06 イザベラ10歳まで
「身体の具合は大丈夫ですか?」
「うん。問題ないよ」
イザベラは目の前に座る取調官であるローズと名乗る女性の取り調べ前のあいさつ代わりと化した質問に答え、いつも通りの会話をしたの。
「異変を感じたらいつでも言ってください」
「うん。すぐ言うね」
美味しい食べ物や快適な部屋のおかげでとても元気に過ごせてるよ。それに、お姉ちゃん達も酷いことはされていないみたいだし、ローズさん達はとっても優しくって安心して過ごせてるから心も体も大丈夫。移動中にすれ違う男の兵士がまだちょっと怖いけど。
「......」
「......」
普段はもう少し会話が弾む、というよりローズさんとプリ卒や合体王についての話が続くんだけど、すぐに喋り始めようとしないローズさんの様子から本題が来るんだろうなとイザベラは緊張しながら身構えていたの。
本当は合体王テトライガーを観終えたことを言いたかったんだけど、そんな雰囲気じゃなかったからイザベラは我慢して待っていたの。
テトライガー、格好良かったな。
あ、テトライガーっていうのはね、合体王トライアンガーの続編なんだよ。
おっとそうじゃなくて、トライアンガーで出てきていた3機の戦闘機っていう空飛ぶ兵器が合体して大きな人型に変形して異星人って言う人型の未確認生命体と戦う、トライアンガーと変わらないお話なんだけど、新たに1機の民間用の輸送機のAIが覚醒っていうのをして参戦するんだ。
イザベラよりも年下、というより未成年の男の子達がAIっていう機械と一緒に敵と戦って街の平和を守るんだけどその男の子達が凄く格好いいよ。
もともと、3機で合体できているのに1機の輸送機が追加されても意味がないって軍属の大人達から言われちゃうんだけど、それに対して、3人の少年パイロット達がこぞって反対するのはトライアンガーから見てるとちょっと泣けてきちゃうよね。
でね、色々あって輸送機が合体してトライアンガーが空を飛べるようになったり、銃や盾といった武器防具を手に入れて強化された敵相手に対等に戦えるようになるんだ。
掌を反すような大人達に輸送機のAIが拗ねちゃうんだけど、それを少年達や相棒のAI達が説得するところも感動しちゃうよ。
イザベラも、こんな風にみんなの役に立てたらなぁって思ってるのは秘密だよ。
「貴方達の......」
おっとっと、聞き逃さないようにしなきゃ、ってあれ? どうしたのかな?
ちょっと話してからピッタリ止まっちゃったローズさんにイザベラは困惑しながら声を掛けようとしたの。
「......えっと」
「あっ、すみません。
貴方達の生い立ちを詳しく調べることになったのです」
なんだか、驚いた様子だったけど、何かあったのかな?
てっきり、お姉ちゃん達とは違ったことを聞かれると思ったんだけど、特に変わらないものだったね。
「え? あ、うん。
いいよ?」
最初から少し緊張していたけれど拍子抜けしちゃって、普通に返事しちゃった。
イザベラ達がこことは違う世界から来たことを詳しく調べたいんだろうってことはお姉ちゃん達から聞いてるよ。
イザベラもここが異世界って呼ばれるところなのは間違いないと思ってるよ。
だって、特戦機って呼ばれる大きな機械とか鋼獣っていう大きな敵は見たことも聞いたことも無かったから。
それに、アニメっていうのも初めて見たね。
あ、ローズさんに合体王テトライガーを観終えたことを言えなかったな。
それにしても、ここの世界は本当にすごいね。
あの特戦機ってどうやって動いてるんだろ? ビーム兵器っていうのも原理が分からないね。それに、合体王も凄いよね。どうやって変形したり合体したりしてるんだろ? プリ卒の変身もどうなってるんだろう? 色々と知りたいな。
あっちには無かった、面白そうなことがいっぱいあってとってもワクワクするし、身に付ければお姉ちゃん達の役に立ちそうな知識や技術がいっぱいありそうだし、エレナお姉ちゃんを助けられるものがあるかもしれない。
「えっと、では、改めて名前を教えてください」
いけないいけない。集中しなきゃ。
イザベラにとって大事なことを言わなきゃいけないんだもんね。
「うん。分かった。
イザベラの名前はイザベラって言います。姓はフォシャーです。お父さんの名前はノア、お母さんはジェニファーです。
えと、住んでた場所は皇国の南東あたりだと思います」
イザベラのお父さんは元々どこかの研究所で兵器の研究をしてて、その研究所からの命令で兵器の量産工場の所長に任命されたっていうのを従業員の人が話していたのを聞いたの。
それで、お母さんはお父さんの監視のために来たんだけど、なぜか結婚しちゃって追加で監視員を派遣する羽目になったって言ってた。
「あー。なるほど。
まるでドラマみたいですねぇ」
「?」
ドラマってたしかアニメみたいなお話の一つだったよね?
