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04 ヴァネッサ7歳まで

「身体の具合は大丈夫ですか?」

「うっす! 問題無いっすよ!!」

 俺は目の前に座る取調官である、なんか物凄く疲れているような感じのするローズと名乗る女性の取り調べ前のあいさつ代わりと化した質問に答え、正しい姿勢を保ったままいつも通りの会話をしたっす。


「異変を感じたらいつでも言ってください」

「そん時はお願いするっす!!」

 体調が悪くなることは今んところ無いんすけど、鍛錬ができないせいでなんか身体、というより心の奥の奥あたりがムズムズするんすよね。ただでさえ、周囲に魔力を感じないせいでムズムズしてるっていうのに。本当、凄くイライラするっす。

 狭い室内でも出来る簡単なやつでなんとか誤魔化してるっすけど、何もせずじっとしてるのって本当にきついっす。せめて、エマちゃんかイーザちゃんをナデナデしたいっす。

 あでも、プリ卒を観てる間は何故か落ち着くんすよね。まあ、観終わったら余計にムズムズするんすけど。

 そうだ、この前勧められたやつが観終わったことを言わないと、ということで俺はプリ卒ミックスヘルについて両手を机につきつつやや前のめりになりながら話しかけたっす。


「そうそう、ミックスヘル! 全部観終わったっすよ!」

 今は普通に見れてるんすが、初めてみんなでプリ卒を観た時は、絵が動いたり絵から音が聞こえたりといったことより言葉が聞き取れるのに意味が全く分からないことに驚いたっすね。

 そういえば、そのことを目の前の取調官に言ったら親切丁寧に教えてくれたし、みんなの使ってる通信機器に辞書を入れてくれたっす。そんで、何故か、エマちゃんとイーザちゃんがすごく喜んでたし、たいちょーとふくちょーから褒められたっす。照れるっすね。

 でも、エマちゃんとイーザちゃん、すぐに辞書を使って言葉の意味を覚えたのは凄いっすよね。俺、一緒にアニメを観ながら二人から色々と教わったっす。お姉ちゃんとしての威厳が......


「本当ですか?! その、どうでしたか?」

 おっとっと、そんなことよりも感想を言わないと。

 相手が俺よりも前のめりに顔を突き出してきたことにびっくりしつつ俺は再び姿勢を正してから身振り手振りを挟みながら感想を語って言ったっす。


「前のやつよりも面白かったっすよ! 前に出てた二人の主人公と新しい主人公、最初から最後まで仲悪くて悪戯しあってて、いつも仲良く閻魔様のお説教とげんこつが飛んできて終わるの、飽きないくらい面白かったっす! それに、最後の最後に仲良くなって合体技を繰り出すところがかっこよかったっす!!

 それに、格好も可愛くて良いっすよね」

 未だに帰れず地獄に居座ることになった、茶色の短髪で強気なギャルって呼ばれる女子高生と金色の長髪で超強気な同じくギャルって呼ばれる女子高生の二人の主人公と新たに落ちてきた金色の短髪の強気なまたまたギャルって呼ばれる女子高生の一人の主人公がなんか仕事の休憩時間を使って一番を競いあうサマがなんとなく共感できるような気がしたんすよね。

 他にも針山登山競争の際に、針崩れを起こして進路を塞ぐつもりがうっかり敵を倒してしまいつつ周囲に大被害をまき散らしたり、血の池辺りの競争の際に血の池にいた敵の攻撃を越えながら敵を無視して走り、最後には決着がつかなかったから妨害してきた敵に勝敗を決めさせようと迫ったり、ハチャメチャでもやり過ぎたことはしないところが好きっすね。

 あと、可愛い姿に変身するのも良いっすね。なんか、観ていると心の奥が暖かくなってくるんすよね。それに、空を飛べたり、腕とか脚、お腹周りとか色々と肌が出てるのに斬られても刺されても無傷なんすよね。俺も変身できるようになりたいっす。


