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01 エレナ9歳まで

エレナ視点です

「身体の具合は大丈夫ですか?」

「はい。問題ないです」

 私は目の前に座る取調官であるローズと名乗る黒髪の女性の取り調べ前のあいさつ代わりと化した質問に答え、いつも通りの会話をする。


「異変を感じたらいつでも言ってください」

「お気遣い、感謝します。その時はお願いします」

 正直なことを言えば、目が覚めてから体調が悪くなることは無く、むしろすこぶる調子がいい。今までこんなにも身体が軽いと感じたことは無かった。

 おそらく、提供されている温かくて美味しい食事やフカフカの寝台に布団、毎日交換される清潔な病衣、シャワーという便利な機器の付いた綺麗な浴室といった生活環境が駐屯地のものと比べかなり上質というより贅沢なもので十二分に体を休められていたからであろう。一応、最初は捕虜や犯罪者に対する扱いとは思えないほどのものに困惑し、常に警戒心を高めて過ごし、精神的に疲れていたつもりだったのだが、身体の方は正直だったみたいで少し恥ずかしくなった。


 それでも、今使っている設備がこの国では最低限のものであることを知った私はとんでもないところに来てしまったと気を失いそうになったのだが、とある話を受けて納得してしまった。


「......」

「......」

 普段はもう少し会話が弾む、というより彼女の趣味的な話が続くのだが、すぐに喋り始めようとしない彼女の様子から本題が来るのだろうと私は色々と思い出しながらも心の中で身構えていた。


「その、いきなりですみません。少々事情が変わりまして、貴方達の素性、生い立ちと言えば良いんですかね? とにかく、貴方達の過去を詳しく調べることになったのです」

「そうなのですか」

 話の内容が今までとは違うものになるというのは、なんとなく分かっていた。

 お互いに常識が伝わらないような場面がいくつかあり、手錠の一件から、ここが私達のいた世界とは異なる世界である、という一見馬鹿馬鹿しいが、真実味のある話が両者の間で芽生えてきていた。

 私としても、特戦機や鋼獣といった不思議なものに加え、映像付きの通信機やアニメという仕組みが全く分からないものを見せつけられて、ここが異なる世界でないとは思えないでいた。


 おそらく、取調官は私達が異世界からやってきたことを裏付ける証言のようなものを欲しているのであろう、と考えた私はどうしたものかと表に出さず悩んだ。


「覚えている限りで良いのですが、できれば詳細に」

「そう、ですか」

 詳細に、ということは物心がついた頃からでいいのか? だが、あのあたりの記憶はあいまいで、一応、先生やお姉ちゃん達から聞かされた話はあるけれど、たまに冗談を言っているようなときもあったし、どうしよう。覚えている限りで良いと言っているわけだし、ここは言われたとおりにしよう。

 ただ、他の皆が心配だな。


 通信越しから見た皆の様子や通信機を使わせてくれている状況など今までの扱いから、この取調官なら無理強いはしないと思うが、職務上、詳しく聞きだす必要が出てくるだろう。

 私自身、皆が誰にも言えない、何かしらの秘密を抱えているのではないかと思うことはあったのだが、あまり深く踏み込まないほうがいいだろうとも考え、今まで自ら話すまで放任していた。


「ではまず、改めて名前からお願いします」

「あ、はい」

 皆のことよりも今は自分のことに集中しなければ、と私は慌てて話を始める。


「私の名前はエレナといいます。歳はだいたい15くらいのはずです。出身は皇国南端の小さな町で――」

「え? 名前だけですか?」

 淡々と進めようとした矢先、彼女に止められてしまった。

 何か私の話に問題があったのかと思ったが、どうやら私が名前しか名乗らなかったのが問題らしい。

 何が問題なのだろうか、と不思議に思いつつ私は頷きながら答える。


「え? はい。名前だけです」

「えっと、もしかしてですけど、あなたの国では平民に姓や家名のようなものはないのですか?」

 私の答えに彼女は慎重に私に聞いて来た。

 そうか、この国では平民には必ず姓があるのか。

 そう判断した私はすぐに自分の事情を含めて話をした。


「いえ、平民でも姓はあります。ですが、私は孤児で両親に関する情報が無いので姓は無いです。

 一応便宜上、所属先の孤児院の責任者の名前を使うことがあります」

「あっ。

 す、すみません......」

「? いえ、大丈夫ですよ」

 何故か謝られてしまった。

 よく分からなかったが、何か私にとって失礼なことを言ってしまったのだろう、普通に謝ってきたし、ここは受け入れたほうが良さそうだな。

 本当は理由を聞きたかったが、私は親がいないことや孤児院に預けられた理由など、自身の境遇について話すことを優先させた。


「私は赤子の頃に同じく孤児で6歳年上のユリアお姉ちゃ、姉さんとラウラ姉さんに拾われて、そのまま彼女達がお世話になっている孤児院に預けられました」

 他人に自分の子供の頃を話すなんてあまりなく、うっかり姉さん達のことをお姉ちゃん呼びしてしまって一瞬顔が火照るような感覚を覚えたが、すぐに心を落ち着かせて最後まで言い切った。


 私がどこで親に捨てられ、姉さん達に拾われたのか全く覚えていない。そもそも、親に捨てられたのかさえ分からない。魔獣か何かのせいで私を残して死んだ可能性だってある。

 なので、ここに関しては姉さん達や先生から聞いた簡潔な話をするしかなかった。


 私の話を聞いた彼女は一度大きく頷いてからゆっくり話しかけてくる。


「そうだったんですね。

 その、孤児院での暮らしはどうでしたか?」

 特に問題は無かったようで、彼女から孤児院についての話を振られた。

 孤児院での暮らし、か......