それがお父さんとお母さんの話とどう関わってくるのかな?
そう考えながら頭を傾かせていたらローズさんが少し慌てた様子で話し始めたの。
「あ、すみません。遮ってしまって。
兵器の研究に携わっているということは、かなり優秀だったんですね」
「うん。お父さんもお母さんも頭が良かったって他の人から聞いてたよ」
兵器に関わる研究をしてたから普通じゃ無理とか、監視は国がやっててそこの関係者ってことはよっぽどだとか従業員の人達が噂してた。
「その、大変質問しづらいのですが、ご両親との仲はよろしくなかったのですか?」
「あ。えっと......
その、悪くなかった、とイザベラは思ってるよ」
ただお父さんとお母さんはいつも工場の経営を安定させるので忙しくて一緒にご飯を食べることも、一緒に寝てくれることもなかったの。
でも寂しくは無かったよ。女性の従業員さん達が赤ちゃんだったイザベラの世話や面倒を見てくれてたんだ。
それに、3歳くらいになった時には余った材料でオモチャを作ってくれたり、それで一緒に遊んでくれたりしてくれたんだよ。
「なるほど。その、色々と大変だったんでしょうね」
「うん。イザベラ、まだ幼かったけど、我儘を言わないで我慢してた」
本当はもっと甘えたかった。頭を撫でたりぎゅって抱きしめたりしてほしかった。ただ楽しく一緒にいたかった。
でも、言えなかったの。
いつか一緒にいられるって思っていて願っていてだからずっと我慢したんだ。
そしたら、イザベラが6歳の頃に経営が安定したの。
これでやっと一緒にいれるってイザベラのお願いが叶ったんだって思ったんだ。
「でも違ったの。
お父さんとお母さんね、研究を始めるようになったんだ」
「そんな......」
「お父さん達は悪くないよ!
元々、飛行魔道具の研究に関わってたから。それに、研究所にいた頃は最新型を開発してたんだ......」
「!?
そ、それは......
たしか、飛行魔道具は貴方達の国にとって最重要の軍事兵器、でしたよね?」
「うん。そうだよ。
メリーナお姉ちゃんから聞いたんだよね?」
「ええ、まあ。
でしたら、研究開発が優先されますよね......それがその国で最重要であるなら尚更......」
「うん......」
だってしょうがないもん。
飛行魔道具が凄い物だってことは従業員さん達から聞いてたから。
それにね、後から教えられたんだけど、お父さんは最新型の手柄を別の人に取られちゃって研究所を追い出されちゃったって、お母さんと協力して研究資料とか色々と持ち出したの。だから、研究内容が外に漏れないように従業員さん達はもちろんイザベラにも内緒にするために余計にイザベラと関わらないようにしてたの。
あとね、実はこっそり家の奥にあるお父さんの部屋の研究机にあった飛行魔道具の模型や設計図を見たことがあって、あの時は難しくて分からなかったけど、ちょっと模型を触ってみて実際に浮遊したのを見た時は不思議とワクワクしたの。
「お父さん達は凄いことをやろうとしているのが何となく分かって、イザベラはそれの邪魔をしちゃいけないんだって」
「で、ですが、それでは――」
「でもね。イザベラね、お父さん達のお手伝いができるようになったら一緒にいれるって考えたの」
「え?
......それは、どうして?」
「あ!
......え、えっと、その......」
どうしよう、この話をするのに言っておかなきゃいけないことがあるんだけど。
でも、これは皆んなに内緒にしてるイザベラの秘密で、言っちゃったら皆んなの運命が変わっちゃうかもしれない。
どうしよう。
言っちゃったほうがいい、のかな?