 合体王も戦うところはかっこいいんすけど、俺はプリ卒の方が良いっすかね。生身で戦うし、服とか可愛いから。

 エマちゃんやイーザちゃんは合体王が好きみたいらしいんすけど。そういえば、ふくちょーとサラーはプリ卒が良いって言ってたっすね。なんか、意外って感じっすね。


 俺が感想を言うと相手もウンウンと頷きながら話しかけてきたっす。


「そうでしょう、そうでしょう。

 いつも同じパターンだ。という意見もあるんですけど、流れは同じでも細かいお話作りはきちんと考えられてるんですよ。たまに変則的な流れがあって不承不承ながら助け合ったり、上からの命令で仲直りを試みようとして大失敗したり。

 それに、キャラ達にはきちんとした理性があるので倫理に抵触しない、ええっと、過剰な殴り合いや卑劣な罠を仕掛けない、空を飛べるのに飛ばずに地面を走り回るなどの正々堂々といったスタンスが他シリーズに比べて安心して見れるところでもあります」

「分かるっす。仲良く喧嘩するサマがホッコリするっすね」

 無印とか言われてたほうのプリ卒も面白かったっすけど、今回観たやつはもっと面白かったっす。

 特に、いがみ合うサマが凄く見覚えがあって観ていてなんか落ち着くんすよね。それに、正々堂々と競い合うところが良いっすよね。たまに、反則するっすけど。

 と、俺が相槌を打つと相手はさらに大きく頷いてきたっす。


「ええ、ええ。

 それに、そう言った積み重ねからの最終回は格好良さもありますが、つい、ウルッと来ちゃうんですよね。

 あ、そうだ。次はですね、スプラッタパワーをお勧めします。主人公が完全に新しくなるんですよ。ただ、戦闘パートが若干過激すぎるという批判がありますが、って今はこんなことをしている場合じゃない!」

「うおっ」

 いきなり大きい声で会話を中断させられたから俺は変な声が出ちゃったっす。

 あ、もしかして、この後にくる話って例のやつっすかね、と俺はちょっと身構えたっす。


「あ、すみません。ええっとですね......」

 相手が軽く謝って、ちょっと間をおいてから話しかけてきたっす。


「貴方達の素性を詳しく――」

「もちろんっす!!」

 あ、反応するのが早すぎたっす。

 後ろにいる記録官っていう人も驚いた顔をしてこっちを見てるっす。


 まあでも、しょうがないっすよね。ここが異世界って呼ばれる、俺らのいたところと全く違うところらしいっすからね。

 俺にはよく分からない話なんすけど、アニメを一回でも観ればここが帝国や皇国と違うことくらいは分かったっす。言葉が通じるのに言葉の意味が分からないっていう体験は今までなかったっすからね。


 帝国語と皇国語には、発音やら意味やら似たような部分が多くあって、ほとんど同じような言語なんすけど、訛りみたいなそこそこ細かい部分で違うところがあるんすよ。

 それでも、会話は普通に成立するんすけど、今いる国の言葉は俺らと全く同じものなのに意味だけが分からなかったんす。

 俺の頭がおかしくなったのか、それとも、単に俺の勉強不足なのかなって思ってたっすけど、他のみんなも同じだったみたいでそこは安心したっす。


「では、名前をお願いします」

「俺の名前はヴァネッサって言うっす!!」

 俺は元気よく名前を言ったっす。


「......ん? おや?」

 すると、なぜか目の前の彼女は困惑した顔をしてたっす。


「どうしたんすか?」

 何か問題があったんすかね?

 でも、名前しか言ってないのに、どこが駄目だったのかよく分かんないっす。

 俺も彼女と同じように首を傾げているとハッとした様子で彼女が口を開いたっす。


「あ、いえ、えっと、姓や家名は無いのですか?」

「あるっすよ! ドリンゲンっす!」

「......」

 彼女は一度後ろに座る記録官さんと目を合わせた。


 やっぱり、名前のところが引っかかってるような気がするっすね。

 あー。これってもしかして......

