操ることで生命活動を維持している。
さらに、魔力は空気中に漂っていて、生命体から放射や排出されたり、生命体が吸収や吸入したりして循環されている。
余談だが、世界の魔力量は増加しているのか、それとも減少しているのかを観測している機関が古くから存在する。
正確に測定できるものではないという前提が付くが、世界の魔力量は増減を繰り返しているものの、全体的に見れば一定らしい。
過去の歴史に、魔力量が減少傾向にあった時、世界終末論が流行ったという記述がある。
「へえ、なるほど。自然の一部、みたいなものですかね?
となると、科学とはまた違った法則があるということでしょうか? たしか、メリーナさんが空を飛べると言っていましたが」
「科学......については......まだ......分かっていないから......違いが......分からない......上手く説明が......できない......」
この世界には科学というものがあることは知っている。簡単に言えば私達にとっての魔法のようなものだ。
そして、それぞれの違いについて、先ほど言っていた空を飛ぶ話を例にすれば、私達の世界では魔力を操作すれば空を飛べるが、こちらの世界では気圧を変えたり空気の流れを変えたりして空を飛ぶらしい。
補足だが、重力という話は私達の世界にもある。ただ、重力に関する話や研究は飛行魔道具に関わる話でもあるので私は詳しく知らない。
「まあ、私もその辺素人ですし、説明されてもさっぱりなのでこの話は止めにしますね。
えーっと、では、魔力の操作を止めたら死ぬ、ということなのですか?」
「うん......魔力操作を......止めたら......死ぬけど......
意図的に......止めるのは......不可能......
止まる時は......死ぬとき......」
動物はもちろん植物も魔力操作を行って生命活動を維持している。
そして、魔力操作が停止したもの全てが例外無く生命活動を停止している。
「なるほど。
私達も意図的に脈や血流といった生命活動を止めることが出来ませんしね」
「私達にも......血や脈は......ある......」
「そう言われると、私達と貴方達ってあまり変わらない感じですね」
「それらを......動かすのに......体内の魔力......必要......」
「エネルギーのようなものなのですかね?」
「多分......そう......」
エネルギーという言葉の意味を全て理解している訳ではないが、合体王でよくよく使われているので大体は分かる。
そういえば、魔力はこの世全ての素という仮説の基、魔力の解明のため研究に没頭した者が賢者の始まり、と言われている。
魔力についてはいまだに完全に解明されておらず賢者の子孫達がいまだに研究しているが、彼らは途中の研究結果から魔力関連の多くの産物を生み出してきたという実績がある。
「魔力はどのように生成、維持しているのですか?」
「魔力を......生成する器官や......魔力操作を......担う器官は......判明していない......
ただ......血が......造られると......同時期に......生成され......脳によって......統制されている説が......最も有力なのでは......と軍医から......聞いたことが......ある......」
普段は血液に含まれていることは判明しているが、採血等によって血液が一度、体外に出てしまうと魔力が完全に抜けてしまうため、詳しく調べようにも調べられていない、と言うことになっている。
実を言うと、賢者の子孫達や他の研究者達はあらゆる手段を使って調査研究を行っているので、何かしらの発見は常にある。
ただ、それが一般公開されるかどうかは国が決めることなので本や専門家、そこら辺の研究者が言っていることが全てというわけではない。
これ以降の話は私には無縁なのでここで終わらせておく。
「なるほど、血液成分の一種と。
脳による統制、というのがよく分かりませんね」
「意識的に......体内の魔力を......操ることが......出来る......