やっぱり、言わなかったら言わなかったで皆んなに迷惑がかかるなら言ったほうがいい、よね?
それに、もしかしたら良い方向にいくかもしれないし、大丈夫。うん、大丈夫。
「えっと、いつかだったかな? お父さんが研究に行き詰まったときにイザベラね、夢で見たの」
「ゆ、夢?」
「うん。不思議な夢なんだ」
ある日、目の前にお父さんの背中が見えていて、お父さんが頭を抱えながら椅子から立ち上がっている姿が見えたの。
そしてね、イザベラが設計図のあるところを指差すの。すると、お父さんは何かに気づいたみたいで設計図を持って急いで部屋を出ていったの。
その後はいつのまにか目が覚めていて、何か不思議な夢を見たなって感じで、見た夢の内容はうろ覚えだったの。
その時のイザベラも特に気にしてなかったんだけど、ある時に廊下を歩いていたら、お父さんの部屋がある方からお父さんの声が聞こえてきたの。
前にお父さんの部屋に勝手に入っちゃったことがお母さんに見つかって怒られちゃって、厳重な外付けの鍵がかけられるようになってからお父さんの部屋までの通路を素通りするようにはなってたんだけど、たまたま鍵がかけられてなくて扉が少し開いてたのが見えたのとお父さんの悩んでいるような声が聞こえてきたから気になって部屋まで行って中に入ってみたんだ。
そして、なんだか見覚えがあるなって思ってたら見た夢を思い出したの。
なんであんな夢を見たんだろうとか今見てるのも夢なのかもとか色々と考えたけどイザベラは夢の通りに動くことにしてみたの。
そしたら、夢の通りにお父さんが何かに気づいて設計図を持って部屋を出て行ったんだ。
後になって、魔力伝達の計算で使われる式が間違ってたことがイザベラにも分かったんだけど、あの時はどうして分かったのかさっぱりだったの。
「正夢、いや予知夢、のようなものですかね?」
「イザベラが見たような夢がこの世界にもあるの?」
「言葉としてはあります。ただ、曖昧な夢の記憶と現実を都合良く解釈している、というのが一般的かと......あ、すみません、専門では無いのでこれ以上は分かりません」
「ううん。イザベラもよく分からないから。
とりあえず続きを話すね」
その後はイザベラも部屋を出てイザベラの部屋に行こうと思ってたらお父さんが慌てた様子でイザベラに話しかけてきたの。
お父さんはイザベラにありがとう本当に助かったって言ってきて、もしかしたらイザベラは天才かもしれないって沢山褒めてきたの。
突然のことでイザベラは混乱しててよく分からなかったけどお父さんから褒められて嬉しかったことはよく覚えているよ。
その日から不定期で不思議な夢を見るようになって、ほとんどがお父さんの研究関連だったの。
その度にイザベラがお父さんに教えるとお父さんはよくやったって言って頭を撫でてくれるようになったの。
しばらく経ったある日、お父さんとお母さんと一緒に卓に座ってて、お父さんとお母さんがイザベラのことで何かを言い合ってたの。
当時のイザベラには分からなかったけど、お父さんはイザベラに研究の手伝いをさせた方が良いって言ってて、お母さんはお父さんの研究はとても重要なもので従業員さんや他の研究員さんにも秘密にしなきゃいけなくて、お父さんしか研究をしないようにしないと色々と危険だって言ってたけど、お父さんが自分一人じゃ何年かかるか分からないのと優秀な助手が欲しいと言って、最後にお母さんが条件付きで折れることになったんだ。
「それは、凄いですね。
まさか、本当に予知夢のような能力があったなんて」
「うん。でも最初の頃はそんなことよりも、これでお父さん達の役に立つことができて、いっぱい褒めてもらえるって思ってたの」
「それは、そう、ですね」
「お母さんもね、初めて試作機が出来上がった時からイザベラを褒めてくれるようになって、お父さんの研究に必要な勉強を見てくれるようになって、一緒にいる時間が増えるようになったの」
「......」
ローズさんの反応もよく分かるよ。
他所から見たら色々とおかしいっていうのはイザベラも分かってたの。
でも、せっかく一緒にいてくれて何かをする度に褒めてくれたり叱ってくれたりしてくれてイザベラはとっても幸せだったの。
だからお父さんとお母さんがイザベラから離れるなんて嫌だったの。
お父さん達と一緒にいるだけでイザベラは本当の本当に今まで一番幸せだった、どんな理由や事情があっても。
だから、お父さんの為にって願いながら夢を見るように必死になっていったの。
本当はイザベラ自身の為なのをお父さんの為だと何度も言い聞かせて見て見ぬふりをしながら......