 心当たりがあるなぁって思っていると彼女が今まで以上に真剣な顔をして質問をしてきたっす。


「もう一度名前を教えてください」

「ヴァネッサって言うんすけど」

 明らかに怪しまれてるっすね。

 でも、俺にも事情があるんすよ。誰にも言えない事情が。

 俺も同じように真剣な顔で彼女を見つめていると、彼女が少し困惑した顔をしながら優しく声をかけてきたっす。


「......えー、あの、いきなりここで名前に関して嘘を吐くのは少々不味いと思うのですが」

「あー、やっぱりバレてるんすね」

 ふくちょーやサラーから聞いてたっす。

 どういうわけか、相手は嘘を見破れるって。

 でも、まさか最初から見抜かれるなんて思いもよらなかったっす。


「......」

 彼女の目から警戒の色が徐々に増してきたっす。


 あー、これは正直に言わなきゃマズイっすね。

 うーん、でも、言いたくないんすよね。

 あーでも、俺のせいでみんなに迷惑をかける訳にはいかないっす。


 俺が心の中でウンウン唸っていると彼女達が一斉に体を強張らせてきたので俺は諦めて覚悟を決めたっす。


「分かったっす。本当のことを言うっすよ」

 とは言えやっぱり、胸の奥がザワザワするっすね。


 一度深く深呼吸をしてからしっかり彼女の目を見て俺は真実を言おうと口を開いたっす。


「俺は、本当は......」

 心臓がバクバクするっす。

 それに、さっき深呼吸をしたばかりなのに呼吸が辛いっす。


 本当に言っていいっすかね? なんか、駄目な気がするっす。アイツ、ヴァネッサも駄目だって言ってるような気がしてならないっす。

 でも、ここで俺が言わないほうがもっと駄目な予感がするっす。

 ヴァネッサのためにも、他のみんなのためにも、ここで言わなくちゃ......


「だ、大丈夫ですか?」

「大丈夫、っす」

 俺は両手の震えを抑えるために力強く握りしめ、もう一度深呼吸をしたっす。


「この身体の、持ち主の、ヴァネッサじゃ、ないんすよ......」

 はぁはぁ。

 なんとか言えたっす。

 物凄く体が熱いっす。気分も悪くなってきたっすね。


「......えっ!? ちょっ!? 待っ!?」

 しばらく慌てふためき、席を離れて記録官さんと話をし始めた彼女の様子を見ながら俺はただただ待ちながら心を落ち着かせていたっす。

 もう一度深呼吸をしたら胸のざわつきが治まっていたっす。それに、心臓のバクバクも。

 絶対に言いたくなくて、そして言わなきゃいけないことは言ったっす。

 でも、まだまだ言わなきゃいけないことがたくさんあるんすよね。

 そう思っていると再び席に着いた彼女に声を掛けられたっす。


「......あ、貴方の本当の名前は何ですか?」

 俺の、本当の名前......

 そういえば、そうっすよね。


 俺の名前、名前......

 考えたことが、いや、考えないようにしていたのかもしれないっすね。


「何て言えば良いのか分からないっす」

「記憶喪失、ですか?」

 記憶喪失、っすか。

 うーん。多分違うと思うんすよね。


「いや、ヴァネッサの記憶はあるんすけど、本当に何て言えば良いんすかね。本当の自分じゃないって言えば良いんすかね? いやでも、それじゃさっき言ったやつと同じっすね」

 俺に学があればもっとうまく説明できると思うんすけど、勉強はどうにも苦手なんすよね。

 そういえば、ヴァネッサも勉強が苦手だったっすね。運動も。


「......ほ、本当に!?」

「本当っす」

 疑り深いっすね。まあ、ちゃんと説明できない俺が悪いんすけど。


「このことは他の皆さんは?」

「言ってないんで知らないはずっす」

 こんな話、絶対に言えないっす。


「その、怖くて言えないんすよ、俺」

 みんななら、気にしないかもしれないっすけど、俺が嫌なんすよね。

 みんなを騙してるっすから。


 最初は魔獣さえぶっ殺せればそれ以外はどうでもよかったっす。だから、たいちょーの隊に入ったばかりの頃の自己紹介は適当にやってたっす。それに、訓練や勉強ばかりでなかなか魔獣がぶっ殺せなくてイライラしていたし、指示を出してくるたいちょーとふくたいちょーに楯突いたりもしたっす。