「そうですね。

 幸せ、でしたね。色々とありましたが」

 今まで生きてきた中で一、二を争うほど幸せな日々を過ごせてきたと言っても過言ではないと思う。

 姉さん達がいて、先生がいて、弟や妹達がいて、一緒に勉強したり遊んだりして、そういえば、大きくなったら姉さん達や先生、皆を助けられるようになるんだって先生の前で言ったこともあったな。

 あの時の先生の言葉は今でも覚えている。


「えっと、その、詳しくお願いできますか......?」

 おっとっと、過去のことに関して話すつもりがいつの間にか思い出に浸っていた。

 彼女の言葉に私は我に返り、軽く頭を振りつつ彼女に謝罪をしてから話し始める。


「ああ、すみません。

 私のいた孤児院は私営で、ケヴィン先生とハンナ先生の老夫婦が運営していたんです」

「私営、ということは国営のものもあるのですか?」

 すると、彼女から孤児院の運営について質問が来た。


「え? ああ、はい。国や領主が運営をしている孤児院もあります」

 孤児に関しては国や領主が管理をしていた。

 国営の孤児院は、孤児が成人になると、人手不足の職か軍に配属させ彼らから養育費を利息込みで回収するという話を聞いたが、詳しいことは知らない。


「ですが、魔獣被害が年々増加して、それに伴って孤児の数も次第に増えていきまして、受け入れに限界が来てしまっていたのです」

「そ、それは......」

 孤児に必要最低限の教育をする必要があり、さらに、見込みのある孤児にはより高度な教育を施すため、孤児院を運営する人間はそれなりの人物でないとなれないと聞いたことがある。

 運営費用は国や領主が出してくれるとはいえ、孤児の面倒を見てくれる人はあまりいない。


「そんな時に、過去に教師をしていたケヴィン先生が、ユリア姉さんとラウラ姉さんを保護したことをきっかけに孤児院を開設したと聞いています」

「そうだったんですか。優しい人なんですね」

「ええ。ケヴィン先生のことはあまり覚えていないのですが、ハンナ先生や姉さん達からとてもやさしい人だったと聞いています」

 噂程度だとケヴィン先生、実は高位貴族の末息子で非常に頭がよく、王都の学園で教師をしていたらしい。それに、ハンナ先生は低位貴族の末娘で彼の教え子で優等生だったとか。

 他に、二人は相思相愛で双方の家からも反対されることなく、彼女の卒業と共に結婚と家からの独立をし、そのまま彼は定年まで教師として働き、彼女は彼を支え続けたとか聞いたことがある。


「えっと、覚えていない、ということは」

「私が3歳の頃にケヴィン先生が流行り病で亡くなってしまって。それに、二人の姉さん以外の年上の子を含めた他の孤児達も何人か亡くなったんです」

 当時の私も高熱を出し、生死の境をさまよっていたらしいのだが、ハンナ先生が忙しなく看病をし、皴の付いた手で優しく私の手を握ってくれていたようなことをうっすら覚えているような気がする。

 そして、気が付いたころには完治し、ケヴィン先生や他の孤児院の子達が亡くなっていたことを無事だった姉さん達から聞いた。


「それは、その、かなり辛かったでしょうね......」

「どう、なんですかね......

 あ、でも、あの頃のことはよく覚えていませんが、ハンナ先生の顔は未だに覚えています。それに、抱く腕の中で泣き叫ぶ弟妹達と抱きしめてくれたユリア姉さんとラウラ姉さんの温もりも......」

 ケヴィン先生と孤児達の葬式は町の広場で同じく流行病で亡くなった町の人達の分と共に大規模に行われたのだが、具体的な内容はほとんど覚えていない。

 ただ、ハンナ先生の涙を流した姿や姉さん達が無言で泣きわめく他の生き残った赤子の弟妹達と私に優しく頭を撫でたり抱きしめたりしたことは覚えていた。そして、私はあの時、人が、特に見知った人間が死ぬというのはどういうものかを知ったのだと思う。


 少し、重い空気になった室内だったが、取調官殿がふと何かに気づいた様子で私に話しかけてくる。


「!!