そして......止めたら......元に戻る......」
体内の魔力を認識することが出来れば、意識して魔力の流れを早くしたり遅くしたり、一部に集めたりといったことはできる。そして、その後操作を止めると魔力は元の状態に戻る。
それに、魔力は常に体内に留まっている訳ではなく、呼吸によって体外に放出されたり、皮膚から漏れ出たりする。
このように、意識無意識に操作できるということは、魔力操作を行っているのは脳なのではという意見が多数だ。
だが、完全に生命機能や脳機能が停止しても体内で魔力の流れが維持され続けているという現象が常にあるため中々断定できずにいる。
さらに学者や研究者達の頭を悩ませることがあり、それは、過去に他者の魔力を外部から強制的に操作した者がいたという記録が残っていることだ。
現代でそのようなことが出来る人間はおらず、出鱈目だと言われていたが、実際に他の生物の魔力に干渉して捕食をする生物が存在するため強く否定することができないでいる。
因みに、飛行魔道具はそれらを基に賢者の子孫達によって研究され開発されている。
そのため、この議論に答えが出ることはほとんど無いと言っても過言ではないだろう。
「むー。これは私には分からないことですね。次に行きますか。
魔力の保有量、と言っていいんですかね?
その量に個人差はありますか?」
「ある......」
体内で循環される魔力の量には個人差があり、どのような原理なのかは不明だが倍以上の魔力量を保有する人間がいる。
むろん、体外へ放出される魔力量も多くなるので、体内の魔力が増え続け、いづれ身体が限界を迎えるような事態に陥ることはない。
ただ、大量の魔力が放出され続けることは身体に大きな負担をかけることになるのか、魔力量の多い人間の寿命は短い。ただし、体内の魔力を完全に制御できればその限りではない。できればの話だが。
他に分かっていることは保有する魔力量は遺伝によって大きく左右されやすく、魔力量が多い人間が産まれる確率は低く、大半は平均的な魔力量を持って産まれる。
因みに、保有魔力量が少ない人間が産まれる確率は多い人間よりも少ない。
理由は全く分かっていないのでこれ以上は触れないでおく。
「魔力量が少ない者と多い者の差が極端にあるというのは色々と興味深いですね。
血液の量が多い少ないという話は聞いたことがありますが、倍以上も差があるなんて聞いたことがなしですし。
もしかしたら、人以外の動物にも先ほどの話は当てはまることなのですか?」
「だいたいそう......」
ただし、人間みたいに極端に差があるようなことは無い。
「全てに魔力があるということは、食べる物にもあるということですよね?」
「うん......そう......」
「魔力のある物を食べるとどうなるのですか?」
「あまり......変わらない」
私自身も気になったことがあるので知りたいことは分かる。
死んでしばらくすれば魔力が完全に抜けるとはいえ、常に魔力のない物を食べているわけではない。
魔力が残った状態の食べ物を食べても体内の魔力量が増えることはない。
生物が保有する魔力と人間の魔力が合わさることは無く、どうやってかは不明だが、食後普通に何事もなく体外へその魔力は抜けていくと言われている。
ただし、例外がある。
それは、体内を循環する魔力が極端に少なくなったときだ。
このときだけ、人間は空気中や摂取した食べ物から魔力を吸収する。
ただ、吸収した魔力を自分の身体と馴染ませる必要があるのである程度の休息は必要である。
そして、今現在では速攻遅効問わず魔力を回復又は一時的に増やす薬が開発されている。
保有魔力量が平均以上であるなら即効性でも遅効性でも多少の副作用はあれど命に関わる問題は無いが、魔力量の少ない者が服薬すれば命に関わる。
「魔力。色々と不思議ですね。
......ん? この世界には魔力が無いのですが、貴方達は大丈夫なのですか? 今のところは問題なさそうですけれど......」
「問題ない......みたい......
ちゃんと......魔力は......生成されている......
それに......体外に出ると......魔力が消える......
原理はさっぱり......だけれど......」
「はあ。よく分からないですけど特に問題は無いということですかね。
......その辺りの判断は上がするか」
体内で生成された魔力は体外に出ると別の物質に変化するみたい。
それはヴァネッサお姉ちゃんの能力によって証明されている。
ただ、どんな物質に変化しているかは分からないが、ここの研究者っぽい人達の様子からこの世界に普通にある物質に変化しているのだろう。
他の皆も顔色を見た限り特に辛そうだったり表に出さないよう我慢したりしている様子は無いので特に問題は無いのだろう。
「ところで、魔力や魔道具というものがあるということは、魔法のようなものってあるのですか?」
「ある......」
「ほお!