 でも、色々とあって今は皆んなと一緒にいると心の中があったかくて、俺のことについて話したほうがいいかなと思う頃には心の奥がザワザワしてなかなか言い出す時が無かったんすよね。


 たとえ、エマちゃんやイーザちゃんから話してくれと懇願されても絶対に言えないっすよ。たぶん。


「あ、まずは、その、詳しく教えてくれませんか? えと、その、ヴァネッサさんのことを」

 そういえばもともと、ヴァネッサのふりをして話をするつもりだったんすよね。

 いつの間にか呼吸も心臓も何ともなくなった俺は改めて口を開いたっす。


「良いっすよ。

 ただ、みんなには絶対に言わないで欲しいっす」

「分かりました。約束します」

 彼女は大きく頷いたから俺はとりあえず安心したっす。

 いつかはこのことについて俺の口でみんなに言わなきゃいけない日が来るんすよね。

 そう思いながら俺はその時のための練習のつもりだと少しざわつき始めた心に言い聞かせてから口を開いたっす。


「もう一度言うんすけど、この身体自体はヴァネッサのものなんすよ。

 それに、本当のヴァネッサはこんな喋り方をしないんすよ」

 ヴァネッサの話をする前に俺はヴァネッサのためを思って念入りに話したっす。


「本当の、ヴァネッサさん......」

 あ、そういえば、ヴァネッサの話をするうえで大事なことを忘れてたっす。

 今更ながら俺はヴァネッサの口調で話しかけたっす。


「本来の喋り方で話したほうがいいですか?」

 本当は、もうちょっと引っ込み思案なところがあるんすけど、流石にそこまで再現していたら時間が掛かるっす。だから、そこは許してほしいっす。


「え、えーっと。そこはお任せします」

 お任せっすか......


「じゃあ、このままで行くっす」

 単に俺が嫌だからこのままのするだけなんすけどね。ヴァネッサはヴァネッサなんすよ。


「俺自身、どうなってこうなってるのかよく分かんないっすから、覚えてる限りの過去の話をしていくっす。

 本当は勝手にヴァネッサの過去を他人に話したくはないっすけど」

「お、お願いします」

 こればっかりは仕方ないっすよね。ヴァネッサも許してくれるはずっす。

 それに、ヴァネッサが元に戻るきっかけになるかもしれないっす。


 さて、どうやって話そうっすかね。


「うーん......」

「どうしました?」

「あ、えっと。

 他人にヴァネッサの話をしようにも、どう話していけばいいか分からないっすねぇって思って」

 いきなりヴァネッサの話をする前に俺の話をした方がいいんすかね? いや、でもまずはヴァネッサの話を少ししてから俺の話をすれば、でもゴチャゴチャになる気がするっす。

 うーん。


「難しい、ですか」

「難しいっすね」

 悩んでもしょうがないっすね。とにかく思いついたことから話していくっすか。

 まずは俺の話から......


「俺が産まれたって言っていいのか分からないっすけど、とにかく、俺自身を自覚した瞬間っていうのは、魔獣の魔石を破壊して吹き飛ばされた後に目覚めた孤児院の寝台の上っす」

 あの時はたしか、赤い鍬形虫みたいな魔獣に襲われかけている時にたまたま近くにあった父さんの護身用の拳銃を撃ったら、たまたま額の魔石に当たって、たまたま魔獣が負傷しまくっていたおかげか魔力量が少なくて魔力爆発の威力が低かったから死なずに済んだんすよね。