 あ、あの! 孤児院の運営資金は?」

「今まではケヴィン先生の退職金と退職後の彼が行っていた平民への家庭教師、それと今までの貯金で運営していました」

 私営ということは、当然ながら運営資金を自力で調達しなければならない。


 ケヴィン先生は孤児院の運営の傍ら、平民の家庭教師をしていたと聞いている。

 彼の教え方は非常に好評で、裕福な平民から子供を貴族学校へ通わせるための家庭教師をして欲しいという話がいくつもあり、彼は無理のない範囲で承っていて、ハンナ先生が孤児達の面倒を見つつ彼の手伝いをして支えていた。

 なので、彼が生きている間の孤児院は資金関連で悩むことは無かった。


 だが、大黒柱である彼が亡くなり、彼の残したお金が数年は暮らしていけるものであっても何もしなければ無くなってしまうことは明白だった。

 なので、孤児院を安定させるためにハンナ先生が悲しみに暮れる暇もなく奔走した。


「じゃ、じゃあ、その後は?」

「ハンナ先生がケヴィン先生の後を継ぎました。ただ、ハンナ先生は教職の資格を持っていなくて、一応、ケヴィン先生の手伝いの経験があったので質と量は落ちますが家庭教師として働くことができ、何とか首の皮一枚繋がったようなものでした。

 新たな孤児を受け入れられるくらい安定するまで2年はかかりましたが」

 ケヴィン先生が亡くなり、ハンナ先生が引き継いだことを知って家庭教師の契約を辞めた家は多かったが、ハンナ先生のことを知っている家が契約を続けてくれた。

 ただ、家庭教師をするためには事前の準備に時間が必要で、さらに、孤児達の面倒を見る必要があったため、彼女にはそこまで多くの依頼をこなすことができず、限り限りまで受けることで何とか孤児院を維持し、ようやっと新たに孤児を受け入れられるくらいにまでなった。


「ですが、孤児が増え、それに比例するように様々な問題が多発して限界が来たのです。

 ハンナ先生は誰も見捨てずに受け入れていたので。

 私も孤児院の中では3番目に年上だったのでよく下の子たちの世話を任されていました」

 訪ねてくる孤児や遠い親せきの代理を名乗る人物によって押し付けられる孤児、いつの間にか玄関前に置かれた赤子や幼児などが急に増え、それらすべてをハンナ先生は受け入れた。

 ただ、新しく受け入れたほとんどの孤児達はハンナ先生の孤児院に行けば楽な暮らしができると誰かから聞き、そう思い込んでいたらしかった。

 いくら、孤児院で教育を受けられ、成人後に職が決まると言っても孤児の生活が楽なわけがない。


 当たり前のことだが自分の身の回りのことを自分一人でできるようにならないと他の皆に迷惑がかかるし、それができない下の子、特に赤子や幼児の面倒を見なければならない。そのうえ、勉強以外に孤児院や町の手伝いをする必要がある。

 孤児院には小さな芋畑があり、世話をしなければ食べ物がなくなるし、町の人に嫌われてしまえば就ける職がなくなる可能性だってある。

 私は平民の普通の家庭というものを知らないが、ここでの暮らしは楽でないことくらい分かっていた。


 想像と違った暮らしに耐えられなかったのか、新しく来た孤児達のほとんどは先生の言うことを聞かず、勝手に孤児院を抜け出す事態が度々起こった。

 何人かは連れ戻せたが、残りの人数が行方不明となり、その行方不明になった孤児達と思しき集団による窃盗や傷害といった犯罪行為が発生し、さらに、連れ戻せた孤児達が全員いなくなり、最終的に残ったのは幼児と赤子のみだった。そして、この出来事にハンナ先生は精神的に追い詰められていた。そこへ、追い打ちをかけるように孤児院のお金が半分以上減っていることが判明した。

 一応、集団は軍によって捕まり、全額ではないがお金も戻ってきたのだが、そのお金を町の人達への迷惑料として支払うことになってしまった。

 一連の出来事から、私達は町の人達からの視線は厳しくなり、先生は家庭教師の契約を全て失った。

 暴力を振るわれるようなことは無かったが鋭い目つきや陰口を容赦なく浴びせられ、幼い弟妹達は町の人に怯えるようになってしまった。


 今のところ生活はできているが、肉体的にも精神的にも日に日に弱っていくハンナ先生を見て、現状を何とかしようとユリア姉さんとラウラ姉さんが何度か話し合ったていたことがあった。

 だけど、上手い方法が見つからなかった。ただ一つの方法を除いて。


「そこで、ハンナ先生や弟妹達を助けるためにユリア姉さんとラウラ姉さんが軍に志願することになったんです」

 軍は常に人手を欲していて、成人していて犯罪者でなければ誰でも軍に志願することができる。そして、軍に志願するだけでわずかだが特別給金が貰える。

 むろん、志願時に面接と簡単な能力試験をする必要があり、給金だけ貰って逃げようとする輩はすぐに見抜かれ牢に入れられてしまう。

 まずは軍に入れるよう、そして、入った後でもやっていけるよう、姉さん達は体力や筋力作りに励むようになり、私は姉さん達の仕事のほとんどを引き受けた。


「どうして軍に志願を?」

「孤児では職に就いて給金を得られるまで時間が掛かり過ぎるからです。それに、得られる給金も少ないと判断できましたし」

 普通、平民の仕事は、個人規模なら子供が親を手伝い、いずれ親から引き継ぐ。それか、親が商会などに勤めているのなら、子も同じ商会に下働きとして勤める。

 孤児の場合は所属していた孤児院によって変わる。

 国や領主による運営ならば国や領主が成人した孤児を指定した職場へ送り込むので、ある意味お墨付きのようなものが自然とつき、何の問題も無く孤児達も、雇用主側や職場の者達も働ける。