「そんなだからイザベラに罰が当たったんだ......」
「バチ、ですか?」
「あ、ええっとプリ卒にあった言葉なんだけど、意味がこっちの言葉よりも使いやすくてそのーー」
「ああ、いえ、なんでもないです。すみません、話の腰を折ってしまって。意味は伝わります。
......その、続きをお願いします」
「あ、うん。分かった」
イザベラに起こったこと。それは......
「3年くらい経って9歳になった頃、イザベラに婚約者ができたの」
「婚約者、ですか? それがどう......」
「えっとね。最初に夢を見てね」
「え、また夢、ですか?」
あ、そうだった。あのことも言わなきゃいけないんだった。
あの話は絶対に話したくないけど、言っちゃったから、今さら変に隠すのは良くないよね?
「えと、夢で見たの。
男爵家の次男の、えと、エリアスって人が数人の使用人さんを連れて突然やってきて婚約を結びたいって言ってきたの」
「い、いきなりですね。
......そう言えば、貴族制度がありましたね。こことは少し違うみたいですが」
「?
えっとそれでね。
婚約者になって欲しいって言ってきて、その見返りに研究成果に噛ませろって言ってきたの」
「え? それってつまり......」
「うん。お父さんの研究内容が漏れてたんだ」
「た、大変じゃないですか!」
「うん。その人ね。国の暗部に所属してるって言ってて、このことを知っているのは男爵家だけで、暗部統括の侯爵家に伝わる前に父が握り潰したから安心して欲しいって言ってたの」
「自分から暗部を名乗るなんて益々怪しいですね......」
「うん。でもね。数日間過ごせば少なくとも僕のことは信用できますよって言って出て行ったの。去り際に、逃げても無駄ですよって脅しながら......
その後目が覚めたの」
「あ、そういえば夢の話でしたね」
夢の中なのにとても現実感があって、イザベラも目が覚めたばかりの時は混乱したよ。
そしてね、すぐにあの話が夢だったって気が付いてから落ち着いたんだけど、今までイザベラの夢の通りになってたからこのことが本当に起こったらどうしようって不安だったの。
元々、変な夢を見ることさえお父さん達に言えてないのにいきなりこんな話をしても信じてもらえないどころか不気味な子みたいに見られちゃうかもしれないし、捨てられちゃうかもしれないから誰にも言えずにいたら本当に夢の通りになっちゃったの。
「......」
あの後は、あの人の言うことに素直に従って研究の援助と保護をしてもらおうって言ったお父さんと、すぐに研究をやめて研究材料や資料を破棄して逃げるべきだって言ったお母さんが喧嘩をしちゃったの。
次にあの人が来るまでずっと喧嘩しててイザベラは本当に辛かったの。
どうしてこんなことになったんだろう。もしかしてイザベラがお父さんの研究を手伝っちゃったせいなのかなって考えるようになって、なんで夢なんてみちゃったんだろう、なんで夢の通りに動いちゃったんだろうっていっぱい後悔したの。
でもね、なんとかならないか夢に縋ったの。ううん、縋るしかなかったの。
必死になって都合のいい夢を見れないか何度も何度も眠ってみたの。
結局、夢を見る事はなかったんだけどね......
そしてね、数日して、あの人が再びやって来て、これで信用できますよねって言ってきたの。
結局、お父さんとお母さんはあの人の言うことに従うことになったの。
イザベラも仕方のないことだって思ったの。
「それでね、学園に通うことになったの」
「学園、ですか。学校のようなもので合ってますよね?」
そういえば、プリ卒や合体王だと学園はよく出るけど、この世界だと学園は無いみたいなんだよね。
「うん。それで大丈夫だよ。
えっと。地方にある貴族のための学園なの。
あの人はそこの1年生でちょうど進級する季節で2年生になるところだったの」
「貴族のための学園、ですか......