 それで、目が覚めた時は知らない場所で起きてすぐに大柄な兵士が目の前に来たんすよ。


「え? あ、すみません。

 えっと、その時からあなた自身は記憶があったのですか?」

「あったような気がするっす」

 というか、自覚する前からあったような気もするんすよね。それがいつからかは分からないっすけど。


「そんなことより続きいいっすか?」

「ど、どうぞ」

 よく分からないことを考えてもしょうがないっす。

 とにかく今は話すことが先っす。


「その時はまだヴァネッサが身体を動かしていて、孤児院の職員に支えられながら大柄な兵士と一緒に応接室に向かう様子を俺はふわーっとした感覚で後ろについて行くように眺めていたんすけど、応接室でその大柄な兵士、第9小隊の小隊長のマーティンさんから父さんと母さんが間者、こっちの言葉だとスパイって言うんすよね? まあ、そんな容疑がかけられてどうのってのを告げられた時に徐々に自分の身体になっていくような感覚がしていったんす」

 思えば、あの頃よりも前から後ろを漂っていたような気がするんすよね。

 ......いや、後ろじゃなかったような、あれ? もっと近くにいたような?

 いやでも、あの時は付かず離れずな感じで後ろを漂っていたっす。

 となれば、気のせいっすね。


 そんなことより、後ろを漂うような感じでヴァネッサとマーティンさんの会話をぼやーって眺めてたら急にヴァネッサの体に吸い込まれ始めたんすよね。


「んで、気が付いたら目の前にマーティンさんがいたんすよ」

「な、なるほど。

 貴方が、ヴァネッサさんの中に入った、ということですよね?」

「そういうことになるっすね」

 いきなりだったからびっくりして体が少し動いちゃってマーティンさんから怪しまれたっす。

 まあ、上手く誤魔化せたから特に問題も無かったんすけどね。


「じ、じゃあ、ヴァネッサさんは?」

「ヴァネッサは消えたっす。父さんと母さんが魔獣にやられて死んだって聞かされた時に」

「!?

 ......その、受け入れられたんですか? ......色々と」

「そうっすね......

 なんともなかったっすね」

 最初は驚いたっすけどすぐに慣れたというか、特に何もなかったというか、よく分かんないんすよね。


「なんとも......」

「なんて言えばいいんすかね、まるで最初から俺がヴァネッサ本人みたいな感じ、っすかね?

 とにかく、何の問題もなかったす」

 俺でもおかしいと思える事だらけなのに本当に何も思わなかったっす。当時はとにかく魔獣をぶち殺すことしか考えていなかったっすから。

 まあでも、その後や軍に入った後はなんだかんだ忙しくてそんなことを考えてる暇がなかったからこれまで深く考えてこなかっただけなのかもしれないっすけど。


 っと、そんなことよりそろそろ本題にいかないと。


「というわけだから、それ以前の話はヴァネッサの記憶だから、その、間違ってるかもしれないっすけど、その......」

「大丈夫ですよ。安心してください。それらを含めて貴方のお話を聞かせてください」

「ありがとうっす」

 みんなに俺は引き出しを開けるようにヴァネッサの記憶に基づく話を順に話していったっす。


「父さんの名前はヤン、母さんはニコル。出身は帝国しか覚えてないっす。物心つくころには皇国にいたから」

 帝国のどの辺りとかは全く記憶にないみたいなんすよね。物心つく頃には皇国にいたというかなんというか。


「父さんは表向き加工食品を専門に扱う商店に勤めて、裏で皇国の魔道具に関する情報を集めていたっす」

 帝国に本拠地がある帝国の技術を集めた加工食品を作って売ってる大きな商店の支店がいくつか皇国にあったんすよ。

 あ、そうそう。帝国と皇国の仲は悪いっすけど、魔獣のおかげで戦争にはなっていないだけで、最低限の交易はしてるんすよ。

 皇国には優れた食品加工技術が無いから帝国の加工食品って皇国人から結構な人気があったんすよ。

 だから、皇国に支店を置いて、帝国から直接取り寄せても問題無かったんすよね。

 それで、父さんは皇国東部の都市にある支店で働いてたっす。


「敵国、いえ、仲の悪い国の外国人が働いているなんて、真っ先にスパイを疑われそうですが、疑われなかったんですか?」

「確かに、帝国人が皇国で働こうとすれば周囲から疑われるんすけど、帝国との国境付近の皇国西側の貴族のおかげで父さん達は皇国人になりすませてたんすよ。あと、ほとんどの従業員は帝国人だったんすよね。