 だが、私営の場合は、いくら運営者が人格者であっても孤児一人一人の責任を取ることが難しく、雇用主側も即採用をするわけにはいかない。

 そのため、雇用主側は見習い期間を設け、孤児側は問題ないと判断されるまで給金を貰えない。因みに、雇用主側は期間内の衣食住を保障する代わりに問題を起こせば孤児院へ返す権利を持つ。


 問題なのは、見習いの扱いや期間に関して必要最低限の保障や最大で3年という大まかな規定しかないことだった。

 状況によって1年以内に見習いから正規雇用にすることができるが、大半の雇用主は期限いっぱいまで使い、その間の衣食住は最低限のものしか与えない。その方が安くおさまるからだ。

 それに、当時のハンナ先生の孤児院では町の人達からの信用が少なかった。いくら人手が足りないと言っても、問題を起こした孤児を大量に排出したという世間の風評があったせいでまともな職に就き、孤児院を支えられるほどの給金を得られるのは絶望的だった。


 だが、ハンナ先生は姉さん達の案に最後まで反対していたが、結局いい案が思いつかず時が流れ、1年が経過し、姉さん達は12歳になり、成人を迎えた。


「結果的に言えば、姉さん達の判断は正しかったですね」

「そう、だったんですね」

 成人になり、最も近くにあった第5大隊が管理する第7駐屯地へ向かった姉さん達は無事に軍人になれた。

 並の魔力と並の身体能力のおかげで問題なく面接や試験を突破し訓練兵になり、2人とも第9小隊に配属されたことを立派な軍服に身をつつみ、それなりの給金を持って報告しに来た時、私は孤児院が助かったと普通に喜んでいたが、ハンナ先生は表面上は喜んでいるように見せていたように見えた。


 その後、定期的に給金を持って帰ってきては駐屯地での生活について話せる範囲で話す姉さん達を迎えつつ、受け入れる孤児が増えることも今いる孤児達が減ることもなく変わらない日々を私は孤児院で過ごしていた。


「今でも思い出しますね、あの頃のあの日を......」

 ひとりでに口が開き、気が付くと私は今なお忘れることのない当時の記憶を語り始めていた。



 お姉ちゃん達が軍人になってから3年が経過したある日のこと......


「あっ。先生! ユリアお姉ちゃんとラウラお姉ちゃんが帰ってきたよ!」

「おや、そうかい。今日は珍しく早いねぇ。

 皆、お勉強の時間はおしまいにしてユリアお姉ちゃんとラウラお姉ちゃんを迎える準備とお昼ご飯の支度をするよ」

「「「「「「「「「はーい!!」」」」」」」」」

 孤児院に近づいてくる聞き慣れた二つの足音を聞いたわたしは弟妹達のお勉強の手伝いを止めて白髪のハンナ先生に報告をした。

 手紙で今日来ることは分かっていたけど、お姉ちゃん達、いつもはお昼過ぎに来るんだけど、お昼前に来るなんて珍しいね。何かあったのかな?

 そんなことを思いつつ、わたしは弟妹達の勉強道具の片づけを手伝いつつ教材を本棚に仕舞っていった。


 その後、皆の勉強部屋と化した居間から食事室と化した玄関と併設した小部屋に移動し皆で順番に台所で手を洗ってから長机に座ってお姉ちゃん達の帰りを待った。


「ただいま帰りました~」

 皆が席に着いてすぐに玄関扉が開き、薄紫色の長い髪を後ろに紐で束ね、濃い緑色の軍服を着た1人の優しそうな女性がニッコリ笑顔で手に白い紙袋を持って入ってきた。


「ユリアお姉ちゃんだ~」

「わー。おいしそうなにおいがするよー」

「お姉ちゃん、頭についてるのどーしたのー?」

「おはな、きいろいおはなついてる!」

「こらこら、座ってなさい。

 おや? ラウラはどうしたんだい?」

 入ってきたユリアお姉ちゃんにダーヴィッド、アレクサンダー、メラニー、レアが席から離れて群がりそれを台所の入り口付近から見ていた先生が席に着くよう促しながら未だにラウラお姉ちゃんの姿が見えないことにユリアお姉ちゃんに尋ねた。