それは、その、さぞ大変だったんでしょうね......」
「っ!!」
ローズさんの言葉にイザベラは体に力が入ったの。
プリ卒にあったからこっちの世界にもあるんだね......
本当は、忘れたくても忘れられなかった学園での辛い話をしたくない。でも、話さないと元々話そうとしたのが上手く話せないから。
イザベラは一度深呼吸をしてから口を開いたの。
「うん......とても大変だったよ......
本当は12歳にならないと入学できないんだけど、貴族の婚約者だから特別に許可されてね......
それでねーー」
「あの! 無理に話さなくても大丈夫ですよ。
その、大体の事情は察しましたので.......」
「ありがとう......
イザベラね、本当は学園なんて行きたくなかったの」
でも、貴族の伴侶になる者が無学だと困るのでねってあの人が言うからどうしようもなかったの。
それに、学園の寮に入れられて、あの人のお手伝いさん、えっとこっちではメイドって言うんだっけ、そのメイドさんが付くようになったんだけど、いつもこっちを監視するような目で見てきて、でも助けてくれなくて、周りのみんなイザベラのことを嫌な目で見てくるのに知らないフリをしてきて本当に辛かったんだ。
「でもイザベラね、お父さん達のために負けずに勉強や学園生活を精一杯頑張ったんだ」
勉強ができないと周囲の同級生はもちろん先生も酷いことをしてきたの。
だから、一生懸命勉強したの。いっぱい邪魔されてきたけど絶対に負けるもんかって必死で頑張ったの。
だって......
「だって、今までお父さん達のためって思いながら、心の中ではイザベラ自身のために動いてたから......」
「......」
たまにね、お父さんとお母さんからあの人を通して手紙が届いたの。
こっちは順調にやってる、そっちは元気かって。
とても簡単なものだったけど、情報が漏れないようにしながらイザベラのことを心配してくれてるってのはイザベラでも分かってたの。
でも、こうして手紙をくれるってことは、離れ離れになってもお父さんとお母さんはイザベラのことを見捨てないでくれてる。そう思えたの。
だから、辛くても心が折れそうでもなんとか頑張ってこれたの。
メイドさんから渡されるお父さん達の手紙を読んだ後は大事に箱にしまって、辛くて嫌なことがあった日の夜はこの手紙を読んでから寝るようにしてたの。
イザベラから返事を書くことは許されなかったけど、お父さん達はイザベラが返事が書けないことをわかってくれたし、毎日じゃないけど必ず手紙をくれたの。
不思議な夢が無くてもお父さんとお母さんと繋がれる、イザベラがちゃんとしてれば良かったんだって、そう思ったんだ。
でも、夢がきっかけで繋がれたかもしれないし、今でも繋がれてるから辛くないってのも思ったんだ。
「それにね、寮の部屋で寝るようになってから時々ね、夢を見るようになったの。幸せな夢だったよ」
「幸せな夢、ですか」
イザベラが勉強をしていたら誰かから褒められて頭を撫でられたり、誰かと一緒に眠っていたりしてたの。
人物が暗くてよく見えなかったけど、その時のイザベラはとっても温かい気持ちになってたの。
目が覚めた後もまるで本当に頭を優しく撫でられた感覚が残っててとっても不思議だったの。
お父さんとお母さんじゃないのは分かったけど、一体誰なんだろう、お父さん達はどこにいるんだろうって思ったけど、きっと学園の誰かのことだろうって思って、いつか来る日を楽しみにしてたの。
「でもね、あの人が3年生になってから1年が経ってね、学園を卒業する時に事件が起こったの」
「事件、ですか」
「うん。お父さんとお母さんが軍に連れてかれちゃったんだ......