 それに、帝国人も皇国人も言語が少し違うだけで見た目に違いは無かったし、国境付近の言語はごちゃ混ぜだったっすから怪しまれることは無かったっす」

 詳しい話はよく分からなかったっすけど、帝国の味方をする皇国貴族は皇国北部の貴族を恨んでて、陥れるために帝国に協力しているとか聞いたことがあるっす。

 それと、支店の場所も軍事研究所があって比較的魔獣被害の少ない地方に置くようにしてたみたいっす。

 だから、北部や南部にはほとんど無いんすよね。

 それに、支店がないから運搬や配達という名目で色々と探れるって言ってたのを聞いたっすね。


「貴方も、いえ、ヴァネッサさんも一緒だったんですよね?」

「そうっすね。

 家族と一緒だと怪しまれないとか聞いたっす」

 皇国側の推察になるっすけど、マーティンさんからの話で円滑に事を進めるためだったのではないかとか聞いたっす。

 でも、たとえそうだったとしても両親はきちんとヴァネッサのことを考えてくれていたと俺は思うんすよね。


 それに、ヴァネッサはどうか分からないっすけど、俺は皇国に来れて良かったと思ってるすよ。

 学校に行く必要が無かったっすから。


 帝国は必ず学校に通うか家庭教師を雇ってまで最低限の教育を受けさせるんすけど、皇国は貴族か、入学費を払えるくらいの余裕のある平民しか学校に通わないんすよね。

 だから、貴族でもなければ裕福そうな平民でもない家庭の子供を学校に入学させるのは不自然ということでヴァネッサは5歳の頃に母さんから色々と教わっていたんすよ。

 ヴァネッサの将来を真剣に考えていた母さんの教え方はかなり上手だったみたいでヴァネッサは嫌々ながらも勉強をしてたみたいっす。

 ヴァネッサの記憶があったとしても俺は勉強は苦手っす。ヴァネッサも両親がいない時に勉強嫌だとかよく弱音を吐いていたっすね。


「あ、忘れてたっす。

 ヴァネッサには大事にしていた人形があったんすよ」

「人形、ですか?」

「そうっす。父さんから貰った手のひらくらいの大きさの白髪の人形っす」

 ヴァネッサはいつも辛い時や悲しい時があると人形に話しかけてたっす。

 その人形はとても強くて心優しい、大切な友達だと思っていたみたいっす。

 そして、その人形にエミリーという名前を付けてたんすよね......


「えっと、ヴァネッサさんの生活は――」

 おっとっと。あれについて考えてる場合じゃないっすね。

 彼女の言葉を受けて俺は慌てながら思考を切り変えて記憶を探りつつ答えていったっす。


「あーえっと、午前は勉強で午後は母さんに連れられて父さんの働く店に顔を出したり店の手伝いと称して周囲を散策しつつ情報を集めの手伝いをさせられたっす」

 ヴァネッサの日常は、だいたいは家の中で勉強して、昼に家族一緒に飯を食べて、その後は平民の遊び場みたいなところへ行って遊びながら色んな子達から色んな話を聞いてくるといった感じだったんすよね。まあ、ヴァネッサは人見知りだったし遊び回るのも苦手だったから情報収集面ではあまり役には立てなかったんすよね。