 そこにわたしが席に着いたまま玄関扉を指さす。


「ラウラお姉ちゃんなら扉の裏にいるよ? 何してるのかな?」

「くっそー。バレてたかー。開ける時の音に合わせて動いたのに」

 わたしがそう言うと、扉の裏からひょっこりと水色の短い髪を雑に右手で撫でながらユリアお姉ちゃんと同じ軍服を着たもう一人の女性が心底悔しそうに現れた。


「ラウラお姉ちゃんかくれんぼー?」

「ぼくもいっしょにやってあげる」

「うちもー」

「あ、あたしも」

 そのまま入ってきたラウラお姉ちゃんにルカス、パウル、アンナ、レーナが同じように群がろうとしたところへ先生がすぐさま制止した。


「あ、こら。遊ぶのはご飯食べてからにしなさい。

 まったく、あんたも何やってるんだい」

「いやー。一回でもいいからエレナちゃんに勝ちたいと思って」

 そして、先生はラウラお姉ちゃんに苦言を呈するとラウラお姉ちゃんは悪びれる様子もなく笑いながら答えた。

 これに、先生が呆れながら空いている玄関側の席に指をさした。


「なに年下相手にムキになってるんだい。いいからさっさと入って座りなさい」

「ラウラ、見苦しいわよ。皆が真似したらどうするの?」

「はーい」

 先生の言葉に、先に座っていたユリアお姉ちゃんが追撃をすることでラウラお姉ちゃんは従い、ユリアお姉ちゃんの向かい側に座った。

 2人のお姉ちゃんが座ったことを確認した先生は未だにお姉ちゃん達に纏わりつく弟妹達に声をかける。


「ほら、皆、食事の準備をしなさい。

 エレナ、皆を頼むよ」

「うん。わかった」

 私は席から離れ台所の入り口近くまで来てから大きな声で弟妹達に声をかける。


「みんなー、今からご飯を配るから小さい子から順番に並んでねー!」

「「「「「「「「はーい!!」」」」」」」」

 私の言葉を聞いてお姉ちゃん達に群がっていた子達はすぐに自分の器を持って私の前に並び始めた。

 そして、台所の鍋にある芋を中心とした、小さな肉片と野菜くずを塩味で整えた汁物を喧嘩にならないよう具材の調整しながら順によそっていった。その間に聞こえてきた先生とお姉ちゃん達の会話に耳を傾けながら。


「先生、今日は私達からお土産があるんです。食事のお供にぜひ」

「そうそう。美味い肉串が手に入ってね。

 あ、うちらは飯食ってきたからいらないよ」

「あらまぁ。それは、嬉しいねぇ。

 それじゃあ遠慮なくいただくとするね」

「あ、うちらが並べとくから先生は座って待ってて」

「そうかい。すまないね」

 肉串! 肉屋の隣で売ってる濃い味の美味しいやつかな?

 そう心の中でワクワクしながらわたしはみんなの分をよそい終え、自分と先生の分のご飯をよそい、席に向かった。

 席に着くと目の前に紙のお皿に乗った美味しそうな肉串が人数分置いてあり、みんなが涎をたらしながら待っていた。

 私が座ったのを確認した先生が食前の挨拶をし、みんなも挨拶を返すと一斉に肉串に手を伸ばした。

 みんなが肉串を夢中で食べてる間、わたしは肉串の味よりも先生とお姉ちゃん達の話が気になっていたのでゆっくり食べながら耳を傾けて聞いていた。


「そうそう、この前ユリアが上等陸兵になったんだよ。すげーよな」

「それは、凄いねぇ。

 でも、無茶はしてないかい?」

「大丈夫ですよ、先生。一人で突出せず、隊の皆ときちんと連携を取っているし、危険なことはラウラ共々していませんわ。

 それに、今回の進級は学力が影響したみたい。

 これも先生のおかげですね」

「やめとくれ。頑張ってきたのはあんた達じゃないか。

 それに、聞いたよ。少し前に町を一つ救ったんだってね? なんであの時言ってくれなかったのさ」

 そうそう、お姉ちゃん達の第9小隊がとある町に近づこうとしていた魔獣の集団の接近に気づいて援軍を呼んで対処したって町の人が噂してたのをついこの前聞いたんだ。

 そのことを先生に言ったら驚いてたよ。


「そ、それは、私達は特に活躍していなかったから」

「援軍が来るまで足止めしてただけだよ。決して無茶したとかそんなんじゃないから」

「ちょっと、ラウラ!」

「あ、えっと、ただの時間稼ぎだから、その......」

 お姉ちゃん達慌ててるけど、お姉ちゃん達がすごい活躍したの、わたし知ってるよ。町の人達が噂してたからね。

 もちろん、このことも先生に言ってあるよ。


「はぁ。あんたたちの魂胆は分かってるよ」

「いえ、その、心配かけたくなくて、ですね」

「そこそこ無茶をしたって言うか」

 あれ? 先生、嬉しくなさそう。それよりも、なんかお説教が始まりそうな雰囲気だね。


「あんたたちね、何度も言うけれど、死んじまったら元も子もないんだ。気持ちはとても嬉しいし有難いけれども、あんたたちが死ねば悲しむのは誰なのか、常に考えておくれ」

「はい。すみません」

「はい。以後気をつけます」

 良いことをしたはずなのにお姉ちゃん達が謝ってる。どうしてだろ?