その、手から火や水が出るとかいうのですよね?」
「よく知ってる......」
魔力の無い世界なのに魔法を知っている、いや、魔力から魔法という発想が出てくるということは似たようなものが科学にあるのかそれとも研究中だったのか。
この世界が私達よりも高度な文明を築いている可能性が今までの軟禁生活から推察していたけれど、この人の頭の出来から私は確信した。
おそらく、ここに勤める人間は皆この人と同じかそれ以上なのだろう。
これは、なかなか骨が折れそう。そう今更ながらに思い至った私は緩みかけた気を引き締め直した。
「あ。そういうお話、創作物? フィクション? がこちらにはよくあるんですよ。
ほら、プリ卒や合体王なんて良い例ですよ。
私達の世界で言えば、実際の生身の人間が跳び回ったり暴れたりなんてできませんし、貴方達の世界で言えば大きな機械が空を飛んだり合体したりして大きな敵と戦うといった、そういうお話を創造する、と言えば分かりますかね?」
「ああ......納得......」
プリ卒というアニメには変身という物質を変換させる技で姿が変わると生身で跳んだり跳ねたりすることができ、さらに、殴っただけで相手がかなりの距離吹き飛ばせることができるという私達のいた世界とあまり変わらないような世界観だったのと、この世界においては絶対にあり得ない現象らしく、そして、あるかどうかも分からない地獄だのあの世だのという死後の世界という話も理解できず、この世界を知る上であまり参考にならないと思うことが多々あった。
逆に、合体王はこの世界基準においてかなり現実味を感じ、登場人物達の思想や言動が常識的なものと感じたので私としては色々とこの世界のこと、特に科学と呼ばれるものについて学べるので合体王の方が観ていて楽しいものであった。
プリ卒や合体王で時間を潰すことを考えたが、あれらはあれらで私の内面を曝け出される可能性があったので、私はすぐに魔法についての話に戻した。
「ただ......あった......と言った方が......正確......」
「えっと、それは?」
よし、戻った。
実際に失われた技術であるようなことを言えば食いつくであろうことは予想ができていたので私は心の中で大きく息を吐いた。
「まず......魔法の......仕組みについて......話す......」
魔法というのは簡単に言えば自身の持つ魔力を制御しながら外へ出すことで火や水といった事象を自らの手で起こすことができる。
そして、魔法を扱う者は魔法士と呼ばれる。
過去の歴史に大魔法士と呼ばれていた者が何人かいたらしく、彼らは天変地異を引き起こして世界を混乱させたり、逆に世界の危機を救ったりしたという、正直眉唾な伝説がある。
「へぇ。凄いですね。
......その、実際にやってもらうことは、できますか?」
「できない......
魔法の発動に......関する情報は......厳重に......管理......されてる......」
魔法は人類にとって最も多用される攻撃手段であった。
戦争の手段はもちろん、日常生活においても魔法による暴力事件が多発していた。
そのため、政府による徹底した管理体制が敷かれた。
その結果、魔法士としての素質を早い段階で発見、保護して魔法兵士に育てあげるという国力増強にも繋がり戦争が激化したという歴史があるが、話せば長くなるし、詳しく話してしまえば変に怪しまれる可能性があるのでので触れないでおく。
「そうですか」
「それに......私達のような......魔力の......少ない人間が......魔法を......発動させようと......するのは危険......」
「そういえば、魔力が一定数減ると死に至る可能性があると言っていましたね。
すいません。こちらが軽率でした」
「気に......してない......」
一応、賢者の研究の産物に少ない魔力量で魔法を発動させたり、魔法の効果を高めたりすることができる魔道具が過去に開発されている。
むろん、現在ではそのような魔道具は所有するだけでも違法なので私は持っていない。
因みに、戦闘用に開発された魔道具には家庭用として色々と調整や制限がされたものが存在している。
「なかなか便利そうですけれど、それが使われなくなったのと貴方達の持っていた物や道具から察するに、魔法が通用しない出来事が発生した、ということですか?」