 そういえば、ヴァネッサがよく遊んでいた遊びがあったっすね。


 たしか、地面に円を描いてその中に適当な石を一定の位置から投げて円の中心に近い奴が勝ちっていう遊びだったっすね。

 先に投げると、好きなところに投げ入れれる分、後から投げる奴に弾き出される、一件、後攻が有利っぽいすけど、結局は投石の腕次第な遊びなんすよね。

 それで、なんでかはよく分からないんすけど、ヴァネッサってこの遊びがかなり強かったんすよね。


 先に投げればフワッと下投げで中心の手前にきれいに落として、しかも、後に続いた奴らの投げた石でさらに中心に寄せるなんてことができてたし、後に投げれば上投げですでに置いてある石を弾きながらしっかり中心に石を置くんすよね。

 まるで、他の奴らの投石の腕や石の形からどんな結果になるのかを知っているかのような感じっすね。俺にはできない芸当ってやつっすね。


 そんなヴァネッサに石遊び仲間が集まるんすけどヴァネッサ自身は会話が苦手だからいつも周りが勝手に話をして盛り上がっていたんすよね。

 一応、ヴァネッサも頑張って情報を集めようと場の雰囲気を読んで話しかけようとするんすけど上手くいかなくていつも帰り道で母さんに手を引かれながらしょぼくれてたっすね。

 でもなぜか、母さんは、役に立つ情報を集めてくれたねと褒めてくれるんすよね。

 ヴァネッサもそれが母さんの励ましの言葉と思ってたみたいっすね。しかも、その後店に戻って母さんから話を聞いた父さんがヴァネッサの頭を撫でながら褒めてくれるから慰められたと思って、次こそは頑張ろうと部屋でエミリーに意気込んでたっすね。

 まあ、結局これが日常になっちゃうんすけど。


「とまあ、そんな感じで何事もなく過ごしてたっす」

「なるほど。

 それで、その、その後ご両親が......」

「そう、っすね......

 ヴァネッサ、いや、俺が生き残ったっすね」

「そう、ですか......

 となるとこの状態は......

 そして、原因はおそらく......」

 なんか空気が重くなった感じがするっす。それに、なぜか、胸がチクチクするっす。

 胸のチクチクのせいで相手の話のほとんどが聞き取れなかったすけど今の俺にはどうでもよかったっす。

 じっと我慢して胸のチクチクを耐えていると突然、相手が大きく息を吐いた。


「ふぅ......」

 静かになった室内で大きく長い一息の音が響く中、相手は俺の目をしっかり見ながら少し疲れた雰囲気を漏らしつつ笑顔で、そして、とても優しい声で語りかけてきたっす。


「今日はここまでにしましょう」

 その声を受けて俺は、ふと胸を見てみると、いつの間にか両手で心臓辺りを抑えていたっす。

 話の途中に身振り手振りをしていたけどそれ以外はきちんと膝の上に両手を置いていたはずっすけど、身体が勝手に動いたんすかね? いやまさかそんなわけないっす。

 色々と不思議に思っていると相手が立ち上がり始めたっす。


「ご協力、ありがとうございました」

「えっと、こちらこそっす」

 そして、相手が頭を軽く下げたっすから、俺も考え事を止めてそれに続いたっす。


 こうして、俺の取り調べは終わったっす。

 部屋を出る時、ふと背後に誰かの気配を感じたような気がしたっすけど、多分気のせいっすよね。

 俺の部屋に戻る頃には胸の痛みや心臓の鼓動、呼吸に体内の魔力の流れはいつも通りな感じになっていたっす。むしろ、気分が軽くなったような気がするっすね。


 その後、部屋に戻った俺は机に座って通信機を触るとみんなの顔が出てきたっす。

 そして、軽く話をしてから合体王を観ることになったっす。

 合体王も好きなんすけど、プリ卒の方が良いんすよね。


 そんなことを思いつつも口には出さず、黙って観ていると、エマちゃんとイーザちゃんの番が回ってきて今日が終わったっす。

 そういえば、今日はあんましむずがゆくならなかったっすねこれならぐっすり眠れそうっすね。

 そんなことを思いながら俺は寝台に寝転ぶとすぐに眠ったっす。

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