 そう不思議にわたしが思っていると先生が優しい声でお姉ちゃん達に話しかける。


「むろん、今回の一件は本当に助かってるよ。町の連中もすっかり大人しくなってね。おかげで子供たちが怯えずに済むよ」

「先生......」

 ......あたしなんか何もできやしない無力な老婆さ。一番情けないのはあたしさね」

 良かった。お姉ちゃん達が先生に褒められて。

 お姉ちゃん達が軍人になって、活躍するようになってから町の人達のわたし達を見る目が少し変わった。まだまだ雰囲気が怖いけど、弟妹達が怯えなくなったのは良いことだよね。

 嬉しくなったわたしは、ふと、周囲を見ると弟妹達が食べ終えてわたしの肉串をジッと見ているのに気付いた。なので、急いで肉串を平らげるとみんなの関心がお姉ちゃん達に向かった。

 わたしが芋を匙ですくって食べている時にメラニーがユリアお姉ちゃんに質問をする。


「ねえねえ。ユリアお姉ちゃん、その頭に付けた小さくて黄色いお花、どうしたの?」

「えっと、これは、その......」

 彼女の質問にユリアお姉ちゃんが慌てた様子で後頭部の束ねた髪の付け根付近に付いた、6枚の黄色い花びらでできた作り物の小さな花を右手で触りながらしどろもどろになる。

 どうしたんだろう、とみんなでユリアお姉ちゃんの様子に疑問を抱いてると、ニヤニヤした様子で見ていたラウラお姉ちゃんがユリアお姉ちゃんの代わりに答える。


「それは恋人のトーマスさんから貰った髪飾り付きの髪紐なんだよ」

「ちょっ、ラウラ! トーマス上等陸兵殿よ! 彼は優しい人だからそこまで階級に関してうるさくないけど、あなたの方が階級は下なんだから気をつけなさい!」

「ここは軍とは無関係だぞ? 何を焦っておるのかね、例の彼と同じ階級であり、ここに来る途中の別の町で昇級祝いに買って互いに送りあった、お揃いの黄色い小花の飾りを身に着けたユリア上等陸兵殿ぉ?

 それにぃ? 今日はトーマス上等陸兵殿にこの町を案内、さらには、ここを紹介するいい機会だったのではぁ? せっかく肉串を奢ってもらったのに勿体なくないですかねぇ?」

「あ、あなたねぇ......」

 ユリアお姉ちゃん、すごく顔が赤いけど熱でもあるのかな?

 わたしが心配になっているとアンナが不思議そうに首をかしげながらまだニヤニヤしているラウラお姉ちゃんに質問してくる。


「ねーねー。こいびとってなあに?」

「えーっと、恋人っていうのはねー。特定の人物のことになるとユリアみたいに顔が赤くな――」

 アンナの質問にラウラお姉ちゃんがユリアお姉ちゃんを指さしながら答えようとすると、いきなりユリアお姉ちゃんが声を荒げてラウラお姉ちゃんに指をさし返してきた。


「そう言うラウラだって小隊長であらせられるマーティン中級陸尉殿のこと気になるくせにっ!」

「なっ! そそそ、そんなことないよ! あの人はうちらの小隊長としてしっかりしている姿が格好いいというか逞しいというか」

「嘘言っちゃって、小隊長殿の肉体に見惚れてるのこっちは分かってるのよ!」

「ひ、他人の身体をジロジロ見るなんて最低だと思うね!」

「あなたのことを言ってるのよ! ここに来る間、支援車両の中にいた時だって声かけようとして諦めて、結局、終始見つめることしかできなかったくせに!」

「そ、それは、連日任務だったのと、今日もここの警備所に任務で来てるついでにうちらを途中まで送ってってくれるわけだから慮って!」

「それに、わたしは知ってるのよ! あなたが小隊長殿と任務か鍛錬について話し終えた後に独り言をつぶやいてることも!

 あー、今日の隊長も――」

「わー! わー! 何も聞こえませーん!!」

 今度はラウラお姉ちゃんが顔を真っ赤にして耳まで塞いじゃった。

 お姉ちゃん達の様子からすると、具合が悪そうなことは無いと思うけど、なんで顔が真っ赤になって声を荒げてるんだろう?