それに、イザベラもね、重要参考人ってことでお父さん達とは別の軍人さん達に連れてかれたの......」
「?! それはどうして、いえ、今日はここまでにしましょう」
「え? あ、うん」
唐突にローズさんが話を中断してきてイザベラは驚いたの。
イザベラの取り調べを始めてからそんなに時間がかかっていなかったから。
この部屋に時計は無かったけど、今までのお姉ちゃん達の取り調べやアニメを観ていた時間から今までお姉ちゃん達の取り調べに掛かった時間は大体分かるよ。
それに、イザベラもまだ疲れてないし、思い出したくないお話はできれば早く終わらせたいなって思ってたの。
夢で出てきそうで怖いから。
「えと、イザベラはまだ大丈夫、だよ?」
「あ、いえ、その、貴方の仲間、いえ、お姉さん達も含めた今までの内容を一旦纏めなければならないというこちら側の事情でして、大変申し訳ないです」
「あ、うん。分かったよ」
ローズさんの言葉を受けてイザベラはそれはそうだねって思ったの。
イザベラ達の取り調べの目的が、イザベラ達が本当に異世界から来たのかを確かめるためのもので、今までイザベラ達が話してきたことは、多分お姉ちゃん達のも含めて全部じゃないんだけど、色々と整理する必要があるくらいなんだろうな。
実際に、イザベラもここの世界について全然分からないことがいっぱいあるから。
それと、書類だけじゃなくて正確な説明をするために必要な時間もいるんだろうなって、エレナお姉ちゃんやメリーナお姉ちゃんの苦労を見てきたからすぐに分かったの。
そんなことをぼんやり思ってるとローズさんが立ち上がり始めたの。
「ご協力、ありがとうございました」
「あ、えと、ありがとうございました」
そして、相手が頭を軽く下げてきたからイザベラも慌てて頭を下げたの。
イザベラの知ってる軍の取り調べと全く違ってて驚いたけど、ここの人達が優しいんだろうなって分かって少しホッとしたの。
「今日の取り調べは終わりました。
次回の予定なのですが、すみません、まだ決まっていません。
少なくとも今週中に行う予定です。予定が決まり次第すぐに皆様に連絡します」
「あ、うん。
お姉ちゃん達に伝えておくね」
「ありがとうございます。
こちらからも一度連絡します。
本日はありがとうございました」
簡単なやり取りを終えてイザベラは部屋へ送られたの。
その後、部屋に戻ったイザベラは机に座って通信機を触るとみんなの顔が出てきたの。
何度見てもこの機械は凄いよね。画面を触ると反応があったり、別の部屋にいるお姉ちゃん達と映像と一緒にお話しできたり。
どういう仕組みなのか気になってローズさんに訊いてみたら、しばらく無言になってからこの機械にある辞書機能を使えば簡単に調べられるよって教わって、必要な言葉も教えてもらったんだ。
それでね、エマお姉ちゃんと一緒に調べてみたんだけど、次々と新しいものや知らないことがいっぱい出てきてね、面白かったよ。
ついうっかり、夜も一緒に調べ物をしようとしちゃうんだけど、いつもエレナお姉ちゃんに叱られちゃってるんだけどね。
それで調べてみてね、イザベラ達が使ってた通信機と似たような仕組みなのは分かったんだけど、それ以外が全く分からなかったんだ。
エマお姉ちゃんが、大規模な範囲、少なくともここの砦全体の全ての機械と通信できる性能を持っていることや、それが軍民問わず世間一般に当たり前に普及されていること、さらに、魔力を一切使わず代替エネルギーの存在が気になるって言ってた。
もっと詳しく説明されてるところはあるんだけど、今のイザベラ達じゃ全部を理解するのは難しいことが分かったから、今はこの機械で皆んなと楽しくお話ししたりアニメを観たりしてるよ。
色々とお話をしてからイザベラは次の予定について連絡したの。
そのあとは、夕ご飯を貰ってまたみんなとお喋りしながら食べて、お風呂に入って、寝る前にいっぱいみんなとお話ししてからベッドに横になったの。
この部屋に来るまでは、今日はちゃんと眠れるか不安だったけど、いつの間にかそれが無くなってたの。
本当は、一人で眠るのは怖いの。
一人でいると嫌な夢を見ちゃうことが多かったから。
でも、いつでもみんなとお話しできるから平気なの。
それに、いつまでも一人で眠れないんじゃお姉ちゃん達を守れないから。
だんだんと眠くなってきちゃったな......
お姉ちゃん達は......イザベラが......絶対に......