「そう......その通り......」
魔獣が現れてから魔法は過去のものとなった。
魔力を放出する魔法に代わり、魔力を体内で制御する魔術が使われるようになった。
ただ、身体強化は剣士といった魔法を使わない者が無意識に使っていたものを解明し体系化させたものなので、最初のうちは魔法士関係の人間が反発していたという歴史がある。
最終的に魔法は廃れたので今では魔法を使った事件は無くなったが、代わりに身体強化を悪用した犯罪が台頭してきた。
まあ、素人が身体強化を使ったところで正しく鍛えられた軍や警察に敵うはずがなく、大きな事件になる前に捕えられているが。
「なるほど。
その原因となった魔獣と呼ばれるものについて訊きたいところですが、そろそろいい時間なので最後に魔道具について教えてくれませんか?」
「分かった......」
ようやく終わる。でも、最後まで気は抜けられない。
私は一旦小さく深呼吸をする。
「あまり......詳しいことは......分からないけど......分かる範囲で......話す......」
魔道具とは魔石という魔力を有する石を使って魔法を発現させるものである。
魔道具に関しては当然ながら国家機密なのでどのような原理で魔法を発現させているのか不明なのでこれ以上の説明はできない。
家庭用の魔道具について話すと、飲用水や調理用の火を出したり、明かりを付けたりといった物から洗濯用の大きな箱のような物まで様々であり、これらのおかげで生活水準は昔に比べて明らかに上がっている。
「なるほど。私達の世界でいうところのライフラインや電化製品みたいなものなのですね。
仕組みについても、私も戦機や通信機器、自動車がどんな原理で動いているかなんて説明されても分からないですからね」
「大事なのは......正しく使うこと......だから......」
「そうですね。
先ほど話していた中に魔石という物がありましたが、これについての説明――
あ、もう時間ですね。
色々とご協力、ありがとうございました」
「ありがとう......ございました......」
とりあえず無事に終わった。
様子からして怪しまれていないと判断しても問題ない。
乗り切った、と私は大きく息を吐いた。
そして、席から立ち上がり、案内されるまま部屋を出て自分が収容されている部屋へ向かう。
今日が無事に終わったとはいえ、安心するのはまだ早い。全てが終わったわけではない。
次の聴取で私の入隊後の話が振られればいいけれど、おそらく今日の続き、特に先ほど言っていた魔石や魔獣関連の話をしなければならないだろう。
正直に言えば面倒臭い。
皆みたいに素性を話せればいいけれどそうはいかない。
皆との関係が壊れてしまうのが怖い。
でも、隠し続けるのも嫌。
私はどうすればいいのだろう。
気がつくと私は映像が見られる不思議な通信機器の前に座っていた。
そして、目の前に皆の顔が写り、私の言葉を待っているように静かにしていた。
久しぶりに考え込んでしまっていた。
そう思ってから心の中で反省し、すぐに聴取の内容について話した。
すると隊長から、私達の世界の知識をある程度教えたからこの後の聴取は滞りなく進むだろう、本来なら私がすべきことだった、と感謝され、そして、謝罪してきた。
副隊長もそれに続きつつしまったという顔をして少し後悔をするような素振りを見せ、サラーお姉ちゃんはお疲れと軽く手を振り、ヴァネッサお姉ちゃんは分かってる風を装って腕を組んでウンウンと首を縦に振り、イーザは番が回ってくるからなのかかなり緊張していた。
皆が内に色々なものを秘めているのだろうことは分かっている。そして、私が隠し事をしていることに気づいていることも。
またしても私が考え込んでいる間にイーザの番が来た。
その後、帰ってきたイーザからの報告を受けて通信を終えた。
私は寝台へ向かいゆっくり寝転んだ。
部屋に一人きりで眠るのは怖い。けれども眠らないと影響が出るし皆が心配する。
明日も無事に起きられるのだろうか?
目は開くのだろうか? 呼吸は?
不安が込み上げてくるが、精神的に疲れていたのか、次第にまぶたが重くなってくる。
いつか、私の事を皆に話せる時が来たらいいな。
私の命が尽きるまでに......
そう願いながら私は眠りについた。