「2人とも顔が赤いねー」

「まっかっかー」

「でも、なんでまっかになってるの?」

「さー?」

 ご飯を食べ終えた弟妹達がワイワイと話し合いを始めたので、わたしは器の中に残っている汁物を全て口の中に匙でかきこんで飲み込んだ。

 そこへ、ダーヴィッドがわたしに質問をしてくる。


「エレナお姉ちゃん、どうしてお姉ちゃんたちは顔が赤いのー?」

「うーん、わたしにも分かんない。ごめんね」

 お姉ちゃん達のお話はときどき難しくなるんだよね。でも、わたしはお姉ちゃん達の次にお姉ちゃんだから頑張って分かるようにならなきゃ。

 弟妹達の質問にお姉ちゃんとして答えられなかったことに悔しさを抱いているとルカスがウンウンと何か納得したような様子で話しに混ざってくる。


「きっとこれが大人のお話なんだよ。

 これが分かるようになれば大人になれるとぼくは思うんだ」

「それはちがうと思うよ」

 そこへすかさずアレクサンダーが否定した。

 わたしも違うと思うよ。大人っていうのは、なんでも自分でこなしちゃって、子供を守ってくれる、先生やお姉ちゃんみたいな人を言うんだと思うよ。

 わたしも早く、お姉ちゃん達みたいに立派な大人になりたいな、と思っていると突然パンパンと手を叩く音が聞こえてきて、さっきまで騒がしかった食事室が静まり返った。

 そして、少し間をおいてから先生が口を開く。


「ほれ、静かにしなさい」

 流石に食べ終わったからってうるさくし過ぎちゃったみたい。

 お説教が始まるのかな、と身構えていると先生はみんなを見渡してからお姉ちゃん達の方へ顔を向けて声をかける。


「あんた達ね、子供達の前だよ。

 そういう話は子供達がもう少し大きくなってからにしておくれ」

「はい......」

「すいません......」

 あれ? てっきり、わたし達が怒られるかと思ったらお姉ちゃん達が怒られちゃったよ。

 弟妹達も不思議に思ったのか、お互いの顔を見合わせながら首を傾げた。

 そして、怒られないと思って安心したのか、レアが先生に質問をする。


「ねえねえせんせい、こいびとってなあに?」

「それはすぐに教えられるようなことじゃないんだよ。

 ユリアお姉ちゃんやラウラお姉ちゃんみたいに大きくなったら分かるようになるから、それまで我慢できるかい?」

「うん。できる!」

「よし。いい子だね」

 レアに優しく答えた先生の言葉を聞いたわたしは、大人になったらもっとお姉ちゃん達とお話しできるようになるのかな、と少しワクワクした。

 また少し騒がしくなり始めたところへ再び先生が手を叩き、みんなに声をかける。


「それじゃあ皆、後片付けをしようね」

「「「「「「「「「はーい」」」」」」」」」

 わたしは急いで自分と先生の分の匙と器を持って台所の流しへ持っていき、そのまま流しの前で待機した。

 そして、順番に来る弟妹達から食器を回収して流しへ積むように置いていった。

 次に、弟妹達に長机を布巾で拭いたり、床に落ちた食べかすなどを拾って捨てたりするよう指示を出してから食器を洗い始めた。

 その間も、わたしはお姉ちゃん達のお話に耳を傾けていた。


「それにしても、皆言うことをきちんと聞いて偉いわね」

「この年の頃のうちらなんて兄貴や姉貴達と一緒にケヴィン先生にしょっちゅう怒られてたってのに」

「懐かしいわね。『言うこと聞かないと魔獣に食べられちゃうよ』なんて言われてあなた、泣いてたわよね」

「えー? それってユリアの方じゃなかった?」

「どっちもだよ、まったく。くだらないことにエレナも巻き込んだの、あたしは忘れてないからね。

 ......本当はあんなことを言いたくは無いんだけども」

「まあ、しょうがない部分はありますよ」

「うちら孤児が生きてくためには教養がいるからなぁ」

 ケヴィン先生のことはよく覚えてないけど、わたしってケヴィン先生に怒られたことあるんだ。

 それに、よく先生がみんなを叱る時に言ってる言葉ってケヴィン先生も言ってたんだ。知らなかったな。

 そういえば、ケヴィン先生の顔ってよく思い出せないんだよね、えーっと確か立派なお髭が、あったっけ? うーん。あれば覚えていると思うんだけど無くても覚えられそうな、うーん、とアレコレ頑張って思いだそうとしたけどできなかったからわたしは食器洗いに集中することにした。


 その後、お姉ちゃん達と一緒に日課の町のお掃除や孤児院のお手伝いなどを一通りこなした。

 お姉ちゃん達のおかげで早く終わったので、わたし達はお姉ちゃん達と時間いっぱいまで孤児院の中庭で遊んだ。

 普段そんなに帰ってこれないお姉ちゃん達と少しでもたくさん一緒にいようとしたのか、弟妹達はお手伝いでは張り切り、遊ぶときは目いっぱい遊んだ。そのせいで疲れたのか、孤児院に帰ると寝室に向かいぐっすり寝てしまった。


 そこへ、お姉ちゃん達が帰る時間になり、それとほぼ同時に大きな車が孤児院の前に止まったのが聞こえてきた音で分かった。

 急いでお姉ちゃん達と一緒に外へ出ると車の扉が開き、中からお姉ちゃん達とは違う緑色の軍服を着た赤い短髪の大きな男の人が出てきた。

 そして、わたし達の方へ無表情のまま歩いて近づいていき、あと数歩のところで立ち止まった。

 いったい、何をするつもりなんだろう、とわたしがドキドキしながら見守っていると、男の人は先生に向かって頭を軽く下げ、わたしやお姉ちゃん達を一瞬見た後、一言も発することなく車の中に戻っていった。なんだか、少し笑ったように見えたのは気のせいじゃないと思った。


「小隊長殿はあまり喋らない人で、いつもこんな感じなんです、先生」

「そこが格好いいんだよねぇ」

「なかなか難儀な性格してるんだねぇ」

「?」

 あの人、怖い感じがしなかったけど、何がしたかったんだろう?

 お姉ちゃん達は何かわかっているような雰囲気だけど、わたしにはよく分からないな。

 やっぱり、すぐに大人になれそうにないな、もっと頑張らないと、お姉ちゃん達みたいに体力をきたえればいいのかな? と諦めと決意を抱いたわたしはお姉ちゃん達のお話を聞き流してお姉ちゃん達みたいに立派な大人になるためにあれこれ考えていた。


「じゃあ、また次の休みの日に」

「じゃあね。先生、エレナちゃん」

「無茶するんじゃないよ。また元気に戻っておいで」

「またね。ユリアお姉ちゃん、ラウラお姉ちゃん!」

 色々とお話を終えたのかお姉ちゃん達がお別れの挨拶をしてきたのでわたしは考えることを止めて元気いっぱいに返した。

 そして、挨拶を済ませたユリアお姉ちゃんとラウラお姉ちゃんが車に向かって歩き始めたのでわたしは手を振って見送った。

 お姉ちゃん達が中へ入り、扉が閉まると車は走り出した。

 今度はいつ来るのかな、と次会う日を楽しみにしながらわたしは車が見えなくなるまで手を振っていた。


「さ、あたしは晩御飯の準備をするからエレナはみんなを起こしてやってね」

「うん。分かった」

 そして、車が見えなくなり、わたしは先生と一緒に孤児院の中へ入っていった。

 その後、お姉ちゃん達を見送れなかったことに弟妹達が悔しがり、どんなことをしたのかを聞いて来たのでご飯の時間までわたしは弟妹達にたくさんお話した。

 もちろん、ご飯を食べる時も、寝る前も弟妹達とずっとお姉ちゃん達についてお話をした。

 先生に怒られる前にお話を切り上げ、最後に、お姉ちゃん達に褒められるよう明日も頑張ろうと弟妹達に言ってわたし達は眠り、たくさんの出来事があった、とても楽しかった一日を終えた。


「素敵な思い出だったのですね」

 取調官殿の言葉に私はハッと我に返った。


「あ、すみません。つい、懐かしくて。

 その、一人で色々と喋ってしまって」

「いえいえ、こちらも記録が取れるので助かります。

 それで、続きは話せますか?」

 今まで自分のことに関して誰かに長く話をしたのは初めてで、ちょっと気恥ずかしかったが、彼女は特に気にしていない様子だったので私は少し安心した。

 彼女達の反応から、こんな感じで話していけばいいのかな、と判断した私は一旦一呼吸を置いてから、あの話の続きを話す。


「......そうですね。

 あの日のその後、姉さん達は戦死しました」

「え?」

 姉さん達の戦死、その言葉を自分の口から言っただけで少し、声が震えてしまうが、止まってしまうとよくない気がする。

 そう思い、一気に話をしたくなった私は彼女の反応を一切無視して立て続けに話していく。


「正確に言うと、戦死したという報告と姉さん達の遺品であるボロボロになった軍服と歪んだ認識票、それとわずかな私物を受け取りました。

 なので、私が軍に志願することにしたのです。そのために私は――」

「ちょ、ちょっと待ってください!」

 だが、彼女が突然立ち上がり、私の話を遮った。


「きょ、今日は一旦、ここまでにしましょう! 整理する必要がありますので!」

「え? はい。分かりました」

 なんだかよく分からないが、今日の取り調べは終わった。


 椅子から立ち上がる時、私は今更ながら自分の手が震え、謎の浮遊感を感覚を覚えていることを認識した。

 そして、道中に関する記憶が一切ないまま軟禁部屋に着いた私は寝台に腰かけ、そのまま横になろうとしたのだが、ピピピという音が映像の映る通信機から聞こえた。

 私は一度呼吸を整えてから立ち上がり、机に向かった。

 椅子に座り画面を見ると、サラーからグループ通信の呼び出しだったので私がすぐに許可をすると、すぐに通話は繋がり、画面に隊の皆の顔が映った。


 通信機器を与えられた時、私は皆を心配させまいと定期的に通信を繋げようと考えていたのだが、皆の方から頻繁に来るので私の考えは杞憂に終わった。むしろ、寝る時間になっても切ろうとしないので皆が切るまで見張らないといけなく、そこが心配になっている。特にサラーが寝かせてくれなくて、彼女についてはもう諦めている。なんだか、普段以上に元気そうだったし。


 それは置いておいて、隊の皆から今日はどんなことをしたのか聞かれたので私は自分の過去の話を尋ねられたと話し、嫌なら無理に話すことは無いということも伝えておいた。


 その後、隊の皆とアニメを観賞したり出されたご飯の感想を述べたりしていると、いつの間にか手の震えや浮遊感が消えていた。

 そして、間隔を空けながら順に皆が呼び出され、全員終えるころには一日が終わった。さらに、皆との会話から、まだ全てを話せていないから明日もまた同じ順で取り調べを行うという話を得た。


 最後に、早めに寝るよう皆に、特にサラーに言い含めた私は寝台へ向かい布団に入ると、今日はよく眠れるだろうか、とそんな心配が過ったが、いつの間にか眠っていた。

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